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21.検問はちゃんとやってほしい
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ガラガラと馬車が音を立てて走る。
騎士の一人がハイジの馬車を操りハイジはそちらに乗っているのでこちらとは特に接点はない。
ヒロと騎士のもう一人が前後を守り、俺達の馬車が先行する形になっていた。
なんでも『女性には優しく』だそうだ。
言いたいことはわかる。
わかるのだが……あの強さを見てしまうと、この中で一番弱いのは自分なのかもしれないと思わず遠い目になってしまうのは仕方がないだろう。
でもその点においてはヒロも考えは同じだったようで、『サトルは俺が守ってやるからな』と笑顔で先頭を引き受けてくれた。
本当に頼もしい限りだ。
そして国境線へと向かう中、多少の魔物には遭遇したのだが然程強い魔物が出てくることはなくヒロと騎士だけで危なげなくあっさりと倒してしまった。
ヒロ曰く、『ラノベで読んだような感じじゃなくて拍子抜け』だそうだ。
俺としては図書館で調べた通りこの国の魔物被害は少ないというのが実感できたので良かったと思ったのだが、ヒロは何やら『折角だし無双したかった…』と嘆いていた。
自ら危険に飛び込みたいとでも言うのだろうか?
なかなか大胆なことだ。
そんなに強い相手と戦いたいならご令嬢に一戦手合わせをお願いすればいいのに……。
多分いい勝負になるんじゃないだろうか?
そんなことを考えていると、夕方近くに目的地である国境線の街が見えてきた。
今日からここに三日ほど滞在する予定なので、明日は聞き込みがてら街を回ってついでに宰相へのお土産でも買えるといいなと密かに心躍らせる。
(やっぱり癒し系な何かがいいかな?)
それとも疲れた時につまめる美味しい菓子の方がいいだろうか?
気詰まりな馬車の中でも宰相のことを考えると何となく気持ちが軽くなる。
そうしているうちに街の入り口へと差し掛かった。
「止まれ、止まれーーー!」
街の衛兵だろうか?
門をくぐろうとしたところで停止を求められ、馬車がゆっくりと歩みを止める。
その様子にほんの少し興味を惹かれ、そっと窓から覗き見てみると街の衛兵の少し向こうに10人ほどの別の兵達の姿が見えた。
(あれ?あの人達…)
彼らは黒のマントを身につけているのだが、その布は少し特殊で、宰相が着ている服にも使われている独特の光沢がある布地だった。
夕日を浴びてその布地が美しくも柔らかく光を反射する様を見るに、まず間違いはないだろう。
確かあれは宰相の領内で染められて織られているものだと聞いたのだが─────。
何となく嫌な予感がして、見えないとわかってはいても思わずそっとハイジがいるであろう背後の馬車の方へと目を向けてしまう。
どうにも彼女が無関係とは思えなかったからだ。
けれど、ヒロと話していた衛兵は無能だった。
こちらが勇者一行だと聞いた途端に、馬車の中を検めもせずに『ご苦労様です!』と元気よく敬礼し、あっさりと門を通してしまったのだ。
(この無能ーーー!ちゃんと調べろ!)
これでもし宰相に何かあったらどうしてくれるのだと思わず叫びたくなった。
何かしら領内で問題が怒っていて、最終的に宰相の胃を痛める案件に繋がるのではないかと冷や冷やしてしまう。
考えすぎだと言われてしまえばそれまでだが、どうにも宰相はツイてないような気がしてならないから放っておけないのだ。
けれどヒロだけではなく他の騎士や魔道士も、衛兵の後ろにいるカテオロスの兵達に気づいていないか衛兵の仲間くらいにしか思っていないらしく、動く気配は微塵も感じられない。
(鈍感!もっと危機感を持ってくれよ!)
仕方がないので俺はもう自分で勝手に動くことにする。
「え?!サトル?!」
動き出そうとした馬車からギリギリ飛び出した俺にヒロがぎょっとして声を掛けてくるが、今はそんな暇はない。
「どうせここで調査するんだろう?手っ取り早く先にこの人たちに話を聞いた方がいいって!ちょっと聞いてくるから絶対そのまま動かないで待っててくれ!」
そして衛兵の方ではなく、カテオロスの人達の方へと駆けた。
「すみません!ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
一番手前にいた隊長らしき人物に声を掛けると、彼は不思議そうにしながらもこちらが勇者一行だとわかっているので丁寧になんでしょうと尋ねてくれた。
「お探しの人物は貴族の女性ではないですよね?」
こっそりとそう尋ねてみると、明らかに驚いたような目でこちらを凝視し、どういうことかと尋ねられた。
「今朝助けた女性が後続の馬車にいるのでもしかしたらと思っただけなんです。もし違っていたらすみません」
そしてそれと共に隊長が小さく協力感謝すると述べ部下へと視線を送ったのを合図に、本来の件もついでに尋ねてみることにした。
「ここには国境線に魔物被害が増えていないかを調べに来たのですが、何か情報はお持ちではないでしょうか?あるいはどこで情報収集をすれば効率がいいかご存知でしたら是非教えて頂きたいのですが」
その言葉に隊長は一つ頷き、ここ暫く特に大きな魔物被害はないということを教えてくれた。
「とは言え全くないとは言えないようだし、そうだな…情報を集めるなら隣国と行き来する商人に尋ねるのが一番いいだろう。後は衛兵の詰め所で情報収集をしてみるといい。冒険者に尋ねるのも手だが、荒くれどもも多い上に嘘の情報を吹き込んでくる輩もいるからな。そちらは慣れないうちは避けた方が無難だ」
「そうですか。為になることを教えて頂き助かりました。ありがとうございます」
確かに商人や衛兵からの情報の方が信用性は高そうだと判断し、笑顔で礼を言った。
そしてちょうどそのタイミングでハイジの乗った馬車の方から悲鳴が上がった。
「な、なんだ?!」
「うわぁッ!」
その声を聞いて『あ、蹴られたな』と瞬時に悟る。
彼女は本当に足癖が悪いのだ。
遠目に見ると彼女が馬車から降り、髪を掻き上げながら倒れる兵を見下ろす姿が目に入った。
「えっと…隊長さん?彼女の蹴りが凄いことってご存知ですよね?」
「…は?」
「盗賊を一人で6人倒せるほどの強さですし、間違っても迂闊に近寄って素手で捕まえようとしちゃだめですよ?」
思わずといったようにそう口にした俺に、隊長らしき目の前の人物はギョッとしたように目を見開く。
「なっ…!ただの令嬢ではなかったのか?!」
そして慌てて馬車の方へと駆けていったので、仕方なく自分もそちらの方へと足を向けることになった。
騎士の一人がハイジの馬車を操りハイジはそちらに乗っているのでこちらとは特に接点はない。
ヒロと騎士のもう一人が前後を守り、俺達の馬車が先行する形になっていた。
なんでも『女性には優しく』だそうだ。
言いたいことはわかる。
わかるのだが……あの強さを見てしまうと、この中で一番弱いのは自分なのかもしれないと思わず遠い目になってしまうのは仕方がないだろう。
でもその点においてはヒロも考えは同じだったようで、『サトルは俺が守ってやるからな』と笑顔で先頭を引き受けてくれた。
本当に頼もしい限りだ。
そして国境線へと向かう中、多少の魔物には遭遇したのだが然程強い魔物が出てくることはなくヒロと騎士だけで危なげなくあっさりと倒してしまった。
ヒロ曰く、『ラノベで読んだような感じじゃなくて拍子抜け』だそうだ。
俺としては図書館で調べた通りこの国の魔物被害は少ないというのが実感できたので良かったと思ったのだが、ヒロは何やら『折角だし無双したかった…』と嘆いていた。
自ら危険に飛び込みたいとでも言うのだろうか?
なかなか大胆なことだ。
そんなに強い相手と戦いたいならご令嬢に一戦手合わせをお願いすればいいのに……。
多分いい勝負になるんじゃないだろうか?
そんなことを考えていると、夕方近くに目的地である国境線の街が見えてきた。
今日からここに三日ほど滞在する予定なので、明日は聞き込みがてら街を回ってついでに宰相へのお土産でも買えるといいなと密かに心躍らせる。
(やっぱり癒し系な何かがいいかな?)
それとも疲れた時につまめる美味しい菓子の方がいいだろうか?
気詰まりな馬車の中でも宰相のことを考えると何となく気持ちが軽くなる。
そうしているうちに街の入り口へと差し掛かった。
「止まれ、止まれーーー!」
街の衛兵だろうか?
門をくぐろうとしたところで停止を求められ、馬車がゆっくりと歩みを止める。
その様子にほんの少し興味を惹かれ、そっと窓から覗き見てみると街の衛兵の少し向こうに10人ほどの別の兵達の姿が見えた。
(あれ?あの人達…)
彼らは黒のマントを身につけているのだが、その布は少し特殊で、宰相が着ている服にも使われている独特の光沢がある布地だった。
夕日を浴びてその布地が美しくも柔らかく光を反射する様を見るに、まず間違いはないだろう。
確かあれは宰相の領内で染められて織られているものだと聞いたのだが─────。
何となく嫌な予感がして、見えないとわかってはいても思わずそっとハイジがいるであろう背後の馬車の方へと目を向けてしまう。
どうにも彼女が無関係とは思えなかったからだ。
けれど、ヒロと話していた衛兵は無能だった。
こちらが勇者一行だと聞いた途端に、馬車の中を検めもせずに『ご苦労様です!』と元気よく敬礼し、あっさりと門を通してしまったのだ。
(この無能ーーー!ちゃんと調べろ!)
これでもし宰相に何かあったらどうしてくれるのだと思わず叫びたくなった。
何かしら領内で問題が怒っていて、最終的に宰相の胃を痛める案件に繋がるのではないかと冷や冷やしてしまう。
考えすぎだと言われてしまえばそれまでだが、どうにも宰相はツイてないような気がしてならないから放っておけないのだ。
けれどヒロだけではなく他の騎士や魔道士も、衛兵の後ろにいるカテオロスの兵達に気づいていないか衛兵の仲間くらいにしか思っていないらしく、動く気配は微塵も感じられない。
(鈍感!もっと危機感を持ってくれよ!)
仕方がないので俺はもう自分で勝手に動くことにする。
「え?!サトル?!」
動き出そうとした馬車からギリギリ飛び出した俺にヒロがぎょっとして声を掛けてくるが、今はそんな暇はない。
「どうせここで調査するんだろう?手っ取り早く先にこの人たちに話を聞いた方がいいって!ちょっと聞いてくるから絶対そのまま動かないで待っててくれ!」
そして衛兵の方ではなく、カテオロスの人達の方へと駆けた。
「すみません!ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
一番手前にいた隊長らしき人物に声を掛けると、彼は不思議そうにしながらもこちらが勇者一行だとわかっているので丁寧になんでしょうと尋ねてくれた。
「お探しの人物は貴族の女性ではないですよね?」
こっそりとそう尋ねてみると、明らかに驚いたような目でこちらを凝視し、どういうことかと尋ねられた。
「今朝助けた女性が後続の馬車にいるのでもしかしたらと思っただけなんです。もし違っていたらすみません」
そしてそれと共に隊長が小さく協力感謝すると述べ部下へと視線を送ったのを合図に、本来の件もついでに尋ねてみることにした。
「ここには国境線に魔物被害が増えていないかを調べに来たのですが、何か情報はお持ちではないでしょうか?あるいはどこで情報収集をすれば効率がいいかご存知でしたら是非教えて頂きたいのですが」
その言葉に隊長は一つ頷き、ここ暫く特に大きな魔物被害はないということを教えてくれた。
「とは言え全くないとは言えないようだし、そうだな…情報を集めるなら隣国と行き来する商人に尋ねるのが一番いいだろう。後は衛兵の詰め所で情報収集をしてみるといい。冒険者に尋ねるのも手だが、荒くれどもも多い上に嘘の情報を吹き込んでくる輩もいるからな。そちらは慣れないうちは避けた方が無難だ」
「そうですか。為になることを教えて頂き助かりました。ありがとうございます」
確かに商人や衛兵からの情報の方が信用性は高そうだと判断し、笑顔で礼を言った。
そしてちょうどそのタイミングでハイジの乗った馬車の方から悲鳴が上がった。
「な、なんだ?!」
「うわぁッ!」
その声を聞いて『あ、蹴られたな』と瞬時に悟る。
彼女は本当に足癖が悪いのだ。
遠目に見ると彼女が馬車から降り、髪を掻き上げながら倒れる兵を見下ろす姿が目に入った。
「えっと…隊長さん?彼女の蹴りが凄いことってご存知ですよね?」
「…は?」
「盗賊を一人で6人倒せるほどの強さですし、間違っても迂闊に近寄って素手で捕まえようとしちゃだめですよ?」
思わずといったようにそう口にした俺に、隊長らしき目の前の人物はギョッとしたように目を見開く。
「なっ…!ただの令嬢ではなかったのか?!」
そして慌てて馬車の方へと駆けていったので、仕方なく自分もそちらの方へと足を向けることになった。
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