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42.口出しはほどほどに
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やっと仕事が終わった~と帰ろうとしたら、聖女様が行くわよと言って立ち上がった。
どうやら俺の家までついてくる気満々らしい。
迷惑だしやめてほしいとは言ったんだけど、全く聞いてはもらえない。
ちょっとだけレイの気持ちがわかった。
きっとレイの父親もこんな感じだったんだろう。
自分がこうと決めたら絶対に譲らないのだ。
仕方がないからタイミングを見計らおう。
そうして三人で家へと向かったものの、家に温かく灯る明かりを見て、そこにレイがいるのだと考えるだけで俺は嬉しくなった。
やっぱり誰かが待っていてくれる家はいいし、それが好きな相手なら尚更だ。
「おかえり、ジェイド」
そう言って出迎えてくれたレイの笑顔が眩しくて、俺も満面の笑みでただいまと言う。
本来ならここでキスの一つでもするんだけど、今日は聖女様とクルトがいるからちょっと我慢。
そしてここで聖女様が入るわよと言って家の中に問答無用で侵入。
玄関先で用を済ませてくれたらと思っていただけに残念でならない。
しかもさっさと済ませて帰る気は全くないようで────。
「ここがジェイドの家なのね……」
入ってすぐに感嘆の声を上げてぐるりと部屋を見回し、思い切り空気を吸い込んで嬉しそうな顔になる。
「ジェイドらしい落ち着いた家だわ」
「……ありがとうございます」
俺からすればとうとうプライベートにまで踏み込まれたとうんざりした気分なんだけど…。
「さて、じゃあ邪魔者をとっとと追い出して、三人でお茶でもしましょうか」
「え?」
にっこり笑ってそんなことを口にした聖女様にレイが驚いた声を上げる。
そうだよな?
おかしいよな?
「聖女様?だからレイは俺の婚約者なんですよ?追い出すなんて言われても俺は絶対に頷きませんから」
「でもそれじゃあクルトが居辛いじゃないの」
「それはわかりますけど」
「じゃあ実家がある男が出ていく方がいいわよね?まさかこんな可愛いクルトを野宿させるなんて、優しいジェイドは言わないでしょう?」
「…………聖女様?」
小首を傾げ、さもそれが正しいことだと言わんばかりのその態度にイラッとする。
人の良心に付け込んでくるなんて卑怯極まりない。
「レイは俺の婚約者です。何度でも言いますが俺は追い出す気はありません」
「そう。じゃあそっちの男に言うわ」
残念そうに俺を見た後、聖女様は真っ直ぐにレイへと向き直る。
「あんた!どの面下げてここに居座ってる気?!さっさと出ていきなさい!」
おぉう…すごい豹変ぶりだな。ちょっとビビったんだけど……。
「俺はそこの男がここにいる限り出て行く気はない」
淡々と、けれどしっかりとクルトを見つめてそう言い返したレイに、聖女様が噛みつくように言葉を紡ぐ。
「一丁前に嫉妬でもしているつもり?!貴方にそんな資格はないってそろそろ自覚すべきだわ!」
「俺は…」
頑張れレイ。ちゃんと助け舟を出す用意はしてあるから、聖女様には言いたいことを言いたいように言えばいい。
「ジェイドを悲しませた自覚はあるし、これからそれを償うのはもちろん、それ以上にジェイドを幸せにしたいと思ってる!」
キリッと言い切ったレイの姿に俺はジーンと感動したんだけど、聖女様はそんなレイの言葉もあっさりとぶった切る。
「綺麗事抜かしてんじゃないわよ!無職のボンボンができることなんてたかが知れてるでしょう?!それでどうやってジェイドを幸せにできるって言うのよ?私の方が数百倍幸せにしてあげられるわよ!」
(…………薄給ですけどね)
威勢よく啖呵を切った聖女様だが、俺はドン引きしながら心の中でそうツッコミを入れる。
薄給でこき使われるくらいなら俺はどう考えてもレイを選ぶぞ?
さてレイも頑張ってくれたことだし、ここからは俺の出番かな。
「聖女様。取り敢えずクルトが心配なんでしたら、今日のところはクルトとレイをベッドに寝かせて俺はソファで寝ますので」
実に建設的な意見として、明日家具屋でソファをソファベッドに買い替えればいいでしょうと言ったら、これにはクルトとレイから待ったの声が入った。
(あれ?おかしいな?)
「ちょっと待ってください!ぼ、僕は、誰かと同じベッドで寝たことなんてありませんよ?しかも師匠となら兎も角レイさんとなんて…絶対に眠れません!」
「そうだ、ジェイド!ベッドは俺とお前で使えばいいだろう?どうして好きでもない相手と共寝をしないといけないんだ!こんな奴ソファで十分じゃないか!」
(…………そう言えばクルトって王族だった)
あまりにフレンドリーだったからすっかり記憶の彼方に追いやりそうになっていたが、この二人は揃って王族だった。
ソファで寝かせるのは流石にマズいよな?
(う~ん…困ったな)
「えっと…じゃあ、クルトがベッドで寝てくれていいよ。俺とレイが今日は宿に泊まるから」
「「「え?!」」」
「…?何かダメでした?」
「ダメに決まってるでしょ?!」
「そうですよ!もっと自分を大事にしてください!」
「ジェ…ジェイド……。昨日の今日でそんな……」
(う~ん…?)
なんだか皆頭の中ピンクになりすぎてないか?
「えっと…皆何か変なこと、考えてない…かな?俺、極普通の宿屋に行くつもりなんだけど…」
「「「えぇっ?!」」」
(全員真っ赤になるってどういうこと?)
「まあいいですよ。どうせ俺はレイとは婚約関係にあるんですから、襲っても襲われても全く問題ないですし。さて、じゃあ聖女様。そろそろ教会に送りますのでお帰り頂けますか?」
にっこり笑ってお引き取りを願う。
これ以上レイを責めさせる気はないという俺なりの意思表示だ。
「ジェ…ジェイドぉ……」
「聖女様が心配して色々手を尽くそうとしてくれているのはわかるんですけど、ちゃんと迷惑はかけないようにしますので、お気持ちだけ有難く受け取らせてください」
要するにこれ以上踏み込んでくるなという牽制────。
だって俺、レイ以上に好きになれる相手に出会えるなんて思えないし。
それならそれで俺がこの件を解決するしかないだろう。
「レイ。結婚に向けて一緒に色々考えてくれるか?」
「……!もちろん。喜んで」
「うん」
そう言って笑い合った俺達の姿に聖女様がやけに悔しそうにしてるけど、羨ましいなら王太子とイチャつけばいいのにな?
どうやら俺の家までついてくる気満々らしい。
迷惑だしやめてほしいとは言ったんだけど、全く聞いてはもらえない。
ちょっとだけレイの気持ちがわかった。
きっとレイの父親もこんな感じだったんだろう。
自分がこうと決めたら絶対に譲らないのだ。
仕方がないからタイミングを見計らおう。
そうして三人で家へと向かったものの、家に温かく灯る明かりを見て、そこにレイがいるのだと考えるだけで俺は嬉しくなった。
やっぱり誰かが待っていてくれる家はいいし、それが好きな相手なら尚更だ。
「おかえり、ジェイド」
そう言って出迎えてくれたレイの笑顔が眩しくて、俺も満面の笑みでただいまと言う。
本来ならここでキスの一つでもするんだけど、今日は聖女様とクルトがいるからちょっと我慢。
そしてここで聖女様が入るわよと言って家の中に問答無用で侵入。
玄関先で用を済ませてくれたらと思っていただけに残念でならない。
しかもさっさと済ませて帰る気は全くないようで────。
「ここがジェイドの家なのね……」
入ってすぐに感嘆の声を上げてぐるりと部屋を見回し、思い切り空気を吸い込んで嬉しそうな顔になる。
「ジェイドらしい落ち着いた家だわ」
「……ありがとうございます」
俺からすればとうとうプライベートにまで踏み込まれたとうんざりした気分なんだけど…。
「さて、じゃあ邪魔者をとっとと追い出して、三人でお茶でもしましょうか」
「え?」
にっこり笑ってそんなことを口にした聖女様にレイが驚いた声を上げる。
そうだよな?
おかしいよな?
「聖女様?だからレイは俺の婚約者なんですよ?追い出すなんて言われても俺は絶対に頷きませんから」
「でもそれじゃあクルトが居辛いじゃないの」
「それはわかりますけど」
「じゃあ実家がある男が出ていく方がいいわよね?まさかこんな可愛いクルトを野宿させるなんて、優しいジェイドは言わないでしょう?」
「…………聖女様?」
小首を傾げ、さもそれが正しいことだと言わんばかりのその態度にイラッとする。
人の良心に付け込んでくるなんて卑怯極まりない。
「レイは俺の婚約者です。何度でも言いますが俺は追い出す気はありません」
「そう。じゃあそっちの男に言うわ」
残念そうに俺を見た後、聖女様は真っ直ぐにレイへと向き直る。
「あんた!どの面下げてここに居座ってる気?!さっさと出ていきなさい!」
おぉう…すごい豹変ぶりだな。ちょっとビビったんだけど……。
「俺はそこの男がここにいる限り出て行く気はない」
淡々と、けれどしっかりとクルトを見つめてそう言い返したレイに、聖女様が噛みつくように言葉を紡ぐ。
「一丁前に嫉妬でもしているつもり?!貴方にそんな資格はないってそろそろ自覚すべきだわ!」
「俺は…」
頑張れレイ。ちゃんと助け舟を出す用意はしてあるから、聖女様には言いたいことを言いたいように言えばいい。
「ジェイドを悲しませた自覚はあるし、これからそれを償うのはもちろん、それ以上にジェイドを幸せにしたいと思ってる!」
キリッと言い切ったレイの姿に俺はジーンと感動したんだけど、聖女様はそんなレイの言葉もあっさりとぶった切る。
「綺麗事抜かしてんじゃないわよ!無職のボンボンができることなんてたかが知れてるでしょう?!それでどうやってジェイドを幸せにできるって言うのよ?私の方が数百倍幸せにしてあげられるわよ!」
(…………薄給ですけどね)
威勢よく啖呵を切った聖女様だが、俺はドン引きしながら心の中でそうツッコミを入れる。
薄給でこき使われるくらいなら俺はどう考えてもレイを選ぶぞ?
さてレイも頑張ってくれたことだし、ここからは俺の出番かな。
「聖女様。取り敢えずクルトが心配なんでしたら、今日のところはクルトとレイをベッドに寝かせて俺はソファで寝ますので」
実に建設的な意見として、明日家具屋でソファをソファベッドに買い替えればいいでしょうと言ったら、これにはクルトとレイから待ったの声が入った。
(あれ?おかしいな?)
「ちょっと待ってください!ぼ、僕は、誰かと同じベッドで寝たことなんてありませんよ?しかも師匠となら兎も角レイさんとなんて…絶対に眠れません!」
「そうだ、ジェイド!ベッドは俺とお前で使えばいいだろう?どうして好きでもない相手と共寝をしないといけないんだ!こんな奴ソファで十分じゃないか!」
(…………そう言えばクルトって王族だった)
あまりにフレンドリーだったからすっかり記憶の彼方に追いやりそうになっていたが、この二人は揃って王族だった。
ソファで寝かせるのは流石にマズいよな?
(う~ん…困ったな)
「えっと…じゃあ、クルトがベッドで寝てくれていいよ。俺とレイが今日は宿に泊まるから」
「「「え?!」」」
「…?何かダメでした?」
「ダメに決まってるでしょ?!」
「そうですよ!もっと自分を大事にしてください!」
「ジェ…ジェイド……。昨日の今日でそんな……」
(う~ん…?)
なんだか皆頭の中ピンクになりすぎてないか?
「えっと…皆何か変なこと、考えてない…かな?俺、極普通の宿屋に行くつもりなんだけど…」
「「「えぇっ?!」」」
(全員真っ赤になるってどういうこと?)
「まあいいですよ。どうせ俺はレイとは婚約関係にあるんですから、襲っても襲われても全く問題ないですし。さて、じゃあ聖女様。そろそろ教会に送りますのでお帰り頂けますか?」
にっこり笑ってお引き取りを願う。
これ以上レイを責めさせる気はないという俺なりの意思表示だ。
「ジェ…ジェイドぉ……」
「聖女様が心配して色々手を尽くそうとしてくれているのはわかるんですけど、ちゃんと迷惑はかけないようにしますので、お気持ちだけ有難く受け取らせてください」
要するにこれ以上踏み込んでくるなという牽制────。
だって俺、レイ以上に好きになれる相手に出会えるなんて思えないし。
それならそれで俺がこの件を解決するしかないだろう。
「レイ。結婚に向けて一緒に色々考えてくれるか?」
「……!もちろん。喜んで」
「うん」
そう言って笑い合った俺達の姿に聖女様がやけに悔しそうにしてるけど、羨ましいなら王太子とイチャつけばいいのにな?
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