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34.帰ってきたレイ
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今日も出掛けて帰ってきてから少々機嫌の悪い聖女様。
帰ってきて早々はそうでもなかったけど、暫くしたら何か思い出したのかまた機嫌が悪くなった。
ブツブツ言ってる内容から察するに、王族嫌いに拍車がかかっているようだ。
どうやら相手は王弟とその息子のようだけど…触らぬ神に祟りなし。深くは突っ込まず、俺は仕事がスムーズに進むようフォローし、美味しいご飯で機嫌を直してもらいつつサポートするのみ。
指示された旅支度もちゃんと整えておいたし、これでいつ言われても大丈夫だ。
「はあ…ジェイド師匠って本当に無駄なく働くんですね」
「まあ、好きなことの方に時間かけたいし」
聖女様の世話は仕事だからちゃんとやるけど、魔法薬師として他に作ってみたいポーションだってあるし、できれば実際に作って試したい。
旅に出るまでにある程度作って置けば、俺がいなくても司教様達が売ってくれることだろう。
今のところ全部のポーションが良く売れているけど、持参金を用意するなら種類を増やしておいたほうがいいかもしれないと考えてのことだ。
(水虫に効くポーションとか作ろうかな。ブーツは蒸れるって冒険者や騎士がたまに言ってるし需要はあるはず。後は…そうだ!美肌が成功したから今度は美髪にしようかな。傷んだ髪も綺麗になったら喜ばれるかも!そう言えばあの変声キャンディーも何気に人気が出てるって聞くし、ちょっと改良して変声時間を伸ばして商品にしてみようか?他には…)
そんなことを色々考えていると、クルトが袖を引っ張ってきた。
「師匠、師匠!」
「ん?どうかした?」
「はい!あの…今日、家に帰ってからクッキーを作ってみたいんですけど」
「ああ。そう言えば明日は孤児院への訪問があったっけ」
「はい!それで、野菜クッキーを作ってみたいなって…」
「なるほど。それは名案だな」
クルトは孤児院の子供達に栄養のある物を食べさせてやりたいと思いつき、そんなことを言い出したようだった。
「作ったことがないので分量とかは全くわからないんですけど…」
「大丈夫大丈夫。そこはちゃんと教えるから」
安心してくれと言ってやると笑顔で御礼を言われたので、いい子だな~と微笑ましく思った。
「う…いたたたた……」
「どうかした?」
今度はどうしたんだと聞くと、どうやら成長期特有の成長痛とのこと。
「流石にそれは聖女様の癒しやポーションは効かないからな…我慢するしかないな」
「ですよね」
もしかしたらマッサージだったら多少は効くかもしれないし、帰ったら少し試してみようか。
今はまだ俺より少しだけ背の低いクルトだけど、この分だともしかしたらあっという間に追い抜かれてしまうかもしれないななんて思ってしまう。
「若いっていいなぁ」
「何言ってるんです?師匠だって若いじゃないですか」
「俺はもう成長期過ぎたし」
「え?師匠って幾つなんですか?」
「俺?二十才」
「やっぱり若いじゃないですか!」
アハハと笑うクルトに癒されながら従者の仕事を一緒にこなしていると時間はあっという間で、すぐに夕飯の支度をする時間になった。
「今日は何を作るんです?」
「ん?聖女様の苦手なナスを使った料理」
「え?食べてもらえないんじゃ?」
「それを上手く料理するのがポイントだから、しっかり覚えておいて」
「はい!」
「ん。いい返事」
そうして料理を作って────。
「ん~!今日もジェイドの料理は最高だわ!」
「お口に合ってよかったです」
「特にこのトロトロしたものが凄く美味しいわ!新しい食材ね!」
「ありがとうございます」
「え?それって……」
「しーっ。黙ってたらバレないから」
「あぁ…なるほど」
聖女様が苦手なものはリクエストの品以外にさり気なく混ぜるのがデフォ。
食べてもらえたら心の中でガッツポーズだ。食べ終えるまでそれが何かは言ってはいけない。
「どうかした?」
「いいえ、なんでも」
「そう?はぁ…どれもこれも本当に満足だわ。お嫁に来てほしい…」
「俺は男なので」
「あら、でもあの男と結婚したらジェイドがお嫁さんでしょう?」
「え?違いますよ?」
どうして男の俺が嫁になるのかがわからない。
「違うの?!」
「男同士ならどっちも夫でしょう?馬鹿なこと言ってないでさっさと食べてください」
「もう!…でもそんなジェイドも大好き!」
お世辞はいいから口より手を動かしてほしい。
せめて好き嫌いをなくしたら後任を探しやすくなるから頑張って克服を進めておかないと。
「はいはい。あ、それ全部食べましたね。おめでとうございます」
「え?」
「ナスも克服できましたね。後は何でしたっけ?レバーとトマトと……」
「ジェ、ジェイド?!またこっそり食べさせたのね?!」
「食べられる方がいいでしょう?聖女様の美と健康のためですよ?」
「え?ええ、そう。そうね?私、また綺麗になったかしら?」
「そうですね。最初の頃よりずっと肌荒れもしにくくなりましたし、髪に艶も出てきてますよ。この調子で頑張ってください」
これは別にお世辞ではなく、数か月前より明らかに健康的になっていて、聖女様は最近では美の女神よりも美しいと皆からも絶賛されているのだ。
正直言い過ぎだとは思うが、やっぱり食事は大事ってことだな。
「うふふ…。ジェイドがついていてくれたらそれだけで頑張れるし、とっても幸せなのよ」
「そうですか。聖女様が何でも食べられるようになったらやっと俺もお役御免になれるので、俺が結婚するまでに頑張って克服してくださいね」
「ぐぅ…っ!あの男がますます憎い!」
そうやって恒例のやり取りを終えて帰り支度を整えると、俺はクルトを連れて家路についた。
けれど家の近くまでやってきてふと家の方を見やると、明かりが灯っていることに気が付いてしまった。
これはレイと暮らしていた時はいつもの光景で、もう暫くは見ることができないと諦めていた光景で……。
もしかしてという期待がどうしても込み上げてきてしまう。
だから……俺は気づけば家に向かって走り出してしまっていた。
(レイ…レイ……)
「レイ!」
バンッと扉を開けるとそこにはレイの笑顔があって────「おかえり」と言って俺を迎えてくれた。
帰ってきて早々はそうでもなかったけど、暫くしたら何か思い出したのかまた機嫌が悪くなった。
ブツブツ言ってる内容から察するに、王族嫌いに拍車がかかっているようだ。
どうやら相手は王弟とその息子のようだけど…触らぬ神に祟りなし。深くは突っ込まず、俺は仕事がスムーズに進むようフォローし、美味しいご飯で機嫌を直してもらいつつサポートするのみ。
指示された旅支度もちゃんと整えておいたし、これでいつ言われても大丈夫だ。
「はあ…ジェイド師匠って本当に無駄なく働くんですね」
「まあ、好きなことの方に時間かけたいし」
聖女様の世話は仕事だからちゃんとやるけど、魔法薬師として他に作ってみたいポーションだってあるし、できれば実際に作って試したい。
旅に出るまでにある程度作って置けば、俺がいなくても司教様達が売ってくれることだろう。
今のところ全部のポーションが良く売れているけど、持参金を用意するなら種類を増やしておいたほうがいいかもしれないと考えてのことだ。
(水虫に効くポーションとか作ろうかな。ブーツは蒸れるって冒険者や騎士がたまに言ってるし需要はあるはず。後は…そうだ!美肌が成功したから今度は美髪にしようかな。傷んだ髪も綺麗になったら喜ばれるかも!そう言えばあの変声キャンディーも何気に人気が出てるって聞くし、ちょっと改良して変声時間を伸ばして商品にしてみようか?他には…)
そんなことを色々考えていると、クルトが袖を引っ張ってきた。
「師匠、師匠!」
「ん?どうかした?」
「はい!あの…今日、家に帰ってからクッキーを作ってみたいんですけど」
「ああ。そう言えば明日は孤児院への訪問があったっけ」
「はい!それで、野菜クッキーを作ってみたいなって…」
「なるほど。それは名案だな」
クルトは孤児院の子供達に栄養のある物を食べさせてやりたいと思いつき、そんなことを言い出したようだった。
「作ったことがないので分量とかは全くわからないんですけど…」
「大丈夫大丈夫。そこはちゃんと教えるから」
安心してくれと言ってやると笑顔で御礼を言われたので、いい子だな~と微笑ましく思った。
「う…いたたたた……」
「どうかした?」
今度はどうしたんだと聞くと、どうやら成長期特有の成長痛とのこと。
「流石にそれは聖女様の癒しやポーションは効かないからな…我慢するしかないな」
「ですよね」
もしかしたらマッサージだったら多少は効くかもしれないし、帰ったら少し試してみようか。
今はまだ俺より少しだけ背の低いクルトだけど、この分だともしかしたらあっという間に追い抜かれてしまうかもしれないななんて思ってしまう。
「若いっていいなぁ」
「何言ってるんです?師匠だって若いじゃないですか」
「俺はもう成長期過ぎたし」
「え?師匠って幾つなんですか?」
「俺?二十才」
「やっぱり若いじゃないですか!」
アハハと笑うクルトに癒されながら従者の仕事を一緒にこなしていると時間はあっという間で、すぐに夕飯の支度をする時間になった。
「今日は何を作るんです?」
「ん?聖女様の苦手なナスを使った料理」
「え?食べてもらえないんじゃ?」
「それを上手く料理するのがポイントだから、しっかり覚えておいて」
「はい!」
「ん。いい返事」
そうして料理を作って────。
「ん~!今日もジェイドの料理は最高だわ!」
「お口に合ってよかったです」
「特にこのトロトロしたものが凄く美味しいわ!新しい食材ね!」
「ありがとうございます」
「え?それって……」
「しーっ。黙ってたらバレないから」
「あぁ…なるほど」
聖女様が苦手なものはリクエストの品以外にさり気なく混ぜるのがデフォ。
食べてもらえたら心の中でガッツポーズだ。食べ終えるまでそれが何かは言ってはいけない。
「どうかした?」
「いいえ、なんでも」
「そう?はぁ…どれもこれも本当に満足だわ。お嫁に来てほしい…」
「俺は男なので」
「あら、でもあの男と結婚したらジェイドがお嫁さんでしょう?」
「え?違いますよ?」
どうして男の俺が嫁になるのかがわからない。
「違うの?!」
「男同士ならどっちも夫でしょう?馬鹿なこと言ってないでさっさと食べてください」
「もう!…でもそんなジェイドも大好き!」
お世辞はいいから口より手を動かしてほしい。
せめて好き嫌いをなくしたら後任を探しやすくなるから頑張って克服を進めておかないと。
「はいはい。あ、それ全部食べましたね。おめでとうございます」
「え?」
「ナスも克服できましたね。後は何でしたっけ?レバーとトマトと……」
「ジェ、ジェイド?!またこっそり食べさせたのね?!」
「食べられる方がいいでしょう?聖女様の美と健康のためですよ?」
「え?ええ、そう。そうね?私、また綺麗になったかしら?」
「そうですね。最初の頃よりずっと肌荒れもしにくくなりましたし、髪に艶も出てきてますよ。この調子で頑張ってください」
これは別にお世辞ではなく、数か月前より明らかに健康的になっていて、聖女様は最近では美の女神よりも美しいと皆からも絶賛されているのだ。
正直言い過ぎだとは思うが、やっぱり食事は大事ってことだな。
「うふふ…。ジェイドがついていてくれたらそれだけで頑張れるし、とっても幸せなのよ」
「そうですか。聖女様が何でも食べられるようになったらやっと俺もお役御免になれるので、俺が結婚するまでに頑張って克服してくださいね」
「ぐぅ…っ!あの男がますます憎い!」
そうやって恒例のやり取りを終えて帰り支度を整えると、俺はクルトを連れて家路についた。
けれど家の近くまでやってきてふと家の方を見やると、明かりが灯っていることに気が付いてしまった。
これはレイと暮らしていた時はいつもの光景で、もう暫くは見ることができないと諦めていた光景で……。
もしかしてという期待がどうしても込み上げてきてしまう。
だから……俺は気づけば家に向かって走り出してしまっていた。
(レイ…レイ……)
「レイ!」
バンッと扉を開けるとそこにはレイの笑顔があって────「おかえり」と言って俺を迎えてくれた。
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