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25.あの泥棒猫! Side.聖女

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最近王太子からの鬱陶しいプレゼント攻撃に辟易はしているものの、いつもジェイドが卆なく対応してくれるから安心しきっていた。
相変わらず仕事は完璧だし、気さくに話しつつもクールなイケメンっぷりで本当に最高の従者だわって思っていた。
それなのに────。

「ジェイド?!」

いつもきっちりしているジェイドが今日はフラフラのボロボロ状態で出勤してきて驚いてしまう。

「貴方、どうしたの?!」

どこか具合でも悪いのかと思って慌てて鑑定の魔法を発動させると、体力値が下がり、おまけに睡眠がとれていない状態異常表記が見て取れた。
それから推測するに、寝ずにずっと走り回っていたことが窺える。

「すみません…すぐにポーション飲んで仕事に取り掛かりますので……」

つまりはここに来る直前までポーションを飲む暇もないほどギリギリまで走り回っていたということだ。
これはただ事ではない。

「いいから。ちょっとこちらに来なさい」

そして癒しの力でジェイドを癒す。
ポーションで十分だからと断られたけど、私の従者なんだからおとなしく聖女の言うことは聞きなさいと言って無理矢理承諾させた。

「…………すみません。このお代は給料から引いておいてください」
「あら。殊勝な態度ね。それなら是非、貴方がそんなにボロボロになってる理由を教えてちょうだい。お代は情報料で結構よ」

ニコッと言ってやるとジェイドは暫く黙っていたけれど、ゆっくりとその重い口を開いた。

「レイが……昨夜から帰ってこなくて…………」
「え?」
「記憶喪失だって言ってたから、もしかして記憶が戻って俺の前から消えたんじゃないかって…不安で……」
「……それで探し回っていたのね」

優しく聞くとジェイドがコクリと小さく首を縦に振った。

(あんの大嘘つきの泥棒猫がーーーーーーー!!!!)

正直怒髪天もいいところだ。
あの男がジェイドの恋人兼同居人だと聞いた時からライバル意識はムクムクと育っていた。
これまでずっと自分だけのジェイドだったのをいつの間にやらかすめ取っていった泥棒猫。
だから悪気はないが、どんなスペック持ちなのよと鑑定魔法で詳細を見たことがある(もちろんこっそり)。
そしたらあの男、ふざけたことに王族だったのだ。しかも第四王子。
このあたりも私の王族嫌いの一端に一役買っていた。
問題なのはそれをジェイドに内緒にしていたことだ。
今回それが発覚したわけだが────。

本当に記憶喪失だったなら別にそれはそれでいい。
記憶喪失の王族がジェイドに懐いたのねと普通に納得できただろう。
でも────あの男は記憶喪失なんかではなかったのだ。
そんな状態異常表記は鑑定結果には出てはいなかった。
つまりは自分の素性を隠した上でジェイドを利用していたのだ。
しかも急に姿を消してジェイドをこんなに心配させるなんて許せるはずがない。
せめて一言くらい残してから消えて欲しかった。

(こんな消え方されたらジェイドの心が益々そっちに向かって、私に振り向いてもらえる可能性がなくなるでしょう?!)

本当にふざけるな状態だ。

「ジェイド…泣いていいのよ?」

もうこうなったら私は優しい女を演出してみせるわ!
あんなふざけた王族にジェイドを渡してたまるもんですか!

「聖女様…」
「疲れているでしょう?今日は私の部屋でゆっくり休みなさい」

そうよ。料理だって私が作ってあげるわ!
ジェイドみたいに手際よくは作れないかもしれないけど、簡単な一品二品なら私でも作れるはず…!
そう思って午前の仕事を終えた後キッチンに立ったのだけど……。

「きゃぁああああっ!」

ガシャーン!と鍋がひっくり返りせっかく作った煮物が床に巻き散らされる。
ちょっと煮ている間に食器を洗っておこうと思っただけだったのに手が鍋の持ち手に当たるなんて…!

今度はうんしょうんしょと床を雑巾で拭いていたけど、一度では拭ききれなくて流しでその雑巾を洗おうと立ち上がったら、頭に鉄鍋の持ち手が当たってゴツンと痛い目に合った。

「あいたたた…」

そんな自分の姿を目にしてジェイドが慌ててすっ飛んでくる。

「聖女様?!」
「うぅ…大丈夫よ。ジェイドは座ってて」
「大丈夫ですか?取り敢えずこれ、飲んでください」

そう言いながらジェイドはポーションを手渡してくれて、それを飲んでいる間に手早くキッチンを片付けてくれた。

「やっぱり俺が作りますよ。何が食べたいですか?」
「でも……」
「聖女様が気遣ってくれるのは有難いですけど、心配で気が気じゃありません。お世話している間は気も紛れるので是非作らせてください」

そんな風に困ったように言われたけど、そういうことならお言葉に甘えようかなと思った。
気が紛れるのならそれに越したことはない。

「じゃあ…かぼちゃサラダと、チーズ入りハンバーグと、蒸し鶏の大葉巻きと、パンはカリッと焼いたバケット。スープは…ポトフで。あとは……」
「はいはい。後はお任せで全部で10品になるように、ですよね?」
「そうよ!お願いね!」

本当は半分の品数でも十分なんだけど、手間暇かけてジェイドが色々作ってくれるのが嬉しくてつい我儘を言ってしまうのだ。
前の従者は料理がそんなにできなくて毎回四品が限度で、しかも二週間に一回は同じメニューだった。
それに比べたらジェイドの料理は本当に美味しいし、レパートリーも豊富だし、苦手なものも上手く調理してくれてまさに自分のための料理って感じがして大好き!

最初はまあ代わりが来るなら別に退職してもいいわよと思ってはいたけど、一緒にいればいるほど代わりなんていないと思ってしまう。
だからそんなジェイド以上の好条件な相手が出てこない限りは従者の替えも結婚相手も今は考えるつもりはない。
王太子の嫁なんて論外だ。
寧ろジェイドに是非嫁いできて欲しい!
公私共に支えてくれる素敵な旦那様なんて夢物件よね。
王太子なんかよりもずっとずっとず~~~っと!好条件よ!

だからね?そんな私からあっさりジェイドを奪っただけではなく悲しませたあの男────。

(見つけたらただじゃ置かないんだから……!)

ネチネチ厭味ったらしく説教してやるわ!
そう思ってたら、午後になって緊急で某お屋敷へと呼び出しがかかった。
場所は王弟殿下の別邸らしい。

(臭うわね……)

このタイミングでこの呼び出し。
無関係とは思い難い。
でも……。

(ジェイドは念のためここに置いていった方がいいわね)

ジェイドはあの男が王族だと言うことは知らないようだけど、王族サイドは情報を握っていてもおかしくはない。
万が一ジェイドが何か事件に巻き込まれてしまったら大変だと思案する。

「ジェイド。急だけど私、午後からお城のパーティーの打合せが入ったの。どうせまたドレスの試着とかそんなところだと思うから、こっちのことを任せても大丈夫かしら?ポーションで対処できない件は明日の朝、優先的に私に回してちょうだい」
「わかりました」

一人で行く口実にパーティーを持ち出したけど、こういうことは以前にもあったからジェイドは全く疑う様子はなかった。

「じゃあジェイドの美味しい食事を頂いたら行ってくるわね。よろしく」

こうして私は本音では行きたくない王族の元へと、文句を言うためだけに行くことにしたのだった。

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