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22.その頃の王族達③
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※第一王子、王弟サイドは大丈夫ですが、今回王妃サイドにて残酷な表現が含まれていますので、苦手な方は読み飛ばしを推奨します。
宜しくお願いしますm(_ _)m
****************
【Side.王妃】
「よくもエドモンドを…!絶対に許さない……」
王太子が毒に倒れ王妃はすぐさま動いた。
可愛い我が子を毒に侵させた輩を許すわけにはいかない。
王太子に茶を運んだメイド、実際に茶を淹れたメイド、茶器を用意したメイド、それら全てを尋問し口を割らせ、毒を持ち込んだ者を捕まえ首謀者を吐かせた。
彼らが吐いた首謀者の名は第二王子ガイダスの名だったが、あのガイダスがそんな間抜けなことをするはずがない。
あの男はやるなら確実に事を為す。こんな証拠が次々出てくるような真似は絶対にしないだろう。
そうなると後は限られてくる。
第二王子派閥の貴族か、第二貴族派に罪を着せ第三王子を担ぎ上げる第三王子派か。もしくは……。
そう思ってより詳しく調べようとしていたところでガイダスが動いたと聞き、そっとその後を追う。
「チャールズ!貴様、よくも俺を嵌めて計画を台無しにしてくれたな…!」
影によると、ガイダスの優秀な影が今回の毒を用いた犯人を突き止めたとのこと。
それにより毒を盛ったのが第三王子チャールズだと露見したのだ。
人けのない場所で怒り心頭に弟を責めるガイダスに、言われた方のチャールズは全く悪びれることなく言い放つ。
「そんなこと、僕がするはずがないじゃありませんか。知っているでしょう?僕がそういうことが苦手だって」
「ふざけるな。そんな詭弁で俺の影の目を欺けると思うなよ?」
「怖い怖い。兄上、いくらご自分の計画が上手くいかなかったからって僕に罪を押し付けないでくださいよ。兄上でしょう?王太子の暗殺を目論んだのは」
「俺がやるならもっと上手くやるに決まっている。そのために細かく準備を進めていたというのに…!」
「嫌だなぁ。わざと杜撰な手口にして僕を嵌めようとしたんですよね?わかってるんですよ?」
あくまでもガイダスが主犯だとでも言いたげなチャールズにガイダスは益々怒りを募らせているように見えた。
どちらもやりそうだなと思いつつ、ガイダスが影を使っていることから犯人がチャールズだというのは一目瞭然だった。
ならば────まずはチャールズから排除し、ガイダスは適当に理由をでっちあげて幽閉にしてやろうと思った。
このやり取りで互いが王位を狙っていたのはどう見ても明白だったからだ。
放っておくとまた王太子に危機が迫ってしまう。
「デス」
「は…」
「チャールズを殺れ」
その言葉にすぐさま自分の影が動く。
ヒュバッという音と刃のきらめきが一瞬でチャールズの命を刈り取ってしまう。
「ひっ…!」
すぐ傍でそれを見たガイダスが噴き出す血に塗れながら蒼白になり、息を呑む。
「あ…あぁ……」
ピッと血を振り払いすぐさま姿を消した影に、ガイダスが慌てたように己の影に追えと命令するが、こちらの影はそこで捕まるほど愚かではない。
暫くは別件の仕事でもこなしながら上手く身を隠すことだろう。
さて次は…。
「どうかしたのか?ガイダス王子」
「お…王妃…様……」
「おや。そこにいるのはチャールズか?可哀想に…そなたに殺されてしまったのか」
「なっ…!ち、違います!」
「この状況…どう見ても言い逃れなどできないであろう?衛兵!ガイダス王子が乱心した!すぐに捕らえて西の塔へと幽閉せよ!」
「ははっ…!」
「違う!これは…俺じゃない!」
「見苦しいですぞ!おとなしくなさってください!」
「違う!俺はやってない!」
やってないことなど百も承知だと言うのに、必死に潔白を叫んで連れられて行く様は愚かだった。
あんな男やチャールズのようなつまらない男に息子が嵌められたというのが許せない。
「王妃様」
「…エドモンドに何か?」
「は…。今必死に王宮薬師達が解毒を試みておりますが以前容体は悪化の一途とのこと」
「そうか…」
息子であるレイモンドが死んだと報告を受けてからエドモンドまで倒れ、第二王子、第三王子まで居なくなれば王位を継ぐ者がいなくなってしまう。
このことを王はどう考えているのか…。
「場合によっては聖女に救いを求めよ。絶対に王太子を死なせてはならぬ。ここで死ねば全員晒し首だと王宮医師並びに王宮薬師全てに周知せよ!」
「ははっ…!」
去っていく侍従の背を見送り、どうか無事にとただ一人の母として息子の快癒を願った────。
***
【Side.第一王子 エドモンド】
仕事の休憩時に飲んだ茶に毒が混入されていたらしく、俺は死の淵を彷徨った。
食事は喉を通らず、日増しに奪われていく体力。
そうしているうちに危篤状態となり、聖女が呼ばれたらしい。
温かな聖女の魔力は毒に侵された身体を優しく包み込み、あっという間に俺を癒してくれた。
しかも苦しみから解放されそっと目を開けてそちらを見遣ると、ふわりと優しく微笑みかけられた。
まさに天使だ。
「お加減はいかがですか?」
耳に心地いい優しい声とどこまでも慈愛に溢れるその美しい微笑についつい見惚れてしまう自分がいた。
これまで城で開かれるパーティーなどで何度か姿を見たことはあったが、今ほど心底美しいと感じたことはなかった。
この姿に彼女こそ自分の隣に立つに相応しい女性だと強く感じてしまう。
王太子である自分に臆することなくものを言うところも好ましい。
それらの言葉全てが俺を思っての事だということがヒシヒシと伝わってきたからだ。
しかもこちらを労わりながら薬まで用意してくれようとするなんて……。なんて優しいのだろう?
そうやって感動しながら話をしていたのだが、従者の薬を断ったところであっさりと席を立たれてしまった。
どうしてだろう?そう思えど、もしかしたらこちらの体調を考えて手短に話を切り上げてくれたのかとも思った。
優しい聖女のことだ。きっと気配りの一端だったのだろう。
もっと話したかったがこればかりは仕方がない。
今日はゆっくり休んでまた明日、今度はこちらから聖女の元へと足を運ぼう。
もう会うことはないだろうと残念そうに言っていたが、こちらから出向く分には気を使わせずに済むはずだ。
それを考えるとしっかり休んで早く良くならねばと思えた。
翌日、しっかり休んだことで体調もだいぶ良くなり、少しの外出くらいなら大丈夫だと医師達からのお墨付きももらえたので馬車に乗って早速聖女へと会いに行った。
出迎えたのは昨日聖女と共にいた従者の男だ。
案内されるままに歩を進めるとその先では聖女が笑顔で俺を出迎えてくれる。
でも席に座る間もなくこちらを気遣うあまり早く帰って休んだ方がいいと言われてしまった。
本当に心優しい聖女だ。
ならばと後日で構わないから御礼がしたいと言ってはみたものの、仕事が忙しくて休みが取れないのだと申し訳なさそうに断られてしまう。
休みがないなんて、なんて可哀想なんだろう。
ここは俺が司教に厳しく言って休みの設定をしてもらわねば。
それなら聖女も休めるし、俺との時間も取れるようになるから一石二鳥だ。
いや、好印象も与えられるから一石三鳥か?是非やろう。
御礼の方も気を使ってアクセサリーの一つで十分だと遠慮されてしまったので、ここはひとつ遠慮などする必要はないのだと教えてやりたいと思った。
地位も財力も俺は持っているのだから、それをアピールすればきっとすぐに俺のものになってくれるはずだ。
美しい聖女に似合う物をたくさん用意しよう。
そう……聖女の従者だか何だか知らないが、こんな近くにいるだけの顔だけ男に俺は絶対に負けたりなんかしない。
そして俺は城に帰るとすぐに御用商人を呼び出し、聖女へのプレゼントをあれこれと選び、聖女の喜ぶ顔が早く見たいなと思いながらゆっくりと休んだ。
まだまだ本調子ではないのだ。無理をして聖女とデートできなくなったら困る。
いや、その時は聖女に癒してもらえばいいのか?
それはそれでいいかもしれない。
デートの時には是非とも贈った品々を身に着けて欲しいものだ。
そしてゆったりと眠りへと沈んでいきながら、もしレイモンドが生きていたならば聖女に助けられた可能性もあるかもしれないな…と、そんなことをふと思ったのだった。
***
【Side.王弟 ローラン】
レイモンドの行方を追い早ひと月。
杳として行方は掴めないが、武器防具店にレイモンドの装備品を売り飛ばした男の身元は判明した。
ちょうどレイモンドがいなくなった時期から冒険者活動を始めた赤毛の男レイだ。
名前がレイというのは少々気になるが、髪は短いし髪色も違う。
これだけならレイモンド本人が髪を切り赤毛に染めている可能性もあるかと思ったが、瞳の色がレイモンドとは違ってブラウンだと聞いたので単なる偶然なのだろう。
そしてその男の周辺を中心に色々調べたところ、同居人が聖女の従者だと言うことが分かった。
そのことから推察するに、恐らくレイモンドを救ったのは聖女だろうとあたりをつけた。
死ぬほどの大怪我だったとしても聖女の癒しの力があれば助けられる。
ここからはあくまでも仮説だが、レイモンドは冒険者を始めたばかりの赤毛の男に森から助け出され、聖女の元へと運ばれたのではないだろうか?
そして赤毛の男はレイモンドの防具を売った金で聖女への謝礼を払い、治療を終えたレイモンドを隠した…。
きっと匿ってほしいとレイモンドから頼まれたのだろう。
そんな推測を元に、赤毛の男周辺を探りレイモンドを探しに探した。
最初は赤毛の男が同居人である聖女の従者を通し聖女に頼み込んで教会にレイモンドを匿ってもらっているのかとも思ったのだが、教会を隅々まで探してもレイモンドの姿は見つけられなかった。
しかしそれは赤毛の男の家の中も同様だ。
レイモンドの姿はどこにもない。
ならばレイモンドはどこに身を隠したのか?
そこから先が全く辿れなくて焦燥感だけが込み上げる。
乗合馬車にもレイモンドらしき者の目撃情報はなく、商人に同乗させてもらったのかとも思ったがそちらも当てが外れた。
いくら探ってもこの街を出た形跡は一切見つからなかったのだ。
余りにも見つからないのでつい最悪の状況が頭に浮かんでしまう。
(万が一にでも赤毛の男がレイモンドを見殺しにしていたとしたら……?)
ここまで見事に何も出てこないと、赤毛の男が森で死に体のレイモンドから装備品だけを奪って売り払ったのではないかとの疑念が湧いてくる。
いっそのこと本人を捕まえて尋問してやろうか?
このままレイモンドが見つからなければそれも手かもしれない。
牢に入れてちょっと拷問に掛ければあっさりと詳細を吐くかもしれない。
もし仮に命の恩人だったとするなら後からでも十分な謝罪と礼をしても構わないし、レイモンドが無事でさえあればそれでいい。
だが、見殺しにしたのであれば────。
「……ブルマン」
「は…」
「すまないが、赤毛の男から直接レイモンドの行方を聞き出してはくれないか?」
「方法は?」
「まずは優しく聞いてやれ。それで知らぬ存ぜぬと言うならば身体に聞けばいい」
「かしこまりました」
「頼んだぞ」
そうして手の者を見送り、レイモンドのことを思う。
どうか早く見つかりますように…と。
****************
※次回はレイモンドが酷い目に合うので、苦手な方は一話飛ばしてください。
宜しくお願いします。
宜しくお願いしますm(_ _)m
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【Side.王妃】
「よくもエドモンドを…!絶対に許さない……」
王太子が毒に倒れ王妃はすぐさま動いた。
可愛い我が子を毒に侵させた輩を許すわけにはいかない。
王太子に茶を運んだメイド、実際に茶を淹れたメイド、茶器を用意したメイド、それら全てを尋問し口を割らせ、毒を持ち込んだ者を捕まえ首謀者を吐かせた。
彼らが吐いた首謀者の名は第二王子ガイダスの名だったが、あのガイダスがそんな間抜けなことをするはずがない。
あの男はやるなら確実に事を為す。こんな証拠が次々出てくるような真似は絶対にしないだろう。
そうなると後は限られてくる。
第二王子派閥の貴族か、第二貴族派に罪を着せ第三王子を担ぎ上げる第三王子派か。もしくは……。
そう思ってより詳しく調べようとしていたところでガイダスが動いたと聞き、そっとその後を追う。
「チャールズ!貴様、よくも俺を嵌めて計画を台無しにしてくれたな…!」
影によると、ガイダスの優秀な影が今回の毒を用いた犯人を突き止めたとのこと。
それにより毒を盛ったのが第三王子チャールズだと露見したのだ。
人けのない場所で怒り心頭に弟を責めるガイダスに、言われた方のチャールズは全く悪びれることなく言い放つ。
「そんなこと、僕がするはずがないじゃありませんか。知っているでしょう?僕がそういうことが苦手だって」
「ふざけるな。そんな詭弁で俺の影の目を欺けると思うなよ?」
「怖い怖い。兄上、いくらご自分の計画が上手くいかなかったからって僕に罪を押し付けないでくださいよ。兄上でしょう?王太子の暗殺を目論んだのは」
「俺がやるならもっと上手くやるに決まっている。そのために細かく準備を進めていたというのに…!」
「嫌だなぁ。わざと杜撰な手口にして僕を嵌めようとしたんですよね?わかってるんですよ?」
あくまでもガイダスが主犯だとでも言いたげなチャールズにガイダスは益々怒りを募らせているように見えた。
どちらもやりそうだなと思いつつ、ガイダスが影を使っていることから犯人がチャールズだというのは一目瞭然だった。
ならば────まずはチャールズから排除し、ガイダスは適当に理由をでっちあげて幽閉にしてやろうと思った。
このやり取りで互いが王位を狙っていたのはどう見ても明白だったからだ。
放っておくとまた王太子に危機が迫ってしまう。
「デス」
「は…」
「チャールズを殺れ」
その言葉にすぐさま自分の影が動く。
ヒュバッという音と刃のきらめきが一瞬でチャールズの命を刈り取ってしまう。
「ひっ…!」
すぐ傍でそれを見たガイダスが噴き出す血に塗れながら蒼白になり、息を呑む。
「あ…あぁ……」
ピッと血を振り払いすぐさま姿を消した影に、ガイダスが慌てたように己の影に追えと命令するが、こちらの影はそこで捕まるほど愚かではない。
暫くは別件の仕事でもこなしながら上手く身を隠すことだろう。
さて次は…。
「どうかしたのか?ガイダス王子」
「お…王妃…様……」
「おや。そこにいるのはチャールズか?可哀想に…そなたに殺されてしまったのか」
「なっ…!ち、違います!」
「この状況…どう見ても言い逃れなどできないであろう?衛兵!ガイダス王子が乱心した!すぐに捕らえて西の塔へと幽閉せよ!」
「ははっ…!」
「違う!これは…俺じゃない!」
「見苦しいですぞ!おとなしくなさってください!」
「違う!俺はやってない!」
やってないことなど百も承知だと言うのに、必死に潔白を叫んで連れられて行く様は愚かだった。
あんな男やチャールズのようなつまらない男に息子が嵌められたというのが許せない。
「王妃様」
「…エドモンドに何か?」
「は…。今必死に王宮薬師達が解毒を試みておりますが以前容体は悪化の一途とのこと」
「そうか…」
息子であるレイモンドが死んだと報告を受けてからエドモンドまで倒れ、第二王子、第三王子まで居なくなれば王位を継ぐ者がいなくなってしまう。
このことを王はどう考えているのか…。
「場合によっては聖女に救いを求めよ。絶対に王太子を死なせてはならぬ。ここで死ねば全員晒し首だと王宮医師並びに王宮薬師全てに周知せよ!」
「ははっ…!」
去っていく侍従の背を見送り、どうか無事にとただ一人の母として息子の快癒を願った────。
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【Side.第一王子 エドモンド】
仕事の休憩時に飲んだ茶に毒が混入されていたらしく、俺は死の淵を彷徨った。
食事は喉を通らず、日増しに奪われていく体力。
そうしているうちに危篤状態となり、聖女が呼ばれたらしい。
温かな聖女の魔力は毒に侵された身体を優しく包み込み、あっという間に俺を癒してくれた。
しかも苦しみから解放されそっと目を開けてそちらを見遣ると、ふわりと優しく微笑みかけられた。
まさに天使だ。
「お加減はいかがですか?」
耳に心地いい優しい声とどこまでも慈愛に溢れるその美しい微笑についつい見惚れてしまう自分がいた。
これまで城で開かれるパーティーなどで何度か姿を見たことはあったが、今ほど心底美しいと感じたことはなかった。
この姿に彼女こそ自分の隣に立つに相応しい女性だと強く感じてしまう。
王太子である自分に臆することなくものを言うところも好ましい。
それらの言葉全てが俺を思っての事だということがヒシヒシと伝わってきたからだ。
しかもこちらを労わりながら薬まで用意してくれようとするなんて……。なんて優しいのだろう?
そうやって感動しながら話をしていたのだが、従者の薬を断ったところであっさりと席を立たれてしまった。
どうしてだろう?そう思えど、もしかしたらこちらの体調を考えて手短に話を切り上げてくれたのかとも思った。
優しい聖女のことだ。きっと気配りの一端だったのだろう。
もっと話したかったがこればかりは仕方がない。
今日はゆっくり休んでまた明日、今度はこちらから聖女の元へと足を運ぼう。
もう会うことはないだろうと残念そうに言っていたが、こちらから出向く分には気を使わせずに済むはずだ。
それを考えるとしっかり休んで早く良くならねばと思えた。
翌日、しっかり休んだことで体調もだいぶ良くなり、少しの外出くらいなら大丈夫だと医師達からのお墨付きももらえたので馬車に乗って早速聖女へと会いに行った。
出迎えたのは昨日聖女と共にいた従者の男だ。
案内されるままに歩を進めるとその先では聖女が笑顔で俺を出迎えてくれる。
でも席に座る間もなくこちらを気遣うあまり早く帰って休んだ方がいいと言われてしまった。
本当に心優しい聖女だ。
ならばと後日で構わないから御礼がしたいと言ってはみたものの、仕事が忙しくて休みが取れないのだと申し訳なさそうに断られてしまう。
休みがないなんて、なんて可哀想なんだろう。
ここは俺が司教に厳しく言って休みの設定をしてもらわねば。
それなら聖女も休めるし、俺との時間も取れるようになるから一石二鳥だ。
いや、好印象も与えられるから一石三鳥か?是非やろう。
御礼の方も気を使ってアクセサリーの一つで十分だと遠慮されてしまったので、ここはひとつ遠慮などする必要はないのだと教えてやりたいと思った。
地位も財力も俺は持っているのだから、それをアピールすればきっとすぐに俺のものになってくれるはずだ。
美しい聖女に似合う物をたくさん用意しよう。
そう……聖女の従者だか何だか知らないが、こんな近くにいるだけの顔だけ男に俺は絶対に負けたりなんかしない。
そして俺は城に帰るとすぐに御用商人を呼び出し、聖女へのプレゼントをあれこれと選び、聖女の喜ぶ顔が早く見たいなと思いながらゆっくりと休んだ。
まだまだ本調子ではないのだ。無理をして聖女とデートできなくなったら困る。
いや、その時は聖女に癒してもらえばいいのか?
それはそれでいいかもしれない。
デートの時には是非とも贈った品々を身に着けて欲しいものだ。
そしてゆったりと眠りへと沈んでいきながら、もしレイモンドが生きていたならば聖女に助けられた可能性もあるかもしれないな…と、そんなことをふと思ったのだった。
***
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レイモンドの行方を追い早ひと月。
杳として行方は掴めないが、武器防具店にレイモンドの装備品を売り飛ばした男の身元は判明した。
ちょうどレイモンドがいなくなった時期から冒険者活動を始めた赤毛の男レイだ。
名前がレイというのは少々気になるが、髪は短いし髪色も違う。
これだけならレイモンド本人が髪を切り赤毛に染めている可能性もあるかと思ったが、瞳の色がレイモンドとは違ってブラウンだと聞いたので単なる偶然なのだろう。
そしてその男の周辺を中心に色々調べたところ、同居人が聖女の従者だと言うことが分かった。
そのことから推察するに、恐らくレイモンドを救ったのは聖女だろうとあたりをつけた。
死ぬほどの大怪我だったとしても聖女の癒しの力があれば助けられる。
ここからはあくまでも仮説だが、レイモンドは冒険者を始めたばかりの赤毛の男に森から助け出され、聖女の元へと運ばれたのではないだろうか?
そして赤毛の男はレイモンドの防具を売った金で聖女への謝礼を払い、治療を終えたレイモンドを隠した…。
きっと匿ってほしいとレイモンドから頼まれたのだろう。
そんな推測を元に、赤毛の男周辺を探りレイモンドを探しに探した。
最初は赤毛の男が同居人である聖女の従者を通し聖女に頼み込んで教会にレイモンドを匿ってもらっているのかとも思ったのだが、教会を隅々まで探してもレイモンドの姿は見つけられなかった。
しかしそれは赤毛の男の家の中も同様だ。
レイモンドの姿はどこにもない。
ならばレイモンドはどこに身を隠したのか?
そこから先が全く辿れなくて焦燥感だけが込み上げる。
乗合馬車にもレイモンドらしき者の目撃情報はなく、商人に同乗させてもらったのかとも思ったがそちらも当てが外れた。
いくら探ってもこの街を出た形跡は一切見つからなかったのだ。
余りにも見つからないのでつい最悪の状況が頭に浮かんでしまう。
(万が一にでも赤毛の男がレイモンドを見殺しにしていたとしたら……?)
ここまで見事に何も出てこないと、赤毛の男が森で死に体のレイモンドから装備品だけを奪って売り払ったのではないかとの疑念が湧いてくる。
いっそのこと本人を捕まえて尋問してやろうか?
このままレイモンドが見つからなければそれも手かもしれない。
牢に入れてちょっと拷問に掛ければあっさりと詳細を吐くかもしれない。
もし仮に命の恩人だったとするなら後からでも十分な謝罪と礼をしても構わないし、レイモンドが無事でさえあればそれでいい。
だが、見殺しにしたのであれば────。
「……ブルマン」
「は…」
「すまないが、赤毛の男から直接レイモンドの行方を聞き出してはくれないか?」
「方法は?」
「まずは優しく聞いてやれ。それで知らぬ存ぜぬと言うならば身体に聞けばいい」
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