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7.聞いたこともないポーション Side.レイモンド
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朝起きてすぐにふと思い立ち、髪を切ろうとナイフを手に持った。
これからの事を考えるとやはり全く外に出ないという選択肢はないだろう。
けれどこのままだと自分を助けてくれたジェイドに迷惑がかかるだけだ。
それならどうすればいいか?
外に出られるように印象を変えてしまえばいい。
長い髪をバッサリ切ってしまえば一先ず印象が変わるんじゃないか?そう思い立ち、一息にザクッと切ったのだがそのタイミングでドアがノックされたので思わず慌てたような返事になってしまった。
そのせいで何か勘違いさせてしまったのか扉の向こうから何とも言えない空気を感じて、慌ててすぐさま扉を開ける。
間違ってもジェイドに疚しいことをしていたと勘違いされたくなかったからだ。
だから部屋を出てすぐにジェイドの顔を確認した。
うん。今日も隙なくイケメンだ。
顔立ちは凛々しく清潔感溢れる佇まいをしているので余計にそう見えてしまうのかもしれない。
そんな本人は、すぐに俺が髪を切ったということに気がついてくれて、言ってくれたら自分がやったのにとまで言ってくれる。
そして本当にササッと手早く綺麗に短く切りそろえてくれて、その間に冷めてしまった朝食もすぐに温め直して出してくれたので素直にお礼を言った。
ジェイドは見た目も魅力的だが、器用に何でもこなすし本当に凄いと思う。
料理上手だし、気も利くし、優しくて顔もいいからきっとモテるだろう。
(恋人とかもいるのかな?)
もしいないなら自分が立候補したい。年下は嫌いだろうか?
けれど今のこの状況だとやはり何がどう転ぶかわからないから危険だし、確実に兄達が俺は死んだのだと思い込んでくれるまでは念には念を入れておかなければならない。
だから今は付き合ってくれとは冗談でも言えそうにはなかった。
そんな悩める俺に、ジェイドは思いもよらないアイテムを差し出してくる。
「これ、俺が作ったイメチェンポーション。髪型とか体型は変えられないんだけど、髪色と瞳の色、肌の色とかは10時間ほど変える事ができるポーションなんだ」
「……え?」
取り敢えず危険人物から身を隠したいということだけ伝えた俺に渡されたのは、そんな初めて聞くようなもので、正直信じられなかった。
そんなポーションは城でも一切聞いたことはなかったからだ。
一般に出回っているポーションとは明らかに毛色が違いすぎる。
もしこれがジェイド以外から手渡されたものだったなら、絶対に信じなかっただろうし、試そうとも思わなかったはずだ。
それくらいおかしなポーションだった。
けれどもし…その話が本当だったとするなら────?
そんな思いから俺はゴクリと唾を呑み込み、ジェイドに言われた通り髪色と瞳の色を現在とは全く違う色合いで想像しながら思い切ってそのポーションを飲み干した。
最初に口に広がったのは仄かに甘いマスカットのような風味。その後にはミントのような清涼感。
そしてそんな風味を味わっているうちに見た目に変化が起こっていたようで、俺はジェイドから手渡された手鏡を手に呆然としてしまった。
遠目にも目立ってしまう金髪は目立たない赤銅色に。王族に多い深緑の瞳は一般的なブラウンに。
「すごい…。本当に変わってる……」
思わずまだ自分は寝ているんじゃなかろうかとぺちぺちと頬を叩いて確認してしまったほど、信じられないことだった。
髪を短く切った上でのこの変化はまさにイメチェンポーションの名に恥じない変化で、これなら冒険者として外に出ても問題はなさそうだし、兄達には絶対に気づかれないだろうという自信が持てた。
その後、ジェイドの年が俺よりも二つ上の20才だと判明したり、実は聖女の従者の仕事をしていることなど色々話してもらえたのでジェイドのことが分かって嬉しかった。
その際、同い年と偽ったのはどうか許してもらいたい。
いつか全部話せる日が来たら素直に謝ろうと思う。
ついでに聖女には内緒でこのイメチェンポーションはじめ他にもいくつかポーションを売り出そうと思っているという話も聞いた。
ジェイドは本当に多才だ。
どれもこれも初めて聞くものばかりで、本気で驚いてしまう。
そしてどうやら聖女の従者という仕事は給料が少ないらしいということも分かった。
やはり慈悲の聖女は清貧を心掛けているから従者の給料も少なくなってしまうのだろうか?
わからないでもないが、それで生活が苦しくなってジェイドが副業を考えるほど困窮するなら大問題だ。
居候として養ってもらっている身からすると心苦しい限りだし、何とか手助けしてやりたい。
それならそれでやっぱり早めにこちらも働いて家にお金を入れた方がいいだろうと思い、ジェイドを見送った後預かった鍵できちんと戸締りをしてから外へと出てみた。
向かうのは当然冒険者ギルドだ。
まずはそこに登録し、少しずつ依頼をこなして金を稼ごう。
幸い装備は奴らには奪われなかったからそのままだし、ついでにこれを売って別の装備に買い替えよう。
衣服もマジックバッグには一着しか入れていなかったから少し買い足しておかなければならない。
外に出られたお陰でやるべきことがすぐさま決まっていく。
本当にジェイドには感謝しかなかった。
(待っていてくれ、ジェイド)
この恩は絶対に返すし、ジェイドの夢のためにも少しでも早く家にお金を入れるからと俺は前向きな気持ちで街を闊歩する。
そしてやってきた冒険者ギルドで俺はギルドカードを手に入れ、Fランク冒険者としてスタートを切った。
ここから徐々にランクを上げていけば収入だって増えていく。
最初は微々たるものでもここは特定ダンジョンの森がすぐ近くにあるから五時以降に森へ入って魔物を倒して素材を手に入れ、それを売却することで利を得ることだってできるし何の問題もない。
そう思ったところで、「あ…」と思った。
ジェイドはこのポーションの効果は10時間だと言っていたはず────。
「しまったな」
うっかりしていたが、夕方にダンジョンへ出かけると下手をすると帰りにはポーションの効果が切れてしまうことになりかねない。
もし万が一兄達の手の者が本当に死んだのかを確認しにやってきてしまったら鉢合わせてしまう可能性が出てくる。
それなら今日はダンジョンに行くのを諦めて、おとなしく昼間に薬草摘みに行くほうが無難だと溜息を吐く。
(明日からは飲む時間を考えるか……)
それにこんなレアなポーションをタダでもらい続けるのも気が引けるから、ポーション代だってちゃんと払いたい。
気ばかりが急くが、ちょっと落ち着いて色々動こうと思い直し、一先ず装備を整えるために武器防具店へと向かい現在の装備一式を買い取ってもらって、その金で新しい装備一式を購入した。
城でもらった装備はそれなりに良いものだったので、割といい装備に買い替えられたのが嬉しい。
自分からすればあれは裏切られた時に着けていた装備だし、愛着なんてものは一切ない。
今日からはこの新しい装備で心機一転頑張っていこうと、俺は清々しい気持ちで店を出たのだった。
これからの事を考えるとやはり全く外に出ないという選択肢はないだろう。
けれどこのままだと自分を助けてくれたジェイドに迷惑がかかるだけだ。
それならどうすればいいか?
外に出られるように印象を変えてしまえばいい。
長い髪をバッサリ切ってしまえば一先ず印象が変わるんじゃないか?そう思い立ち、一息にザクッと切ったのだがそのタイミングでドアがノックされたので思わず慌てたような返事になってしまった。
そのせいで何か勘違いさせてしまったのか扉の向こうから何とも言えない空気を感じて、慌ててすぐさま扉を開ける。
間違ってもジェイドに疚しいことをしていたと勘違いされたくなかったからだ。
だから部屋を出てすぐにジェイドの顔を確認した。
うん。今日も隙なくイケメンだ。
顔立ちは凛々しく清潔感溢れる佇まいをしているので余計にそう見えてしまうのかもしれない。
そんな本人は、すぐに俺が髪を切ったということに気がついてくれて、言ってくれたら自分がやったのにとまで言ってくれる。
そして本当にササッと手早く綺麗に短く切りそろえてくれて、その間に冷めてしまった朝食もすぐに温め直して出してくれたので素直にお礼を言った。
ジェイドは見た目も魅力的だが、器用に何でもこなすし本当に凄いと思う。
料理上手だし、気も利くし、優しくて顔もいいからきっとモテるだろう。
(恋人とかもいるのかな?)
もしいないなら自分が立候補したい。年下は嫌いだろうか?
けれど今のこの状況だとやはり何がどう転ぶかわからないから危険だし、確実に兄達が俺は死んだのだと思い込んでくれるまでは念には念を入れておかなければならない。
だから今は付き合ってくれとは冗談でも言えそうにはなかった。
そんな悩める俺に、ジェイドは思いもよらないアイテムを差し出してくる。
「これ、俺が作ったイメチェンポーション。髪型とか体型は変えられないんだけど、髪色と瞳の色、肌の色とかは10時間ほど変える事ができるポーションなんだ」
「……え?」
取り敢えず危険人物から身を隠したいということだけ伝えた俺に渡されたのは、そんな初めて聞くようなもので、正直信じられなかった。
そんなポーションは城でも一切聞いたことはなかったからだ。
一般に出回っているポーションとは明らかに毛色が違いすぎる。
もしこれがジェイド以外から手渡されたものだったなら、絶対に信じなかっただろうし、試そうとも思わなかったはずだ。
それくらいおかしなポーションだった。
けれどもし…その話が本当だったとするなら────?
そんな思いから俺はゴクリと唾を呑み込み、ジェイドに言われた通り髪色と瞳の色を現在とは全く違う色合いで想像しながら思い切ってそのポーションを飲み干した。
最初に口に広がったのは仄かに甘いマスカットのような風味。その後にはミントのような清涼感。
そしてそんな風味を味わっているうちに見た目に変化が起こっていたようで、俺はジェイドから手渡された手鏡を手に呆然としてしまった。
遠目にも目立ってしまう金髪は目立たない赤銅色に。王族に多い深緑の瞳は一般的なブラウンに。
「すごい…。本当に変わってる……」
思わずまだ自分は寝ているんじゃなかろうかとぺちぺちと頬を叩いて確認してしまったほど、信じられないことだった。
髪を短く切った上でのこの変化はまさにイメチェンポーションの名に恥じない変化で、これなら冒険者として外に出ても問題はなさそうだし、兄達には絶対に気づかれないだろうという自信が持てた。
その後、ジェイドの年が俺よりも二つ上の20才だと判明したり、実は聖女の従者の仕事をしていることなど色々話してもらえたのでジェイドのことが分かって嬉しかった。
その際、同い年と偽ったのはどうか許してもらいたい。
いつか全部話せる日が来たら素直に謝ろうと思う。
ついでに聖女には内緒でこのイメチェンポーションはじめ他にもいくつかポーションを売り出そうと思っているという話も聞いた。
ジェイドは本当に多才だ。
どれもこれも初めて聞くものばかりで、本気で驚いてしまう。
そしてどうやら聖女の従者という仕事は給料が少ないらしいということも分かった。
やはり慈悲の聖女は清貧を心掛けているから従者の給料も少なくなってしまうのだろうか?
わからないでもないが、それで生活が苦しくなってジェイドが副業を考えるほど困窮するなら大問題だ。
居候として養ってもらっている身からすると心苦しい限りだし、何とか手助けしてやりたい。
それならそれでやっぱり早めにこちらも働いて家にお金を入れた方がいいだろうと思い、ジェイドを見送った後預かった鍵できちんと戸締りをしてから外へと出てみた。
向かうのは当然冒険者ギルドだ。
まずはそこに登録し、少しずつ依頼をこなして金を稼ごう。
幸い装備は奴らには奪われなかったからそのままだし、ついでにこれを売って別の装備に買い替えよう。
衣服もマジックバッグには一着しか入れていなかったから少し買い足しておかなければならない。
外に出られたお陰でやるべきことがすぐさま決まっていく。
本当にジェイドには感謝しかなかった。
(待っていてくれ、ジェイド)
この恩は絶対に返すし、ジェイドの夢のためにも少しでも早く家にお金を入れるからと俺は前向きな気持ちで街を闊歩する。
そしてやってきた冒険者ギルドで俺はギルドカードを手に入れ、Fランク冒険者としてスタートを切った。
ここから徐々にランクを上げていけば収入だって増えていく。
最初は微々たるものでもここは特定ダンジョンの森がすぐ近くにあるから五時以降に森へ入って魔物を倒して素材を手に入れ、それを売却することで利を得ることだってできるし何の問題もない。
そう思ったところで、「あ…」と思った。
ジェイドはこのポーションの効果は10時間だと言っていたはず────。
「しまったな」
うっかりしていたが、夕方にダンジョンへ出かけると下手をすると帰りにはポーションの効果が切れてしまうことになりかねない。
もし万が一兄達の手の者が本当に死んだのかを確認しにやってきてしまったら鉢合わせてしまう可能性が出てくる。
それなら今日はダンジョンに行くのを諦めて、おとなしく昼間に薬草摘みに行くほうが無難だと溜息を吐く。
(明日からは飲む時間を考えるか……)
それにこんなレアなポーションをタダでもらい続けるのも気が引けるから、ポーション代だってちゃんと払いたい。
気ばかりが急くが、ちょっと落ち着いて色々動こうと思い直し、一先ず装備を整えるために武器防具店へと向かい現在の装備一式を買い取ってもらって、その金で新しい装備一式を購入した。
城でもらった装備はそれなりに良いものだったので、割といい装備に買い替えられたのが嬉しい。
自分からすればあれは裏切られた時に着けていた装備だし、愛着なんてものは一切ない。
今日からはこの新しい装備で心機一転頑張っていこうと、俺は清々しい気持ちで店を出たのだった。
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