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5.イメチェンポーション

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レイに一通り家のことをレクチャーし、シャワーも浴びてもらって、なんとかベッドで寝てもらうこともできた。
この家にベッドは一つしかないのだけど、自分より身長が高いレイをソファでなんて寝かせられないと押し切って、そちらへと追いやったのが今しがただ。
俺はたまに疲れ切った時はそのままソファで寝ることも多いし、別に全く気にしなかったんだけど、レイは物凄く申し訳なさそうにしていたのが印象的だった。

「さて…と。やりますか」

それはさておき俺の今日のやるべきことはまだ終わっていないのだ。
もうだいぶ夜も遅くなってしまったけど、これから売り物のポーションを作らなければならない。

「下級ポーション、中級ポーションあたりはやっぱり売れ筋だから一応作っておかないとな…」

効果が高い上級ポーションも作れるけど、こちらは大怪我した時────それこそレイのように大怪我をした時くらいしか使ったりはしない。
だから売り物にする気はあまりなかった。
そもそも下級ポーションと中級ポーションも市場には溢れかえっているので、これだけだと大した売り上げには繋がらない。
他の毒消しポーションやらの状態異常回復系のポーションも、爆撃系などの攻撃系ポーションなども同様に市場では互いにしのぎを削り合っていて、そこに新参者が加わっても大して売れないというのが実情だ。
だから俺としてはそれ以外の一般受けする類のポーションの方を充実させて売っていきたいと思っている。

「美肌ポーションにイメチェンポーション、増毛ポーションに、視力特化で老眼回復ポーション。うん。このあたりなら老若男女喜んでもらえるんじゃないかな」

女性は肌の調子を整えたいものだしこれは手荒れにも効く。男性は薄毛になったら悩むものだし、若者はイメージチェンジして遊びたいだろう。年がいったら今度は視力で悩むことも増えるし、絶対に需要はある。
そういった色々な悩みに対応したポーションはきっとあったらあっただけ売れるはずだ。
下級や中級のポーションも便乗商法で「ついでに常備薬的に如何ですか?」と勧めたら多分売れるだろう。

「あ、ついでに虫歯治療ポーションも作っとこうっと」

これは昔『え?!ないの?!』と思った覚えがある。
歯が痛くて痛くてたまらなかった時に下級ポーションを飲んだけど治らなくて、その後祖父が中級ポーションを買ってきてくれて何とか治ったのは良いけれど、今ならそれがどれだけ勿体ないかがよくわかる。
確かに虫歯は中級ポーションで治るんだけど、もっと別の薬草を抽出して調合したら虫歯に特化したポーションが作れたのだ。
口に含んでくちゅくちゅとうがいしたら完治!超簡単。
これは中級ポーションよりも格安で作れるし便利だから、是非作っておきたい逸品だった。

ちなみにこれらのポーション類は俺のオリジナルだ。
俺の『こんなの欲しい!』という願望や『こんなのあったら便利だよな』という思いから趣味で作ったものばかりなので特にレシピが出回っているわけじゃなく、魔法薬として売り出されているものの中でも同じような品は今のところ一度も見掛けたことはない。
精々普通の薬師の店で手荒れの薬や女性向けの化粧品らしきもの、目薬などを見掛けるくらいだろうか?
とは言え効果は全く異なるものだし、どう考えても魔法薬の方が優秀だ。
薬効効果がすぐに表れるところが魔法薬の強みだし、余程値段設定を高くしすぎなければ売れると思う。

魔法薬師二級の資格を取るのに色々薬草の勉強をした際にそれらを作るのは可能かどうか自分なりに研究して作ったんだけど、性に合っていたのか結構簡単に作れた。
今のところ全部自分で試したり知り合いに試してもらったりして問題のなかったものばかりなので、売り出しても問題はないだろう。
ちなみに試してもらった知り合いは教会や孤児院の人達が主だ。

虫歯が痛くて我慢しながら子供達に接して凄い怖い笑顔になっていた院長。
水仕事で手荒れが酷かった食堂のおばさん。
肌の手入れがなかなかできなくて白粉が浮いて困ると溢していたシスター。
薄毛に悩んでいつも自信なくぼそぼそと子供達に読み書き計算を教えていた司祭様。
同じく老眼が進んで聖書の小さい字を見るのが辛いと溢していた司教様。
皆に「お試しで悪いけど、良かったら使ってみて」と渡したら早速その場で使ってもらえて、症状が改善されて物凄く喜ばれた。
ちなみにイメチェンポーションは髪の色を変えたり目の色を変えたりするのに俺が試しに何度か使ってみた。
髪型や体型を変えるのはできないけど、髪色と目の色、あとは肌の色なんかは変える事ができるし、持続時間も10時間ほどあるのでちょっと遠出のお出掛けにも便利。

そんなこんなで俺は一通りのポーション類を調合し、それぞれラベルを貼った小瓶に詰めていった。
取り敢えずは各30本ずつ。プラスで試供品も。
需要がありそうだったらまた作ればいいし、なかったらなかったで余った品はストックで置いておけばいい。
問題はどこで売るかなんだけど……。

「ふぁ~あ…。流石に今日は眠いし、どこで売るかは明日こっそり司祭様か司教様にでも相談してみようかな…」

一番良いのは教会に置いてもらえることだけど、それは高望みしすぎだろうか?
どうせ毎日教会には行くのだし、聖女のところに顔を出す前に相談すればいいかと思いながら俺はもそもそとソファに横になって、そのまま眠りへと落ちていった。




翌朝、俺は早速いつもより早く支度をして朝食を作る。
今日はフレッシュサラダと目玉焼きとハッシュドポテトといった、いかにもな朝食メニューだ。
昨日はキノコオムレツだったから目玉焼きにしたんだけど、毎日卵だと飽きるから明日はサンドイッチの予定。
塩コショウを振ってハーブと一緒に焼き上げたチキンをフレッシュな野菜と一緒にサンドするのが俺のお気に入りだから、今日は買い物して帰るのを忘れないようにしないと…。
確か今日の聖女の予定には遅くなるようなものは入っていなかったはず。
そんなことを考えながら俺はトントンと軽く寝室のドアをノックした。

「レイ?起きてる?朝食ができたんだけど」
「あっ、ああ!すぐ行く!」

そのちょっと焦った声にもしかして邪魔しちゃったかなと気まずくなる。
朝の生理現象の処理中だったら申し訳なさすぎる……。
でも部屋から出てきたレイを見て、俺は思わず目を丸くしてしまった。

「あれ?髪、切った?」

そこには長かった髪をバッサリ切って短くしたレイの姿が。
しかも自分で切ったせいか後ろの方はかなりぼさぼさだ。

「言ってくれたら俺が切ったのに」

流石にこれでは折角のイケメンも台無しだとそう口にすると、レイは困ったような顔で実はと話し始めた。
曰く、森で誰に刺されたのかわからないから、このままでは怖くて街を歩けない。だからイメチェンしようと思って髪を切った────とのこと。

「なんだ。それならちょうどいいのがあるから後で渡すな」

レイの言い分もよくわかるし、そういうことなら昨日のイメチェンポーションがきっと役に立つだろう。

「取り敢えず、髪整えよう?」

そして俺はササッとレイの髪を綺麗に散髪し直し、温め直した朝食を食べてから一つの小瓶をレイへと手渡した。

「これ、俺が作ったイメチェンポーション。髪型とか体型は変えられないんだけど、髪色と瞳の色、肌の色とかは10時間ほど変える事ができるポーションなんだ」
「……え?」
「あ、俺も何回か試したけど、副作用とかは特にないからその点は安心して大丈夫。なりたい髪色とか瞳の色をイメージして飲むだけでいいからもしよかったら使ってみてくれ」

軽い感じでそう勧めると、レイはどこか疑わし気にそのポーションを見つめていたが、やがてゴクリと唾を呑み込んでそっとその小瓶を手に取ると蓋を開けて一気に飲み干した。
そして暫くするとレイの見た目に変化が現れる。
サラサラの綺麗な金髪は落ち着いた色合いの赤毛に、優し気な深緑の瞳は穏やかな色合いのブラウンに────。

「うん。似合ってる」

そう言って俺はそっとレイに手鏡を差し出した。

「すごい…。本当に変わってる……」

鏡を確認したレイは驚いたようにそれを見て、夢じゃないかと頬をぺちぺちと叩いていたので、俺は思わず笑ってしまう。

「ははっ!気に入った?そう言えばレイっていくつ?それも忘れた?」
「え…?えっと……18、いや20才」

意外や意外。ちょっと子供っぽい反応を見せたから実は年下かと思ったのに同い年だった。

「なんだ。同い年だったんだ」
「え?ジェイドも20才?」
「うん。そう」

それから俺は出勤までの時間、少しだけレイに自分のことを話した。
聖女の従者をやってること。
給料が少ないから昨日作ったポーションを使って副業を始めたいこと。
将来の夢は魔法薬師一級を取ってがっぽり稼いでお金持ちになる事などなど。
そんな話をレイはどこか眩しそうに見ながらもバカにすることなくちゃんと聞いてくれていた。
こう言うところは好ましいなと思いつつ、そろそろ時間になったので俺は家を出る準備をする。

「じゃあ俺、仕事に行ってくる。もし出る時はこっちのスペアの鍵使ってくれていいから」

そう言って昨日は渡していなかったスペアの鍵をレイへと渡すと、レイはそれを受け取った後でいってらっしゃいと言って笑顔で見送ってくれた。
俺はそれが妙に嬉しくて、そう言えばじいちゃんが亡くなってからはこうして見送られることもなかったな~なんて思ったのだった。
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