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10.※家族への挨拶

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翌朝。正直言って俺は死んでいた。
休日で良かったとこれほど思ったことはない。
信じられない。絶倫過ぎる。
昨日は夕飯を予め食べていて正解だった。
これまで王子は手加減してくれていたのだと初めて知った。

早朝目を覚ますと王子もその気配で起きたのか『おはよう』と笑顔で言ってきて、誰に教えてもらったのかは知らないが『聞いた話だが、精液をそのままにしておくと腹を下すらしいな。気が利かなくてすまなかった』と謝られた。
ここまではいい。
でもその後がダメだった。

『これで掻き出すといいと教えてもらったから、後始末は任せろ』

そう言って笑顔で王子が手にした物は、サイズは小さいものの、玉が沢山連なったような長い道具。
初めて見たけど、これはもしかしてもしかしなくても大人の玩具というやつではないだろうか?
それを特に気にした様子もなく『これでいいのか?』と俺の尻穴に入れてくる王子。

(もしかして王子も誰かに騙されてないか?!)

だってどう見ても掻き出すという以外の用途があるとは一切思っていなさそうだったんだ。

そんな疑惑に俺が慄いているうちに、王子はそれを使って中に出された白濁を掻き出し始めたのだけど、これがまたなんとも言えない感覚で意図せず喘ぐ羽目に。

「あぁっ!これ、ダメッ…あっ!やっ!」
「ジェレミー…後始末でそんなに可愛い声で啼かないでくれ。それにそんな…誘うように腰までフリフリされたら、またしたくなるだろう?」

困ったようにそう言われても、微妙に物足りないのに凹凸が擦れて気持ち良くて声が我慢できなかったんだから仕方がないと思う。
結局そこからまた抱かれ、後始末のやり直しまできっちりされてしまった。最悪だ。
こんなので感じて、淫乱とかいうのになったら困るじゃないか!

(酷い!誰だ?!王子にあんな物を渡したのは?!)

絶対に面白がって渡した気がする。
犯人は生徒会の誰かだろう。

(書記のあいつか?!)

一番怪しい。
俺は断固として抗議したいと思う。
許せん!

そして昼まで休んで昼食を食べてから、俺はガイナー王子と一緒に俺の実家であるアクオス公爵家へと帰った。




「ガイナー王子。ようこそアクオス公爵家へ」

予め連絡を午前中に入れていたため『お待ちしておりました』とにこやかにガイナー王子を出迎える両親と妹。
俺としては非常に居た堪れない気持ちでいっぱいだった。
俺の今の気分は妹の婚約者を寝取った男と言ったところか。
複雑極まりない。
これじゃああの女の事を言えないではないか。

「ガイナー王子。学園でのお兄様のお話を聞かせていただけないでしょうか?お手紙もあまり下さらなくて」

妹のリリベルがそんなことをガイナー王子に言ってくるが、ガイナー王子に聞いても無駄だぞと言いたくなる。
だって親しく(?)しているのなんてここひと月以内の話なのだから。

そしてゆったりとソファで寛ぎながら茶を飲み、皆で和やかに過ごす時間が訪れた。
皆王子には好意的だ。
妹の婚約者なんだから当然と言えば当然なのかもしれない。
俺はそんな中、父にどう話を切り出そうかと悩んでいた。
母や妹が知っているとは思えないし、こっそりどこかに呼び出して話すべきかと悩んでいたのだけれど……。

「そう言えばガイナー王子。結婚式はリリベルとジェレミーの両方と同時に挙げる形でお考えですか?」
「…………え?」

驚く俺とは対照的にガイナー王子の表情がパッと嬉しそうに輝いた。

「可能か?」
「ええ。そういう条件の上でのリリベルとの結婚ですからな。当然ジェレミーにも婚礼衣装をと考えてはいるのですが、両陛下のご意向などもあるでしょうし、もしよろしければその辺りのお話もまたゆっくりできればと考えております」
「流石は公爵。その心配りに心から感謝する」

そんな会話を聞きながら母も妹もニコニコしているが、これは……いいんだろうか?

「うふふ。お兄様ったら驚いていらっしゃいますわね」
「リリベル…」
「私のことをご心配くださっているのでしょうけれど、私は大好きなお兄様と一緒にガイナー王子に嫁げてとても心強いですわ」
「え?」
「だって王子がお好きになった方がご令嬢だった場合、婚約は破棄。若しくは第二妃として迎えることになっていたでしょう?その場合色々ややこしい事態が想定されましたもの。その点お兄様なら何も問題はございません。男性ですし、煩わしい問題とは無縁になるので、寧ろ大歓迎ですわ!」

(……そういうものなのか?)

俄かには信じられなくて、思わず妹に懐疑的な眼差しを向けてしまう。

「それにお兄様のご婚約者候補だったお三方が公爵家に嫁いで来られていたら、どの方がお相手でも私が実家に帰る際に肩身の狭い思いをしたと思いますし…」
「そうよ。だって三人ともジェレミーのことを独り占めしたがって、妹であるリリベルをよく睨んでいたもの。絶対に殺伐とした光景になっていたと思うわ」
「えっ?!」

それは知らなかった。
普通に月に一度の茶会で会ってはいたけれど、彼女達はいつも俺をそっちのけにして三人でよくわからない話をしていた。
そんな彼女達はいつの間にリリベルを睨んでいたんだろう?
母も訳知り顔でそんなことを言ったと言うことは、誰が見てもわかる状況だったんだろうか。

「彼女達から兄妹揃って嫌われていたなんて、知らなかったな」

思わずそう呟いたら母と妹は『わかっていない上に鈍いですわ』と溜め息を吐いていたけれど、ガイナー王子が満面の笑みで俺を抱き寄せて『俺はそんな女達より遥かにジェレミーのことが大好きだぞ。愛しているジェレミー』と言ってきた。
家族の前でそんな事を言うなんて恥ずかし過ぎる。やめてほしい。

そんな俺達を見てリリベルが頬を染めながら微笑ましげに言葉を紡いできたのだけど……。

「お兄様もご存知の通り、ガイナー王子は優しくて温和なお方ですから、きっと三人でも上手くやっていけると思いますわ」

(温和?誰が?)

優しいところがあるのは認めるけれど、お仕置きで酷い目に合わされたのは昨日の今日でまだまだ記憶に新しい。
王子は多分リリベルが思っているような性格ではないと思う。

けれどここでツッコミを入れるのはリリベルの夢を壊すことにも繋がってしまうし、下手をしたらまたお仕置きコース一直線だ。
ここはスルーが一番だろうと考えて別方面に話を振ることに。

「リリベル。本当に無理はしていないか?俺はお前は王子妃として王宮で暮らしたいんだとばかり思っていたし、公爵家を継ぐのは完全に想定外だっただろう?」

公爵家を継ぐならそっちの夢は諦めることになるんじゃないかと口にしたら、それは大丈夫だと父が言ってきた。

「ガイナー王子。リリベルの扱いはどうなりますかな?」
「ああ。リリベルは第二王子妃になることに変わりはない。兄に子が産まれてある程度成長してから俺が継承権を放棄して公爵家に移る形にしようと考えているし、それまでは王子妃として王宮で暮らしても問題はない。仕事の内容によっては引き続きそちらに部屋を置いておくことも可能だと思うが、それでどうだろう?」
「それで結構ですわ」

リリベルは王宮での仕事が今から楽しみだと顔を輝かせている。

「私、元々王子の寵愛が欲しくて王子妃になりたかったわけではありませんの。それよりも王子妃の仕事を通して女性の地位向上を訴えたくて、王子との婚約をお父様にお願いしたのです」
「ほぉ?」
「やはり法の改正や内部体制の改革、人事改革なども含めて考えると地位が高いに越したことはありませんから。短い期間でどれくらい実力を示せるかはわかりませんが、是非是非挑戦させていただきたいですわ!」
「なるほど。では子作りはゆっくりで良さそうだな」
「そうですわね。なので正直結婚後もお兄様に暫くは夜のお相手は丸投げしたいところですの」
「ぐぅっ…」

夢を語り王子と仲良く話すのはいいが、いくらなんでも赤裸々過ぎる。

「まあそうは言いましても結婚後三年も子ができなければ問題だと思いますし、ええと…来年から三年で卒業、そこから結婚して三年。つまり六年ほど、王子のお相手をおひとりで頑張ってくださいませ!」
「ろ…六年……?」

具体的に言われるとだいぶ衝撃的だ。
この絶倫王子に付き合って六年…。
正直身体は持つんだろうか?

「私は子を産んだ後も活動は積極的に続けようと思っていますし、公爵家のお仕事は王子とお兄様に全てお任せしますわ!仲良く領地運営に励んでくださいませ」

しかもそんな事までさも当然のように言ってくる。
どうやらリリベルは本気でガイナー王子とのことは二の次らしい。
結果的に良かったのかもしれないけれど、物凄く複雑だ。
本当に王子からの愛情などはいらないのだろうか?
王子も全く気にした様子がないし、正直俺も困ってしまう。

「実に良い提案だな。有難くその案に乗っからせてもらおうか」
「はい!では王子。一先ずお先にお兄様のこと、よろしくお願いいたしますね」
「ああ。任せておいてくれ。必ず幸せにすると誓おう」

しかもなんだか流れ的に俺はそのまま王子と結婚する流れになっていないだろうか?

「お兄様。卒業後は王太子殿下の側近として働くのですよね?私より一足早くガイナー王子と王宮で新婚生活をお楽しみくださいませ」
「え?!」
「王宮には手紙を出しておこう。もちろん寝室は一つだからな」

それはないと思う。せめて分けて欲しい。
そもそも貴族の同性婚ってなしだったような…。

「あの…ちょっと冷静になって一度落ち着いた方が…」
「何を言う。ジェレミーが俺のものだとアピールするにはこの方法が一番いい。頷いてくれるな?ジェレミー」
「えっ?!その…それは……」
「お兄様。もしかして王子と結婚できないと勘違いなさっておりませんか?法的に第二妃なら可能ですわよ?どうぞ王子の愛を素直に受け取って差し上げて!」
「そうよ、ジェレミー。王子に恥をかかせるようなこと、貴方はしないわよね?」
「ジェレミー。照れているのか?大丈夫。家族は皆お前の幸せを願っているぞ。領地運営の仕事の引き継ぎも私が王宮に出向いて教えてやるから心配するな」
「…………宜しくお願いします」

にこやかに後押ししてくる家族に負けた。
一体いつの間に王子は俺の家族を懐柔したのだろう?
逃げ場がない。

こうして俺はよくわからないまま王子のものになって、日々を送ることになってしまった。




「ジェレミー様!一体どういう事ですの?!」

その後、元婚約者候補の令嬢達が教室で俺を取り囲み、そう問い詰めて来たり。

「ジェレミー様?!ガイナー王子に惚れ薬でも使ったのですか?!そうでなければ、色仕掛けもできないそんな身体でガイナー王子を落とせませんよね?!なんて悪どいことを!犯罪ですよ?!」

何故かクララというあの女が血相を変えて意味不明な事を口にしながら駆け込んで来たり。

「ジェレミー様。婚約がなかったことになったと聞きました。卒業までの三ヶ月、いえ、一週間でもいいので、思い出に是非!僕とお付き合いしてください!」

何故か後輩から多々そんな告白をされてしまった。

それらを都度王子が笑顔で撃退する日々。

「公爵から許可も得てジェレミーは俺のところに来ることになった。俺がこの手でリリベルと一緒に幸せにするから、諦めてくれ」

「惚れ薬?そんな物があるなら俺が真っ先にジェレミーに使いたいな。存在するなら教えてほしいくらいだ」

「残念だがジェレミーはもう俺と付き合っている。分けてやれなくてすまないな。他をあたってくれ」

穏やかに全部綺麗に片付けていく王子。
なのに何かある度に王子との夜は濃厚になっていく。
悪い口は躾けないとと言われ、喉奥でイかせるんだと教え込まれたり、すまたで一緒にイくまでお預けだとか色々無理難題が増えるんだ。
最終的には気持ちよくしてもらえるから別にいいけど、その度に俺がどんどん王子の色に染められていくからやめてほしい。

極め付けには卒業後世話になるからと挨拶に行った王宮で、王太子から笑顔でこう言われた時のこと。

「ジェレミー。ガイナーに手籠めにされたと聞いたが本当か?どうせガイナーのことだ。無理矢理だったんだろう?そんな奴はやめて俺にしないか?男でも第二妃にならなれるだろう?一生俺が大事に可愛がってやるぞ」
「え……」
「ジェレミーは昔からガイナーとは特に親しくしていなかっただろう?それに比べて俺には『チィ兄様、チィ兄様』っていっぱい懐いてくれていたし、そっちの方がいいと思う。是非考えてみてくれ」
「は…はぁ…。光栄です?」

何と答えていいのか分からず、混乱したままサラッと流そうとしたらガイナー王子に鬼の形相で睨まれて、その後散々なお仕置きをされる羽目になった。

「そんなに怒らなくても…。王太子殿下の冗談ですよ、あれは」
「そんな訳があるか!ジェレミーは俺のものだ!一生誰にも渡さない!」

そう言われながら俺は誰のものなのかをとことん身体に教え込まれて、本当に本当に大変だった。
でも散々焦らされながら『悪い奴にはお仕置きだ』と囁かれ、『俺がこんなに愛してるのに兄上の言葉に頷くなんて、本当にけしからん奴だ!』と怒るガイナー王子に『愛されてるな』と実感して胸がときめいたのは内緒だ。

だってどうでもいい相手にならガイナー王子はこんなに怒らないと思うし、笑顔で全く本音を晒さないというのを俺はもう知っているから。
あの女に対する接し方がいい例だと思う。
以前は気づかなかったけど、俺との扱いの差は歴然だ。
疑いようはない。

とは言えあまり夜に激しくされると身がもたないから、程々にしてもらえるようタイミングを見計らって『ちゃんと心を入れ替えてご奉仕するので、許してください』ってしおらしく言ったのに、『そういうところだぞ?!』と真っ赤な顔でまた叱られてしまった。
おかしいな?
どうやら俺の反省は全く信じてもらえないらしい。
もっともっと信じてもらえるように頑張らないと。

王子が俺に執心する気持ちはよくわからないものの、兎に角溺愛されているのだけは確かだし、極たまに見せる可愛い一面も微笑ましく思えているから、俺もまあなんだかんだと好きになっているんだろう。
これからじっくり時間をかけてもっとガイナー王子のことを知っていけたらいいなと思う。

それに、ガイナー王子なら俺の悪いところを都度しっかり教えてくれるし、ちゃんと更生もさせてくれるから安心と言えば安心だ。
そう悪い人生にはならないはず。

そして今日も俺を抱き寄せて愛しげな眼差しを向けてくるガイナー王子に寄り添って、俺はちょっと照れながらもそっとその唇にキスをした。


fin.


****************

※最後までお付き合いくださった皆様、ありがとうございました。

断罪がない分どう締めようかなと考えた時、悪役令嬢や悪役令息が断罪されるシーンを思い浮かべ『身内含めて誰も悪役の味方はしてくれない』『結局王子の意見がまかり通る』というのが頭に浮かびました。
でもそこだけ持ってくると可哀想なので、ちゃんと両思い的にもっていってみました。
ジェレミーの怒りが王子に全く向いていない時点でお察しですね(^^)

王道な話にもかかわらず思いがけず沢山の方に読んでいただけたので嬉しい限りです。
御礼閑話にリリベルサイドのお話を一話書かせていただきました。
ガイナー王子とジェレミーのその後にも少しだけ触れていますので、もしよろしければそちらも是非お付き合いくださいm(_ _)m
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