虹の騎士団物語

舞子坂のぼる

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第10章 旅立ちの塔

第256話 あのとき

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第256話 あのとき
**********
ジャンヌ:騎士団長
フィスト:近衛兵長
サリー:魔法使い
マリン:海の冒険者
ブラド:吸血鬼の姫
ローズ:貴族令嬢
キャッツ:トレジャーハンター
マリア:シスター
リーフ:エルフ
**********

9人の少女は、同じ時に、違う場所で、同じ「あのとき」、半年前のことを思い出していました。

少女たちは9人全員でキューブを手に持ち、見つめ合います。
不安そうな顔をしている者はひとりもいません。
「みんないるから、大丈夫」
見守る者たちには、9人全員がそう思っているように見えました。

ホーク「行くぞ!」

9人の鳥人族が、9人の少女を抱きかかえ、猛スピードで上昇していきました。
ジャンヌを抱えているのは国王のホークです。

マリア「ッ……!」

キャッツ「す、すごい、勢い!」

9人は空気抵抗と加重にあらがうように、必死に片手を前に伸ばしました。
その手には、虹のカケラ、キューブが握られています。
9人の掲げたキューブは、ほぼ同時に天蓋に触れました。
その瞬間、強烈な7色の光を放ちます。

激突の衝撃はほとんどありませんでした。
包み込むような溶け込むような、不思議な感触です。

しかし、キューブと天蓋が触れている個所は、バチバチと弾けるような激しい音と光を放っています。

ローズ「こ、こわいぃぃ!」

マリン「で、でも!行けるかも……!」

ジャンヌ(お願い!みんなでこの星を出るなんて……こんなやり方!やめて!)

キューブを持っている手に、キューブが徐々に削れている感触が伝わってきました。

ジャンヌ(!?ダ、ダメなの……?これだけやっても……これが最後の頼みなのに……)

唐突に、キューブと天蓋の間で生まれていた激しい音と光が、消えました。
そして、透明な天蓋に、亀裂が走ったのです。

フィスト「!?いけるの!?」

リーフ「で、でもまだ、破れてない……」

ホーク「行くぞ!その剣でいい!構えろ!」

ホークの言葉にジャンヌはとっさに大剣を抜き、切っ先を前に向けます。

ホークが旋回し、再び天蓋に向かって飛びます。
天蓋に入った亀裂に向かって。

ホーク「これが最後だ!突っ込むぞ!」

ジャンヌ「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ジャンヌの大剣は、天蓋のヒビに突き立ちました。
そして、亀裂は天蓋全体に広がり、パキィィィィン!と弾けました。

マリン「……や、やった!」

天蓋がなくなり、青空から風が吹き込みました。

『天蓋の重大な破損を確認。射出できません』

声が響きます。

鳥人族に抱えられながら空を見上げる9人の後方から、歓声が沸き起こりました。
喜びの声は途切れることなく続きますが、同時に、全員で脱出を進めました。
鳥人族だけでなく、竜やサンタクロースも加わって、自力で塔から下りられない者を下ろします。

空中都市から飛んできた鳥人の加勢もあり、すべての生き物が塔から出ることができたのは、夕方になったころでした。

長時間の脱出が進められる中、声は定期的に繰り返されていました。

『 天蓋の重大な破損を確認。射出できません 』

~~~~~~~~~

その後、各国の各種族が協力して、ひと月が経つ頃には、すべての住人はそれぞれの国に帰ることができました。

ドワーフたちは、脱出してから、旅立ちの塔についてかなり念入りに調べていたようですが、結局何もわからないと肩を落としていました。
しかしドワーフが持つ技術にすべての人が驚嘆し、何人かのドワーフはそのまま他国へ引き抜かれてしまいました。

マリン「ありがとう。最初に出会ったのが、あなたたちじゃなかったら、どうなってたか」

人々が各国に帰るにあたって、特に大きな働きがあったのは、翼を持つ鳥人族でした。
人も物も、動物たちも。抱えられるものは何でも抱えて飛んでいました。
それについて感謝されるたびに、ホークは煩わしそうな顔をことさらに見せていました。

キャッツ「素直じゃないんだから。ま、気持ちはわかるけどね。こっぱずかしいよね」

森の生き物たちは、土も木も、すべて大森林に戻ることができました。
鳥人族が大森林と塔を、気の遠くなるような回数を往復してくれたのです。
ヌシであるミイは、塔によって切り取られた森の修繕に、すぐに取り掛かりました。

マリア「また会いに行くわ。あなたが見守る、素敵な森を見に」

人魚のアナスタシアと海の生き物が入った水槽は、港から船で運ばれることになりました。
元々いた場所からかなり離れているので、一番近い海に放流すると、生態系が乱れてしまうからです。
アナスタシアと魚たちは、生まれて初めての陸地の旅を楽しみました。

リーフ「今度は普通に泳ぎに行くから、一緒にビーチで遊ぼ!」

砂の国の女王は3人の子どもたちと衛兵を連れて、諸国を漫遊しながら帰ることにしました。
祖国をより豊かに、国民が「この国に生まれてよかった」と思える国にするために、見聞を広めるいい機会だ、ということでした。

ローズ「私もそう思います!本で読むこともいいけど、見て触れて、感じるのは、本じゃできないもの」

夢の国の住人と魔界の住人は、人知れず姿を消していました。
人目につく場所にはそもそもいられないのか、あるいはいるのが嫌だったのか、誰にもわかりません。
ですが、そのことがいっそう、彼らという存在を、人々の心に焼き付けたのです。

フィスト「ま、夢の国の人たちだからね。会おうと思えば、夢の中でも会いに行けるよね!気合で」

ブラド「あんたはほんまに気合で会いに行きそうやわ。まぁ私も、ご先祖様へのお墓参り感覚で行けたら、それでいいしな」

サリーとジャンヌは、ほぼ同時に、自分を送り出してくれた人物へ報告することができました。
ジャンヌは国王様に、サリーは森の魔女に。
二人とも、旅の報告を終えると、最後にこう付け加えました。

「もっとみんなといたいので、旅に出させてください」

そして9人は塔脱出から3か月後、再び王宮の前に集まりました。
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