プライド捨てたら人生変わった

舞子坂のぼる

文字の大きさ
9 / 45

第5話 咲とサクラ 1/2

しおりを挟む
ここまでのお話
 捨てたプライドにつきまとわれる畑中伸一。プライドに加え、捨てたはずの童貞も加わった。
 物捨て神社を訪れたところ今回の騒動には、捨てた側の人間の心理的要因、そしてご神体の不可動石が関わっている可能性が高いことがわかった。一行は、ご神体の様子を確かめに行く。畑中の日常は取り戻されるのか。

**********

ー物捨神社 社務所 1階 応接室
「それじゃあ、案内してもらえますよね?」
「ええ、もちろん。ですが、準備が必要ですね。ご神体が祀られているほこらを開くので、お三人には、お清めをしていただきます」

 サクラが尋ねた。
「触らなくても?」
「ええ、おそらくご神体が見えると思います。見るという行為も、ご神体に触れることになりますので」
(なるほど)
「ふーん」「ご安心ください。すぐに終わりますよ」
 
 さきも加わる。
「そうだ、プラっちとサクラちゃんは今日からここに住むんだから、お清めの後は着替えてね。サクラちゃん、巫女服の着方、教えてあげる」
「やった!ありがとうございます!」

**********

ー社務所 1階 広間
 お清めなるものはごく短時間で終わった。
 れんは、祝詞のりとというやつなのだろうか、何事か唱えていたが、俺たち三人は、さかきで頭をガサガサと撫でられ、酒を一口飲むだけだった。

 それにしても、漣の宮司ぐうじとしての所作は、やはり堂に入っていた。大きな体に太い腕、怖い顔。それなのに、品がある。
 今は広間で男三人、サクラの着替えを待っている。

(早くご神体を見に行きたい)
 俺の焦りをよそに、プライドがのんきに言う。
「女の子の着替えは長いですねえ」

 彼は漣に指導を受けて、手早く着替えを済ませていた。白衣《びゃくえ》に薄いブルーの袴《はかま》。
「お前ほんと、絵になるねえ。その顔で、その身長で」

「ご主人のプライドが高かったからですよ」
「あ、そういうことだな、確かに」

 神社の見習いは出仕しゅっしと呼ばれるらしい。
(巫女の男版とでも思っておけばいいのかな)
 そんなことを考えていると、ふすまの奥から楽しそうな声が聞こえてきた。

「サクラちゃん色白いから似合うよー」
「ほんとですかー?楽しみ。咲姉みたいになるかなー?」

(……咲姉。さっきまで姉弟まとめて『あんたたち』と呼んでいたのに)
「サイズはこれくらいかなー?ちっちゃくて色白で、畑中っちはこういう子が好きなんだねー」
「そのはずなんですけどね、A子さんは全然タイプ違いますよ」

「あ、そっか、畑中っちから出てくる前のことは共有してるんだよね」
「吟味しないで行けそうなところ行っちゃうのも、ご主人様っぽいですけどね。あ、童貞っぽいのか」

「でもさー、さっきプラっちは、『ご主人はA子ちゃんのことを、いいと思ってた』って言ってたじゃん」
「んー、ていうより、年近くて見た目がよっぽど悪くなければ、だいたいの人にはそんなこと思ってるよ、ご主人様は」
(早くしろ。つかやめろ)

「サクラちゃんには悪いけど、やっぱり、畑中っちは、ないわ」
「えー、いい人ですよ?」

「ないない。あ!胸はある!でかーい!」
「やだちょっと!あはは!触らないで!あははははは!もう!咲姉も胸あるじゃん!」

「やだやだほんと触られるの無理だから!やーーーー!」
(早く)

「はーあ、もう、やめてよ。あ、髪も変えるから下ろしといて」
「お願いしまーす。次からは自分でできるようになるんで」

「難しくないよ、後ろでまとめるだけ」
「へー!そうなんですね……あ、ねー!ねー!プライド、そこにいるんでしょ?」

「はい?」
 襖の向こうからの声にプライドが答える。

「なんかさー、ご主人様から童貞の匂いしてるから、ちょっと抜いといて」
「あー畑中っちには生着替え、刺激強すぎたかな?」

「わかりました」
「いっっっっってえええええ!!!」
 プライドが躊躇なく、体に手を突っ込んできた。

「んー、やっぱり本人でないと、どの辺にあるのかわからないですね」
「い、いれたまま……グリグリ……しないで……」

「よっと……終わりましたよ、ご主人……これ!あとでちゃんと食べといてくださいよー!」
「わかってるわよー」


「すごいのできたよー!」
 襖を開けるなり、咲が得意気に言う。

 咲のすぐ後ろから決まりが悪そうに出てきた巫女服のサクラは、別人のようだった。
 ツインテールは後ろでひとまとめにしただけだが、緋色の袴がよく似合う髪型になっている。

(その不安そうな顔はなんだ)
「おおー、かわいい、似合うもんだね」
「ご主人様……」

「僕の方が先に誉めてもらいましたよ」
「ご主人様は優しいからねー、いくらあんたでも、ちょっとは誉めなきゃかわいそうでしょ?」

「誉めてない。感想。サクラのも、感想」
「では、参りましょうか」
(ありがとう漣さん)


 連れだって社務所を出て、小さなほこらを目指す。
 早く確かめたい、という思いから歩調が知らずに上がっていたのか、いつの間にか先頭を歩いていた。
 後方でサクラが咲に話しかける。

「咲姉、ご神体が参道の入口にあるって、珍しくない?」
「そうかもね。ま、神社によってほんとに、いろいろあるから。私もここのこと以外はよく知らないわ」

「咲姉はいつから巫女さんしてたの?」
(すっかり妹気分だ)

「中一からよ。お母さんがしてて、カッコいいなって思ってたから、やらせてもらったの。巫女のお仕事はあとで教えるね。いろいろあるけど、難しくはないわよ」
「ありがとう!」
 
 プライドも加わる。
「そういえば、ご両親はどちらに?」
「海外旅行。半年くらいは戻ってこないみたい。海外神社の勉強って名目で、あちこち行ってるわ」

「ご両親は、咲さんが現れたことに驚きませんでした?」
「ん-、それがねえ」

**********

『おー!咲!ついに化けて出てくれたか!』
『お母さん嬉しいわあ。女の子いないとむさくるしくって』

『どうせならしばらくは成仏するなよ』
『お父さん、ここ神社よ』

『おお、そうだった。まあいい。どうせだから遺影撮りなおしとくか。今のやつ、顔が微妙だぞ』
『また一緒にお買い物行こうね』

『死者が化けて出ると噂になったら参拝客が減るから、車で遠出しなきゃならんな』
『増えるんじゃない?』

**********

「変わってるね」
「そうねー」

(それにしても)
 すぐ後ろを歩く漣の方を向く。

「ご神体を元に戻したとして、こいつらは消えますかね?」
「どうでしょう。可能性はありますが、なんとも」

 同意見だった。そううまく行くとは考えていない。だからこそ、消えてしまうのなら無駄になってしまうはずの着替えをすることに、意義を唱えなかった。
 
 漣が続ける。
「次のことが予想されます。1 プライドさん、サクラさん、姉さんの三人、または少なくとも、畑中さんから出た二人が消える。2 三人に変化はないがこれ以上ほかに増えることはなくなる。3 変化はなく今後も増え続ける」
(そんなとこだろうな)

「でもさー」
 咲が後方から話に加わる。

「ここからずっと離れてるA子ちゃんの部屋で童貞捨てても、サクラちゃんが出てきたのよね。もうご神体は関係ないんじゃない?」
(そうなんだよな)

 地震でご神体が動いて、その夜に『プライドを捨てたい』と思ってそこを通ったことで、プライドが生まれ落ちた。その時点ですでに、この神社との関わりができてしまったのかもしれない。

「そもそも咲さんは8年前に出てきてる……地震の夜とは関係ないわけだから」
(だとしたら、期待うすだな)

 午前の日光が木漏れ日を作る参道に入り、間もなく、全員が祠と向き合った。
 祠は成人男性なら両手で抱えられる程の大きさの箱形で、石を切り出した台の上に乗っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...