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13.西日暮里

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 アヤさんにもらった地図を頼りに歩くと、西日暮里に着いた。
 地図はどうやら、改札横にたたずむコインロッカーを示しているようだ。
 鍵の掛かっていない扉を適当に開いてみると、中に蛙のぬいぐるみが入っていた。蛙の口から伸びた舌には細長く折り畳まれた紙が結ばれており、ほどいて開くと、“正解。あや”とだけ書かれていた。
 何が正解なんだか、と心のうちで呟いてから蛙を引っ張り出す。とりあえず、このかわいくないぬいぐるみをアヤさんに返そうと思った。

 しばらく歩くと、後ろから誰かがついてきていることに気が付いた。細い路地に折れても、ぐるりと同じ道を一周しても、ずっとついてくるので、目的地がいっしょというわけではなさそうだ。
 さっと細い路地を曲がり、影に身を隠して追跡者を待ち構えていると、桃色のひらひらしたワンピースを着た、栗毛のかわいらしい女の子がとてとて走ってきた。
 曲がってすぐのところに隠れていた私と目があっても慌てる様子はなく、そのままじっと見つめ続けてくる。
 目線を合わせるためにしゃがんでから、「何かご用ですか」と聞くと、「かえる、かわいいなと思うて」と、少女はぬいぐるみを指差した。
 このぬいぐるみはたぶんアヤさんのものだ。しかし、鍵を掛けていないコインロッカーに放置する程度なので、然程大切なものでもないのだろう。
「では、差し上げましょう」と言って、少女の小さな手に蛙の腹を乗せる。
「よいのか?」と少女は声を弾ませ、大きな蛙をぎゅっと抱きしめた。
 少女は路地を出て、元来た道を少し戻ってから振り返り、「この恩は必ず」と言い頭を下げ、また歩いていった。

 さてアヤさんにこの顛末をどう話そうか、などと考えながら歩いていたら、向こうから大きな熊が歩いてきた。
 一瞬身構えるも、深々頭を下げて挨拶をする様子から、友好的な熊であることがわかった。熊の顔から下方へと目を移すと、先程の栗毛の少女と手をつないでいた。
「どうも、先程はこの子が結構なものをいただいたと聞きました。ありがとうございます」
 熊は礼儀正しい。少女もぺこりと頭を下げる。
「いえ、てんでつまらないもので、喜んでもらえたなら何よりです」。あまり格式張った場に慣れていない私は、あたふたしてしまう。
「いえいえ、この子がとても喜んでおります。ぜひお礼をさせて下さい」と、熊は厚みのある封筒を私の手にねじ込んでくる。
 私は「いや、本当にたいしたことはしていないので……」と何度も辞退しようとしたが、大人の対応力を見せる熊に押しきられ、結局受け取ってしまった。
 どうしよう。蛙の持ち主のアヤさんに渡すしかないか。と考えながら、とりあえず封筒を開いて中身を確認した。
 折り畳まれた地図が入っていた。
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