巡る。

もちもち

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ユキとハナコ。

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電車の中でも、駅からの道のりでも。ユキとハナコの自宅の最寄り駅である支塚駅に着いても。2人はずっと押し黙ったままだった。

そして、その支塚駅から歩いて10分ほど経った頃。

辺りには段々と大きな家屋が並び始め、閑静な住宅街という言葉がピッタリな場所に変わってきた。ほどなくして周囲の家屋より一際大きく目立つ洋風なお屋敷の前に差し掛かると、ピタっとユキが立ち止まり、そのお屋敷を指差しながらハナコを振り返った。



「うち、ここ。」
「・・・・・・え?!・・・デッカ!ユキってお嬢様??」


「え?!違うし!おばあちゃんがここら辺の地主だから、ちょっと土地があって、少し家が大きいってだけ。」


「へーーー・・・そんなもん?」
「そんなもん、そんなもん。さ、どうぞ。」




ユキに案内されて立派な門をくぐる。玄関に続く通路を歩くと、どこからともなくふんわりとした花の香りが鼻をくすぐる。よく見ると横道の続きに薔薇のアーチがかかっており、さらにその奥に色とりどりの花々が咲き誇っているのが見えた。



「うわ~すごいね。庭。きれい。」

「あー、ママの趣味なんだよね。」
「ガーデニング趣味なの?」

「んー・・・、ちょっと違うかな~。花とかで綺麗になってる庭を見るのが趣味っていうか。土なんか汚がって絶対触らないし、虫なんかいたら発狂するし、手入れなんか一切してなくて。定期的に業者にお願いしてやってもらってるってだけ。」

「あーそうなんだ。でも立派な庭だね。」
「ま、綺麗ではあるよね~。」





そんな話をしながらユキが玄関の鍵を開け中に入ると、そこにはハナコの家の玄関を10個つなぎ合わせたらやっと同じぐらい?という広さの玄関があった。マナーは悪いが、思わずキョロキョロ見回してしまうほど広い。



「広っ!天井高っ!」
「ハナ、足元見ないと転ぶよ。ほらそこ段差。」

「うわっ!あはは、ごめんごめん。」




玄関の先には、これまた長くて立派な廊下。
そこを抜けると、やはりハナコの家なんか軽く入ってしまいそうな広さのリビングが出てきた。



「ユキ!!これ『少し家が大きい』なんてレベルじゃないよっ爆盛りだよ!」

「ぷっアハハッ!ハナ何言ってんのーもー家の話はいいから!はい、そこのソファで待っててくれる?今、ママの卒アル取ってくるから。」


「うん・・・・・・・・うわっソファフッカフカ!・・・・・・・・あー座り心地サイコーーー」

「アハハ、ゆっくりしてて」

「うん・・・オッケーー・・・」





ハナコがソファでダラダラしながら待っていると、5分ほどでユキが卒業アルバムといくつかの冊子を小脇にはさんで、両手に缶ジュースを持って戻ってきた。



「はい。ハナ炭酸飲めたっけ?」

「うん。好き!」


「良かった。で、これがうちのママの小学校の卒アル・・・と、各学年の文集。とりあえず4•5•6年のやつね。」





そう言ってバサーッとテーブルに置いて、早速広げた。



「スゴイね。うちママの卒アルなんてあるんだかないんだか分かんないよ?」


「うーん、うちのおばあちゃんがそういうのキッチリしてる人だから・・・書斎の中に、全部パッととれるように揃えられてるんだ・・・・・・・・・・・っと、いた!横沢リョウコ。これがうちのママで・・・・あ、この人。この山崎カズエってハナコのママ?」





「・・・・・・あーそうかも。昔見せてもらった写真と同じ顔。」



「6年でも同じクラスだったんだね。えーっと、・・・あっハナのママだけじゃないわ。ここ全員いる。飯田ルリ、久保リコ、羽田ミク、山崎カズエ、横沢リョウコ・・・・・・・ふ~ん卒アルに載ってないんだ、原田ユウコ。やっぱり載せなかったのかな・・・・・」






そうブツブツと呟きながら、ユキは、卒業アルバムをテーブルに置いて、次に4年2組と書いてある文集を調べ始めた。



「・・・・・・いた。原田ユウコ。うちのママもハナコのママも、他の3人もいるよ。やっぱり本物みたいだね、あの遺書。」





「・・・・・・ね、ねえユキ?」

「ん?」



「もう止めない?こんなこと調べたって。親のしたことじゃ、あたしらに何もできないんだしさ。あの場所でたまたま遺書なんか見つけちゃったから気にはなっちゃったけど。それだけだよ。相手だってもう死んじゃってるんだし。」








「・・・・・・ハナはアレ見てないからそんなこと言えるんだよ。」

「あれ?」




「さっき!あの部屋で見た女の人!」



「・・・・首吊ってたって人だっけ?」


「ハナには見えなかったんでしょ?」





「・・・・うん・・・ごめん、や、でもそれを疑ってるとかじゃないからね」
「違うの?」




「違うよ・・・・・ユキが・・・とり憑かれちゃったのかと思って・・・・その・・・・・怖くて」

「あー・・・・・・・」

「あの廃団地飛び出てからずっとだし・・・・・その・・・ユキのその見たことない恐い顔・・・・・」






「あ・・・・・・・・ごめん!ハナ!・・・・・・・・・この顔は癖っていうか。」
「・・・癖?」




「うん・・・・・・実はうちのママもおばあちゃんも、あの遺書に書かれてることくらいなら平気でやってそうな人達でさ。ほら武勇伝みたいの散々聞かされたって言ったじゃん?その中にもあの遺書に近い内容とか平気であって。それをさも自分がスゴいんだみたいな顔して話すのを聞くたびに私凄く嫌な気持ちになって・・・無意識にこの顔になっちゃって・・・。ママにも嫌がられるんだけど、どうにもならなくて・・・」




「・・・・・・ぅ・・・親にあんな内容ハシャイで語られたら嫌かもしんない」


「うん・・・・・・・・まあ血が繋がってるからこその近親憎悪的なのもあるとは思うんだけど。今日の遺書のことも・・・・・やられた側があんな風に死んだんだって思ったら・・・・・・ちゃんと知らなきゃって。でなきゃ、この先色んなタイミングでこの原田さんの姿が頭にチラついて、ママやおばあちゃんのこと本当に嫌いになっちゃいそうだなって思って。」





「・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」




「・・・・・・・・そっか。うん、ならなんか納得かも。もーホント怖かったんだからねー!ヤバいユキがとり憑かれた、お祓い行かなきゃとか、ずっと考えてたんだから!」



「あ~・・・・・・・・・いやお祓いは行かなきゃダメかも」
「・・・・・・・え?なんで?」



「首を吊ってたって言ったじゃん?顔パンパンになって赤黒く変色して、目なんか飛び出て首とか倍くらいダラんと伸びちゃってて・・・・絶対死んでる!って思えるのが、動いて、ガリガリの腕を震わせながらこっち伸ばしてきて」


「・・・・・・・・・・」



「で、それが真っ赤に血走った目を見開いて、口を・・・裂けるんじゃないかってぐらいこうグニヤァってさせながら・・・・しわがれた低い声で『ヤットツ・ナガ・・・タ・・・ヤッ・・・トハイレル・・・・・・ニクイ・・・ア・・イツラ・・・・・・ヤット・・・コロセル』って言ってきたから、多分、そのうちママのとことか来る・・・かも・・・。だから、お祓いは行った方がいいかな~って」





「・・・・・・・」


「・・・・・・・」





「・・・・・怖っ」
「・・・・・うん・・・・あれが見えて、声が聞こえたとき、私殺されるって思ったし」





「・・・そりゃ怖いわ。ごめんね、何も聞かずに勝手なこと考えてて。」

「ううん、私も。とにかく逃げなきゃとしか思えなかったし、何も説明できてなかったもん、逆にそう思わせてごめん。」





お互いそう言い合うと、少しだけユキとハナコの表情が和らいだ。






キンコーーーーン・・・・・・キンコーーーーン・・・・・・



「「!!」」








誰かが来たようだった。

しかしユキもハナコも驚き過ぎて動くことができない。





「・・・ユキ?お家の人が帰ってきたんじゃない?」


「・・・・・・パパとママ、知り合いの結婚式があって2日前から北海道行ってて。ついでに旅行もしてくるからって来週まで帰らない。おばあちゃんは夏の間別荘で過ごしてるから、なんかあったらお手伝いさんから電話くるし・・・」









「た・・・宅配便・・・・・・とか?」

「なら再配達頼む・・・。」







ドンドンドンドン・・・・・・ドンドンドンドン!!


「「!!」」



今度は、激しく玄関のドアが叩かれ始めた。

呆然としていたユキが、ハッとしたように立ち上がった。







「・・・・・・え?門は施錠してあるのに何で玄関?中に入ってきたの?」







ユキは廊下に設置されている玄関のモニターのところへ走った。
そこは玄関や門の前の様子が映し出されている。しかし誰の姿も映ってはいない。
なのにドンドンドンドンと玄関のドアは激しく叩かれ続けている。






「セキュリティは何にも反応してない・・・・・・画面にも誰も映ってないのに・・・何で?誰もいないのに誰がドア叩いてるの?!」


「ユキ!落ち着いて!警察・・・警察呼ぼ!警察!ユキ!電話どこ!?」





「で・・・電話ならリビングのあそこに」




ユキはそう答えながら電話があるであろう方向を指差して、そのままその方向を凝視して動きを止めた。そしてガタガタと体を震わせながら後ろにいたハナコにヨロヨロとしがみつく。






「・・・・・・・・や・・・・何?なんで庭に入ってるの?!」
「え!?」






ハナコが見るが、リビングの窓から先に広がる庭には誰もいない。




「ユキ、ユキ?誰もいない、誰もいないよ?」
「いるよ!あそこ・・・・は原田さんが庭の端に立ってるじゃん!!首のロープぶら下げて・・・・ちゃんと見て!」








ユキはハナコにしがみつきながらそう叫ぶ。
ハナコもユキにしがみつきながら、もう一度庭を見るがやはり誰の姿も見えない。明るく綺麗な庭が広がっているだけだ。




「ひ・・・・・こっち来る!ハナ!どうしよう!足動かない・・・!」
「ユキ!大丈夫!窓開いてないから!誰もいないから!」







ハナコは、窓を凝視したまましがみついてくるユキを宥めるように背中をさする。





「や!ハナ!入ってきた!逃げなきゃ!」

「ユキ!危ない!暴れないで!」




ユキが動かない足を引きずって逃げようとバタつく。暴れて転びそうになったユキを必死にハナコが支える。



「や!あっち行って!!なんで?!なんで私なの?!」
「痛!ユキ!暴れないで!誰もいないってば!もう!・・・・・どうすりゃいいのよ!!」





見えない何かに怯えながら、必死に腕をバタバタと振り回してユキはハナコを突き飛ばした。ハナコは、棚の角にゴッ!と鈍い音とともに頭を打ちつけその場に崩れ落ちる。打ちつけた額からは血が流れた。そんなハナコの様子も見えないように、なおもユキは暴れ続けていた。






「・・・ぅ・・・・・・・ユ・・キ」








「いや!!・・・ひ!・・・ぃ・・・・・・離し」










「キ・・・・・・・・・・・ギャアアアアアアアア!!」







1人で暴れていたユキが、突然のけぞると断末魔のような悲鳴を上げて膝から崩れ落ち、そのまま倒れ込んだ。
















「・・・・え?・・・ユ・・・・ユキ?」







返事はない。






「・・・・・ちょ・・・・え?冗談止めてよ、ユキ?・・・・・・・ユキ?!」








立ちあがろうとするとぶつけた頭が酷く痛んだ。それでもふらつきながら立ち上がり、なんとかユキの元へ辿り着き、ユキの肩を掴んで顔を覗く。ユキは目を見開いて口から泡をふき続けている。









「ひ・・・きゅ・・・・・・・・救急車!」





ハナコは、抜けた腰を引きずるように這いつくばりながら、リビングの隅に置かれている電話から119番した。
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