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再臨譚
58、召喚まで残り……
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神道に由来する悪魔を祓う呪文の言霊を付与された呪符で左右を挟まれ、逃げ道を失ったバフォメットの脳天に、護は太一真君感通の言霊を乗せた護身剣を振り下ろした。
縦半分にされたバフォメットは、何をされたかわからず、目を白黒させながら。
「なっ……かっ……」
「悪いな、こいつで終いだ」
悪魔というおよそ生物の範疇に収まる存在ではないため、体を真っ二つにしたところで生命活動が停止するということはない。
いや、そもそも受肉しているかどうかわからないため、生命活動をしているのかどうかも怪しいところだ。
だからこそ、護は念には念を入れて、懐から独鈷を取り出し、倒れているバフォメットの胸に突き立て。
「ナウマクサンマンダ、インドラヤ、ソワカ!」
帝釈天の真言を唱え、雷を呼び出すと、上空から魔法陣の光とはまた違う、白い光が暗雲の間から姿を見せ、轟音が鳴り響いた。
護たちはその音を耳にすると、素早くその場から飛びのき、地面に伏せる。
その行動にコンマ数秒遅れて、バフォメットに突き立てられた独鈷に向かって、白い光の柱がすさまじい衝撃とともに落ちてきた。
衝撃と光が収まり、着地地点に視線を向けたが、そこには黒く焦げた天井以外、何も残されていない。
「跡形もない、か……まぁ、わかってはいたが」
その光景に、光が唖然とした様子でそうつぶやく。
その言葉を否定することは、護たちにはできなかった。
しかし、やるべきことを忘れているというわけではない。
「だが、これで邪魔をされずに魔法陣の消去に取り掛かることができるな」
「あぁ。時間がない、急ごう」
護たちはバフォメットが進めていた『かのお方』の降臨させるための儀式を止めるためにこの場にいる。
バフォメットとの戦闘に時間を取られてしまったため、猶予はほとんど残されていない。
「端末はあったか?」
「まだだ!」
「あった!!」
「でかした! 早く魔法陣の解除を……」
月美の声に光は魔法陣の解除を指示しようとした。
その瞬間、上空に浮かぶ魔法陣が変化を見せる。
魔法陣の中央に描かれた六芒星が消え、その代わりに青白い光が蛍のように漂っている暗い空間が姿を見せた。
「なっ?!」
「間に合わなかったかっ?!」
「いや、まだ姿を見せていない! 今のうちに魔法陣を!!」
魔法陣が起動したとはいえ、『かのお方』が廃我を見せていないことからまだ時間があると判断し、満が魔法陣を起動させている端末に手を伸ばすが。
「緊急停止のためのプログラムがない!」
「なら、端末と本体を破壊するしかないだろ!!」
パソコンの基本的な操作はできるが、プログラムを書き換えるといった専門的な技術を持っているわけではない。
まして、この召喚プログラムは魔法技術と科学技術を合成した、まったく未知の技術だ。
クリックやボタン操作で簡単に停止できるものではなかった。
そのため、光はシンプルでありながら最も確実である手段。
『本体ごと叩き壊す』という選択肢を選んだのだが。
「だったらさっさとぶっ壊す!!」
「端末はこれなんだろうけど、本体ってどこにあるのよ?!」
「端末につながってる配線をたどった先にあるだろ!!」
「あった!」
時間がないという事実が余裕をなくしていたのか、かなり慌ただしく屋上を探し回ることになってしまった。
ようやく、端末と端末につなげられていた配線をたどり、本体を発見したのだが、その瞬間、護たちは今まで感じたことがないほど強い圧力を感じ取り、思わず魔法陣を見上げる。
「なんだ……? この重圧は」
「まさか、近づいてきてるの?」
魔法陣の中央に出現した虚空を見つめ、護と月美が同時に呟く。
すると、二人のその言葉に答えを示すように、虚空に何かの輪郭が姿を現した。
細身の人間が胸の前で腕を十字に重ねているように見えるが、頭と思われる部分とその背後に存在するものが、その輪郭が人間のものではないことを明確に告げている。
頭と思われる部分、両のこめかみからは羊や山羊のような雄々しい角と思われる突起が。
背後には、その輪郭の全身を覆うことができるのではないかと思えるほどの巨大な翼が浮かんでいる。
術者ではない普通の人間がその姿を見れば、天使という言葉が浮かぶことだろう。
「い、急げ!」
「急いで!!」
その輪郭を見た護と月美が同時に光と満を急かす。
「わかっているから、お前たちも手伝ってくれ!」
端末につなげられていた電子機器の本体を見つけだし、引っ張り出してきた光が急かしてくる護たちに文句を飛ばす。
持ち出していた拳銃を逆さに持ち、グリップをたたきつけている光景から、どうやら弾丸は使い切り、霊力も底を尽きてしまっているようだ。
我に返った護と月美は、光と満が行っている解体作業の手伝いへ向かう。
「やっと来たか! 霊力は残っているか?」
「大規模なことはできないぞ?」
「それでも十分だ!」
電子機器は非情に精密な機械で、非常に丁寧に扱わなければならないものだ。
一般家庭で使用できるものであれば、ある程度の埃や衝撃に耐えられるように作られている。
だが、湿気や熱気となれば話は別。
どれほど衝撃や防塵に優れていたとしても、風呂桶にたまった水の中へ放り込まれてしまっては故障は免れない。
「この手の電子機器は、水に浸かってしまえばすぐに故障させることもできるからな!」
「そういうことなら!!」
光と満の意図を察した護は手元に残っていた呪符を取り出し、わずかに残った霊力を込め。
「水気招来、急々如律令!」
言霊を唱えるとともに、呪符を電子機器へと投げつけた。
機械に呪符が触れた瞬間、呪符から水があふれ出る。
一分とせずに機械の周辺は水たまりができ、ハードディスクの読み込みや排熱のために動いていたファンは動きを止め、電源がついていることを示すランプも消えた。
同時に、本体に繋がれていた端末も真っ暗になる。
満が試しにボタンを押してみるが、うんともすんとも言わなくなっていた。
それらが示すことはただ一つ。
「止まった、のか?」
機械が沈黙した、ということだ。
そして、それを裏付けるように、上空に浮かび上がっていた魔法陣も輝きを失い、外周から少しずつ消えていく。
縦半分にされたバフォメットは、何をされたかわからず、目を白黒させながら。
「なっ……かっ……」
「悪いな、こいつで終いだ」
悪魔というおよそ生物の範疇に収まる存在ではないため、体を真っ二つにしたところで生命活動が停止するということはない。
いや、そもそも受肉しているかどうかわからないため、生命活動をしているのかどうかも怪しいところだ。
だからこそ、護は念には念を入れて、懐から独鈷を取り出し、倒れているバフォメットの胸に突き立て。
「ナウマクサンマンダ、インドラヤ、ソワカ!」
帝釈天の真言を唱え、雷を呼び出すと、上空から魔法陣の光とはまた違う、白い光が暗雲の間から姿を見せ、轟音が鳴り響いた。
護たちはその音を耳にすると、素早くその場から飛びのき、地面に伏せる。
その行動にコンマ数秒遅れて、バフォメットに突き立てられた独鈷に向かって、白い光の柱がすさまじい衝撃とともに落ちてきた。
衝撃と光が収まり、着地地点に視線を向けたが、そこには黒く焦げた天井以外、何も残されていない。
「跡形もない、か……まぁ、わかってはいたが」
その光景に、光が唖然とした様子でそうつぶやく。
その言葉を否定することは、護たちにはできなかった。
しかし、やるべきことを忘れているというわけではない。
「だが、これで邪魔をされずに魔法陣の消去に取り掛かることができるな」
「あぁ。時間がない、急ごう」
護たちはバフォメットが進めていた『かのお方』の降臨させるための儀式を止めるためにこの場にいる。
バフォメットとの戦闘に時間を取られてしまったため、猶予はほとんど残されていない。
「端末はあったか?」
「まだだ!」
「あった!!」
「でかした! 早く魔法陣の解除を……」
月美の声に光は魔法陣の解除を指示しようとした。
その瞬間、上空に浮かぶ魔法陣が変化を見せる。
魔法陣の中央に描かれた六芒星が消え、その代わりに青白い光が蛍のように漂っている暗い空間が姿を見せた。
「なっ?!」
「間に合わなかったかっ?!」
「いや、まだ姿を見せていない! 今のうちに魔法陣を!!」
魔法陣が起動したとはいえ、『かのお方』が廃我を見せていないことからまだ時間があると判断し、満が魔法陣を起動させている端末に手を伸ばすが。
「緊急停止のためのプログラムがない!」
「なら、端末と本体を破壊するしかないだろ!!」
パソコンの基本的な操作はできるが、プログラムを書き換えるといった専門的な技術を持っているわけではない。
まして、この召喚プログラムは魔法技術と科学技術を合成した、まったく未知の技術だ。
クリックやボタン操作で簡単に停止できるものではなかった。
そのため、光はシンプルでありながら最も確実である手段。
『本体ごと叩き壊す』という選択肢を選んだのだが。
「だったらさっさとぶっ壊す!!」
「端末はこれなんだろうけど、本体ってどこにあるのよ?!」
「端末につながってる配線をたどった先にあるだろ!!」
「あった!」
時間がないという事実が余裕をなくしていたのか、かなり慌ただしく屋上を探し回ることになってしまった。
ようやく、端末と端末につなげられていた配線をたどり、本体を発見したのだが、その瞬間、護たちは今まで感じたことがないほど強い圧力を感じ取り、思わず魔法陣を見上げる。
「なんだ……? この重圧は」
「まさか、近づいてきてるの?」
魔法陣の中央に出現した虚空を見つめ、護と月美が同時に呟く。
すると、二人のその言葉に答えを示すように、虚空に何かの輪郭が姿を現した。
細身の人間が胸の前で腕を十字に重ねているように見えるが、頭と思われる部分とその背後に存在するものが、その輪郭が人間のものではないことを明確に告げている。
頭と思われる部分、両のこめかみからは羊や山羊のような雄々しい角と思われる突起が。
背後には、その輪郭の全身を覆うことができるのではないかと思えるほどの巨大な翼が浮かんでいる。
術者ではない普通の人間がその姿を見れば、天使という言葉が浮かぶことだろう。
「い、急げ!」
「急いで!!」
その輪郭を見た護と月美が同時に光と満を急かす。
「わかっているから、お前たちも手伝ってくれ!」
端末につなげられていた電子機器の本体を見つけだし、引っ張り出してきた光が急かしてくる護たちに文句を飛ばす。
持ち出していた拳銃を逆さに持ち、グリップをたたきつけている光景から、どうやら弾丸は使い切り、霊力も底を尽きてしまっているようだ。
我に返った護と月美は、光と満が行っている解体作業の手伝いへ向かう。
「やっと来たか! 霊力は残っているか?」
「大規模なことはできないぞ?」
「それでも十分だ!」
電子機器は非情に精密な機械で、非常に丁寧に扱わなければならないものだ。
一般家庭で使用できるものであれば、ある程度の埃や衝撃に耐えられるように作られている。
だが、湿気や熱気となれば話は別。
どれほど衝撃や防塵に優れていたとしても、風呂桶にたまった水の中へ放り込まれてしまっては故障は免れない。
「この手の電子機器は、水に浸かってしまえばすぐに故障させることもできるからな!」
「そういうことなら!!」
光と満の意図を察した護は手元に残っていた呪符を取り出し、わずかに残った霊力を込め。
「水気招来、急々如律令!」
言霊を唱えるとともに、呪符を電子機器へと投げつけた。
機械に呪符が触れた瞬間、呪符から水があふれ出る。
一分とせずに機械の周辺は水たまりができ、ハードディスクの読み込みや排熱のために動いていたファンは動きを止め、電源がついていることを示すランプも消えた。
同時に、本体に繋がれていた端末も真っ暗になる。
満が試しにボタンを押してみるが、うんともすんとも言わなくなっていた。
それらが示すことはただ一つ。
「止まった、のか?」
機械が沈黙した、ということだ。
そして、それを裏付けるように、上空に浮かび上がっていた魔法陣も輝きを失い、外周から少しずつ消えていく。
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