見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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再臨譚

50、目的地に到着するも

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 護たちはオフィスビルの上階へとむかっていくが、護たちの周囲には、妖や悪魔の姿はない。

「どうやら、あいつらがうまく誘導してくれているみたいだな」
「あぁ。おかげであまり消耗せずに迎えそうだ」
「白桜たちだけじゃないでしょ?」

 自分たちの使鬼だけでなく、たまたま合流した武闘派職員たちで構成された班が自ら囮を引き受けた結果でもある。
 戦闘狂バトルジャンキーというわけではないが、妖たちとの戦闘を望んでいるような連中だ。
 頼むまでもなく、囮を買って出てくれた。

「けど、大丈夫なのかな?」
「何が?」
「いくら戦闘特化の人たちっていっても、無限に湧いてくるんだよ? キリがなくない?」
「徐々にではあるが、ほかの班も合流しつつある」
「それに、先ほどの彼らもそうだが、戦闘班は局内でもかなりの腕前だ。そうそうに全滅するなんて展開は訪れんさ」

 職員として、彼らのことをよく知っている光と満は、月美の疑問に返す。
 その言葉で護はふと、先行している他の職員といままで合流したことがなかったことを思い出したようで、光たちの方へ視線を向けながら問いかける。

「思ったんだが、そもそも先行してるはずの班がなんでこの場にいないのかってことなんだが?」
「そういえば、翼さんたちの姿も見てないよね?」
「言われてみれば……」
「確かに……だが、あまり心配する必要もないと思うぞ?」

 ここまで、先行した職員たちとまったく出会わなかった。
 そのことは光たちも気にかかってはいたが、前線に出ている術者たちは先述の通り腕の立つ人間ばかりだ。
 おまけに。

「彼らの中には、翼さんや道宗さん、ジョンさん。それに局長も含まれている。術者界隈でも屈指の実力者の彼らだぞ? 犠牲になったとは考えにくいが」
「まぁ、父さんたちはまったく問題ないとは思ってるけど」

 翼の実力は息子であり、何より修行を付けてもらっている弟子でもある護が知らないわけがない。

「あの人たちのことだから、案外、もうすぐ近くに」

 来ているのではないか、と光が言いかけたその時だった。
 光は突然、拳銃を引き抜き、護の方へ銃口を向ける。
 突然の行動に、月美は小さく悲鳴を上げ、護は目を開いた。
 護が射線から外れるよう体をひねった瞬間、光は引き金を引く。

「ぐぎゃっ?!」

 発砲時の乾いた音に遅れて、護の背後で気味の悪い声が響いた。
 振り向いてみると、そこには脳天を撃ち抜かれ、仰向けに倒れている妖の姿がある。

「す、すまん」
「今はいい。それよりも早くこの場から離れるぞ!」

 光が叫ぶと同時に、護たちは一斉に走り出した。
 四人に遅れて、銃声を聞きつけてやってきた妖や悪魔が津波のように押し寄せてくるが。

「東海神、西海神、南海神、北海神。四海大神、百鬼退け凶災を祓う。急々如意律令!!」
三山神さんざんじん三魂さんこんを守り通し、山精さんせい参軍さんぐん狗賓ぐひん去る!」
神火清明しんかせいめい、神水清明、神風清明!」

 百鬼夜行避けや山の怪異を回避する呪法、あるいは邪気祓いの秘咒を追いかけてくる妖たちに向け、ひるんでいる間に、満が持ってきていた木札を投げ捨てる。
 床に落ちた瞬間、木札に記された紋章が光を放ち、薄い膜のようなものを作り上げた。
 妖たちはその幕を前にして、急停止する。

「即席の結界だが、どうやら足止めには十分らしいな」
「だが、いつ破られるかわからん。急ぐぞ」
「あぁ」
「了解」

 結界を築いたはいいが、迫ってきている妖の数が数だ。
 いつ結界を打ち破ってなだれこんでくるかわかったものではないため、光はすぐにこの場を離れることを提案する。
 当然、護たちはそれに従い、その場を離れていく。
 そんなことを繰り返し、ついに。

「ここのはずだよな?」
「あぁ。『幻想召喚物語』を作成している会社のオフィスがあるのはこの階だ」

 この事件を引き起こすきっかけとなった『幻想召喚物語』アプリゲームを作成した会社のオフィスへとたどり着いた。
 魔法陣の中心がこの場にあるためだろうか。
 護たちは今まで以上に濃い魔力や瘴気に、思わず顔をしかめている。

「さて、ここからどうすっかだな」
「魔法陣を発動させている媒介を破壊すればいいのか、それとも魔法陣そのものを一部でも破壊すればいいのか」
「そのあたりをジョンさんには?」
「……すまない。それを聞いている場合ではなかった」
「さっきの演説の時に最終目的の達成条件くらい教えてくれてもよかったのにな……」
「どのような形で魔法陣が展開されているのかわからなかったんだ。それは酷というものではないか?」
「それはそうなんだけどな」

 ここまで来ることができたことはいいが、肝心の魔法陣をどう破壊するか。
 だが、それはこの国で起ころうとしている事態を知らせに来たジョンもわからないこと。
 情報を持っていないことについて、事前に教えてほしいということは、わがまま以外の何物でもない。

「とりあえず、オフィスの中を探ろう。何かしら出てくるはずだ」
「それに、魔法陣を止めることができなくても、術者を倒すことができれば、時間を稼ぐこともできるかもしれない」
「バフォメットの討伐、か」
「あぁ」
「けど、できるかな?」
「不安はあるな」

 護と月美が使用する神道や陰陽道、修験道などのアジア圏から日本に流れてきた宗教に由来するもの。
 妖をはじめとする人外の存在を退治する方法に、洋の東西と言われている。
 だが、護も月美も『悪魔』と称される存在を討伐することは初めてだ。
 光と満が所属している特殊生物調査局は民間にこそ知られていないが、仮にも国家機関であるため、悪魔の存在についての情報も集めている。
 当然、悪魔討伐の情報も集まっており、光と満もその知識を頭に入れているのだが、いかんせん、その実践する機会に恵まれていない。
 仮に、魔法陣の破壊が不可能であった場合、バフォメット討伐に目的を変更する必要があるのだが、果たして自分たちにそれができるのか。
 そんな不安が四人の間に流れ始めた。
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