見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
上 下
190 / 276
騒動劇

23、文化祭初日~思いがけない再会~

しおりを挟む
 護と月美は、チャリティバザーが行われている後輩の教室に足を運び、並べられた出品物を眺めていると、調査局が探していた『呪いの人形』を見つけることができた。
 もっとも、それはすでに買われたあとだったらしく、小さな女の子の腕の中にあったのだが。

――まずいな……まさか、あの人形、霊が器にしてるなんてこと、ないよな?

 あまりにも早すぎる動きに、護は内心、焦っていた。
 曰く付きの道具や物件というのは、たとえ見鬼の才覚を持っていなくても、『なんとなく』で避けるものだ。
 それは生きていく中で培ってきた経験から、危険なものとそうでないものを判断する能力が身についているからできることだ。
 だが、いま人形をほくほく顔で抱いている子供のような年齢では、まだその能力を身につけるだけの経験はしていない。

 おそらく、親は買う気はなかったのだろうが、連れてきていた子供が、人形に一目ぼれし、駄々をこねてしまったのだろう。
 ちらりと見えた親の疲れた表情から、そう考えることはたやすい。

――こりゃ、俺だけじゃどうにもできねぇな……よし、調査局に丸投げすることにしよう

 一応、緩和されつつあるとはいえ、護はまだ人間嫌いが直っていない。
 十歳に満たない子供はひとまず『人間ではない』と扱っているため、まだ普通に接することもできるのだが、近くに親がいる時点で、声をかけたくなくなってしまっていた。

 ただでさえ、下手に子供に声をかけようものなら『変態』のレッテルを張られ、白い目で見られてしまう。
 子供が発している救助信号に気づいても、自身の保身のために無視しなければならない、世知辛い世の中だ。

 これ以上、赤の他人から白い目で見られることは、はっきり言ってうっとうしいと思っているため、護は面倒事を調査局と光に押し付けることに決めた。
 早速、会場のどこかにいるであろう光に連絡を取ろうとしたのだが、ここで護は重大なことを二つ、思い出した。

――携帯、先生に預けたままだった……それに連絡先、知らなかったかも

 普段、調査局から仕事を受けるときは、翼が受け取った依頼を回してもらうことが多く、護が調査局から直接依頼を受けることはない。
 仮に職員と合同で仕事にあたったとしても、その時限りの関係であるため、連絡先を交換することがない。

――まいったな。校内放送で呼び出すわけにもいかないし、かといって式神を使っても……

 なにも術者にとって連絡手段は携帯電話だけではない。
 使鬼に手紙を届けさせたり、手紙を式に変えて直接相手に届けたりすることもできる。
 だが、それらはいずれも相手の位置や霊力が分かっていればできることだ。
 今現在、護は光の霊力も位置もわからない。おまけに、真昼間の人込みの中で堂々と術を使うわけにもいかない。

――あ、これもしかして詰んだ?

 護は心中でそうつぶやいていたが、もしかしなくても、もうすでに詰みの状態に陥っていた。
 恥もプライドもかなぐり捨てて、いっそのこと放送委員に呼び出しを頼もうか。
 そう思った時だった。

「……うん?君は土御門護か?」
「……賀茂光か」

 不意に同い年くらいの聞き覚えのある声が護の耳に届いた。
 名前を呼ばれ、声がした方を振り向くと、そこには少し驚いた様子の光が立っていた。
 彼女のすぐ近くには、同じように黒いスーツを着た男が二人いた。
 どうやら、彼らが光の部下である調査局の職員らしい。

「まさかここで会えるとはな……」
「そりゃこっちのセリフ……いや、ちょうどいい。あんたらの探しもの、見つかったぞ」

 調査局の探し物、というものが、『呪いの人形』であることをすぐに察した光は、今にも食って掛かりそうな勢いで護に問いかけてきた。

「ど、どこに?!まさか、君が回収したのか?!」
「お、落ち着けって……ほかの客がいるだろうが」

 そのあまりに勢いに、珍しく護がたじたじになりながら光を落ち着かせていた。
 ほかの客、つまりは一般人がいることに気づき、光は両手で口を覆った。
 慌てたように周囲を見回したが、幸いにして、護たちの様子に気づいていた人はいなかったようだ。
 そのことに安堵した光は、そっとため息をつき、咳ばらいをしてから再び護に問いかけた。

「それで、例のものはどこに?」
「さっき、子供が抱えてたぞ。もういないみたいだけど」
「な?!」

 すでに教室を後にしたことを告げると、案の定、光は驚愕していた。
 光だけではない。一緒にいた職員の二人も慌てた様子で互いの顔を見合わせていた。
 光としては、なぜ止めてくれなかったのか、問いただしたいところなのだろうが、ここでは護はあくまでも『月華学園二年生』でしかない。
 まして、生徒会に所属しているわけでも、実行委員の仕事をしているわけでもない。
 むやみやたらに来校者を引き留め、購入したものを取り上げることなどできはしない。

「その子供の特徴だが、年齢は四歳くらい。髪型は背中くらいまでのロングでストレート。髪の色は黒で、服装は桜色のセーターを着ていたな」
「一緒に親御さんはいなかったのか?」
「いたぞ。中肉中背で少し色あせた茶色のジャケットを着た男性と、青と白の横じま柄のセーターを着た女性だな」

 女の子が抱えていた人形に注意が行っていたため、自然と目線は下の方に下がっている。
 結果的に女の子の特徴は比較的よく覚えているのだが、近くにいた両親の特徴は、服装しか覚えていなかった。
 だが、それだけでも光たちには十分な情報のようだ。

「すまない、助かった!」

 お礼を言うや否や、光は部下二人を伴って、人形を購入したと思われる女の子を追いかけて、教室を出て行ってしまった。

――あいつ、あんなに仕事熱心案だなぁ……

 その行動の早さに、護はどこか感動を覚えながら、そんなことを心中でつぶやいていた。
 なお、物色を終え、声をかけてきた月美とともに、護は別の教室へと向かっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる

灯乃
ファンタジー
旧題:魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~ 幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。 「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」 「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」 最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

絶世の美女の侍女になりました。

秋月一花
キャラ文芸
 十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。  旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。  山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。  女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。  しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。  ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。  後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。  祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

(完結)獅子姫の婿殿

七辻ゆゆ
ファンタジー
ドラゴンのいる辺境グランノットに、王と踊り子の間に生まれた王子リエレは婿としてやってきた。 歓迎されるはずもないと思っていたが、獅子姫ヴェネッダは大変に好意的、素直、あけっぴろげ、それはそれで思惑のあるリエレは困ってしまう。 「初めまして、婿殿。……うん? いや、ちょっと待って。話には聞いていたがとんでもなく美形だな」 「……お初にお目にかかる」  唖然としていたリエレがどうにか挨拶すると、彼女は大きく口を開いて笑った。 「皆、見てくれ! 私の夫はなんと美しいのだろう!」

処理中です...