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騒動劇
20、文化祭初日~ようやく一段落~
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文化祭開催宣言が終わってから何故か大量にやってきた来客に対応してから二時間。
グラウンドでは、吹奏楽部による演奏が行われていた。
その演奏を間近で見たいがためか、護たちのクラスにやってきていた客足は一気に減少し、ようやく、バックヤード班の協力を得ず、当初の担当者だけで接客ができるようにまでなっていた。
「……やっと、静かになった……」
もともとバックヤード班に割り振られていた護は、げんなりとした表情でそうつぶやいた。
その様子に、ほかのバックヤード班のクラスメイト達は苦笑を浮かべながらねぎらいの言葉をかけていた。
「ははは……ドンマイ」
「てか、なんだったんだよ、あれ……いくら色物でもあんなに入ってくるとかありえないだろ……」
「普通、喫茶店ってあんなに人が入るもんじゃないはずだけどな……」
「モーニングとかランチだったらわからんでもないけど」
メイド喫茶に限らず、喫茶店が満席もしくはそれに近い状態になる時間帯というものはほぼ限られている。
だが、ここは『使用人喫茶』と銘打ってはいるが、あくまでも学生の文化祭の出し物としてだ。
クオリティは高くはないし、提供しているものも市販のティーバックやコーヒーなどで、これといった特徴はないはずだ。
だというのに、物珍しいから、という理由だけでここまで人が来るものなのだろうか。
その疑問に、護を含めたバックヤード班は首をかしげていた。
「暇つぶしに入ってみようって思った、とか?」
「だからってあそこまで来るか、普通」
「よっぽど暇だったんだね、みんな」
「いや、あれは絶対女子目当てだ。俺の勘がそう言っている」
「男子が目当てってこともあるんじゃない?」
様々な意見が飛び交う中、バックヤード班の一人がドヤ顔で決めつけるような言葉を告げ来た。
確かに、月美を筆頭に、このクラスにはレベルが高い女子が多く在籍しているし、男子にしても、顔立ちが整っている生徒が多く在籍している。
目の保養を目的にしている客人が多くいるのかもしれない。
加えて、コスプレという珍しいものを見たいがためにやってきた、ということもあるのだろう。
そんな様々な要因がかみ合って、今回の予期せぬ大入りが発生したようだ。
「まぁ、初日でこの出だしだったら、明日はそこまで忙しくならないだろ……多分」
「一回見たら満足って人、結構いそうだしね」
人間という生き物は物珍しいものがあれば、一度は見てみたい、という感情を抱くもので、それが満足いくものであれば、二度、三度と繰り返すものだが、大抵は一度見れば満足してしまうもの。
特に今回のような変わり種は、一度見て、体験してしまえば満足してしまうことがほとんどだ。
リピーターになってくれるような奇特な人間は、おそらく、使用人に扮している生徒と触れ合うことが目的なのだろう。
「ま、リピーターがいたらいたで、それはいいんだけどな」
「案外、土御門が目的で訪問する人がいたりしてな」
「まっさかぁ」
突然出てきた一言に、ほとんどのクラスメイト達が苦笑を浮かべた。
物腰や態度こそ丁寧だが、最低限の言葉しか交わさず、愛想笑いの一つも浮かべない。そんな失礼とは言わないまでも、面白味の少ない接客しかできない従業員だ。
よほどのもの好きでなければ、また会いたいと思うことはないだろう。
「いやいや、わかんないよ?」
「案外、あぁいう『読めない』類の執事って」
「萌えるよね」
「実は悪魔だったりして?」
悪魔で黒い執事のことでも思い起こしているのか、バックヤード班の女子達はそんなことを好き勝手に言っていた。
その様子に、男子たちはため息をつき、憐みの視線を護の方へ向けていた。
「なんというか、好き勝手言われてるな、お前も」
「知らん。口より手を動かせ」
「おぉ、職人がいるぜ……」
だが、視線を向けられた護はただただ黙々と作業をこなしているだけであった。
男子が声をかけても、作業を優先させるような返しをしてくるあたり、女子のたわごとはどうでもいい、ということなのだろう。
その姿勢に、男子たちは『職人』という称号を贈っていた。
そんな男子たちにお構いなしに、注文が書かれた伝票を手渡された護は、事前に焙煎し、ミルにかけ、適量に分けられていたコーヒー豆をカーヒーフィルターが取り付けられたドロッパーに入れて、お湯を注ぎ始めていた。
「思ったんだけど、お前、喫茶店のマスターとか似合うんじゃね?」
「バーのマスターとかな」
その姿がさまになっていたため、出てきた言葉なのだろう。
いずれも護が嫌っている接客業なのだが、誰とも話すことなく、ただただ黙々と話を聞くだけのマスターというのも悪くはない。
そう思ってのことなのだろうが、いずれにしても接客業だ。
護の答えは当然。
「接客業はごめん被る」
であった。
予想で来ていた答えに、男子たちは腹を抱えながら笑い始めた。
「ははは!確かにお前みたいな無愛想なマスターだったら、客は寄り付かねぇな!!」
「案外、ウェイトレスの風森が目当てだったりしてな!」
「あぁありそう!!」
「で、風森に手を出そうとした男にむかってだみ声で、『お客さん、店の迷惑だ。帰ってくんな』、とか言いそう!!」
豊かな想像力で浮かんできた妄想の一場面を理解してしまったほかの男子たちも、一斉に腹を抱えて笑い出した。
そんな様子の男子たちに、護は疲れた様子でため息をつき、サーバーに入っているコーヒーをカップに注ぎ入れた。
「ブレンド、あがり」
「了解~」
笑い転げる男子たちをよそに、護はソーサーにカップを置き、接客係の生徒に手渡した。
注文されたものを作り終えると、護は好き勝手言っている男子たちに視線を向けた。
「お前ら、もうちっと働け」
『了解、マスター』
「いや、誰がマスターだよ……」
ジトっとした視線を向けられた男子たちは、最後っ屁とばかりに護をからかい、配置へ戻っていった。
なお、それから数分後。
遊びに出ていたクラスメイトが戻り、護と月美は休憩に入ることとなった。
グラウンドでは、吹奏楽部による演奏が行われていた。
その演奏を間近で見たいがためか、護たちのクラスにやってきていた客足は一気に減少し、ようやく、バックヤード班の協力を得ず、当初の担当者だけで接客ができるようにまでなっていた。
「……やっと、静かになった……」
もともとバックヤード班に割り振られていた護は、げんなりとした表情でそうつぶやいた。
その様子に、ほかのバックヤード班のクラスメイト達は苦笑を浮かべながらねぎらいの言葉をかけていた。
「ははは……ドンマイ」
「てか、なんだったんだよ、あれ……いくら色物でもあんなに入ってくるとかありえないだろ……」
「普通、喫茶店ってあんなに人が入るもんじゃないはずだけどな……」
「モーニングとかランチだったらわからんでもないけど」
メイド喫茶に限らず、喫茶店が満席もしくはそれに近い状態になる時間帯というものはほぼ限られている。
だが、ここは『使用人喫茶』と銘打ってはいるが、あくまでも学生の文化祭の出し物としてだ。
クオリティは高くはないし、提供しているものも市販のティーバックやコーヒーなどで、これといった特徴はないはずだ。
だというのに、物珍しいから、という理由だけでここまで人が来るものなのだろうか。
その疑問に、護を含めたバックヤード班は首をかしげていた。
「暇つぶしに入ってみようって思った、とか?」
「だからってあそこまで来るか、普通」
「よっぽど暇だったんだね、みんな」
「いや、あれは絶対女子目当てだ。俺の勘がそう言っている」
「男子が目当てってこともあるんじゃない?」
様々な意見が飛び交う中、バックヤード班の一人がドヤ顔で決めつけるような言葉を告げ来た。
確かに、月美を筆頭に、このクラスにはレベルが高い女子が多く在籍しているし、男子にしても、顔立ちが整っている生徒が多く在籍している。
目の保養を目的にしている客人が多くいるのかもしれない。
加えて、コスプレという珍しいものを見たいがためにやってきた、ということもあるのだろう。
そんな様々な要因がかみ合って、今回の予期せぬ大入りが発生したようだ。
「まぁ、初日でこの出だしだったら、明日はそこまで忙しくならないだろ……多分」
「一回見たら満足って人、結構いそうだしね」
人間という生き物は物珍しいものがあれば、一度は見てみたい、という感情を抱くもので、それが満足いくものであれば、二度、三度と繰り返すものだが、大抵は一度見れば満足してしまうもの。
特に今回のような変わり種は、一度見て、体験してしまえば満足してしまうことがほとんどだ。
リピーターになってくれるような奇特な人間は、おそらく、使用人に扮している生徒と触れ合うことが目的なのだろう。
「ま、リピーターがいたらいたで、それはいいんだけどな」
「案外、土御門が目的で訪問する人がいたりしてな」
「まっさかぁ」
突然出てきた一言に、ほとんどのクラスメイト達が苦笑を浮かべた。
物腰や態度こそ丁寧だが、最低限の言葉しか交わさず、愛想笑いの一つも浮かべない。そんな失礼とは言わないまでも、面白味の少ない接客しかできない従業員だ。
よほどのもの好きでなければ、また会いたいと思うことはないだろう。
「いやいや、わかんないよ?」
「案外、あぁいう『読めない』類の執事って」
「萌えるよね」
「実は悪魔だったりして?」
悪魔で黒い執事のことでも思い起こしているのか、バックヤード班の女子達はそんなことを好き勝手に言っていた。
その様子に、男子たちはため息をつき、憐みの視線を護の方へ向けていた。
「なんというか、好き勝手言われてるな、お前も」
「知らん。口より手を動かせ」
「おぉ、職人がいるぜ……」
だが、視線を向けられた護はただただ黙々と作業をこなしているだけであった。
男子が声をかけても、作業を優先させるような返しをしてくるあたり、女子のたわごとはどうでもいい、ということなのだろう。
その姿勢に、男子たちは『職人』という称号を贈っていた。
そんな男子たちにお構いなしに、注文が書かれた伝票を手渡された護は、事前に焙煎し、ミルにかけ、適量に分けられていたコーヒー豆をカーヒーフィルターが取り付けられたドロッパーに入れて、お湯を注ぎ始めていた。
「思ったんだけど、お前、喫茶店のマスターとか似合うんじゃね?」
「バーのマスターとかな」
その姿がさまになっていたため、出てきた言葉なのだろう。
いずれも護が嫌っている接客業なのだが、誰とも話すことなく、ただただ黙々と話を聞くだけのマスターというのも悪くはない。
そう思ってのことなのだろうが、いずれにしても接客業だ。
護の答えは当然。
「接客業はごめん被る」
であった。
予想で来ていた答えに、男子たちは腹を抱えながら笑い始めた。
「ははは!確かにお前みたいな無愛想なマスターだったら、客は寄り付かねぇな!!」
「案外、ウェイトレスの風森が目当てだったりしてな!」
「あぁありそう!!」
「で、風森に手を出そうとした男にむかってだみ声で、『お客さん、店の迷惑だ。帰ってくんな』、とか言いそう!!」
豊かな想像力で浮かんできた妄想の一場面を理解してしまったほかの男子たちも、一斉に腹を抱えて笑い出した。
そんな様子の男子たちに、護は疲れた様子でため息をつき、サーバーに入っているコーヒーをカップに注ぎ入れた。
「ブレンド、あがり」
「了解~」
笑い転げる男子たちをよそに、護はソーサーにカップを置き、接客係の生徒に手渡した。
注文されたものを作り終えると、護は好き勝手言っている男子たちに視線を向けた。
「お前ら、もうちっと働け」
『了解、マスター』
「いや、誰がマスターだよ……」
ジトっとした視線を向けられた男子たちは、最後っ屁とばかりに護をからかい、配置へ戻っていった。
なお、それから数分後。
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