171 / 276
騒動劇
3、帰り道、寄り道した喫茶店で
しおりを挟む
委員長の提案により、男子も希望者はメイド服を着用するという提案が決まり、女子たちの一部は背後から炎が見えるほどの情熱をたぎらせていた。
その日の会議は、『男女ともメイド服または執事服のどちらかを選択して着用すること』、『出入り口及び室内、メニューに過度な接触、セクハラなどの迷惑行為を禁止する通達を行うこと』、『部活の出し物等で忙しいもの以外で回していくこと』の三点を決めて、解散となった。
委員長と女子数名、それから男子の中でも裁縫に自信があったり、飲食店でアルバイトをした経験があるものは残ってさらに話を詰めているようだったが、護と月美は教室を出て、いつものメンバーとともに家路についた。
その途中で大手チェーンの喫茶店に入っていった。
各自で好きなものを注文してテーブルにつき、今日の宿題に手をつけながら、注文したものを待っていた。
数分して、コーヒーや紅茶、ジュースが運ばれてくると、いったん休憩となり、さきほどのホームルームで決定した催し物の話となった。
「にしても、メイド喫茶……もとい、使用人喫茶ねぇ……」
「メイドだけってよりはましだろ?」
「そりゃまぁ、男女両方に需要産まれるからねぇ……けど、メイド喫茶の何がいいのよ?」
「おいおい、それ言ったら俺らだって『執事喫茶の何がいいんだ』って思ったんだぜ?」
「いいじゃん、執事。かっこいいし」
「ならメイドもいいじゃん。可愛いし」
明美はどうやら今回の催し物に不満があるらしい。
もともと、メイド喫茶にしても執事喫茶にしても色物以外の何物でもないと感じていたようで、たとえ自分が接客に回らなかったとしても、あまりやりたいとは思っていなかったらしい。
決して、何も自分が投票したものが不採用だったことを残念に思っているだけというわけではない。
もっとも、民主主義的な方法で決定しているわけで、あの場で文句を言っても結果が覆るわけでもないので、何も言わなかった。
『言わなかった』というだけで、何も思うところがないというわけではない。
「な~んで、お化け屋敷じゃダメなのよ~楽しいじゃん、お化け屋敷」
「いや、俺はごめんこうむりたいな」
「へぇ?勘解由小路、お化け屋敷だめなんだ?」
「そ、そんなんじゃねぇし?!」
明美がからかうような様子でにやにやとした笑みを浮かべた。
実際、本人が言っている通り、清はお化け屋敷が苦手というわけではない。
清は仮にも安倍晴明の師匠である賀茂忠行を祖先に持つ人間だ。見鬼の才能も霊術、呪術の類を操ることが出来るほどの霊力も備わっていないが、妖や霊などの人外の存在にはある程度、耐性を持っている。
怖がらない理由はあっても、怖がるような理由がないのだ。
「ならなんで嫌だったのよ?」
「設計も片付けも面倒じゃん」
「あ、そっちなんだ?」
「ちぇ~!てっきり怖いからだと思ったのに~!」
つまらなさそうに明美は唇をすぼめながら文句を言っていた。
その様子を眺めながら、護と月美は微笑を浮かべ、注文した紅茶を口に運んだ。
不意に、佳代がそんな二人のほうへ視線を向けながら問いかけた。
「そういえば、土御門くんと月美は何に投票したの?」
「わたしは喫茶店」
「俺も同じく」
どうやら、護も月美も同じものに投票したらしい。
前々から息があっていると思っていた佳代だったが、まさか同じものに投票するほどとは思っておらず、苦笑を浮かべた。
「ちなみにだけど、そのこころは?」
「コスプレは面倒くさい」
「お化け屋敷も迷路も設置と片付けが大変そうだから」
さすがに示し合わせたわけではないと考えて、その理由を問いかけてみると、喫茶店以外の項目が面倒くさいと感じたから、という、どうしようもないものだった。
面倒なことがあまり好きではない二人だからなのか、準備と片付けに時間を取られることをとにかくさけるために喫茶店を選んだらしい。
「予算組みやら修全とかいろいろと考えるとやっぱり内装に気を使わないで済むのが一番だしな」
「そういう意味じゃ、喫茶店って教室にある机といすを使ってテーブルクロスかければある程度形になるしね」
「まぁ、問題は茶葉と炊事場だが……まぁ、そこはどうにかなるだろ」
「むしろ最大の問題は……」
「……だね……」
護のその一言に、月美は陰鬱そうなため息をついた。
そうなる原因となる一言を出した護の表情も、決して穏やかなものではなかった。
殺気立っているわけではないが、疲労が前面に出ているようにすら思える。
なぜそんな表情を浮かべるのか、すぐに察しがついた他のメンバーも同じように沈んだ顔でため息をついた。
「……あぁ、うん……」
「……だよな……」
「……うん……」
最大の問題。
言わずもがな、メイド服と執事服のことだ。
これが巫女服や狩衣であれば、護と月美は着慣れているため抵抗がないのだが、メイド服も執事服も着慣れていない。
おまけに、希望者は男子でもメイド服を着用可能ということを言っていたため、希望書を偽造してしまえば、メイド服を着せられてしまう可能性もあるのだ。
むろん、その逆もありそうではあるが、月美と明美はそれなりに仲のいいクラスメイトが多い。
佳代については、なぜ月美たちと一緒に行動しているのか不思議に思われるくらい地味で、一時期、いじめられていたこともあった。
だが、月美と明美が一緒に行動しているし、体育祭の時期に護と月美が佳代をいじめていた不良女子にその証拠を突きつけ、警察に届け出ようとした話が広まっていたため、下手に手出ししようとするものはいない。
だが、男子二人に関しては別だ。
清はそのお調子者な性格ゆえに男女ともにそこそこ交友関係はあるため、からかい半分で申請するだろう。
護については、からかうネタがないということと、月美と交際しているということを知られているため、腹いせとして申請してくる可能性もなくはなかった。
むしろ、清よりも護のほうが虚偽申請によってメイド服着用を強制される可能性は高い。
そのあたりをどう対処するべきか考えながら、護は陰鬱なため息をつくのだった。
その日の会議は、『男女ともメイド服または執事服のどちらかを選択して着用すること』、『出入り口及び室内、メニューに過度な接触、セクハラなどの迷惑行為を禁止する通達を行うこと』、『部活の出し物等で忙しいもの以外で回していくこと』の三点を決めて、解散となった。
委員長と女子数名、それから男子の中でも裁縫に自信があったり、飲食店でアルバイトをした経験があるものは残ってさらに話を詰めているようだったが、護と月美は教室を出て、いつものメンバーとともに家路についた。
その途中で大手チェーンの喫茶店に入っていった。
各自で好きなものを注文してテーブルにつき、今日の宿題に手をつけながら、注文したものを待っていた。
数分して、コーヒーや紅茶、ジュースが運ばれてくると、いったん休憩となり、さきほどのホームルームで決定した催し物の話となった。
「にしても、メイド喫茶……もとい、使用人喫茶ねぇ……」
「メイドだけってよりはましだろ?」
「そりゃまぁ、男女両方に需要産まれるからねぇ……けど、メイド喫茶の何がいいのよ?」
「おいおい、それ言ったら俺らだって『執事喫茶の何がいいんだ』って思ったんだぜ?」
「いいじゃん、執事。かっこいいし」
「ならメイドもいいじゃん。可愛いし」
明美はどうやら今回の催し物に不満があるらしい。
もともと、メイド喫茶にしても執事喫茶にしても色物以外の何物でもないと感じていたようで、たとえ自分が接客に回らなかったとしても、あまりやりたいとは思っていなかったらしい。
決して、何も自分が投票したものが不採用だったことを残念に思っているだけというわけではない。
もっとも、民主主義的な方法で決定しているわけで、あの場で文句を言っても結果が覆るわけでもないので、何も言わなかった。
『言わなかった』というだけで、何も思うところがないというわけではない。
「な~んで、お化け屋敷じゃダメなのよ~楽しいじゃん、お化け屋敷」
「いや、俺はごめんこうむりたいな」
「へぇ?勘解由小路、お化け屋敷だめなんだ?」
「そ、そんなんじゃねぇし?!」
明美がからかうような様子でにやにやとした笑みを浮かべた。
実際、本人が言っている通り、清はお化け屋敷が苦手というわけではない。
清は仮にも安倍晴明の師匠である賀茂忠行を祖先に持つ人間だ。見鬼の才能も霊術、呪術の類を操ることが出来るほどの霊力も備わっていないが、妖や霊などの人外の存在にはある程度、耐性を持っている。
怖がらない理由はあっても、怖がるような理由がないのだ。
「ならなんで嫌だったのよ?」
「設計も片付けも面倒じゃん」
「あ、そっちなんだ?」
「ちぇ~!てっきり怖いからだと思ったのに~!」
つまらなさそうに明美は唇をすぼめながら文句を言っていた。
その様子を眺めながら、護と月美は微笑を浮かべ、注文した紅茶を口に運んだ。
不意に、佳代がそんな二人のほうへ視線を向けながら問いかけた。
「そういえば、土御門くんと月美は何に投票したの?」
「わたしは喫茶店」
「俺も同じく」
どうやら、護も月美も同じものに投票したらしい。
前々から息があっていると思っていた佳代だったが、まさか同じものに投票するほどとは思っておらず、苦笑を浮かべた。
「ちなみにだけど、そのこころは?」
「コスプレは面倒くさい」
「お化け屋敷も迷路も設置と片付けが大変そうだから」
さすがに示し合わせたわけではないと考えて、その理由を問いかけてみると、喫茶店以外の項目が面倒くさいと感じたから、という、どうしようもないものだった。
面倒なことがあまり好きではない二人だからなのか、準備と片付けに時間を取られることをとにかくさけるために喫茶店を選んだらしい。
「予算組みやら修全とかいろいろと考えるとやっぱり内装に気を使わないで済むのが一番だしな」
「そういう意味じゃ、喫茶店って教室にある机といすを使ってテーブルクロスかければある程度形になるしね」
「まぁ、問題は茶葉と炊事場だが……まぁ、そこはどうにかなるだろ」
「むしろ最大の問題は……」
「……だね……」
護のその一言に、月美は陰鬱そうなため息をついた。
そうなる原因となる一言を出した護の表情も、決して穏やかなものではなかった。
殺気立っているわけではないが、疲労が前面に出ているようにすら思える。
なぜそんな表情を浮かべるのか、すぐに察しがついた他のメンバーも同じように沈んだ顔でため息をついた。
「……あぁ、うん……」
「……だよな……」
「……うん……」
最大の問題。
言わずもがな、メイド服と執事服のことだ。
これが巫女服や狩衣であれば、護と月美は着慣れているため抵抗がないのだが、メイド服も執事服も着慣れていない。
おまけに、希望者は男子でもメイド服を着用可能ということを言っていたため、希望書を偽造してしまえば、メイド服を着せられてしまう可能性もあるのだ。
むろん、その逆もありそうではあるが、月美と明美はそれなりに仲のいいクラスメイトが多い。
佳代については、なぜ月美たちと一緒に行動しているのか不思議に思われるくらい地味で、一時期、いじめられていたこともあった。
だが、月美と明美が一緒に行動しているし、体育祭の時期に護と月美が佳代をいじめていた不良女子にその証拠を突きつけ、警察に届け出ようとした話が広まっていたため、下手に手出ししようとするものはいない。
だが、男子二人に関しては別だ。
清はそのお調子者な性格ゆえに男女ともにそこそこ交友関係はあるため、からかい半分で申請するだろう。
護については、からかうネタがないということと、月美と交際しているということを知られているため、腹いせとして申請してくる可能性もなくはなかった。
むしろ、清よりも護のほうが虚偽申請によってメイド服着用を強制される可能性は高い。
そのあたりをどう対処するべきか考えながら、護は陰鬱なため息をつくのだった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる