見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
上 下
144 / 276
呪怨劇

46、体育祭が終わって……

しおりを挟む
 体育祭が終了して一週間。
 よさこいや神楽舞の朝練習から解放された生徒たちは、どこか燃え尽きたというか、物足りなさを感じながらもいつも通りの日々を過ごしていた。
 だが、そんな彼らには定期試験、またの名を、期末試験というさらなる試練が待ち受けている。

「「試験、かったるい……」」
「声をそろえて言うな」
「だってよぉ」
「体育祭の後は期末試験が待っている。んなこと、中学からわかってたことだろが」

 護が呆れたようにため息をつきながら、文句を言ってくる清にそう反論した。
 確かに、体育祭が終われば次に期末試験がやって来るというのは、このあたりの中学高校では当たり前のことだ。
 そのことは清もわかっているし、文句を言っても仕方がないことだということも理解している。
 だが、理解することと納得すること、受け入れることはまったく別ものだ。
 そのため、心情として。

「だからって、試験がかったるいことに変わりはない」

 ということになる。
 とはいうものの、試験を受けなければ卒業もできないことは重々承知しているし、何より、護からの圧が怖いので、清は渋々試験勉強を再開していた。
 それは明美も同じで、言おうとしていた文句を一字一句、すべて清に取られてしまい、若干、不機嫌になりながら手にしたシャーペンを動かしていた。
 不意に、その手の動きが止まった。

――あ、あれ?ここって、どうやるんだっけ??

 基本的な解法は理解しているが、少し応用が入った問題に突入したらしい。
 解き方がわからず、頭の中が混乱し始めた。
 問題集の基本的な解き方が記されている部分を見直したり、参考書や教科書を開いて同じような問題がないかを探してみるが、それでもやはりわからない。
 いよいよ、投げ出したくなったその時だった。

 「さ、桜沢さん」
 「へ?」
 「ここの問題、ね。このページを読めば、解けると思う」

 突然、佳代がアドバイスをしてきた。
 そして、そのアドバイス通りに参考書のページを開いてみると、確かに式に使われている数字自体は違うものの、まったく同じ問題式が書かれていた。

 「おぉっ!! ありがと、佳代!!」
 「ど、どういたしまして」

 にっこりと笑顔を浮かべ、佳代に礼を言った明美だったが、すぐに不満顔になる。
 いつの間にか一緒にいることが当たり前になっていたため、明美個人の感覚ではすでに佳代は友達なのだ。
 その友達から、いまだに敬語を使われたり、名字で呼ばれていることが面白くないのだろう。

「てか、なんでそうおどおどしてんのよ?」
「え?」
「あたし、もう佳代とは友達だと思ってるのに、なぁんかおどおどしてるんだもん」
「え、えっと……ご、ごめんなさい」

 一応、護と月美が現場を抑え、証拠写真を撮影したことで通報される危険性を感じ取り、いじめグループは佳代に接触することはなくなった。
 護と月美にも報復するような様子もなかったが、まだ月美と護以外の生徒と接することは怖いらしい。
 一か月近く一緒にいるはずの明美に対しても怯えた態度を取ることが多かった。
 月美から聞いて事情を知っているため、あまり強く言うつもりはなかったのだが、堪忍袋の緒が切れたようだ。

「もうそろそろ、あたしのことも怖がらないでほしいんだけどなぁ……」
「うっ……」
「というわけで、まずはあたしの名前を呼んでみて?」

 唐突な要求に、佳代の頭はいっぱいいっぱいになってしまった。
 佳代とて明美が、少なくとも、自分に危害を加えるような人じゃないことは、ここしばらくの付き合いでわかっている。
 だが、だからといって、いきなり名前を呼ぶことはできない。
 助けてくれたうえに親身になってくれていた月美ですら、まだ名前で呼べていないのだ。
 まして、少し前まで他人だった明美をいきなり名前で呼ぶなどできるわけがない。
 いじめグループに対して、毅然とした態度で対応できるほどの度胸がついたとはいえ、こればかりは簡単にはいかない。

「ほらほら、カモーン」
「え、えと……えと……」

 漫画であれば、目が渦巻きになっているのだろう。
 それほど困惑している佳代に、助け舟が出された。

「……明美?何してるのかな??」

 呼びかけられ、明美は声がした方へ視線を向けた。
 そこには、にこやかな、それでいて背筋が凍るような雰囲気の笑みを浮かべている月美がいた。

「何をしているのかな?」
「え、えっと……その……」
「何を、しているのかな?」
「だ、だから……あの……」
「な、に、を、し、て、い、る、の、か、な?」
「ご、ごめんなさい、勉強します」

 怯え切った明美のその返事に、よろしい、と返し、月美は問題集に視線を落とした。
 その瞬間、背筋が凍るような雰囲気は一気にやわらぎ、明美はほっとため息をついた。

「あ、あの……ご、ごめんね?」
「なんで佳代が謝るのよ? これは完全にあたしのミスだよ」
「え、でも、明美って呼べなかったから……」
「……いま、呼んでくれたからそれでチャラ」

 にへへ、と少しばかりだらしない笑みを浮かべて、明美はそう返した。
 そう指摘されて、そういえば、自分でも驚くほど自然に呼べていたことに、佳代も目を丸くし、微笑みを浮かべた。
 だが、二人のその笑みは、すぐにまた凍り付くことになった。

「ふ、た、り、と、も?」
「「ご、ごめんなさい! 勉強します!!」」

 月美からの威圧感に、二人は声をそろえて答え、参考書と問題集にかじりつく。
 なお、護と清はその光景を眺めながら、苦笑を浮かべていたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...