126 / 276
呪怨劇
28、変わらないもの
しおりを挟む
月美の口から、おおよそではあるが、護が人間嫌いになった理由を聞いた佳代だったが、その脳裏には一つの疑問が浮かんでいた。
――周囲から化け物呼ばわりされて、疎まれたから人間を嫌うようになったことは理解できたけど、ならなんで勘解由小路くんや桜沢さんと一緒にいるんだろう?
家族ぐるみの付き合いがあるという月美はともかく、赤の他人であるはずの清や明美が近くにいることを許容している。
その理由がわからない。
その疑問が浮かんできたことを察したのか、月美は苦笑を浮かべた。
「もしかして、勘解由小路くんや明美が近くにいる理由、考えてた?」
「ふぇっ?!」
「さっきも言ったけど、明美はわたしが一緒にいるから、だと思う」
月美と明美は親友同士で、一緒にいることが多い。
護としては、自分の人間嫌いを月美に押し付けたくはないため、月美の友人が自分の周囲にいることは我慢しているらしい。
いや、我慢しているというより、その状況を受け入れるよう、努力しているようだ。
そもそも、護は自分にもう少し力があれば、月美が家族から、そして二人の親友から忘れられることもなかったはず。
だから、月美の周囲に人が増えることは、月美の友人が自分の周囲にいることについては受け入れているし、慣れ始めていた。
だが。
「まぁ、明美はともかく、勘解由小路くんについては話が別なんだけど」
「へ?」
「勘解由小路くんが近くにいることは、護も拒否してるんだよ?」
「そ、そうなの?」
「うん。けど、何度追い払ってもしつこく付きまとってくるから、諦めたんだって」
むろん、清も護が見鬼の目を持っていることは知っているのだが、それを気味悪がることなく、あくまでも護を護として見ている。
おそらく、それをわかっているから護もうるさく追い払うようなことはしていないのだろう。
もっとも、本人が清を友人と思っているかどうかはまた別の問題なのだが。
「それじゃ、勘解由小路くんが土御門くんにべったりなのって……」
「護がしつこく追い払わなくなったから、かな? もう少し、護が人間を信じられたら、二人は親友になってたかもしれないけど」
とはいえ、あくまで可能性がないわけではないというだけであり、仮に親友になれたとしても、それまでにどれだけの時間がかかるかわからないのだが。
そこまで話を聞いてようやく、佳代は土御門護という人間を理解できたような気がした。
彼は小学生のころの体験が影響して、家族やそれまで親しくしていた誰が以外を信じることができなくなっているのだ。
周囲はすべて敵、というわけではないが、味方を作ることもない。
だからこそ、友人と呼べる友人を作らず、教師に対しても事務的な態度にとどめているのだろう。
だが、だからといって、護本来の性質が変わってしまったというわけではない。
その証拠に。
「でも、今でも護は護のままなのよ」
「優しいのに不器用なところ、とか?」
「えぇ」
言葉を交わした回数こそ少ないが、佳代が護に対して感じ取った印象を口にした。
すると、月美は微笑みを浮かべながら、佳代に問いかける。
「それは、吉田さんもわかるんじゃないかな?」
「うん」
月美の言う通り、佳代にも、護の不器用な優しさは伝わっていた。
実際、佳代はいじめられているところを護に救われたのだ。
普通なら、厄介事を避けるために見て見ぬふりをするのだろうが、護は声をかけてくれた。
それは、不器用ながらも護が優しい人間であるという証拠に他ならない。
「なんだか、いまなら、わかる気がする」
「うん?」
「なんで、風森さんが土御門くんに愛想尽かさないのか」
「なんだかひどくない? それ」
佳代の一言に、月美は苦笑を浮かべた。
確かに、パートナーがあれだけ無愛想ならば、もうすでに愛想を尽かしていてもおかしくはない。
だが、護が無愛想になっている原因は知っている。
それに、護はあれで本当に心を許した人間の前では感情を表に出しているし、何より、自分は護に心底惚れているのだ。
愛想を尽かすなんてことはないし、信頼しない理由もない。
だからこそ。
「護があなたを助けるって決めたなら、わたしはあなたを助ける手伝いをする。わたしとあなたに接点はないけど、そう決めているから」
まっすぐな瞳で、月美は佳代にそう宣言する。
その瞳と、言葉から感じられる意志の強さに佳代は気圧されそうになった。
だが。
――風森さんからは敵意を感じないし、なんでかわからないけど信じてもいいような気がする
なぜそう思うことができるか、その理由はわからない。
理不尽に扱われてきたというのにまだ他人を信じることができているのか、それとも、単に月美の優しさを伝え聞いていたからなのか。
あるいは好きになった人から大切に思われていて、彼女自身もその人を大切に思っているからなのか。
いずれにしても。
――風森さんと、土御門くんは信じてみてもいいかもしれない
佳代はそう思い始めていた。
「それじゃ、わたしは行くね」
「え?」
「わたしから話すことができるのはこれいくらいだし、それに色々あって、吉田さんも疲れたでしょ? 何かあったら、遠慮なく呼んでくれていいからね」
「あ、うん……ありがとう」
気を利かせたのだろうか、月美がそう言って佳代の居室から出ていくと、すぐ近くに護が控えていた。
どうやら、さきほどのやり取りを聞いていたらしい。
「……ごめんね、護」
「なにが?」
「あなたの昔のこと、勝手に喋って」
月美は護を見るなり、いきなり謝罪してきた。
護本人は別に気にしている様子はないが、護の過去は護のものであって、たとえ恋人や家族であったとしても、他人が軽々しく話していいものではない。
それでも、せっかく護に興味を抱いてくれたのだから、話さずにはいられなかったのだ。
「別に気にしてない。俺だったら、いつ切り出せるかわからなかったしな」
「それでも、ごめんなさい」
話をされた本人はまったく気にしていないのだが、月美は気にしているらしく、謝罪してきた。
こうなったら頑として譲らないということを、護は知っている。
そのため。
「大丈夫。本当に気にしてないから、月美ももう気にするな」
月美の謝罪を受け入れ、もう気にする必要はないことを伝え、無駄なやり取りを回避することにした。
――周囲から化け物呼ばわりされて、疎まれたから人間を嫌うようになったことは理解できたけど、ならなんで勘解由小路くんや桜沢さんと一緒にいるんだろう?
家族ぐるみの付き合いがあるという月美はともかく、赤の他人であるはずの清や明美が近くにいることを許容している。
その理由がわからない。
その疑問が浮かんできたことを察したのか、月美は苦笑を浮かべた。
「もしかして、勘解由小路くんや明美が近くにいる理由、考えてた?」
「ふぇっ?!」
「さっきも言ったけど、明美はわたしが一緒にいるから、だと思う」
月美と明美は親友同士で、一緒にいることが多い。
護としては、自分の人間嫌いを月美に押し付けたくはないため、月美の友人が自分の周囲にいることは我慢しているらしい。
いや、我慢しているというより、その状況を受け入れるよう、努力しているようだ。
そもそも、護は自分にもう少し力があれば、月美が家族から、そして二人の親友から忘れられることもなかったはず。
だから、月美の周囲に人が増えることは、月美の友人が自分の周囲にいることについては受け入れているし、慣れ始めていた。
だが。
「まぁ、明美はともかく、勘解由小路くんについては話が別なんだけど」
「へ?」
「勘解由小路くんが近くにいることは、護も拒否してるんだよ?」
「そ、そうなの?」
「うん。けど、何度追い払ってもしつこく付きまとってくるから、諦めたんだって」
むろん、清も護が見鬼の目を持っていることは知っているのだが、それを気味悪がることなく、あくまでも護を護として見ている。
おそらく、それをわかっているから護もうるさく追い払うようなことはしていないのだろう。
もっとも、本人が清を友人と思っているかどうかはまた別の問題なのだが。
「それじゃ、勘解由小路くんが土御門くんにべったりなのって……」
「護がしつこく追い払わなくなったから、かな? もう少し、護が人間を信じられたら、二人は親友になってたかもしれないけど」
とはいえ、あくまで可能性がないわけではないというだけであり、仮に親友になれたとしても、それまでにどれだけの時間がかかるかわからないのだが。
そこまで話を聞いてようやく、佳代は土御門護という人間を理解できたような気がした。
彼は小学生のころの体験が影響して、家族やそれまで親しくしていた誰が以外を信じることができなくなっているのだ。
周囲はすべて敵、というわけではないが、味方を作ることもない。
だからこそ、友人と呼べる友人を作らず、教師に対しても事務的な態度にとどめているのだろう。
だが、だからといって、護本来の性質が変わってしまったというわけではない。
その証拠に。
「でも、今でも護は護のままなのよ」
「優しいのに不器用なところ、とか?」
「えぇ」
言葉を交わした回数こそ少ないが、佳代が護に対して感じ取った印象を口にした。
すると、月美は微笑みを浮かべながら、佳代に問いかける。
「それは、吉田さんもわかるんじゃないかな?」
「うん」
月美の言う通り、佳代にも、護の不器用な優しさは伝わっていた。
実際、佳代はいじめられているところを護に救われたのだ。
普通なら、厄介事を避けるために見て見ぬふりをするのだろうが、護は声をかけてくれた。
それは、不器用ながらも護が優しい人間であるという証拠に他ならない。
「なんだか、いまなら、わかる気がする」
「うん?」
「なんで、風森さんが土御門くんに愛想尽かさないのか」
「なんだかひどくない? それ」
佳代の一言に、月美は苦笑を浮かべた。
確かに、パートナーがあれだけ無愛想ならば、もうすでに愛想を尽かしていてもおかしくはない。
だが、護が無愛想になっている原因は知っている。
それに、護はあれで本当に心を許した人間の前では感情を表に出しているし、何より、自分は護に心底惚れているのだ。
愛想を尽かすなんてことはないし、信頼しない理由もない。
だからこそ。
「護があなたを助けるって決めたなら、わたしはあなたを助ける手伝いをする。わたしとあなたに接点はないけど、そう決めているから」
まっすぐな瞳で、月美は佳代にそう宣言する。
その瞳と、言葉から感じられる意志の強さに佳代は気圧されそうになった。
だが。
――風森さんからは敵意を感じないし、なんでかわからないけど信じてもいいような気がする
なぜそう思うことができるか、その理由はわからない。
理不尽に扱われてきたというのにまだ他人を信じることができているのか、それとも、単に月美の優しさを伝え聞いていたからなのか。
あるいは好きになった人から大切に思われていて、彼女自身もその人を大切に思っているからなのか。
いずれにしても。
――風森さんと、土御門くんは信じてみてもいいかもしれない
佳代はそう思い始めていた。
「それじゃ、わたしは行くね」
「え?」
「わたしから話すことができるのはこれいくらいだし、それに色々あって、吉田さんも疲れたでしょ? 何かあったら、遠慮なく呼んでくれていいからね」
「あ、うん……ありがとう」
気を利かせたのだろうか、月美がそう言って佳代の居室から出ていくと、すぐ近くに護が控えていた。
どうやら、さきほどのやり取りを聞いていたらしい。
「……ごめんね、護」
「なにが?」
「あなたの昔のこと、勝手に喋って」
月美は護を見るなり、いきなり謝罪してきた。
護本人は別に気にしている様子はないが、護の過去は護のものであって、たとえ恋人や家族であったとしても、他人が軽々しく話していいものではない。
それでも、せっかく護に興味を抱いてくれたのだから、話さずにはいられなかったのだ。
「別に気にしてない。俺だったら、いつ切り出せるかわからなかったしな」
「それでも、ごめんなさい」
話をされた本人はまったく気にしていないのだが、月美は気にしているらしく、謝罪してきた。
こうなったら頑として譲らないということを、護は知っている。
そのため。
「大丈夫。本当に気にしてないから、月美ももう気にするな」
月美の謝罪を受け入れ、もう気にする必要はないことを伝え、無駄なやり取りを回避することにした。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる