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呪怨劇
26、昔語り~3、悪童たちの自業自得~
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護へのいじめがエスカレートしていったある日の放課後。
いじめを主導していたクラスメイトたちが、突然、護の家を訪ねてきた。
「すっげぇ!神社ってのは知ってたけど、でっけぇ!!」
「って、いつもお祭りの時に来てるから知ってるだろ?」
境内で騒ぎながら、クラスメイトたちは社務所へ向かっていき、約束はないが遊びに来た旨を雪美に伝えた。
こう伝えれば、護を呼んでそのまま遊びに行かせるか、家にあげるかのどちらかなのだろう。
クラスメイトたちも経験的にそれを知っていたため、今回も自分たちの予測通りになると信じて疑わなかった。
だが、雪美は困ったような表情を浮かべ。
「あら、ごめんなさいね?護は今、おじさんやお兄さんやお姉さんたちのお手伝いしてるのよ」
おじさんというのは土御門神社の神主である翼のことで、お兄さんやお姉さんたちというのは、土御門神社でアルバイトをしている学生や分家の若者衆のこと。
手伝いとは、将来、陰陽師となるために必要な知識を学ぶ授業に参加しているということだ。
もっとも、そんなことは目の前の児童たちは知る由もないのだが。
閑話休題。
護が用事で応対できない。それを知ったクラスメイトたちは、諦めて帰ることにする、と雪美に伝え、その場を立ち去っていく。
だが、雪美が社務所の中へ戻り、戸を閉めたタイミングを見計らい、クラスメイトたちは社務所の裏へと回っていった。
土御門神社は、それなりの面積の敷地を有している神社であるため、物置の一つくらいはあるはず。
そこにしまってあるものを失敬してしまおう、という考えのようだ。
「えぇっと……」
「あっちじゃないか?」
「あ、あれじゃね?」
そう言い合いながら、クラスメイトたちは敷地の中を進んでいった。
目指す物置はすぐそこ。
そこに護に最大のダメージを与えることができるはずと、踏んでいたのだが、その期待は裏切られることとなる。
「な、なぁ……」
「え?」
「なんか、変じゃねぇか?」
いたずらを仕掛けようとしたクラスメイトたちの中の一人が、周囲の異変に気付き、そう口にした。
それを皮切りに、他のメンバーが周囲を見回すと、たしかに変だということに気づく。
自分たちがこの神社を訪ねたとき、まだ空は明るく、雲もかかっていなかったのだが、ここに来て急に周囲は薄暗くなり、空も曇っているようだ。
いや、それだけならまだいい。
「な、なんか寒くないか?」
「夕立とかだったら、よくあるけどよ……この寒さは変じゃないか?」
夏でも肌寒くなることがある、というのは経験的に知っているが、それでもこの変化の速さは異常だということは、幼いながらも理解できていた。
それを理解すると同時に、クラスメイトたちは言い知れぬ恐怖を感じ取り。
「な、なぁ……か、帰ったほうが、い、いいんじゃないか?」
「だ、だよな。これ、なんかやばい気がするし……」
誰からとなしに、その提案が出てきて、同意を求めることなく、一人、二人と来た道を戻り始めた。
だが、戻っても戻っても、くぐってきた鳥居が見つからない。
そればかりか、建物らしきものすら見つけることができなかった。
「な、なんなんだよ、いったい!!」
「わかんねぇよ!」
「も、もうヤダ!怖い!!」
「母ちゃーーーーーんっ!!」
クラスメイトたちの心は、すでに折れかけていた。
いや、そもそも小学生に上がって間もない児童がいきなりわけのわからない場所へ飛ばされて、帰ることができないという状況に追い込まれたのだ。
心を折るな、という方が無理難題である。
数分とすることなく、児童たちの忍耐が限界を迎えてしまったらしい。
一人が怖さのあまり泣き出すと、連鎖反応を起こすように、次々と子供たちは泣き出した。
割れんばかりの泣き声の大合唱がしばらく響くと、聞き覚えのある声が子供たちの耳に届く。
「他人の家の目の前でなにをギャン泣きしてんだよ。用がないならさっさと帰れ」
声がした方を見ると、いつも以上に不機嫌そうな護の姿があった。
たとえ気に入らない存在であっても、たとえ自分たちを毛嫌いしているであろう人物であっても。
不安と恐怖から心が折れていた彼らにとって、見知った顔の存在がどれほど強力な安心材料になるか。
クラスメイトたちは一斉に護の名を呼び、怒るよりも先に自分たちが元の場所に帰ってこれたことを口々に確認していた。
そんな彼らを見た、護の反応は。
「ちっ」
忌々し気な表情と舌打ちのコンボ。
実のところ、護は彼らがなぜ泣きわめいているのか、その理由を知っていた。
土御門家は、言わずもがなであるが術者の世界では高名な一族だ。
それが故に、敵意を持つ存在は少なくないため、当然、それなりに強力な備えを施している。
中でも、術者としての仕事に関わる道具を保管している蔵や生活するための空間となっている社務所。
この二箇所には、土御門家の人間を伴わなっていない人間が入った場合、強力な幻惑に囚われることになる。
――父さんからは、強力な術が施されてるから、友達を案内するときは絶対にはぐれないように約束させろって言ってたけど、なるほど。こうなるわけか……
翼に言い聞かされていたため、クラスメイトを自分の家に招待するときは、必ず自分の視界の中に収めるようにしたり、妙な場所へ行かないように頼んだりしていた。
だが、目の前でギャン泣きしている彼らは、いわばセフティベルトもなしに絶叫マシーンに乗るような愚行に走った。
それも、おそらくは自分をさらに痛めつけるための何かをするために。
彼らから聞かずともそれは理解できたが、ここで放置するほど、当時の護は鬼ではなかった。
「出口まで案内してやっから、黙ってついてこい」
心底嫌そうに、面倒くさそうに顔をゆがめながら、泣きじゃくっている彼らを鳥居の外まで案内するのだった。
もっとも鳥居の外へ出た瞬間、彼らは護に礼を言うこともなく、帰って行ったのだが。
いじめを主導していたクラスメイトたちが、突然、護の家を訪ねてきた。
「すっげぇ!神社ってのは知ってたけど、でっけぇ!!」
「って、いつもお祭りの時に来てるから知ってるだろ?」
境内で騒ぎながら、クラスメイトたちは社務所へ向かっていき、約束はないが遊びに来た旨を雪美に伝えた。
こう伝えれば、護を呼んでそのまま遊びに行かせるか、家にあげるかのどちらかなのだろう。
クラスメイトたちも経験的にそれを知っていたため、今回も自分たちの予測通りになると信じて疑わなかった。
だが、雪美は困ったような表情を浮かべ。
「あら、ごめんなさいね?護は今、おじさんやお兄さんやお姉さんたちのお手伝いしてるのよ」
おじさんというのは土御門神社の神主である翼のことで、お兄さんやお姉さんたちというのは、土御門神社でアルバイトをしている学生や分家の若者衆のこと。
手伝いとは、将来、陰陽師となるために必要な知識を学ぶ授業に参加しているということだ。
もっとも、そんなことは目の前の児童たちは知る由もないのだが。
閑話休題。
護が用事で応対できない。それを知ったクラスメイトたちは、諦めて帰ることにする、と雪美に伝え、その場を立ち去っていく。
だが、雪美が社務所の中へ戻り、戸を閉めたタイミングを見計らい、クラスメイトたちは社務所の裏へと回っていった。
土御門神社は、それなりの面積の敷地を有している神社であるため、物置の一つくらいはあるはず。
そこにしまってあるものを失敬してしまおう、という考えのようだ。
「えぇっと……」
「あっちじゃないか?」
「あ、あれじゃね?」
そう言い合いながら、クラスメイトたちは敷地の中を進んでいった。
目指す物置はすぐそこ。
そこに護に最大のダメージを与えることができるはずと、踏んでいたのだが、その期待は裏切られることとなる。
「な、なぁ……」
「え?」
「なんか、変じゃねぇか?」
いたずらを仕掛けようとしたクラスメイトたちの中の一人が、周囲の異変に気付き、そう口にした。
それを皮切りに、他のメンバーが周囲を見回すと、たしかに変だということに気づく。
自分たちがこの神社を訪ねたとき、まだ空は明るく、雲もかかっていなかったのだが、ここに来て急に周囲は薄暗くなり、空も曇っているようだ。
いや、それだけならまだいい。
「な、なんか寒くないか?」
「夕立とかだったら、よくあるけどよ……この寒さは変じゃないか?」
夏でも肌寒くなることがある、というのは経験的に知っているが、それでもこの変化の速さは異常だということは、幼いながらも理解できていた。
それを理解すると同時に、クラスメイトたちは言い知れぬ恐怖を感じ取り。
「な、なぁ……か、帰ったほうが、い、いいんじゃないか?」
「だ、だよな。これ、なんかやばい気がするし……」
誰からとなしに、その提案が出てきて、同意を求めることなく、一人、二人と来た道を戻り始めた。
だが、戻っても戻っても、くぐってきた鳥居が見つからない。
そればかりか、建物らしきものすら見つけることができなかった。
「な、なんなんだよ、いったい!!」
「わかんねぇよ!」
「も、もうヤダ!怖い!!」
「母ちゃーーーーーんっ!!」
クラスメイトたちの心は、すでに折れかけていた。
いや、そもそも小学生に上がって間もない児童がいきなりわけのわからない場所へ飛ばされて、帰ることができないという状況に追い込まれたのだ。
心を折るな、という方が無理難題である。
数分とすることなく、児童たちの忍耐が限界を迎えてしまったらしい。
一人が怖さのあまり泣き出すと、連鎖反応を起こすように、次々と子供たちは泣き出した。
割れんばかりの泣き声の大合唱がしばらく響くと、聞き覚えのある声が子供たちの耳に届く。
「他人の家の目の前でなにをギャン泣きしてんだよ。用がないならさっさと帰れ」
声がした方を見ると、いつも以上に不機嫌そうな護の姿があった。
たとえ気に入らない存在であっても、たとえ自分たちを毛嫌いしているであろう人物であっても。
不安と恐怖から心が折れていた彼らにとって、見知った顔の存在がどれほど強力な安心材料になるか。
クラスメイトたちは一斉に護の名を呼び、怒るよりも先に自分たちが元の場所に帰ってこれたことを口々に確認していた。
そんな彼らを見た、護の反応は。
「ちっ」
忌々し気な表情と舌打ちのコンボ。
実のところ、護は彼らがなぜ泣きわめいているのか、その理由を知っていた。
土御門家は、言わずもがなであるが術者の世界では高名な一族だ。
それが故に、敵意を持つ存在は少なくないため、当然、それなりに強力な備えを施している。
中でも、術者としての仕事に関わる道具を保管している蔵や生活するための空間となっている社務所。
この二箇所には、土御門家の人間を伴わなっていない人間が入った場合、強力な幻惑に囚われることになる。
――父さんからは、強力な術が施されてるから、友達を案内するときは絶対にはぐれないように約束させろって言ってたけど、なるほど。こうなるわけか……
翼に言い聞かされていたため、クラスメイトを自分の家に招待するときは、必ず自分の視界の中に収めるようにしたり、妙な場所へ行かないように頼んだりしていた。
だが、目の前でギャン泣きしている彼らは、いわばセフティベルトもなしに絶叫マシーンに乗るような愚行に走った。
それも、おそらくは自分をさらに痛めつけるための何かをするために。
彼らから聞かずともそれは理解できたが、ここで放置するほど、当時の護は鬼ではなかった。
「出口まで案内してやっから、黙ってついてこい」
心底嫌そうに、面倒くさそうに顔をゆがめながら、泣きじゃくっている彼らを鳥居の外まで案内するのだった。
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