メロウ電車

下田島

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北へ

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お盆の新幹線。僕は入り口近くの4列目くらいのあたり、通路側に座っていた。
デッキがよく見える位置である。

「指定席は満席です」との車内放送があったにもかかわらず、前の3列は空席になっていた。

僕は他の執筆や情報収集に追われてふと誰が乗ってきているか意識していなかったのだが、大宮に着いた頃の家族連れの声でスマホから視線を離した。
「あーちゃんはこっちの席、じいちゃんはこっちね」
「あーちゃんこっちがいい」

デッキと車内の間で家族が落ち着きなく会話を続けている。じいさんとばあさん、孫が2人、おそらくその父親と母親の家族のようだ。

「じゃ、あーちゃんこっちで、とりあえず中入って」
多分、30秒くらいかかっただろうか。ようやく一旦席に入り込んだ。
その後ろから勢いよく人が車内の奥に入って行く。おそらくなかなか座席に入らない家族連れにイラついていたに違いない。

そもそも入り口側だったり、通路側の客は後から入った方が周りの迷惑にもならないってことに気づいてなかったのだろうか。
新幹線に普段乗らない人は分からないのかもしれないが。
きっと〇〇小町に書き込んだら、「マナー守れ派」と「家族擁護派」に分かれるだろう。

僕はマナー守れ派のはずーーー少なくとも1分前まではーーーその一瞬に少しだけ昔の思い出を思い出していた。

######

僕が中学生だった頃、家族で東京に旅行へ来ていた。その帰り、そうその時も入り口近くに座っていたのだった。4人ボックス席で、僕が入り口を向いて座っていた。

東京を出ると、入り口付近の外人が騒ぎ始めた。
「あんた指定席券持ってないんでしょ、降りなよ、この電車乗れないよ!」
片言の日本語で、デッキに立っているいかにもひ弱そうな青年に向かって叫んでいた。

東北新幹線はやぶさ(当時は、はやて)は全車指定席のため、基本は指定席特急券がないと乗車ができない。ただ指定席が満席の時はデッキで立席で乗車することもできる。(僕は当時その瞬間もそのことに気づいてはいた)だから青年も、もしかしたら立席で乗車していたのかもしれない。そしたら別に悪いことはしていないのだ。

外人の喋る勢いは止まらない。
僕たちや、周りの乗客もざわつき始めた。少しやばーい空気。

青年はそれに耐えられなかったのか、東京駅から5分で到着する上野で降りてしまった。

「へっ!ざまあみろ!」
外人は最後まで青年を脅し続けた。
僕らはなんだか嫌な気分になって、東京駅で買った駅弁を食べてそれをごまかした。きっと周りの客もそういう気持ちになっていただろう。

######

人の間違い、小さなマナーというのは指摘するべきなのだろうか。それが正しいこともある、だけど自分にとってはたいして関係ないし、影響もないはず。

さっきの家族連れだって、早く中入ってくんない?と一言かけられてもおかしくないはずだ。だけど誰も何も言わない。それは後から乗り込む客にとって少しはイラつくかもしれないが、それで席に座れないとか、電車が遅れるとか、そういうことではないのだ。

一方で何も言わない、「察し力」が必要な社会っていうのも辛いものじゃないかな。だってそれこそ人の顔を伺って生きろって半分いってるようなもんだから。

人は誰でも間違いをする。
だけどそこに声をかけるか、かけまいかは人次第である。
声をかける優しさ、声をかけない優しさ。
声をかける愚かさ、声をかけない愚かさ。

そんなことを考えていたら、隣の席の子がお手洗いに行くようで、すいませんと声をかけられた。立ち上がった後もまた頭を下げてくれた。普通の男性ならこいつが可愛いか可愛くないかでドキドキしたりするのだろうが、今まで考えていたことが少し重かったのか、僕は何も考える余裕がなかった。

もうすぐ仙台である。
旅は何時いつでも、何度でも、僕を考えさせる。そんな存在なのかもしれない。
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