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第2話:風紀委員長・恐川槇尾
しおりを挟む寮らしき建物の一階まで降りると、林道の先に校舎が見えた。
どうやら山の中の孤立した学校のようだ。
これは寄宿舎といわれるやつなのかもしれない。
都心の貧乏公立校に通っていた身としては、「これが噂の…」という感想しかない。
真昼の陽光にしばし目を眇(すが)めていたが、ふと思い立ち、カバンをあさる。
やはり手帳があった。
手帳の脇ポケットに学生証があったため確認する。
『2S 恐川槇尾』
表札と同じだ。高校生なら2Sはクラス名ではないだろうか。
2年S組。名前から特進クラスと思われる。
じゃあおそらく、2階に上がれば教室が分かるだろう。
そう思って正面の校舎入り口に向かった。
「へえ、あんたがサボり? 珍しいねえ」
真下を向いて考え事をしていたため話しかけられて酷く驚いた。
声の主は世紀末に居た様なモヒカンだ。
「珍しいか?」
聞き返してみた。
「珍しいさ! へっ、寝坊か?
そのさまじゃあ俺のことは捕まえらんねえな!」
モヒカンはそう言って笑ってどこかへ立ち去っていった。
俺は立ち止まって、言われたことを反芻していた。
「俺」は少なくとも、普段真面目な態度を取っており、そして人を捕まえる権限を持っていたらしい。
クラス委員か、風紀か何かに所属していたのだろうか?
いや、さっきのやつと同じ部活に所属していて、俺がサボろうとしていたやつを毎回とっちめていたのかもしれない。
……あの髪型で何の部活をするのか想像が付かないのでそれは無いか。
校舎に入って2階に上がると、最初に2Aの表示板が目に入った。
隣は果たせるかな2S、中に入って「すいません、遅れました。」と発言し、空き席に座る。
名前などは書いて無いが空き席は一席なのですぐ分かった。
今は数学の授業中だった。
何の咎め立てもされないことから、俺が確かにこのクラスに所属している事が分かった。
数学の授業中はずっと手帳を見返し続けていた。
少しでもこいつがどんなやつか知っておきたかった。
手帳には散漫に色んな事が書かれていた。
時間割、学習のスケジュール、休日の予定、世話になった人間へのお礼状の予定、
ポルノサイトのアドレス、生徒役員室の暗証番号。
委員会の予定。
分かったことは、どうやら風紀委員長を務めているらしいこと、礼儀にうるさいらしいこと、洋物 ポルノが趣味であること(見慣れたアドレスだった…)
ポエムを紙の端に書く趣味が無いこと、綺麗な字をしていること、おそらく成績がいいこと(学習時間の割合から言って)。
そのくらいだった。
「お、どうしたんだ。お前が遅刻なんて珍しいな!」
果たせるかな、友人らしき人物が休憩になったとたんに話しかけてきた。
さて、どうしたものだろう。
この「恐川」になりきって話すべきだろうか。
それとも記憶喪失だというべきか。
後から考えれば取り繕うのは面倒だし後者にすべきだったかもしれない。
けれど考えるほどの時間も無かったので、素で返していた。
「目覚ましが止まっててな」
「ふーん? 珍しいな。お前にそんなことがあるのか…あのさ、さっき坂尾たちと話してたんだけど、来週の休み、町まで一緒にいかね?」
「…悪いな、来週はちょっと用事があるんだ」
「なんだ。お前これないんならやめようかなあ」
…存外普通に会話が続く。
どうやら俺にはそれなりに仲のよい友人がいる。
そして、この高校生はもとの俺とあまり変わらない口調や態度をしていたらしい。
それから授業と休憩中の会話を繰り返すうち、すぐ放課となった。
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