上 下
184 / 196
5章

9話目 中編 王の集まり

しおりを挟む
 その光景に俺は息を飲んだ。
 ファンタジー世界に来たという実感は前からすでに味わっていたというのに、まるで御伽噺の世界にでも迷い込んだかのような光景が扉の向こうにはあった。
 幻想的だとか綺麗という感想ではないが、恐らくそれぞれが高い身分を持つであろう人々が左右に多く並び、さらに奥には階段により高く位置された座が二つ並ぶ。
 そこには明らかに手前にいる者たちとは一線をかくす服装と雰囲気を纏った二人が座っていた。
 言われなくてもわかる。
 アレが……彼らがこの国の代表、王と王妃だろう。
 男の方は白髪と立派な白髭を生やし、厳格な顔付きで剣呑な雰囲気を纏っている。
 彼は外見年齢六、七十代に見えるのに対して、女性の方は長い金髪に緑色の瞳をした二、三十代くらいの若く艶めかしい外見をしていた。
 優しく微笑み全てを包み込んでしまえそうな雰囲気から二十代ほど若くないと邪推してしまう。
 その圧というか雰囲気に呑まれ気圧されてしまっていると、王国騎士の団長が一人だけ前に出る。
 ララも緊張の欠片も見えず、その後に続いて行ってしまう。

「ほら、お前らも行け」

 彼の部下に背中を押され、バランスが崩れながらも一足遅れてララたちに続く。
 しばらくの間、周囲のお偉いさんたちからの視線が突き刺さり、ちゃんと歩けているかさえ心配になるほど緊張で体が震えていた。
 動物園の動物たちっていつもこんな気持ちなのかしら……
 少しでも気を紛らわせようとそんなことを考えて現実逃避する。
 大体階段より手前くらいで騎士の男が止まり、その場で跪く。

「王国騎士団長ヴァイス、ただいま任務を果たし帰還致しました!」
「……うむ、ご苦労。して、その者らが例の魔族か?」

 王様らしき男が鋭い目を俺とララに向け、重く響く声を発する。ヒェ……

「魔族は女性の方のみ。男の方はこの魔族と親しい間柄だったらしく、同行を条件に大人しくついて来てもらいました」
「ほう?魔族と親しいとはまた……いや、そういえばその者も一度指名手配書が作られていたな。どれ、名はなんと言う?」

 未だに奇異の目で見られて緊張しているが、ゆっくりと深呼吸をして相手を見据えた。
 萎縮するな。相手の話を聞け。自分が何を言うべきか考えろ。

「……元冒険者ヤタ」
「ヤタ、か……面白いな。一応名乗っておこう、私はルド、こっちは妻のエマだ。私たちを前にしてもその堂々とした立ち振る舞いをする者はそうはいないぞ」

 言葉通り面白そうにニッと笑うルドと名乗った王様。
 周りもざわめき、俺が何かやらかした空気が流れる。なんだ堂々とって……あっ。
 王国騎士の男、先程ヴァイスと名乗った彼を見て思い至った。
 俺たちも跪いたりした方がよかったか……?
 今更な判断に一瞬焦る。

「この……無礼者がっ!」

 するとこの大部屋に誰がの怒号が響き渡った。
 女性の声だったが様子から見るに王妃のものでもなく、周囲にいる人たちも全員耳を塞いだりしていた。
 不意に足音が後ろから聞こえたので振り向くと、そこには頭以外の甲冑を身にまとった金髪の少女がこちらに近付いていた。
 金髪は長く鎧の中でまとめているように見え、その鎧も団長であるヴァイスが着ているものよりも上等な物のように見える。

「貴様、今どなたの前に立っていると思っている!? 王の御前だぞ!」

 ズンズンと大股で寄ってくる少女は整っている綺麗な顔をお構い無しに近付けてきた。

「いや、そりゃ見ればわかりますけれども……あんた誰?」

 俺がそう発言すると周りの人たちがさっきよりも大きくざわめき始める。あ、俺またなんか失言したっぽい。
 そして当の本人は額に青筋を浮かべてお怒り限界突破寸前のご様子でした。
 さらに少女は腰に携えていた剣を抜き、俺の首辺りに近付ける。

「……、この者の処罰は自分にお任せください」
「エルゼか……今は謁見中で忙しいのだがな」

 ヤダこの子物騒!最近の子は短気で怖いわね!……なんて言ってる場合じゃないか。
 え、マジで?お父様ってコイツ……王様の娘?王女?
 王女が鎧を着てるって何なんだよ……てっきりヴァイスと同じ立場かと思って軽口で言っちゃったよ!

「いや、あの――」

 少しでも丸く収めようと口を開いた瞬間、俺の頭の横に別の武器が配置される。ララの大剣だ。

「大人しくしていろ、小娘。もしも我らに手を出せばここにいる者はただでは済まなくなるぞ。もちろん貴様も、貴様の親もな」

 いや、あのね?多分俺のために怒ってそう言ってくれてるんだろうけど、君にも刃物を突き立てられてることになるんですよ?
 ちょっと頬に当たってるから!結構怖いから!
 あとララの言葉で王女さんの堪忍袋が爆発する五秒前になってます!もう見ただけで俺が泣きそう!

「貴様ッ……!不敬に侮辱、挙句に今の言葉は反逆の罪になるぞ!」
「ならないさ。我はこの国の民じゃない。それに単純な地位なら貴様より上だから」
「それはどういう意味――」

 今にも食ってかかりそうな女性は言葉の途中で膝から崩れてしまう。
 えっ、何が起きたの?
 少女も何が起きたか理解できず、混乱した様子で自分の体を眺めていた。

「王女様!?」
「王女様が危ない!衛兵、すぐにコイツらを捕らえろッ!」

 悲鳴混じりに周りの人たちからそんな声が上がり、ヴァイスが立ち上がると同時に外で待機していた騎士たちが入ってくる。
 このまま捕まるのか……
 そう思った瞬間、身に覚えのある感覚が体を包み込んだ。

【個体名「ララ」から発生した魔王の覇気です】

 頭の中でアナさんから情報がきた。
 そうだ、これはララが魔王として覚醒したあの時と同じ感覚だ。
 周囲を見渡すとお偉い人たちもほとんどの者が手と膝を突いて四つん這いになり、少し屈強な体の人でさえ膝を突いていた。

「これは……お前は一体……?」

 さっきまで剣呑な雰囲気だったルドも驚きで目を丸くしていた。
 そしてララはそんなルドさんに向き直り、威圧するような低い声で言い放つ。

「我は魔王。幾度も転生せし魔族の王なり」

 カッコイイッス、ララさん。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

処理中です...