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5章
6話目 前編 その夜
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ララから魔回路などの話を聞いたその夜。
化け物らしい姿を見せてしまっても客扱いをされ、俺たちには一人一部屋を与えられた。
ガカンは最初「自分は何もしていませんのでこんな良い部屋を与えてくださらなくっても……」と遠慮していたが、どの部屋も同じだしベッドのない部屋へ泊まらせるわけにもいかないということで本人も納得させられていた。
しかし実際、一人が使う部屋にしては広過ぎるように感じる。
なんだったら俺がこの世界に来る前まで住んでいたアパートの部屋が最低六部屋分はある。
むしろベッドだけでついこの前まで俺たちが泊まってた宿屋の部屋くらいあるんじゃないかと思えてくる。
ただ寝るだけでこの広さは落ち着かないな……
「……一服するか」
ベッドで横になっていた俺はそう呟き、ベッドの横で九尾の赤ん坊がすやすやと寝息を立てて専用の寝床で寝ているのを確認してから外に出る。
「にゃ?」
「にゃん?」
すると部屋から出てすぐにレチアと鉢合わせになる。
意外と驚いてしまい、レチアの語尾に似た声が漏れ出てしまった。
男が「にゃん」て……はっず。
「「…………」」
なぜかお互い見つめ合ったまま固まり、気まずい雰囲気になってしまう。理由はないはずなのに。
どうしたらいいの、ここ空気?
「……ヤタも寝れないにゃ?」
「『も』ってことはレチアもか。まぁ、いきなりこんなだだっ広い部屋で寝ろなんて言われても落ち着かないだけだかんな。だからちょっと外の空気を吸いにな。レチアも行くか?」
そう言いながらさっきフィッカーから出したタバコを見せると、レチアは呆れたような笑いを浮かべる。
「違うものを吸いに行くんじゃにゃーか……うん、行こっか」
同意したレチアと一緒に昼間の訓練場へと向かう。
そういえばガカンもタバコを吸うんだろうか?ちょっと聞いてみるか。
普段はあまり使わない念話があることを思い出して使ってみる。
【個体名「ガカン」は休眠状態のため応答できない状況下にあります】
……もう寝てしまったようだ。
俺たちは落ち着かなかったのに、ガカンは安眠してしまったようだ。誰よりも遠慮していたのに意外だ。
そして到着すると、そこにはすでに先客がいた。
「……ララち?」
レチアが彼女の名を呼ぶ。
夜の月明かりに照らされて立っているララ。
重い雰囲気を纏いながら静かに月を見上げる彼女の姿は幻想的にも思え、魔王であるその片鱗を見せていた。
そもそもそんなに長い付き合いじゃないララの性格が突然代わり、「自分は魔王である」と公言されても「ああ、そうだったの?」ぐらいにしか思えなかったし、最初に凄い力を見せられても敵対することもなく平然と会話していて実感が湧かなかった。
ただそれは単なる感情的な感想でしかない。
ここにいるのが魔王の記憶を取り戻す前のララだったらどう感じたのだろうか……なんて?意味もない「もしも」の話をするのはやめておくか。
「お前も寝られないのか、貧乏魔王」
「ん、ヤタか……なんだ、貧乏魔王とは?」
「ララもこの金持ち屋敷の豪華な部屋に案内されて、今まで四人で狭い部屋一つで過ごしてたから落ち着かねぇんじゃねえかと思ってな」
「…………」
ララは肯定も否定もせず、月を見上げるわけでもなく俺たちに背を向けて目を逸らす。
当たりかよ。魔王って王が付くから転生する前は貴族みたいな生活してたんじゃないかって勝手に思い込んでたわ。
いや、ララの記憶に引きずられたか?
「んじゃ、ララも一服どうだ?」
「……ああ、貰おう」
差し出した一本のタバコを受け取るララ。
そして俺もタバコを咥え、ライターで火を点ける。
「まだ使っててくれたんだにゃ?」
元々はレチアの物だったライターを見た彼女が懐かしむように微笑んで言う。
「コレ自体あまり吸わないから燃料の消費もないしな。それに貰い物はなるべく大事にする主義なんだよ、俺は」
そう言いつつもプレゼントを貰うこと自体ほぼなかったのは言葉にしない。
「まぁ、人から物を貰うこと自体少なそうだしにゃ、ヤタは」
「ちょっと?人がせっかく触れなかった傷口に岩塩投げ付けないでくれる?」
ボクサーに顎を殴られて足がガクガクになるくらいのダメージだよ。ボクサーに殴られたことなんてないけど。
ララにライターを差し出す。しかし彼女は受け取ろうとせず、俺のタバコをジッと見つめる。
「火種ならそこにあるではないか」
そう言うとララはタバコを咥えながら俺の咥えてるタバコに近付けて火を点ける。
ち、近い……
「僕もやるにゃ。ヤタ、少し屈んで」
レチアもタバコでタバコの火を点けようとしてくる。何、これ流行ってるの?
あとこれやると顔がめっさ近くなって恥ずかしいんだけど……
「「「ふぅ……」」」
火を点け終わると、俺を真ん中に三人それぞれが壁に寄りかかったりとリラックスできる体勢になりながら同時に一服。
二人とも普段はタバコを吸うイメージはないが、こうやっていても違和感はない。むしろ様になっているような……
「ゲホッ!ゲホッゲホッ……」
……と思っていたらララが勢いよく咳き込んでしまう。前言撤回しようかな……
「大丈夫かよ……?」
「あ、ああ……そういえばこの体になってからは初めてだったのを忘れていた……まさか体の方の経験がないだけでここまでとは……ゲホッ!」
それでもララはその後も吸おうとし、段々と感覚を思い出してきたのか咳をしなくなっていた。
そんな無理に吸わなくてもいいと思うのは俺だけか……まさかララって実はヘビースモーカーだったりするのか?
「……さてさて、これからどうしようか」
落ち着いて考えることが少なくなったところで、今後の不安が頭の中で浮かび始めた。
「ふむ、やはり早々にここを立つか?」
予想をしていたと言いたげなララ。
「そりゃあな。ただでさえタダ飯食らいでやっかいになるわけにはいかないのに、俺たちがここにいたら迷惑になっちまうだろ」
「正確には我が、だろう?」
少し驚いてどこを見ているわけでもなかった視線をララに向ける。
レチアも静かに視線を俺たちに向けてきた。
「昼間の風呂での話、聞こえてたのか?」
「レチアほどじゃないが、我も耳は良い方だからな……我がヤタと別れればお前たちを追う者は――」
「いや、それはない」
ララが最後まで言い切る前に遮って答える。レチアも同じ意見なのか、視線は向けてくるが会話に入って来ない。
「範囲はわからんが、俺たちも一度は指名手配されたんだ。そんな状態で他の町に行けば後ろ指を刺されるに決まってるし絶対絡まれる。それに戦力が減るのも困る」
「そういう理由でいいにゃか……」
保守的な理由を言うとレチアが呆れた顔で俺を見る。
……まさか恥ずかしいセリフを言わなきゃダメなの?
ララに視線を移すと、何かを期待してるような表情をしていた。
「あと……仲間を見捨てるのは……まぁ、後味が悪いしな……」
いやホント恥ずかしい。
レチアもニヨニヨしながら俺を見てくるし、ララは満足そうにしてる。
何これ。新手の罰ゲームかよ。
「そう言ってくれるのは……やはり嬉しいな。もう仲間と呼べるような者も一族も残ってないらしいからな」
ララの言葉で再び考え込む。
魔族は絶滅した……とは聞いたが、本当にそうだろうか?
たしかに俺のいた現代でも絶滅危惧種はいるが、人為的に絶滅させることなんて本当に可能なのか?
「……なぁ、この世界にこの星のどこにいても特定の人物や種族を必ず見つけ出す機械かなんかがあるのか?」
「いや、そんなものあるはずがないが……なぜだ?」
「絶滅なんて簡単に言うが、本当に誰一人生き残ってないのかって話だ。魔族にとってあまりにも過酷な環境だったっていうんなら話は別だが、人為的に種族一つを絶滅させることができたのか、ってな」
そう言うとララは「ふむ」と感情の起伏がない表情で空を見上げる。
「……もしかすれば生き残りがいる、か?」
「まぁ、しょうもない憶測だよ。いたところで今の俺たちからしたら『だからどうした?』ってなるだろうし、ララがいればそれでいいしな」
そう言いながら口から煙を吐いた。
……ん?
俺は今は何を言った?「ララがいればそれでいい」?
まるで告白みたいなこと言ってない、俺?
左右から視線を感じる気がする。
レチアはまたニヨニヨと人を小馬鹿にする笑みを、ララは少し恥ずかしそうに微笑みを向けてきていた。
あ~、また恥ずかしいこと言っちまった!しかも無意識に……
「今の無し。やっぱ無し!」
「残念、もう聞いてしまった」
「いいにゃいいにゃ、素直なヤタは可愛いにゃ~♪」
抵抗も虚しくララとレチアにおしくらまんじゅうが如く寄り挟まれてからかわれてしまう。
穴があったら入って埋まりたい気分でござる。
化け物らしい姿を見せてしまっても客扱いをされ、俺たちには一人一部屋を与えられた。
ガカンは最初「自分は何もしていませんのでこんな良い部屋を与えてくださらなくっても……」と遠慮していたが、どの部屋も同じだしベッドのない部屋へ泊まらせるわけにもいかないということで本人も納得させられていた。
しかし実際、一人が使う部屋にしては広過ぎるように感じる。
なんだったら俺がこの世界に来る前まで住んでいたアパートの部屋が最低六部屋分はある。
むしろベッドだけでついこの前まで俺たちが泊まってた宿屋の部屋くらいあるんじゃないかと思えてくる。
ただ寝るだけでこの広さは落ち着かないな……
「……一服するか」
ベッドで横になっていた俺はそう呟き、ベッドの横で九尾の赤ん坊がすやすやと寝息を立てて専用の寝床で寝ているのを確認してから外に出る。
「にゃ?」
「にゃん?」
すると部屋から出てすぐにレチアと鉢合わせになる。
意外と驚いてしまい、レチアの語尾に似た声が漏れ出てしまった。
男が「にゃん」て……はっず。
「「…………」」
なぜかお互い見つめ合ったまま固まり、気まずい雰囲気になってしまう。理由はないはずなのに。
どうしたらいいの、ここ空気?
「……ヤタも寝れないにゃ?」
「『も』ってことはレチアもか。まぁ、いきなりこんなだだっ広い部屋で寝ろなんて言われても落ち着かないだけだかんな。だからちょっと外の空気を吸いにな。レチアも行くか?」
そう言いながらさっきフィッカーから出したタバコを見せると、レチアは呆れたような笑いを浮かべる。
「違うものを吸いに行くんじゃにゃーか……うん、行こっか」
同意したレチアと一緒に昼間の訓練場へと向かう。
そういえばガカンもタバコを吸うんだろうか?ちょっと聞いてみるか。
普段はあまり使わない念話があることを思い出して使ってみる。
【個体名「ガカン」は休眠状態のため応答できない状況下にあります】
……もう寝てしまったようだ。
俺たちは落ち着かなかったのに、ガカンは安眠してしまったようだ。誰よりも遠慮していたのに意外だ。
そして到着すると、そこにはすでに先客がいた。
「……ララち?」
レチアが彼女の名を呼ぶ。
夜の月明かりに照らされて立っているララ。
重い雰囲気を纏いながら静かに月を見上げる彼女の姿は幻想的にも思え、魔王であるその片鱗を見せていた。
そもそもそんなに長い付き合いじゃないララの性格が突然代わり、「自分は魔王である」と公言されても「ああ、そうだったの?」ぐらいにしか思えなかったし、最初に凄い力を見せられても敵対することもなく平然と会話していて実感が湧かなかった。
ただそれは単なる感情的な感想でしかない。
ここにいるのが魔王の記憶を取り戻す前のララだったらどう感じたのだろうか……なんて?意味もない「もしも」の話をするのはやめておくか。
「お前も寝られないのか、貧乏魔王」
「ん、ヤタか……なんだ、貧乏魔王とは?」
「ララもこの金持ち屋敷の豪華な部屋に案内されて、今まで四人で狭い部屋一つで過ごしてたから落ち着かねぇんじゃねえかと思ってな」
「…………」
ララは肯定も否定もせず、月を見上げるわけでもなく俺たちに背を向けて目を逸らす。
当たりかよ。魔王って王が付くから転生する前は貴族みたいな生活してたんじゃないかって勝手に思い込んでたわ。
いや、ララの記憶に引きずられたか?
「んじゃ、ララも一服どうだ?」
「……ああ、貰おう」
差し出した一本のタバコを受け取るララ。
そして俺もタバコを咥え、ライターで火を点ける。
「まだ使っててくれたんだにゃ?」
元々はレチアの物だったライターを見た彼女が懐かしむように微笑んで言う。
「コレ自体あまり吸わないから燃料の消費もないしな。それに貰い物はなるべく大事にする主義なんだよ、俺は」
そう言いつつもプレゼントを貰うこと自体ほぼなかったのは言葉にしない。
「まぁ、人から物を貰うこと自体少なそうだしにゃ、ヤタは」
「ちょっと?人がせっかく触れなかった傷口に岩塩投げ付けないでくれる?」
ボクサーに顎を殴られて足がガクガクになるくらいのダメージだよ。ボクサーに殴られたことなんてないけど。
ララにライターを差し出す。しかし彼女は受け取ろうとせず、俺のタバコをジッと見つめる。
「火種ならそこにあるではないか」
そう言うとララはタバコを咥えながら俺の咥えてるタバコに近付けて火を点ける。
ち、近い……
「僕もやるにゃ。ヤタ、少し屈んで」
レチアもタバコでタバコの火を点けようとしてくる。何、これ流行ってるの?
あとこれやると顔がめっさ近くなって恥ずかしいんだけど……
「「「ふぅ……」」」
火を点け終わると、俺を真ん中に三人それぞれが壁に寄りかかったりとリラックスできる体勢になりながら同時に一服。
二人とも普段はタバコを吸うイメージはないが、こうやっていても違和感はない。むしろ様になっているような……
「ゲホッ!ゲホッゲホッ……」
……と思っていたらララが勢いよく咳き込んでしまう。前言撤回しようかな……
「大丈夫かよ……?」
「あ、ああ……そういえばこの体になってからは初めてだったのを忘れていた……まさか体の方の経験がないだけでここまでとは……ゲホッ!」
それでもララはその後も吸おうとし、段々と感覚を思い出してきたのか咳をしなくなっていた。
そんな無理に吸わなくてもいいと思うのは俺だけか……まさかララって実はヘビースモーカーだったりするのか?
「……さてさて、これからどうしようか」
落ち着いて考えることが少なくなったところで、今後の不安が頭の中で浮かび始めた。
「ふむ、やはり早々にここを立つか?」
予想をしていたと言いたげなララ。
「そりゃあな。ただでさえタダ飯食らいでやっかいになるわけにはいかないのに、俺たちがここにいたら迷惑になっちまうだろ」
「正確には我が、だろう?」
少し驚いてどこを見ているわけでもなかった視線をララに向ける。
レチアも静かに視線を俺たちに向けてきた。
「昼間の風呂での話、聞こえてたのか?」
「レチアほどじゃないが、我も耳は良い方だからな……我がヤタと別れればお前たちを追う者は――」
「いや、それはない」
ララが最後まで言い切る前に遮って答える。レチアも同じ意見なのか、視線は向けてくるが会話に入って来ない。
「範囲はわからんが、俺たちも一度は指名手配されたんだ。そんな状態で他の町に行けば後ろ指を刺されるに決まってるし絶対絡まれる。それに戦力が減るのも困る」
「そういう理由でいいにゃか……」
保守的な理由を言うとレチアが呆れた顔で俺を見る。
……まさか恥ずかしいセリフを言わなきゃダメなの?
ララに視線を移すと、何かを期待してるような表情をしていた。
「あと……仲間を見捨てるのは……まぁ、後味が悪いしな……」
いやホント恥ずかしい。
レチアもニヨニヨしながら俺を見てくるし、ララは満足そうにしてる。
何これ。新手の罰ゲームかよ。
「そう言ってくれるのは……やはり嬉しいな。もう仲間と呼べるような者も一族も残ってないらしいからな」
ララの言葉で再び考え込む。
魔族は絶滅した……とは聞いたが、本当にそうだろうか?
たしかに俺のいた現代でも絶滅危惧種はいるが、人為的に絶滅させることなんて本当に可能なのか?
「……なぁ、この世界にこの星のどこにいても特定の人物や種族を必ず見つけ出す機械かなんかがあるのか?」
「いや、そんなものあるはずがないが……なぜだ?」
「絶滅なんて簡単に言うが、本当に誰一人生き残ってないのかって話だ。魔族にとってあまりにも過酷な環境だったっていうんなら話は別だが、人為的に種族一つを絶滅させることができたのか、ってな」
そう言うとララは「ふむ」と感情の起伏がない表情で空を見上げる。
「……もしかすれば生き残りがいる、か?」
「まぁ、しょうもない憶測だよ。いたところで今の俺たちからしたら『だからどうした?』ってなるだろうし、ララがいればそれでいいしな」
そう言いながら口から煙を吐いた。
……ん?
俺は今は何を言った?「ララがいればそれでいい」?
まるで告白みたいなこと言ってない、俺?
左右から視線を感じる気がする。
レチアはまたニヨニヨと人を小馬鹿にする笑みを、ララは少し恥ずかしそうに微笑みを向けてきていた。
あ~、また恥ずかしいこと言っちまった!しかも無意識に……
「今の無し。やっぱ無し!」
「残念、もう聞いてしまった」
「いいにゃいいにゃ、素直なヤタは可愛いにゃ~♪」
抵抗も虚しくララとレチアにおしくらまんじゅうが如く寄り挟まれてからかわれてしまう。
穴があったら入って埋まりたい気分でござる。
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