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2章

12話目 中編 彼女を残して

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「で、話を変えるけどヤタはこの町を出る時どうするにゃ?」
「どうって……とりあえずここから近い町の道のりまでを調べて……」
「そうじゃにゃいにゃ」

 「じゃあ、にゃんにゃのにゃ?」とふざけて口調を真似したくなったが、それをやったら彼女の機嫌を損ねて殴られるか引っ掻かれそうな気がしたからやめた。

「ララちのことにゃ」
「あいつがどうしたんだ?」
「置いてくのにゃ?」

 ああ、そのことか。
 どうせだから、俺の今後の方針も含めてレチアに話しておくことにした。

「もちろん置いていく。恩があるとはいえ、そもそも行きずりで出会った関係だからな。俺の都合で一緒に連れて行くわけには行かない」
「連れて行きたくはないのにゃ?」

 レチアの問いに少し考える。

「連れて行きたくない、って言ったら嘘になるけど、戦力としてはイクナとレチアだけでも十分だしな……」

 そう言うとレチアがわざとらしく溜息を吐く。あれ、呆れるような要素あった?

「……あっ、俺もちゃんと戦うからな?どうせ痛みも感じないし死なない体なんだから、特攻くらい――」
「違う、そうじゃにゃいにゃ。まぁ、どうせ僕らがどうこう言うだけで進める話じゃにゃいから、その話は後でいいにゃ」

 自分で話を振っといてなんなんだ……
 そのまま宿に向かって歩いて行くレチアの後ろ姿を見て、俺は溜息を吐いてその後を追った。

☆★☆★

 安宿を借りている黒髪の少女ララは、カーテンも付いていない窓から差し込む眩い朝日を浴びて目を覚ます。
 朝特有の低気温から免れようと、ララは自らを包んでいる布団代わりの薄い布を引き寄せて身動ぎする。
 僅かな温もりを感じるためにしばらくそのまま固まっていると、違和感に気付いて勢いよく起き上がる。
 そこには昨晩まで一緒にいたはずの者たちの姿がなかった。
 レチア、イクナ、ヤタ……彼彼女らの姿がない。しかも猫一匹の影すら。
 ただいなくなるのであれば、また単独行動をしているのだろうと考えるところだが、彼女自身のを除いたヤタたちの荷物が全て綺麗さっぱり無くなっているのだ。

「……」

 ララは眉をひそめて訝しげな表情をする。
 疑問よりも先に「まさか」という心当たりが彼女の中にあった。
 そしてララはヤタが寝ていた椅子の上に一枚の紙を見つける。
 拾った紙にはこう書いてあった。

【ララへ】
【お前がこの紙を見つけてる頃には俺は部屋を引き払っているだろう。俺が責任を持つべき二人……と、なぜかついてくる黒猫一匹を連れて。黙って行くことにしたのは申し訳ないが、気持ち良さそうに寝てたから、こうして置き書きを残して出ることにしたんだ。代わりと言っちゃなんだが、部屋は人数関係なく一部屋で支払えばいいみたいだから今日から三日分のを先に支払っておいた。最初にあった時に俺を助けてくれたお礼とでも思ってくれ。縁があったらまた会おう。じゃあな】
【ヤタ】

 ――ぐしゃっ
 内容を読み終えたララは不機嫌そうに据わった目をして紙を握り潰す。

☆★☆★

 ゴトゴトと乗っている馬車から今まさに走っている音を聞きながら、乗り心地の悪さに耐えていると横から溜息が聞こえてきた。

「結局、ララちに何も言わず出てきちゃった二……」

 横にいるレチアがそう言う。
 俺たちは朝一番にこの町から別の町へ向かう幌馬車の荷台へと乗せてもらい、雑談をすることもなく沈黙して進んでいた。
 馬車に乗る際にプレートを見せ、冒険者だと申告すれば、その階級に応じて割引があるらしい。乗客であると同時に護衛としての料金、とのことだ。
 俺たちとイクナは共に駆け出しなので、それぞれ一割引。
 レチアは見習いで本当なら二、三割まで割引てもらえるのだが、残念ながら奴隷堕ちしてしまったために割引はゼロとのこと。
 支払う時、レチアが申し訳なさそうに謝っていたが、しょうがないことだと割り切るしかないだろう。
 そしてレチアがそんなことを呟いたのは、町を出て数時間が経った頃だった。
 ちなみに他にも乗り合わせている客はいるので、レチアが亜種だというのをバレないよう口調を「にゃ」から「二」に戻している。

「ララがあんだけ気持ち良さそうに寝てんだから……お前だって起こしたくないって言ってたじゃねえか」
「たしかにそっとしておいた方がいいとは言ったけど……」

 どうにも納得できない様子のレチア。

「それにあいつはもう俺たちより上の階級になったんだ。俺たちと一緒に低い階級の依頼をやるより、それなりに報酬の高いもんを受けた方がいいだろ」
「そういうのを本人に相談もせず勝手に決めて……次会った時は殴られる覚悟はしておいた方がいい二よ?」

 そう言って責めるようなジト目で睨んでくるレチア。
 どうやらララ自身よりも、一緒に来させなかったことがレチアにとって不満らしい。当分は愚痴を言われそうだ……

「大丈夫だ。俺は痛みを感じないから、例え不意打ちで食らったとしても問題はない。なんなら公衆の面前でマウント取って気が済むまでボコボコにしてくれたっていいくらいだ」
「いや、いくらララちでもそこまでしないと思う二……」

 そう言って呆れるレチア。
 話題がなくなってまた沈黙がやってくる。
 唯一の救いは、イクナが物珍しそうに外の景色を眺めて「アー」とか「ウー?」と呟いているのが微笑ましく思えてほっこりすることか。
 たまに飽きるのか、イクナは俺の膝の上に乗ったりしてくるので、その頭を撫でてやったりするのである。

「……ヤタって父親みたい二ね」
「子供もいなければ相手だっていたことない俺になんて残酷なことを言いやがる……まぁ、一応妹はいたことがあって、あやしてたりした時期があったからそれのせいなんじゃないか?」
「ヤタにも妹がいたんだ二?……って『いたことがあった』?それって……」

 レチアがやってしまったとでも言いたげに不安そうな表情をして言葉を詰まらせる。
 あ、もしかして勘違いさせちまったか?

「いや、ちゃんと生きてるぞ?」
「ああ、なんだ……」

 レチアは心底安心したようにホッとしていた。

「じゃあ、なんなん二、さっきの言い方は?」
「……お前はさ、どこまでだったら家族を家族として呼べる?」
「……何?」

 「何を意味のわからないことを言うんだ?」とわかりやすく言いたそうに訝しげな表情をしているレチアに、続けて説明をした。

「最初はもちろん俺も一般家庭同様、両親から愛情を注がれていたんだ。妹が産まれてから少し分散したとはいえ、それでも『兄』としてちゃんと扱われていた。けどさ……妹が歳を重ねるごとに両親の俺に対する扱いがぞんざいになっていったんだ。その理由は簡単で簡潔で明白だった……『妹の方が可愛い』だってさ」
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