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2章
1話目 後編 奇妙な少女
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「ちょっとそこで見てる二!」
レチアはそう言うと俺の手から短剣を取り返し、颯爽と走って行った。
えっ、一人で行っちゃうの?
そう心配したのも束の間、レチアはゴブリンたちが気付いた瞬間にはもう抜刀し、その二匹の首を飛ばしていた。
その際、彼女の胸が大きく揺れたのに目が一瞬でもいってしまったことは内緒だ。
「……マジかよ」
「マジ二よ!」
驚いた俺の小さな呟きが聞こえていたレチアは、子供のような無邪気な笑顔を俺たちに向けてグッドサインをしてきた。
「でも……今のはレチアの身体能力が凄いんじゃないのか?猫みたいな俊敏な動きだったし……」
「ニッ!?……そ、そうか二?そう言ってくれるのは嬉しいけど、本当にそうだったら僕の階級はもうちょっと上がってるんじゃないか二?」
明らかに動揺した様子でそうまくし立てる。
何か隠してるみたいだが……ま、プライベートに深く関わる気はないから追求はしないでおこう。
「……それもそうだな。んじゃ、武器自慢も終わったみたいだし、さっさと行こうぜ……っと、どうせだから倒したゴブリンの素材も回収しようぜ」
「あ……うん!って、それ僕の倒したゴブリンだから!素材は僕が貰う二!」
チッ、どさくさに紛れていただこうと思ったのに……勘のいい奴め。
「あ、それはそうとさ、冒険者になったばかりなら僕が指導してあげよっか?」
「指導?何のだ?」
「そりゃもう、同じ短剣使いなんだから、短剣での戦い方二!」
レチアはそう言うと、抜刀したままの短剣をブンブン振り回す。
「危ねぇ!?そんな凶器を適当に振り回すな!」
「ニッヒヒヒヒ♪」
レチアは変な笑い方をすると、俺の腕に抱き着いてきた。
「っ!?」
「ガゥ?」
「お、おい?なんだよいきなり……」
というか当たってる!むしろ挟まれてる!?
痛覚が無くなったとはいえ、他の感覚は残っている。だからその包まれるような柔らかさが腕を通して伝わってくるのだ。
そしてなぜだろう、ララから今まで以上の「圧」を感じる……!
「同じ武器を使う後輩ができたから嬉しいだけ二!これからは僕が君の師匠二!」
「……ん?」
え、何、いつの間に俺はこいつの弟子になってたの?って、そんなわけないだろ。
「なんで勝手に決めてるんだよ」
「えっ……嫌なの二?」
またもや首を傾げてあざとく上目遣いをしてくる。
もう惑わされんぞ。というか、あんまソレを乱用されると、ただ相手をムカつかせるだけだってのはわからないのだろうか?
……なんて思っていても、「その態度がムカつくからやめろ」などとハッキリ言える度胸がない俺。
「ああ、そうだな、嫌だ。お前とは長い付き合いになるわけでもない、町に帰るまでの関係だよ、俺たちは」
「えー、そんな水臭いこと言いっこ無しだ二ー……何も今生の別れってわけでもない二?」
今生の別れ……ある意味そう捉えられるかもしれない。
俺たちはもう少ししたらあの町を離れるのだから……
そう思ったら軽く笑えてしまった。
「ああ、そうだな。俺とイクナはともかく、ララとはこれからも仲良くしてくれるか?」
ララには聞こえないギリギリの小声で彼女にそう言った。
「……う、うん!いい二よ!女の子同士なんだからお安い御用二!っていうか、イクナちゃんも女の子なんだから気にせず仲良くする二!ネー?」
若干返事に間があったのが気になったが、それよりもあまり大声で言わないでほしい。一応ララには俺があの町を出ることは内緒なんだから……
というか、なんか遠回しに俺とは仲良くしない的なこと言ってない?考え過ぎ?
そう思いながら、レチアが同意を得ようとイクナに絡もうとするが思いっ切り拒否られている光景を眺めた。
――――
「――でね、そいつがまた嫌な奴なんだよー!僕の体をジロジロと見てニヤニヤしたりしてさー」
歩きながらちょこちょこ雑談をしようと話しかけてきていたレチアの話題をぶった切り、俺から話を切り出す。
「ところでお前の目的地はどこなんだ?」
「……え?」
突然話題を変えられたことに驚いたのか、レチアは一瞬固まる。
「いや、『え?』じゃなくて。そもそも同じ方向だけど目的地は違うんじゃなかったのか?」
「あー……いや、全く違うってわけじゃない二。えっと……そう二!目的地は炭鉱だ二!だからほとんど最後までついて行く形になる二!」
なんだかたった今思い付いた言い訳のようなセリフだったんだが。
大丈夫なの、この子?本当に罠に嵌めようとしてるのか天然なのか、ちょっとわからなくなってきたぞ……
「ああ、そうかい。でも変なことはあまり考えるなよ?俺だけならともかく、ララやイクナを巻き込もうとするなら、相手が女子供老人とて容赦はしないからな。子供だったらお気に入りのおもちゃを壊し、老人だったら入れ歯を地面に落として土まみれにしてやる。やられたらやり返すのが俺の流儀だ」
「わ、わかってる二!……というか、やり返し方がかなり陰険じゃないか二?」
レチアのツッコミに俺は「うっせ」と返し、歩みを進め続けた。
しばらく歩き、目的地がそろそろだというところでレチアが立ち止まる。
「どした?」
「……残念だけど、僕が君たちと同行できるのはここまで……お別れ二」
そう言い出したレチアの表情は、心做しか落ち込んでいるように見えた。
「……そか。帰りはどうする?どこかで待ち合わせするか?」
「っ……!」
俺の言葉にわかりやすいほどの反応を見せたレチア。
何をしようとしてるかまではわからないが、何か後ろめたいことをしようとしていることは確かなようだ。
「そうする二……ああでも、僕のはそんなに時間はかからないから、君たちは安心して鉱石を採ってていい二!」
安心できるわけないだろうが、バカやろう……そんな言葉を言うってことは俺たちをターゲットにしてるってことだし、何よりこっちまで悲しくなってくるほどレチア自身が切なそうな顔してんじゃねえか。
……これをこいつ自身に言ったところでどうにもならなそうな事情を抱えてるっぽいな。
「ああ、わかった。じゃあ、あとで合流な」
それだけ言ってレチアと別れる。
少し歩いてレチアの姿が見えなくなったところで、ララが俺の袖を軽く引っ張った。
また何か怒ってるのかと思って振り返ったが、彼女の表情はどこか辛そうだった。
ララもまた、レチアのおかしな様子に気付いたのだろう。
唯一状況を飲み込めてないイクナは、首を傾げて俺たちの顔を下から覗き込んでいた。
「ああ、わかってる。あいつは俺たちを嵌めようとしてるみたいだ。しかも嵌めようとしてる本人が後々後悔するかもしれないくらいのやつを、な」
すぐに思い付くことと言ったら、俺たちへ直接被害に合わせるような物理的なものと、殺人みたいな冤罪などを被せようとしてるかのどちらかだな。
まぁ、後者は迷わずあいつを差し出すとして、前者だった場合はどう対処しようか……
もし狙ってくるとしたら、鉱石を掘ってる時くらいか?ふーむ……
ふと意識を戻すと、ララが心配そうな表情で俺を見ていた。なんか俺、期待されてる?
おいおい、そんなに困るぞ?もしかしたら俺の考え過ぎで、レチアの考えてることはしょーもないことだったかもしれないんだし。
「ここで考えててもしょうがないってやつだな。とりあえず行こうぜ?何かあったら……ま、盾くらいにはなってやるよ」
一度はバラバラにされた身。
痛みという概念が無くなったおかげか、多少なら自分を犠牲にできるという考えが出てきていた。
そんな俺の発言が気に食わなかったのか、ララが尻に軽い膝蹴りを食らわせてきた。
レチアはそう言うと俺の手から短剣を取り返し、颯爽と走って行った。
えっ、一人で行っちゃうの?
そう心配したのも束の間、レチアはゴブリンたちが気付いた瞬間にはもう抜刀し、その二匹の首を飛ばしていた。
その際、彼女の胸が大きく揺れたのに目が一瞬でもいってしまったことは内緒だ。
「……マジかよ」
「マジ二よ!」
驚いた俺の小さな呟きが聞こえていたレチアは、子供のような無邪気な笑顔を俺たちに向けてグッドサインをしてきた。
「でも……今のはレチアの身体能力が凄いんじゃないのか?猫みたいな俊敏な動きだったし……」
「ニッ!?……そ、そうか二?そう言ってくれるのは嬉しいけど、本当にそうだったら僕の階級はもうちょっと上がってるんじゃないか二?」
明らかに動揺した様子でそうまくし立てる。
何か隠してるみたいだが……ま、プライベートに深く関わる気はないから追求はしないでおこう。
「……それもそうだな。んじゃ、武器自慢も終わったみたいだし、さっさと行こうぜ……っと、どうせだから倒したゴブリンの素材も回収しようぜ」
「あ……うん!って、それ僕の倒したゴブリンだから!素材は僕が貰う二!」
チッ、どさくさに紛れていただこうと思ったのに……勘のいい奴め。
「あ、それはそうとさ、冒険者になったばかりなら僕が指導してあげよっか?」
「指導?何のだ?」
「そりゃもう、同じ短剣使いなんだから、短剣での戦い方二!」
レチアはそう言うと、抜刀したままの短剣をブンブン振り回す。
「危ねぇ!?そんな凶器を適当に振り回すな!」
「ニッヒヒヒヒ♪」
レチアは変な笑い方をすると、俺の腕に抱き着いてきた。
「っ!?」
「ガゥ?」
「お、おい?なんだよいきなり……」
というか当たってる!むしろ挟まれてる!?
痛覚が無くなったとはいえ、他の感覚は残っている。だからその包まれるような柔らかさが腕を通して伝わってくるのだ。
そしてなぜだろう、ララから今まで以上の「圧」を感じる……!
「同じ武器を使う後輩ができたから嬉しいだけ二!これからは僕が君の師匠二!」
「……ん?」
え、何、いつの間に俺はこいつの弟子になってたの?って、そんなわけないだろ。
「なんで勝手に決めてるんだよ」
「えっ……嫌なの二?」
またもや首を傾げてあざとく上目遣いをしてくる。
もう惑わされんぞ。というか、あんまソレを乱用されると、ただ相手をムカつかせるだけだってのはわからないのだろうか?
……なんて思っていても、「その態度がムカつくからやめろ」などとハッキリ言える度胸がない俺。
「ああ、そうだな、嫌だ。お前とは長い付き合いになるわけでもない、町に帰るまでの関係だよ、俺たちは」
「えー、そんな水臭いこと言いっこ無しだ二ー……何も今生の別れってわけでもない二?」
今生の別れ……ある意味そう捉えられるかもしれない。
俺たちはもう少ししたらあの町を離れるのだから……
そう思ったら軽く笑えてしまった。
「ああ、そうだな。俺とイクナはともかく、ララとはこれからも仲良くしてくれるか?」
ララには聞こえないギリギリの小声で彼女にそう言った。
「……う、うん!いい二よ!女の子同士なんだからお安い御用二!っていうか、イクナちゃんも女の子なんだから気にせず仲良くする二!ネー?」
若干返事に間があったのが気になったが、それよりもあまり大声で言わないでほしい。一応ララには俺があの町を出ることは内緒なんだから……
というか、なんか遠回しに俺とは仲良くしない的なこと言ってない?考え過ぎ?
そう思いながら、レチアが同意を得ようとイクナに絡もうとするが思いっ切り拒否られている光景を眺めた。
――――
「――でね、そいつがまた嫌な奴なんだよー!僕の体をジロジロと見てニヤニヤしたりしてさー」
歩きながらちょこちょこ雑談をしようと話しかけてきていたレチアの話題をぶった切り、俺から話を切り出す。
「ところでお前の目的地はどこなんだ?」
「……え?」
突然話題を変えられたことに驚いたのか、レチアは一瞬固まる。
「いや、『え?』じゃなくて。そもそも同じ方向だけど目的地は違うんじゃなかったのか?」
「あー……いや、全く違うってわけじゃない二。えっと……そう二!目的地は炭鉱だ二!だからほとんど最後までついて行く形になる二!」
なんだかたった今思い付いた言い訳のようなセリフだったんだが。
大丈夫なの、この子?本当に罠に嵌めようとしてるのか天然なのか、ちょっとわからなくなってきたぞ……
「ああ、そうかい。でも変なことはあまり考えるなよ?俺だけならともかく、ララやイクナを巻き込もうとするなら、相手が女子供老人とて容赦はしないからな。子供だったらお気に入りのおもちゃを壊し、老人だったら入れ歯を地面に落として土まみれにしてやる。やられたらやり返すのが俺の流儀だ」
「わ、わかってる二!……というか、やり返し方がかなり陰険じゃないか二?」
レチアのツッコミに俺は「うっせ」と返し、歩みを進め続けた。
しばらく歩き、目的地がそろそろだというところでレチアが立ち止まる。
「どした?」
「……残念だけど、僕が君たちと同行できるのはここまで……お別れ二」
そう言い出したレチアの表情は、心做しか落ち込んでいるように見えた。
「……そか。帰りはどうする?どこかで待ち合わせするか?」
「っ……!」
俺の言葉にわかりやすいほどの反応を見せたレチア。
何をしようとしてるかまではわからないが、何か後ろめたいことをしようとしていることは確かなようだ。
「そうする二……ああでも、僕のはそんなに時間はかからないから、君たちは安心して鉱石を採ってていい二!」
安心できるわけないだろうが、バカやろう……そんな言葉を言うってことは俺たちをターゲットにしてるってことだし、何よりこっちまで悲しくなってくるほどレチア自身が切なそうな顔してんじゃねえか。
……これをこいつ自身に言ったところでどうにもならなそうな事情を抱えてるっぽいな。
「ああ、わかった。じゃあ、あとで合流な」
それだけ言ってレチアと別れる。
少し歩いてレチアの姿が見えなくなったところで、ララが俺の袖を軽く引っ張った。
また何か怒ってるのかと思って振り返ったが、彼女の表情はどこか辛そうだった。
ララもまた、レチアのおかしな様子に気付いたのだろう。
唯一状況を飲み込めてないイクナは、首を傾げて俺たちの顔を下から覗き込んでいた。
「ああ、わかってる。あいつは俺たちを嵌めようとしてるみたいだ。しかも嵌めようとしてる本人が後々後悔するかもしれないくらいのやつを、な」
すぐに思い付くことと言ったら、俺たちへ直接被害に合わせるような物理的なものと、殺人みたいな冤罪などを被せようとしてるかのどちらかだな。
まぁ、後者は迷わずあいつを差し出すとして、前者だった場合はどう対処しようか……
もし狙ってくるとしたら、鉱石を掘ってる時くらいか?ふーむ……
ふと意識を戻すと、ララが心配そうな表情で俺を見ていた。なんか俺、期待されてる?
おいおい、そんなに困るぞ?もしかしたら俺の考え過ぎで、レチアの考えてることはしょーもないことだったかもしれないんだし。
「ここで考えててもしょうがないってやつだな。とりあえず行こうぜ?何かあったら……ま、盾くらいにはなってやるよ」
一度はバラバラにされた身。
痛みという概念が無くなったおかげか、多少なら自分を犠牲にできるという考えが出てきていた。
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