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1章
1章閑話 後編 モルモット
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☆★☆★
「アアァァァアアァァァッ!カユイ!カユイィァァァァッ!!」
少女が連れてこられてから六日目の夜。閉じ込められた部屋で彼女が暴れていた。
「痒い」と言うだけで体を搔くのではなく、周囲の物を破壊する。
そんな彼女の肌の色は人間とは思えないほど青く染色してしまっていた。
そこに白衣の研究員が複数人で押し入り、彼女を押さえようとする。
「おい、そっちを押さえろ!」
「凄い力……!実験は成功してたんだ!」
「成功だと!?制御できなければ成功なんて言えないぞ!」
体付きのいい男が五人がかりで押さえ付け、他の一人が持っていた注射針を少女へと打ち込む。
すると少女は次第に落ち着きを取り戻し、眠りに落ちる。
「……眠ったか」
研究員のうちの一人がそう呟くと、他の全員が胸を撫で下ろす。
「薬の効果が濃過ぎたか……理性が無くなってしまっているな」
「だが戦闘力に関しては期待できるぞ!大の大人の男が五人でやっと押さえ付けられるこの力……上手く手懐けられれば、上に報告できる案件だ!」
「バカを言うな!こんなんを成功事例として報告したら俺たちの首が飛ぶ!」
「ヒヒッ、仕事と自分の首、二重の意味でな……」
会話が飛び交う中、研究員の一人が少女を抱えて運び出す。
それは少女へ注射を刺した赤髪の女性だった。
「初めて見た時から一変しちまったな?亜種……いや、もう魔物みてえだ」
本人の意識が無いのをいいことにそう言って、ニヤニヤといやらしく笑う赤髪の女性。
彼女はまた何も無い部屋へと少女を移し、足に頑強そうな鎖の付いた輪で繋げた。
「年端もいかない少女をこうやって閉じ込めるのは心苦しいが、私も仕事だから許してくれよ……」
言葉とは裏腹に詫びれた様子も無く立ち去る赤髪の女性。
そして少女は再び部屋に一人、取り残されてしまった。
――――
そして少女に変化が出て四日後、ここに連れて来られて十日が経った頃。
「あー?うー……」
少女が暴れて以来、それ以降は一度も暴れることもなく過ごしていた。
しかし代わりに言語機能などが著しく低下したことでほとんど喋ることができなくなってしまっていた。
何も無い虚空を見つめて呟いたり、動物のように四足歩行で部屋の中を歩き回ったりと、少女はすでに人間として正常な行動を取っていなかった。
そして……彼女が居座っている部屋は最初に比べ、獣の傷跡や焼け跡などが至る所に目立っている。
「……なぁ、この研究ってこれ以上進展するのか?むしろ退化しかしてないような……」
「戦力が手に入るのなら、多少の失敗も成果に繋がる。事実、アレの戦闘力は人間を優に超え、中に入れた魔物を尽く倒して見せたじゃないか?まぁ、まだ条件付きの不安定な状態だが……」
ガラス越しに研究員が少女を観察する。
そのガラスは研究員側からは見えるが少女側からは見えないものとなっており、ゆっくりとその様子を彼らは観察し紙に書き記していた。
「この仕事を終えたらゆっくりしたいなぁ……」
「もう少しの辛抱だ。これをもう一ヶ月続ければ、上に報告できて一段落できるからな」
「聞いたか?別の実験をしてる奴らの中の男女一組が、研究が落ち着いたら結婚するんだってよ……ケッ!」
「マジかよ……実験失敗して爆発しねえかな」
「無駄口を叩くな、バカども。休みが欲しければさっさと働け」
数人の研究員が何気無い会話を繰り広げていた……その五日後。
「ガアァァァァッ!」
その日、施設中に獣のような少女の咆哮が響き渡った。
さらに爆発音も次々と各所で起こる。
「うわぁぁぁぁっ!?実験中の魔物が逃げたぞっ!」
「いやぁぁぁぁっ!?た、たす、助け……!」
「おい、やめろ行くな!」
「止めるな!彼女を……僕は彼女を助けに行かなければならないんだ!」
施設内は改造されている魔物も解き放たれパニック状態となり、戦闘力の無い研究員たちが次々と惨殺されていってしまう。
最初は人の方が多かった施設内は時間が経つにつれて魔物のみとなってしまった。
「アゥア?」
そんな中、魔物に混じって少女が散歩をするように歩き回っていた。
解き放たれ暴れる魔物の中で闊歩する少女を誰も気に留めることない。まるで魔物が彼女を仲間だと認識しているようだった。
「グゥ……」
少女は他の魔物が人を食べているのを一瞥するが、その顔に驚きや恐怖といった感情は見られず、何かを探すように淡々と歩き続けていた。
すると少女はある一室へと辿り着いた。
「ガゥ?……ガァッ!」
大人がやっと開けられるほどの大きさをした扉だが、人外の力を手にした少女が押すとすぐに開いた。
そこは部屋というには広々とし、壁も地面も天井もグロテスクなピンク色の「肉」に覆われてしまっている。
それらは生き物のように脈を打ち、モゾモゾと蠢いていた。
少女は臆すどころか不思議そうに進んで中へと入り、地面の「肉」をペシペシと叩く。
すると壁の一部が大きく動き出し、中から人間の上半身が出てきた。
「ぷはぁっ……ゲホッゲホッ!?……あたしは生きて……るの……?」
それは白衣を着た女性、研究員の一人だった。
意識も朧気な女性が周囲を見渡し、肌の青くなった少女を見つけると小さく悲鳴をあげる。
しかしそれが実験対象の少女であることを思い出した女性は、表情を明るくした。
「ね、ねえ!あなたあの子よね?No.197よね!?私を助けてよ!」
「アウ?」
女性の求めに少女は首を傾げる。
少女は少しずつ女性に近寄って行く。だが女性にとって少女の歩む遅さがもどかしく感じ、さらにズブリと自らの体が「肉」の中に沈んだのを感じた彼女は焦燥に表情を歪ませた。
「っ……早く助けろよ、このノロマが!」
「っ!グルルルルルルルゥ……!」
突然大声を出された少女は警戒を一気に高め、女性に対して敵意を剥き出しにする。
「やっぱりお前は失敗作だった……いや、厄病神だ!こうなったのはそもそもお前が暴れたのが原因よね?お前のような化け物がいなければこんなことには――」
「グアァァァァッ!!」
言葉の途中、少女が叫び続ける女性の喉元を引っ掻いた。
「なあ……ぁ……?」
素早い動きを女性の目では捉え切れず、何をされたか理解できないまま吐血する。
そして女性の血がポタポタと落ちるとその部分の「肉」が動き出し、急速に彼女を飲み込んでいく。
「あ……ああぁぁぁぁああぁぁ――」
吐血しながらも必死に生きようと手を伸ばす女性だが、その想いも虚しく全て飲み込まれてしまった。
女性のいなくなった部屋は「肉」がグチュグチュと蠢く音だけが鳴る。
彼女がいなくなって落ち着いた少女は周囲を見渡す。
すると少女の近くでボトリと何かが落ちる音が彼女の耳に入った。
少女が音のする方へ振り返ると、そこには「実」が落ちていた。
「……オ?」
突然出現したソレに興味を持った少女は恐る恐る近付き、長くなった爪で突っつく。
楕円形をした実は転がり、少女が驚いて肩を跳ねさせる。その様はまるで猫や犬のようだった。
少女はソレが生物ではないと理解したのか、再び近付いてペタペタと触る。
自分に危害を加えないとわかると、少女はソレを持ち上げる。
ソレが何かを理解してない少女は、投げたり蹴ったりして遊んでいた。
途中、ソレはグチュッと潰れるような音を立てて落ちる。
中から液体が垂れ流され、少女は興味本位からその液体を舐めた。
「ん~~~~♪」
すると少女は両手を頬に当て、幸せに満ち溢れた声を漏らしながら顔を綻ばせ、さらに中身を開いて食べ始める。
それは本来、ある魔物が人間や動物などを捕食するために催眠効果を含んだ食物なのだが、実験の副産物か彼女には効かないようだった。
それからヤタと出会い「イクナ」と名付けられるまでの数日、彼女は定期的にそこで生成される実で食に困ることなくこの部屋で過ごした。
「アアァァァアアァァァッ!カユイ!カユイィァァァァッ!!」
少女が連れてこられてから六日目の夜。閉じ込められた部屋で彼女が暴れていた。
「痒い」と言うだけで体を搔くのではなく、周囲の物を破壊する。
そんな彼女の肌の色は人間とは思えないほど青く染色してしまっていた。
そこに白衣の研究員が複数人で押し入り、彼女を押さえようとする。
「おい、そっちを押さえろ!」
「凄い力……!実験は成功してたんだ!」
「成功だと!?制御できなければ成功なんて言えないぞ!」
体付きのいい男が五人がかりで押さえ付け、他の一人が持っていた注射針を少女へと打ち込む。
すると少女は次第に落ち着きを取り戻し、眠りに落ちる。
「……眠ったか」
研究員のうちの一人がそう呟くと、他の全員が胸を撫で下ろす。
「薬の効果が濃過ぎたか……理性が無くなってしまっているな」
「だが戦闘力に関しては期待できるぞ!大の大人の男が五人でやっと押さえ付けられるこの力……上手く手懐けられれば、上に報告できる案件だ!」
「バカを言うな!こんなんを成功事例として報告したら俺たちの首が飛ぶ!」
「ヒヒッ、仕事と自分の首、二重の意味でな……」
会話が飛び交う中、研究員の一人が少女を抱えて運び出す。
それは少女へ注射を刺した赤髪の女性だった。
「初めて見た時から一変しちまったな?亜種……いや、もう魔物みてえだ」
本人の意識が無いのをいいことにそう言って、ニヤニヤといやらしく笑う赤髪の女性。
彼女はまた何も無い部屋へと少女を移し、足に頑強そうな鎖の付いた輪で繋げた。
「年端もいかない少女をこうやって閉じ込めるのは心苦しいが、私も仕事だから許してくれよ……」
言葉とは裏腹に詫びれた様子も無く立ち去る赤髪の女性。
そして少女は再び部屋に一人、取り残されてしまった。
――――
そして少女に変化が出て四日後、ここに連れて来られて十日が経った頃。
「あー?うー……」
少女が暴れて以来、それ以降は一度も暴れることもなく過ごしていた。
しかし代わりに言語機能などが著しく低下したことでほとんど喋ることができなくなってしまっていた。
何も無い虚空を見つめて呟いたり、動物のように四足歩行で部屋の中を歩き回ったりと、少女はすでに人間として正常な行動を取っていなかった。
そして……彼女が居座っている部屋は最初に比べ、獣の傷跡や焼け跡などが至る所に目立っている。
「……なぁ、この研究ってこれ以上進展するのか?むしろ退化しかしてないような……」
「戦力が手に入るのなら、多少の失敗も成果に繋がる。事実、アレの戦闘力は人間を優に超え、中に入れた魔物を尽く倒して見せたじゃないか?まぁ、まだ条件付きの不安定な状態だが……」
ガラス越しに研究員が少女を観察する。
そのガラスは研究員側からは見えるが少女側からは見えないものとなっており、ゆっくりとその様子を彼らは観察し紙に書き記していた。
「この仕事を終えたらゆっくりしたいなぁ……」
「もう少しの辛抱だ。これをもう一ヶ月続ければ、上に報告できて一段落できるからな」
「聞いたか?別の実験をしてる奴らの中の男女一組が、研究が落ち着いたら結婚するんだってよ……ケッ!」
「マジかよ……実験失敗して爆発しねえかな」
「無駄口を叩くな、バカども。休みが欲しければさっさと働け」
数人の研究員が何気無い会話を繰り広げていた……その五日後。
「ガアァァァァッ!」
その日、施設中に獣のような少女の咆哮が響き渡った。
さらに爆発音も次々と各所で起こる。
「うわぁぁぁぁっ!?実験中の魔物が逃げたぞっ!」
「いやぁぁぁぁっ!?た、たす、助け……!」
「おい、やめろ行くな!」
「止めるな!彼女を……僕は彼女を助けに行かなければならないんだ!」
施設内は改造されている魔物も解き放たれパニック状態となり、戦闘力の無い研究員たちが次々と惨殺されていってしまう。
最初は人の方が多かった施設内は時間が経つにつれて魔物のみとなってしまった。
「アゥア?」
そんな中、魔物に混じって少女が散歩をするように歩き回っていた。
解き放たれ暴れる魔物の中で闊歩する少女を誰も気に留めることない。まるで魔物が彼女を仲間だと認識しているようだった。
「グゥ……」
少女は他の魔物が人を食べているのを一瞥するが、その顔に驚きや恐怖といった感情は見られず、何かを探すように淡々と歩き続けていた。
すると少女はある一室へと辿り着いた。
「ガゥ?……ガァッ!」
大人がやっと開けられるほどの大きさをした扉だが、人外の力を手にした少女が押すとすぐに開いた。
そこは部屋というには広々とし、壁も地面も天井もグロテスクなピンク色の「肉」に覆われてしまっている。
それらは生き物のように脈を打ち、モゾモゾと蠢いていた。
少女は臆すどころか不思議そうに進んで中へと入り、地面の「肉」をペシペシと叩く。
すると壁の一部が大きく動き出し、中から人間の上半身が出てきた。
「ぷはぁっ……ゲホッゲホッ!?……あたしは生きて……るの……?」
それは白衣を着た女性、研究員の一人だった。
意識も朧気な女性が周囲を見渡し、肌の青くなった少女を見つけると小さく悲鳴をあげる。
しかしそれが実験対象の少女であることを思い出した女性は、表情を明るくした。
「ね、ねえ!あなたあの子よね?No.197よね!?私を助けてよ!」
「アウ?」
女性の求めに少女は首を傾げる。
少女は少しずつ女性に近寄って行く。だが女性にとって少女の歩む遅さがもどかしく感じ、さらにズブリと自らの体が「肉」の中に沈んだのを感じた彼女は焦燥に表情を歪ませた。
「っ……早く助けろよ、このノロマが!」
「っ!グルルルルルルルゥ……!」
突然大声を出された少女は警戒を一気に高め、女性に対して敵意を剥き出しにする。
「やっぱりお前は失敗作だった……いや、厄病神だ!こうなったのはそもそもお前が暴れたのが原因よね?お前のような化け物がいなければこんなことには――」
「グアァァァァッ!!」
言葉の途中、少女が叫び続ける女性の喉元を引っ掻いた。
「なあ……ぁ……?」
素早い動きを女性の目では捉え切れず、何をされたか理解できないまま吐血する。
そして女性の血がポタポタと落ちるとその部分の「肉」が動き出し、急速に彼女を飲み込んでいく。
「あ……ああぁぁぁぁああぁぁ――」
吐血しながらも必死に生きようと手を伸ばす女性だが、その想いも虚しく全て飲み込まれてしまった。
女性のいなくなった部屋は「肉」がグチュグチュと蠢く音だけが鳴る。
彼女がいなくなって落ち着いた少女は周囲を見渡す。
すると少女の近くでボトリと何かが落ちる音が彼女の耳に入った。
少女が音のする方へ振り返ると、そこには「実」が落ちていた。
「……オ?」
突然出現したソレに興味を持った少女は恐る恐る近付き、長くなった爪で突っつく。
楕円形をした実は転がり、少女が驚いて肩を跳ねさせる。その様はまるで猫や犬のようだった。
少女はソレが生物ではないと理解したのか、再び近付いてペタペタと触る。
自分に危害を加えないとわかると、少女はソレを持ち上げる。
ソレが何かを理解してない少女は、投げたり蹴ったりして遊んでいた。
途中、ソレはグチュッと潰れるような音を立てて落ちる。
中から液体が垂れ流され、少女は興味本位からその液体を舐めた。
「ん~~~~♪」
すると少女は両手を頬に当て、幸せに満ち溢れた声を漏らしながら顔を綻ばせ、さらに中身を開いて食べ始める。
それは本来、ある魔物が人間や動物などを捕食するために催眠効果を含んだ食物なのだが、実験の副産物か彼女には効かないようだった。
それからヤタと出会い「イクナ」と名付けられるまでの数日、彼女は定期的にそこで生成される実で食に困ることなくこの部屋で過ごした。
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