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私の今後

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 ☆★☆★
 ~ミミィ視点~

「よっ、ミミィ。お前から呼び出すなんてなんかあったのか?もしかして鍛錬が嫌になって逃げたくなった?」

 私はギルドの一角のテーブルを借りて数人で囲んでいた。グラン、ソルト、ジャッカードの少し前までパーティを組んでいた三人を呼んで。
 長年一緒にいた人たちだからか、パーティを解散してそんなに経ってないはずなのに、この騒がしさが懐かしく感じてしまっていた。
 一応まだ若いつもりなんだけど、歳を感じちゃう心境だなぁ……

「バカグラン、ミミィがそんな簡単に逃げようとするわけないじゃない、あんたじゃないんだから!」

「なんだとぉ?」

 いつものやり取りに私はクスリと笑う。今までも彼らのこの騒がしさに何度助けられたことか。

「それで本題は?」

 ジャッカードがいつものように冷静に、本題そっちのけで言い合う二人を無視して話を進めようとしてくれる。

「まだ公表されてないけど、ヴェルネ様がこの町の領主じゃなくなるの」

 私の言葉にさっきまで子供の様に喧嘩していたグランとソルトも静かになって私の方を見てくる。

「……マジで?」

「冗談……じゃなくて?」

「冗談で済んだらよかったのにね。だけどそういうことだからヴェルネ様はあのお屋敷から出てどこかへ行くらしいの」

 正直話がいきなり過ぎて先に話を聞いていた私でさえ未だに困惑してしまっている。
 領主が変わる、なんて話は珍しい話でもないけれど、それはあくまで何か不正などをしてしまった人たちの話。
 ヴェルネ様がそんなことをするはずのない人物だって言うのはこの町の誰もが知ってる。だからこそ彼女が領主じゃなくなってしまうのが信じられない。

「……それでこうやって集まった理由としては、お前自身の身の振り方か?」

 ジャッカードが当たり前のように私が相談しようとしていたことを先に言い当ててくる。

「よく……わかったね?」

「何年一緒にいると思ってる。さっきはふざけていたが、グランとソルトもそれくらいわかってるだろ」

 そうなの?とグランたちの方を見ると二人とも照れ臭そうに苦笑いしていた。

「そうねぇ、ミミィって一度決めたことがあると一直線だけど、迷ったことがあったらいつもあたしたちを集めて相談してくれてたもんね」

「そういやそうだったな。ミミィはやると決めたら誰に止められても話を聞こうとしなかったりこっそり黙って実行しようとしてばっかりだったもんな」

 「そうそう」と言って同意しながら笑って談笑を続けるグランやソルトたち。私ってそういう風に思われてたんだ……なんかこういう風に知られるって恥ずかしくなってくる。

「それじゃあミミィはこれからどうするかってまだ決まってないわけね?」

 そう切り出したソルトに頷く。

「まだヴェルネ様に魔法を教わりたいって気持ちはあるけど、この町を離れるって言われるとね……」

「そ、それじゃあ……また俺たちと一緒にパーティを組んで一緒に冒険するか?」

 どうだ?と言いたげに恐る恐る聞いてくるグラン。他の二人も平常心を保ってるフリをしてるけど、私の答えが気になるようでチラチラとこちらを見てくる。

「いいよ、またパーティを組もっか」

「え、いいの⁉」

 私が即答するとソルトが驚いたようにそう聞き返してくる。

「だってまた私とパーティ組みたいんでしょ?私の代わりをパーティに入れてるとかなら別にいいケド……?」

「あ~……前に一度ミミィの代わりの魔法を使う人を入れてみたはいいんだけど……ねぇ?」

 ソルトがグランたちに同意を求めるようにそう言うと他二人が頷く。

「やっぱり他人っていうのがあるせいで連携が取れないというか、コミュニケーションが微妙で……身内のノリで騒いだりすることもできないから調子が出ないからグダグダだったりで……」

「いっそこと、ミミィが戻って来ないなら解散しようかって話になったの」

 私の知らないところでそんなことになっていたらしい。
 もう少し遅かったらもうグランたちとは冒険に出れないと考えたら……ヴェルネ様には申し訳ないけど、このタイミングでこの話は都合がよかったのかもしれない。
 一度は見捨てられたなんて悲観したことはあったけど、やっぱり私はこの人たちと冒険を続けたい。

「まぁ、本心を言うともっとちゃんと強くなりたかったなっていうのはあるけど……でもみんながいなくなっちゃったら私が強くなる意味もなくなるし、あんまりあの人たちの邪魔になるのも嫌だから……この辺りが潮時なのかもね。それに魔法使いとして強くなるための基礎作りを教えてもらったことだし、それを毎日やっていけばちゃんと強くなれると思うから」

「待って、邪魔って?あなた邪魔者扱いされてたの?」

 私を心配してくれるソルトが詰め寄って聞いてきた。

「あの人たちが直接そう言ったとかじゃないんだよ?ただカズさんやヴェルネ様たちって恋人同士だから、その人たちの関係を知ってて間に割って入って教わるのもなぁ……って、見てるとどうしても思っちゃうの」

「あぁ、そういう……」

「でもあの人たちがそれでもいいって言ってくれたんじゃないのか?」

 ソルトは納得した様子だったけど、グランが頭に?を浮かべて首を傾げてそう言った。だから私とソルトはわざとらしく大きく溜め息を吐く。
 男ってやっぱりそういうところが鈍感というか、人のプライベートなところをズカズカと土足で入ってくんだなぁとちょっと呆れる。

「な、なんだよ、そんなあからさまに……」

「今はそれとこれとは別って話してんでしょうが!そんなおばあちゃんから貰うお菓子並に何も考えずにハイハイって頷けるわけないじゃない!」

 グランの発言にソルトが声を荒らげて言う。その例えが独特だけどなんとなく理解できてしまうのが田舎出身の悲しいところかな……
 グランはソルトに怒られて「そんなに言われるほどなのか……?」と納得してない感じだけど。
 でもそんな感じのグランたちの言い合いを見ていたら、彼らと離れてまで強くなりたいのかと疑問を感じてしまう。
 あと人たちの近くで一緒に鍛えてもらっていたジルって獣人の子……あの子は私なんかより純粋に強さを渇望していた。彼と自分を比べてそれ程の熱意があるのかと問われれば……正直ないと思う。
 そんなやる気のない私が彼やカズさんの隣にいて彼らの邪魔にならないだろうか、なんて……一度考え始めたら悪い方へばかり考えが向かってしまう。
 実際はあの人たちからそんなこと気にしないのかもしれないけど……

「どっちにしてもカズさんたちがこの町を離れるのなら、私はソルトたちとの冒険に戻ることにする」

「……そっか。建前としてはもっと色々教えてもらった方がいいんじゃないって言いたいけど、本音としては戻ってきてくれて嬉しいわね。もう……このメンバーで冒険することはないって思っちゃってたから」

 ソルトがそう言って目に涙を浮かべる。あぁ、ここまで思い詰めていたなんて……
 言葉にしてしまったからか彼女の涙はさらに溢れ続け、今までみたことがない泣き顔を目にする。

「うん……またみんなで冒険しよ?それで私だけじゃなくてみんなで一緒に強くなろうよ。もうあんな人たちに負けないくらいに」

 魔物に負けないのはもちろん、私たちがこうなった原因である盗賊紛いの人たちのことを思い出し、決意を固めてそう口にする。
 涙が止まらないソルトは震わせた声で「うん……うん……!」と何度も頷く彼女を私は抱き締めた。

 ――――
 ―――
 ――
 ―

「……ということで、これを機に私は元のパーティに戻ろうと思います」

「わかった」

 グランたちとの話し合いを終えた私は早速屋敷へ戻ってカズさんに事情を話すと、思っていた以上に呆気なく了承してくれた。

「なんというか……特に引き止めるとかはしないんですね?」

「引き止めてほしかったのか?」

「いえ、そうではないですけど……」

 逆に引き止めたり変に悲しまれても困るには困るけど……ただそんなに長くなかったとはいえお世話になった相手から後ろ髪引くような言葉を私はちょっとだけ期待していたのかもしれない。
 ……もしかして私、本当にこの人たちの邪魔をしてた?

「俺たちと一緒に行くも、お前がお前のパーティに戻るのもお前自身の選択だ。それに今生の別れって訳でもないんだ、惜しむ理由も悲しむ理由もないだろ」

 大雑把にそんな風に言って笑うカズさん。もし私がパーティに戻って彼らがこの町を出たら、もうそうそう会うこともないのに……とは思うものの、彼の言葉を聞いたら本当にまたフラッと出会えてしまえるんじゃないかと思えてしまう。

「それもそうでしたね。ちなみに一応聞きますが、お礼代わりということで最後に私を抱いてみます?」

 冗談っぽくそう言ってスカートをちょっとだけめくって誘ってみた。断られるのはわかっているけど、それくらいには彼には恩を感じていたので予想に反してここで「抱く」と言われたとしても私は喜んで彼と寝るだろう。

「……そういう『お礼』は受け取らない。ヴェルネたちのこともあるけど、好意的な感情もなくそんなことを言われても乗らないのはお前もわかってるだろ……?」

「好意ならありますよ?」

「知っての通り俺は人の感情を読み取れるわけだが、お前の『ソレ』は愛情や恋愛感情じゃなくただの恩だ」

 そうバッサリと切られてしまう。そういえば出会った頃も私から誘って断られたっけ……

「……そんなに私って魅力ないですかね?」

「それは俺に断られた当て付けか?お前の容姿や性格がどうであれ裸の付き合いをする気はないって。それとも――」

 カズさんは意地の悪い笑みを浮かべる。あ、これ私が弄られる。

「――ヴェルネやルルアたちを押し退けてでも俺と『そういう』関係にでもなってみるか?」

 酷く笑えない冗談である。
 魔法のスペシャリストと吸血鬼とサキュバスと魔王の娘を敵に回して一人の男を奪えって?命がいくつあっても足りないわ……

「死にたくないので遠慮しときます……あーぁ、もしこんな良い男捕まえられたら今後人生安泰だったかもしれないのになー!」

 そう言って背伸びするとカズさんが困った表情をしながら笑う。
 そう、ヴェルネ様やルルアちゃんたちのような純粋な恋愛感情はないかもしれない。
 けど玉の輿を狙おうとするのは誰だってあるだろうし、そこから恋愛を始めてもいいと私は思う。
 だから今は諦めるけど、完全には諦めない。

「もしヴェルネ様から見捨てられちゃったり見限ることがあったら私のとこに来ていいからね?」

 冗談っぽく言って舌を出し、ウィンクをした。
 彼との会話はそれ以上進むことなく終わって別れ、この話を内緒にしつつお世話になったヴェルネ様たちにもお別れの言葉を言ってグランたちの所へと戻ったのだった。
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