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隷属化した者の言葉

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 竜の女……ヴェルネたちからパラミシアという名前を聞いたソイツの首に白い首輪を付けた。

「……これでいいのか?」

 パラミシアは頷き、俺が直接付けた首輪がほのかに赤く光り、ジュッと焼ける音が聞こえる。

「うっ……!」

 苦しそうな声を漏らすパラミシアはその場で膝を突き、肉の……というか人体の焦げる嫌な臭いがしばらく続いた。
 その臭いにヴェルネとルルアは顔をしかめ、耐えかねたレトナがその場から逃げて行ってしまう。
 俺が付けた首輪は「隷属化の首輪」、付けられた者は付けた者に対して強制的に服従を誓う印を刻まれるらしい。
 これはこの世界にある小太りの奴隷商人から受け取ったもの。しかし正規品ではないのか、そのNPCに話しかけて買い物をしようとしても「隷属化の首輪」は非売品と表示されていた。
 その商品を奴隷商人から受け取った時も「隷属化したいのか?なら特別にこれをくれてやる!この町を救ってくれた恩人なわけだしな!」と景気の良いことを言われたが……
 もしかしてあの首輪ってイベントアイテムってやつじゃねえか?
 普通にゲームを進めて拾うことができるドロップアイテムや店で買える商品とは別に、特殊なストーリーを進行すると特別なアイテムが貰えると聞いたことがある。これが多分ソレなんだろう。
 ……なんてことを考えている間にパラミシアの首に付けた首輪がポトリと落ちた。

「……あれ、失敗?」

「いいや、しっかりと刻み込まれたわ……残念ながら」

 本当に心から残念そうに言うパラミシア。その首には確かに先程まではなかった文字のような入れ墨が浮かんでいた。

「本当に残念そうだな。さっきは服従するとか言っときながら寝首を掻くつもりだったか?」

 意地悪のつもりでそんな軽口を言ってみたのだが、パラミシアは「チッ!」と割と本気めの舌打ちをしやがった。

「おいコイツ、隠す気もなく舌打ちしたぞ」

 パラミシアの今の態度にヴェルネとルルアも流石に苦笑いしかできないらしい。さっきまで怯えてたのが嘘みたいだ。

「そりゃ生き残りたかったからそう提案しただけで、本当なら勇者の奴隷になるなんて冗談じゃないわよ!」

 ヴェルネのような強気に……っていうか見た目がヴェルネに似てるだけあってヴェルネがコスプレしてるようにしか見えなくなってきたな……

「なら逃げればよかったじゃねえか……それともやっぱ今すぐ死ぬか?」

「ッ……殺したいならそうすればいいじゃない。私にはあんたに勝てる実力もない上にもう奴隷になってるわけだし、殺すも生かすも自由よ?」

 気丈にそう言いつつ顔を逸らすが、彼女の体は小さく震えていた。

「……本当にどっかの誰かみたいだな」

「え?」

 俺の小さな呟きにヴェルネが反応して「いや」と言って首を横に振る。

「ところでパラミシア、お前にちょっと聞きたいんだけど」

「……何よ?」

 そっぽを向いているパラミシアが少しだけ俺に視線を向ける。

「『この世界』についてお前たちはどう思ってる?」

 俺の発言に全員が固まる。恐らくヴェルネたちのそこまで驚いてもいなかった様子を見るに同じことを予想していたんだろう。
 ここはゲームの中、たとえどんな特殊なボスだろうと創り出された存在であることは変わりない……はず。
 なら目の前にいるコイツは?前にヴェルネたちが戦ったアイツは?
 ある程度が製作者によって自由な発言ができるようになるとはいえ、ここまで会話が成立できるようになるものなのか?
 否……少なくとも現実には難しい。だがもしアニメや漫画の中に出てくる高度なAIが発達して人間と対立するって話……あれが実現していたのなら……
 しかし彼女の答えは予想外のものだった。

「……へぇ、?この『おかしな世界』について」

 パラミシアは確かにこのゲームの世界の違和感を認識していた。だがその言葉はこの世界から創り出されたというよりも別の気が……

「私は……私たちは――」

 ――――
 ―――
 ――
 ―

『ヘイ、貴様ら!「バトルマスター」の俺を訪ねてきたってことは転職したいってことでいいんだな⁉』

 あの後も町の中を探索し続け、そして目的の転職するための人物、筋肉隆々の男に出会えた。

「おう、頼む!」

 そしてその男の前に表示されたウインドウにレトナが嬉々として操作する。
 そこに表示されていたのは三つの選択肢。
 【転職】と【スキル獲得】と【やめる】だ。レトナは迷わず【転職】を押ていた。

『OKだ!そんじゃどんな職業になりたいか選べ!おっと、先に言っとくがもしレアな職業に就いていた場合、変更してしまうと元には戻せないからそこはしっかりと考えてくれよな!』

 バトルマスターの男は熱血っぽい口調でそう続け、レトナの目の前に別のウインドウ画面が表示されたのが彼女の肩越しに見える。
 そこには「剣士」「槍使い」「拳闘士」などというような職業がズラッと並んでいるようだった。
 思ったよりレパートリーが多く、下の方にスクロールすると職業の名前の色が暗くなっているものもあり、レトナも気になってその中にある「剣王」と書かれた職業を試しに押してみる。
 するとまた別のウインドウが表示され、【この職業は二次職です。一次職の「剣士」のレベルを30まで上げなければ転職することができません】とあった。

「……二次職業?一次職業……ってなんだ?」

「簡単に言えば『条件を満たさないとなれない職業』だな。そこにも書かれてるだろ?剣士のレベルをある程度まで上げてようやくその剣王ってのになれるんだろうよ」

 ゲームによっては三次職、四次職もあるって聞く。そういうのがやりがいのある内容……「やり込み要素」ってやつだろう。
 一昔ゲームなら発売してそれまでってのが当たり前だったが、昨今では一度発売したゲームでもインターネットに接続していればアップデートで内容を更新して変更したりさらなる内容を追加というようなものが主流となっていて、一部を除けばただ一つのゲームでもそのやり込み要素も増え続けるというものになっていた。
 言い換えればゲームの開発元がその気であれば常に進化をし続けるってわけだ。
 ……ま、今回みたいに要らない内容が追加される場合もあるから全部が全部良いってわけではないかもだけど。
 レトナは「ふーん」と俺の話を半分に聞き流しながらウインドウ画面をスクロールして何か良い職業はないかと探していた。

「まぁでも、どうせここに来ればいつでも職業を変えられるっぽいし、一度何か試してからでもいいか。というかどうせなら全部の職業のレベルを上げて二次職とか三次職ってのも解放していきたいよな~」

 そう言って楽しそうに職業を選ぶレトナ。
 そんな時ふとさっきのパラミシアの言葉が脳裏に浮かぶ。

 ――「私は……私たちは別の世界から連れて来られたの」

 その言葉に全員が驚愕した。
 もちろんこの世界はただのスマホが作り出した作り物のゲームの中で、彼女が言っているのはただ「そういう設定だからそう言わされてる」とも解釈できるのだが……実際に別の世界からヴェルネたちのいる世界に飛ばされた俺自身という考察材料があるせいで断定が難しいところである。
 コイツ自身の言葉が嘘かどうかを判断したとしてもこの世界で産み出されているのであればその言葉の真偽など意味がなくなってくるわけで……
 ここまで来て実は本当にこの世界で作られたAIの登場キャラクターでしたって言われたら流石に驚くぞ……
 だがもし彼女の言う言葉が真実なら?……このゲームを作るために他の世界から無理矢理連れてきたりしたのだろうかと、ちょっと不安になる。

「……なぁ」

「ん?」

 レトナやヴェルネたちから少し離れて壁に背を付けて寄りかかっていたパラミシアの隣に並んで声をかけた。

「お前らの世界ってどんな感じなんだ?」

 判断材料が欲しくて雑談っぽい感じにそんな話を振ってみることにした。

「……ま、そりゃ気になるわよね。むしろ他の奴らが聞いてこないのが不思議だったくらいよ」

 「すでに俺がいるからな」とは思っても口には出さず、そのまま彼女の話を聞いた。

「別に……住んでる人間の反応以外そこまでこの世界と変わらないわ。それと……そうね、向こうにはたくさんいた仲間もほとんどいないも当然だし」

「寂しいのか?」

「寂しい?……寂しい世界だとは思うけど、私たちには魔王様がいるし、仲間と言っても種族的な意味でっていうだけで親しいわけでもないし、溢れるようにいた魔族がどこにもいなくなってるってだけの話だから感情的なものは感じないわ。でも……」

 何か憂いがあるのか表情を曇らせて何かを言いかけたパラミシアだったがそこで言葉を止めてしまった。

「でも?」

「……気のせいかもしれないけど、魔王様はなんとなく寂しそうにしてたからもしかしたら……って」

 俺が続きを促すとパラミシアはそう言って苦笑いを浮かべる。優しい系の魔王なのだろうか……?なんてことをちょっと想像したり。

「あなたたちに私も聞きたいことがあるんだけど……あなたたちが勇者の一行ってことは魔王様を倒すために旅をしてるの?」

 その質問に俺はすぐには答えることができなかった。
 この世界をゲームとして例えるなら魔王を倒してクリアとなるわけだが、もし倒す以外の選択肢を取ることができるのなら……?
 ゲームにも「エンディング分岐」ってものがあり、操作する者の行動や選択でストーリーの最後が変わってくるというものがある。
 流石に現実をゲームに例えるのも考え物だが、この現実とゲームが入り混じったような世界ではそれが正しいのかもしれない。
 なら俺は俺のやり方でこのゲームを楽しんでみようとしようか。

「いいや、俺たちはただこの世界を楽しんでるだけだよ」
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