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異世界の食べ物

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 裏ギルドからの依頼も終わらせた俺はすぐにゲームの中へと戻った。このゲームの良いところはスマホがあればどこでも中に入れるから助かる。
 とはいえゲームに出入りするところを見られて驚かせるわけにもいかないから路地裏や屋根の上からお邪魔しておく。

「で、ヴェルネたちは……」

 ゲームの中に入ったそこはログアウトした森羅デパートの目の前。周囲を見渡してみたがヴェルネたちが戻って来た様子はない。
 ……まさかまだ買い物してるのか?

「多めに時間を見積もったつもりだったけど、女の買い物をちょっと舐めてたかな……?」

 なんて思ってるとデパートの真ん中辺りの階が突然爆破した。

「……あぁ、あそこか」

 突然の爆発に対して思ったことはそれだけだった。
 ゲーム内でこんな感じで突発的に起こる事象は大抵何かの「イベント」だ。
 だとすればあの爆発した現場の近く、もしくはそれが視界に入るどこかにプレイヤーがいる可能性が高い。
 ……他人事に言ってみたはいいけど、もしそれが俺がこの場にいるからってだけだったらどうしよう……ちょっと不安になってきたから駆け足で探すか。

 ☆★☆★
 ~レトナ視点~

 カズと分かれて森羅デパート?でヴェル姉ちゃんたちと買い物をし始めていた俺たち。
 ここには本当に色んなものがあった。
 一階には見たことがない食材が多く売っていて、二階には何かの機械やカード、三階には色んな服が売ってたり……とにかく目まぐるしくなるほど多くの物があってみんなで驚いていた。
 そんな中で俺たちが何より驚いていたのが……

「え、何これ……美味し過ぎるんだけど⁉」

 ヴェル姉ちゃんが今までにないくらいの蕩けた表情で食べ物を口に詰め込んでいた。いつもの冷静沈着ってイメージがあったヴェル姉ちゃんがこんな顔に……というのも仕方ないと頷けるくらい、今俺たちが口にしてる食べ物が美味しかったんだけど。
 一緒に食べてるルルアも幸せそうに頬張ってるし……かく言う俺も多分同じ顔をしてる。
 五階まで上ってみると見たことがない食べ物が並べられた店がいくつもあって適当なところに入ったんだけど、中の店の雰囲気も煌びやかで見たことがない。王族御用達ってやつ?
 でも値段的には前に場所で買った食べ物とそんなに変わらないみたい……
 いやでもマジで何これ?「はんばーぐ」ってやつは肉でできてるとは思えないくらい豆腐みたいに柔らかいし、「ぴざ」ってのも味が濃くて美味い!
 名前がわからないけどこの世界の金は十分にあったからとりあえず色んなものを頼んでみたけれど、今のところハズレがないってくらいどれも美味いものばっかりだ!

「これってどういう食べ物なんだ?俺たちの世界にはない……よな?」

 俺は立場もあってあまり外には出たことがなかったから断言ができなかったけど、少なくとも誰からも聞いたことがなかったから二人にそう聞いた。
 俺の疑問に二人は首を横に振る。

「似たようなものはいくらかあったみたいだけど、少なくとも『どの記憶』にもなかったわ」

 ルルアが自分の頭を指差して答える。ルルアは血を吸った相手の記憶を一部読むことができる……みたいなことを聞いたことがあるからそれだろうな。

「ルルアってカズの血も飲んだことがあるんだろ?その中には?」

「あるよ。だからここの食べ物は完全にお兄ちゃんの世界の食べ物を再現したものみたい。ほら、このシュワシュワした飲み物とか!」

 ルルアが自分の近くにあるガラスのコップに入れた飲み物を口に入れ、「プハーッ!」と酒を飲んだ大人のようなリアクションをする。

「キンキンに冷えてて口の中でパチパチって弾けて味も甘くて美味しい……もう最高!」

 ルルアもルルアで今までに見たことのないテンションだった。もしかして酔ってる?
 ちょっと気になってルルアが飲んだものを一口飲んでみることに――

「うわっ⁉」

 口の中で飲んだものがパチッと弾けて驚いてしまった。
 ルルアの言う通り確かに甘い……けどちょっとこの感じ苦手かも。でもお酒ってわけじゃなさそうだから、酔ってこのテンションというわけではないみたい。
 ってことは二人とも素でこんな感じなのか……

「でも美味しいからってこんなに食べちゃったら流石に太っちゃうわよね……」

「……でもちょっと変な感じじゃね?」

「ふぁにあ?」

 ルルアが口に食べ物を突っ込みまくって何を言ってるのかわからない……いや多分「何が?」って言いたいんだろうけど。

「いやさ、こんだけ食べたら普通お腹が苦しくなるくらい膨れるじゃん?その苦しさもないし腹も膨れてないし」

「……言われてみればそうね。満足感はあるけど苦しくないって不思議な感覚……適度に食べた時と同じ感じしかしないわ」

「もしかして……いくら食べても太らなかったり⁉ だったらもっと食べてもいいよね~♪」

 「太らない食べ物」がそれほと魅力だったらしく、ルルアが食べる速度を上げた。たしかに苦しくはならないけど、これ本当に大丈夫か……?
 と言いつつも俺も食べる手が止まらなかった。
 そんな時――

 ――『ゲームがアップデートされました。これからもお楽しみください』

 そんな表示が三人の目の前に出てきた。

「アップデートって……また何かあったのか?」

「えっと……」

 俺が物を口に突っ込む直前にそう聞くとヴェル姉ちゃんが表示されていたウインドウを操作する。

「……これって――」

 何が良くない書かれていたのか、ヴェル姉ちゃんの顔が青くなってが固まる。俺もそれを確認しようとすると――

 ――ドゴンッ‼

 突然大きな爆発音と揺れが起きる。

「な、なんだ⁉」

「ッ……結構近い場所で爆発したみたいね……多分この下の階よ!」

「……あ、凄い!今の爆発でも食べ物が一つも零れ落ちてないよ!」

 俺とヴェル姉ちゃんは焦ったけれど、ルルアは些細なことだと言わんばかりに違うことを気にしていた。でもたしかに今結構揺れたのにスープ一つ零れてないのは凄いな!一回気になったらそればっかり気になっちゃうじゃんか……

「……どうする?爆発したところ見に行ってみる?」

「まぁ、下の階ですし、どの道降りなきゃならないから様子を見に行ってもいいかもですけど……でももしこれが本当の爆発が起きる事件だった場合はそんな悠長なことを言ってられませんからね?」

 俺が余計な一言を言ってしまったらしく、ヴェル姉ちゃんが説教じみたことを言ってくる。そんな彼女に「わかってるわかってる」と適当に答えた。

「じゃあ早速行こっか」

「そうだな……あっ、でもこんな美味しいものを残すのはもったいないし、全部食べ切ってからでもいいかな?」

 俺ら三人ともテーブルの上にある食べ物を見て涎を垂らし、無言で頷いて座り直して残りの物を食べ始めた。
 全部を食べ終えたところで下の階へと降りる。

「……やっぱり作り物の世界なせいか、あんなに大きな爆発が起きても騒ぎがないってのは違和感しかないわね」

「ルルアたちが他のところを見て回ってる時も不自然なほど誰もいなかったし、まるでルルアたちのためだけのお家みたいね!」

 二人の言った通り、まるで世界に俺たち三人しか変な感じだ。煌びやかな反面寂しさも感じるな……たしかにルルアの言ってることも間違ってないかもしれない。
 ここでどれだけ大きな声を出しても、興奮して走り回ったとしてもそれを気に留める他人が存在しない。
 お店の店員だって人間の見た目なのに人間っぽくない。生気がないゾンビみてーに……この世界に来て初めて見た王様と同じ感じだ。
 決まった動きしかしない……カズはNPCとか言ってたっけ?つまり実質俺たち三人しかいないようなもんだ。
 でもだからこそ、そんな中で起きた爆発の原因が気になった。
 そしてその予想が当たったみたいで、爆発が起きた場所ではこの町には不釣り合いな誰かがいた。

「んははははっ!あら~、可愛い子たちね?あなたたちが魔王様に盾突いてるってのは……」

 独特な笑い声をしながら現れたのは艶めかしい女性だった。
 特徴としてはヴェル姉ちゃんのほとんどをそのままに、髪を赤く染めてトカゲのような尻尾と大きな翼を背中から生やしている。

「……なんかヴェルネお姉様に取って付けたみたいな人ね」

「え、そう?でも流石にあんな露出してないわよ?」

「ヴェル姉ちゃん、今自分の姿を見返してみ?」

 ヴェル姉ちゃんは「そんなに~?」と口を尖らせて自分の恰好と見比べるが納得していない様子だった。基本常識人のヴェル姉ちゃんだけどそこだけは本当に非常識なんだよな……本当はヴェル姉ちゃんもサキュバスだったりするんじゃないかなんて思えてしまう。

「んははっ、敵を目の前に楽しそうに話すのねあなたたち?」

 俺たちの会話に割って入ってこようとする敵っぽい女。ぽいっていうか盾突いてるとか言われてる時点で敵なんだろうな……
 そんな緊張感を持たない俺たちに彼女は軽く会釈をして名乗った。

「私は魔王様の配下妖艶竜パラミシア。多分短い間になると思うけど――」

 礼儀正しいのか……そう思った次の瞬間に全身に鳥肌が立ち、いつの間にかパラミシアが目の前までに迫って来ていた。

「――よろしくね♪」
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