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気分転換に
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人間の襲撃から数日後、ようやく身の回りが落ち着き、俺が子供に戻るようなことはなかったのでヴェルネたち四人と再びスマホのゲームを起動した。いわゆる気分転換というやつだ。
人間に襲われて命を落とした者がいるから本来だったらこんなことをしてる場合じゃないし気分じゃないんだろうけど、命を失った者が元通りに蘇ったおかげで町の雰囲気はお通夜どころかお祝い気分になってしまっており、気が軽くなった俺たちはこのゲームを始めることにした。
「おんどりゃっ!」
漢らしい声を上げてヴェルネが道中のコボルトという魔物に対して思いっきり回し蹴りを食らわせに行っていた。
本来なら彼女の職業は「魔法使い」なので直接殴りに行っても大きなダメージを与えられないのだけれども、まるで鬱憤を晴らそうとでもするかのようにひたすらに殴り続けていた。
ダメージは五しか入っていなかったが、ヴェルネの怒涛のラッシュでコボルトはすぐに倒せてしまう。
「ふぅ」
スッキリした様子のヴェルネが一息吐く。
「……ゲームっていうのも結構いいもんね!」
そうそう見ない満面の笑みを見て、どれだけストレスを抱えていたんだろうと苦笑いしてしまう。これだけゲームで生き生きとストレス発散してる人を初めて見たきがする。
レトナやルルアもそれを見て唖然としていた。
「ヴェル姉ちゃん、あのコボルトって奴に恨みでもあったの?」
「別に?ただこのゲームの遊び方っていうのを覚えたってだけの話よ。出会ってすぐに殴り倒しても何の罪悪感も湧かないサンドバッグがわんさかいるんだものね、この世界!」
「……今のがゲームの……遊び方?」
ルルアでも疑問に思い首を傾げる。間違ってはないけど合ってるとも言い難いのだから何とも……
「まぁ、遊び方は人それぞれってことでな……」
プレイスタイルなんてそれこそ人の数ほどあるってな。ヴェルネのように弱い相手をサンドバッグにしたり、強い相手でも敢えてハンデを抱えて挑む奴だっているくらいだし。
「それはそれとして、ヴェルネのストレス解消もそこそこにして先に進むか?ルルアとレトナも暇だろ」
「……そ、それもそうね」
スッキリしたからか自分がしていたことを自覚して苦笑いを浮かべて同意するヴェルネ。
「俺はある意味見てて楽しかったけどな。ヴェル姉ちゃんが普段からあんだけストレス溜めてんだなーと思うと……アレ?もしかして俺のせいだったりする……?」
「そんなこと――」
すぐに否定しようとするヴェルネだったが、何か思い当たることがあったのか言葉を詰まらせてしまう。
「――ないわよ?」
「え、なんかあるの……?」
「そりゃあるんじゃない?レトナ、お城にいない代わりに勉強しようって話だったのに逃げたりサボったりしてるじゃん。ヴェルネお姉様は何も言わないけど」
心当たりがなさそうなレトナにルルアがそう指摘するとウグッと図星を突かれた声を上げる。
「い、いや……そりゃあレトナ様が自ら勉学に励んでくれれば嬉しいけど、それだけでここまでストレスは溜まらないわよ。勉強しなかったら今後損するのはレトナ様だけだし」
「…………」
本人のせいじゃないと否定をするが、それどころか突き放すような言い方をするヴェルネにレトナが釈然としない表情で彼女を見ていた。
そんな彼女たちを見たルルアが耳打ちをしてくる。
「もしかしてレトナ見捨てられた?」
「ヴェルネにそんなことを言った自覚はないだろうしそんなつもりもないだろうよ。ただレトナはそう感じちまってんじゃねえか?」
彼女の耳打ちに俺も小声で伝え、レトナの反応を見守る。恐らくそう言えばレトナがちょっとだけショックして勉強するだろうって考えがあるんだろうが、彼女が思うよりその言葉は効くと思うぞ……?
「っ……!」
当たってほしくない意味で予想通りにしばらく固まっていたレトナの表情が泣き崩れそうになる。しかしヴェルネにその表情を見られまいとしたのか顔を逸らし、急いで俺の方へ駆け寄って抱き着いてきた。
「い、いいもんね!勉強ができなくて損することがあってもカズになんとかしてもらうもんね!」
若干声を震わせながら俺の胸に顔を埋めてレトナはそんな情けないことを宣言する。頼ってもらうのは嬉しい反面、その情けない気持ちをそのまま受け止めていいのかと複雑な気分になってしまう。
ヴェルネの方を見ると自分が言い過ぎたことを察していたようで、あっちも申し訳なさそうに苦笑いしつつ両手を合わせて「ゴメン」と声には出さず口を動かす。
しょうがないと思いながらレトナの頭に手を置いて撫でる。
「……まぁ、頭が悪くても人に迷惑をかけない生き方をしてくれさえいればお前一人くらい養ってやるけどさ」
そんな俺の言葉が意外だったのかヴェルネとルルアが軽く驚いた表情で見てきて、レトナも俺の服に鼻水を付けながらキョトンとした顔で見上げてその顔が徐々に赤くなってくる。鼻水が服にくっ付く描写があるのか……ゲームの中だっていうのにここら辺も妙にリアル過ぎて流石にちょっと引くんだが。
「なんか変なこと言ったか、俺?」
「だって今の話の流れだと多少手助けしてもらうってだけの話だったのに、お兄ちゃんがレトナを養うって答えたから……でもお兄ちゃんならいっそルルアたち三人全員を養ってって言ってもやってくれそうだよね」
「いや本当に……もしあたしが領主じゃなくなって町から追い出された時にはそうしてもらおうかしら?」
縁起でもないことを言って笑うヴェルネを他所にルルアから指摘された勘違いを自覚して少々恥ずかしくなる。しまった、ちょっと早まった考えをしたな……勉強を完全に放棄して俺を頼るって言われて働くことを諦めたように聞こえて自然とそういう考えになっていた。
しかしできるならレトナやヴェルネが言ったような事態にならないことを祈るばかりだ。
人間に襲われて命を落とした者がいるから本来だったらこんなことをしてる場合じゃないし気分じゃないんだろうけど、命を失った者が元通りに蘇ったおかげで町の雰囲気はお通夜どころかお祝い気分になってしまっており、気が軽くなった俺たちはこのゲームを始めることにした。
「おんどりゃっ!」
漢らしい声を上げてヴェルネが道中のコボルトという魔物に対して思いっきり回し蹴りを食らわせに行っていた。
本来なら彼女の職業は「魔法使い」なので直接殴りに行っても大きなダメージを与えられないのだけれども、まるで鬱憤を晴らそうとでもするかのようにひたすらに殴り続けていた。
ダメージは五しか入っていなかったが、ヴェルネの怒涛のラッシュでコボルトはすぐに倒せてしまう。
「ふぅ」
スッキリした様子のヴェルネが一息吐く。
「……ゲームっていうのも結構いいもんね!」
そうそう見ない満面の笑みを見て、どれだけストレスを抱えていたんだろうと苦笑いしてしまう。これだけゲームで生き生きとストレス発散してる人を初めて見たきがする。
レトナやルルアもそれを見て唖然としていた。
「ヴェル姉ちゃん、あのコボルトって奴に恨みでもあったの?」
「別に?ただこのゲームの遊び方っていうのを覚えたってだけの話よ。出会ってすぐに殴り倒しても何の罪悪感も湧かないサンドバッグがわんさかいるんだものね、この世界!」
「……今のがゲームの……遊び方?」
ルルアでも疑問に思い首を傾げる。間違ってはないけど合ってるとも言い難いのだから何とも……
「まぁ、遊び方は人それぞれってことでな……」
プレイスタイルなんてそれこそ人の数ほどあるってな。ヴェルネのように弱い相手をサンドバッグにしたり、強い相手でも敢えてハンデを抱えて挑む奴だっているくらいだし。
「それはそれとして、ヴェルネのストレス解消もそこそこにして先に進むか?ルルアとレトナも暇だろ」
「……そ、それもそうね」
スッキリしたからか自分がしていたことを自覚して苦笑いを浮かべて同意するヴェルネ。
「俺はある意味見てて楽しかったけどな。ヴェル姉ちゃんが普段からあんだけストレス溜めてんだなーと思うと……アレ?もしかして俺のせいだったりする……?」
「そんなこと――」
すぐに否定しようとするヴェルネだったが、何か思い当たることがあったのか言葉を詰まらせてしまう。
「――ないわよ?」
「え、なんかあるの……?」
「そりゃあるんじゃない?レトナ、お城にいない代わりに勉強しようって話だったのに逃げたりサボったりしてるじゃん。ヴェルネお姉様は何も言わないけど」
心当たりがなさそうなレトナにルルアがそう指摘するとウグッと図星を突かれた声を上げる。
「い、いや……そりゃあレトナ様が自ら勉学に励んでくれれば嬉しいけど、それだけでここまでストレスは溜まらないわよ。勉強しなかったら今後損するのはレトナ様だけだし」
「…………」
本人のせいじゃないと否定をするが、それどころか突き放すような言い方をするヴェルネにレトナが釈然としない表情で彼女を見ていた。
そんな彼女たちを見たルルアが耳打ちをしてくる。
「もしかしてレトナ見捨てられた?」
「ヴェルネにそんなことを言った自覚はないだろうしそんなつもりもないだろうよ。ただレトナはそう感じちまってんじゃねえか?」
彼女の耳打ちに俺も小声で伝え、レトナの反応を見守る。恐らくそう言えばレトナがちょっとだけショックして勉強するだろうって考えがあるんだろうが、彼女が思うよりその言葉は効くと思うぞ……?
「っ……!」
当たってほしくない意味で予想通りにしばらく固まっていたレトナの表情が泣き崩れそうになる。しかしヴェルネにその表情を見られまいとしたのか顔を逸らし、急いで俺の方へ駆け寄って抱き着いてきた。
「い、いいもんね!勉強ができなくて損することがあってもカズになんとかしてもらうもんね!」
若干声を震わせながら俺の胸に顔を埋めてレトナはそんな情けないことを宣言する。頼ってもらうのは嬉しい反面、その情けない気持ちをそのまま受け止めていいのかと複雑な気分になってしまう。
ヴェルネの方を見ると自分が言い過ぎたことを察していたようで、あっちも申し訳なさそうに苦笑いしつつ両手を合わせて「ゴメン」と声には出さず口を動かす。
しょうがないと思いながらレトナの頭に手を置いて撫でる。
「……まぁ、頭が悪くても人に迷惑をかけない生き方をしてくれさえいればお前一人くらい養ってやるけどさ」
そんな俺の言葉が意外だったのかヴェルネとルルアが軽く驚いた表情で見てきて、レトナも俺の服に鼻水を付けながらキョトンとした顔で見上げてその顔が徐々に赤くなってくる。鼻水が服にくっ付く描写があるのか……ゲームの中だっていうのにここら辺も妙にリアル過ぎて流石にちょっと引くんだが。
「なんか変なこと言ったか、俺?」
「だって今の話の流れだと多少手助けしてもらうってだけの話だったのに、お兄ちゃんがレトナを養うって答えたから……でもお兄ちゃんならいっそルルアたち三人全員を養ってって言ってもやってくれそうだよね」
「いや本当に……もしあたしが領主じゃなくなって町から追い出された時にはそうしてもらおうかしら?」
縁起でもないことを言って笑うヴェルネを他所にルルアから指摘された勘違いを自覚して少々恥ずかしくなる。しまった、ちょっと早まった考えをしたな……勉強を完全に放棄して俺を頼るって言われて働くことを諦めたように聞こえて自然とそういう考えになっていた。
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