上 下
300 / 331

寝るのも一苦労

しおりを挟む
「そういえばヴェルネお姉ちゃんとレトナちゃんは?」

 ただ単純な疑問だったのにルルアちゃんは何を思ったのか意地の悪い笑い方をする。

「一緒に寝るのルルアだけじゃ足りなかった?女の子に囲まれて寝たいなんてやっぱり男の子なんだね~♪」

 そしてその笑い通りにからかうことを言うルルアちゃん。どうしよう、可愛いけど段々面倒臭くなってきたな……
 すると僕の顔が相当わかりやすかったらしく、ルルアちゃんが「あっ」と気付いた声を漏らす。

「ごめんごめん、からかい過ぎちゃった?いつものお兄ちゃんだったら軽く受け流すか逆に反撃してくるからその調子でつい……そう思うと今のお兄ちゃんって結構人間っぽいよね」

「もしかして大人の僕、貶されてる?」

「バカにしてるわけじゃないよ。ただ……あっちのお兄ちゃんって他の人と比べて女性に対する耐性が高いというか、スケベって意味じゃない方で動じないんだよね」

 一瞬「彼にとっては子供っぽい彼女は魅力がないんじゃないか」と思ったけれど……

「レトナが自慢のおっぱい押し付けたり、ヴェルネお姉様がエッチな服着て一緒に寝ても手を出す素振りすらなかったし……」

「……結構凄いことしてるんだね、みんな」

「そうでもしないと相手してもらえない……というかそうしてもあんまり相手してもらえてないんだよね。キスだってやっと最近してもらえたくらいだもん」

 どうやら彼女もその幼い見た目で結構真剣に悩んでるようだ。僕と同じくらいの女の子なのに……やっぱり恋をすると変わるってくらいだから、彼女も大人びようとしてるんだろうか?

「あっ、ヴェルネお姉様は今のぼせて倒れたレトナの看病してるよ!」

「え、のぼせたって……なんで?」

 僕と三人は一緒に入ったのだけれど、彼女がそんな我慢してるようには見えなかった。ただ僕の体をチラチラと気にした様子で見てきたくらいで……

「お兄ちゃんの逞しい体を見て恥ずかしさで倒れちゃったらしいよ?」

 ……むしろ聞いた僕の方が恥ずかしくなるような理由だった。

「僕が見て恥ずかしくなるとかならわかるけど、なんでレトナちゃんの方が僕なんかの体を見ただけで……」

「レトナちゃんってサキュバスなだけあってエッチなこととか男の子の体に結構興味深々なんだよ?特に好きな相手なら尚更に決まってるじゃない♪」

 ルルアちゃんがそう言って僕の腕を撫でるように触ってくる。うわぁ……

「……ルルアちゃんって――」

 そうやって喋ろうとした僕の口をルルアちゃんが塞ぐ。

「お兄ちゃんからしたら初対面かもしれないけど、『ちゃん』付けはやめない?普通にルルアって呼んでくれたら嬉しいんだけど」

「えっ……」

 そう言われてハッとした。
 僕の大人の状態の時と恋人って言われても実感が湧かなくて、彼女たちとどう接していいのかわからなくてクラスの女子と話す時みたいな話し方をしていたけどダメだったらしい。
 とはいえ僕だってそんな図々しい性格をしてないのだから仕方ないと言ってしまえばそれまでなんだけど……

「えっと、じゃあ……ルルア」

「うん♪」

 ただ呼び捨てにしただけで恥ずかしさを感じてしまうけれど、代わりに彼女も満足そうに笑う。その笑顔が眩いほど可愛らしくて……大人でもこんな表情を見てしまえば惚れてロリコンに堕ちてしまうかもしれない。

「じゃあルルアも僕のことをカズって呼んでくれない?同い年の女の子に『お兄ちゃん』って言われるのがなんだか変な感じで……」

「……んぇっ?」

 するとルルアは変な声を出して間の抜けた表情をする。……なんだ?

「僕、なんか変なこと言った?そもそも恋人同士なのに『お兄ちゃん』呼びって変だなーって思ったんだけど……」

「んー……元のカズお兄ちゃんだったらルルアたちを守ってくれる『お兄ちゃん』って感じだったからずっとそう呼んでたけど……ルルアが呼び捨てかぁ」

 ルルアはそう言いながら照れるように頬を赤くする。

「か……カズ?」

 そんな恥ずかしそうに呼ばれたらこっちまで恥ずかしく感じるんだけど?

「はぁ……」

「あれ、嬉しくなかった?」

 僕がつい口から漏らしてしまった溜め息にルルアが不安そうに見てくる。

「いや、そうじゃない。ただ一日でこれだけ疲れたのは初めてだなって思っただけだよ。今までどんな鍛錬してもここまで疲れることなんてなかったのになって」

「そんなに疲れることあった?……って、元のお兄ちゃんだったとしても色々あった一日ではあったっけ。こっちに攻めてきた人間を返り討ちにして、その人間の場所を特定して逆に潰しに行ったとか……そしたら今の君になっちゃったみたいなんだけど」

 大人の僕、一体何があったんだ……
 だけどそんなことより、僕には今は別の懸念があった。

「……これからどうなるんだろ」

 大人だった僕が今の僕になって、今までどう生活をしていたのかもわからなくて元に戻れるのかもわからないこの状態に不安を抱いていた。
 もうすでに恋人がいて魔法なんてものも存在する不思議な世界にいきなり放り込まれて……もう元の世界には戻れないのかな?
 漫画でよく聞く別の世界に転生した話っていうのはたしかにワクワクするかもしれないけれど、同時にもう家族と会えないのかもしれないなんて考えが浮かんできて寂しくなってくる。

「とりあえず寝る?寝れば治るかもしれないよ!」

「そんな現実逃避みたいな……あぁでもそうするしかないよね。魔法なんてものがあってもそんな便利な魔法があったりするわけじゃないだろうし……」

 魔法がなんでもできるわけでもないっていうのは割と早めの段階で知ったことだ。
 怪我や病気は治せるけれど死んだ人間を蘇らせたりはできないとか時間を巻き戻せたりもできないとか……火や水を攻撃として放ったり日常生活に応用したりする程度が基本だという。
 だから大人が子供の姿になるなんて誰も聞いたことがないらしい。
 つまり少なくとも今はお手上げ。寝るしかないということ。

「……寝るか」

「うん、寝よっ!」

 僕が諦めてベッドに横になるとルルアも一緒に横になった挙句に抱き着いてくる。え、これ襲われてる?

「ちょっとルルア――」

 さっきと同じようにからかっているのだろうと思い、振り返って離れるよう言おうとしたところで言葉が詰まった。
 ……彼女は寝ていた。
 悪戯とか冗談で寝たフリをしてるわけでもなく、気持ち良さそうに寝息を立てて寝てしまっていた。
 マジで言ってる?というか本当に寝てるの?
 のび〇かよとツッコミをしたくなるほどの寝つきの良さに僕は思わず言葉を失い、完全に眠ってしまったルルアを起こすこともできずにいた。
 ……このままじゃまともに寝ることもできやしない。だから僕は前にお婆ちゃんから教えてもらった方法で強引に寝ることにしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

「君を愛せない」と言った旦那様の様子がおかしい

白羽鳥(扇つくも)
恋愛
「すまない、僕はもう君の事を愛してあげられないんだ」 初夜にそう言われた私はカッとなって旦那様を部屋から叩き出した。 そっちがその気なら、私だって嫌いになってやるわ! 家の事情で二年は離婚できないけれど、後からどれだけ謝って優しくしてくれたって許してあげないんだから! そうして二年後に白い結婚が認められ、以前からアプローチしてくれた王子様と再婚した私だったが、まさかその後、旦那様と二度と会えなくなるなんて―― ※「君を愛せない」系のアンチテーゼ。バッドエンドですがこういうケースもあり得るかなと。

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...