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クロイ感情

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☆★☆★
~その他視点~

 人間がヴェルネたちを襲撃する少し前。
 カズは魔狼族が暴走した原因となるものを取り除くために魔狼族が直前まで生活していたとされる場所の一つに来ていた。

「くっさ」

 カズがその場でクンッと匂いを嗅ぐと顔をしかめて呟く。
 彼にとってその匂いは汚物などのように吐き気を催すものとは違い、例えるなら香水を大量に付けた時に似ているようだった。
 そんな場所でカズは鼻を摘みながら周囲を見渡す。魔狼族が住んでいたとされる場所は町や村と呼ぶには少々「野性的」な場所だった。
 もこもこの羊の毛のようなもので作られたベッドのようなものが近くの洞窟内にいくつも置かれており、住んでいるというより小休憩するための場所のようだった。
 そしてカズはその中で「臭い」と感じるものの元を探す。
 常人なら獣人独特の強烈な獣臭さが混ざって探すどころではないが、カズはそれを嗅ぎ分けることができた。

「……なるほど、これか」

 「妙な色をした草」「無造作に落とした」というワードを頼りに探すと簡単に見つけ出すことができた。
 ニラのような形したものに桃色の根本と青色の上下に分かれた草が落ちている。
 その草からは強烈な匂いが発せられ、獣人ほどじゃないカズの嗅覚でも「影響」が出てしまいそうになるほどだった。

「ククク……いや、これは不味いな」

 流石のカズもその危険性を感じ取ると魔法を使って口と鼻を覆う。
 そうしてカズは改めて自分の体がまともに動くか確認する。

「少量なら大丈夫……影響の進行もないなら皮膚から体内に入る心配もない、か」

 直接匂いを嗅がなければ影響がないことを確認したカズは落ちていた草をスマホで写真を撮る。

 「快楽死草」……この草から発される匂いは生物の脳を刺激し、痛みを感じさせなくなる効能があり、正しい使い方をすれば麻酔になる。しかしその匂いを嗅ぎ過ぎると脳へ多大な負荷がかかり、やがて機能しなくなって死に至ってしまう。

「麻酔か……燃やしてやろうかと思ったけど、一応取っておいた方がいいのか?……そんなこと言って保管したまま肥やしになるかもしれないけど」

 と、ブツブツ独り言を口にしながら快楽死草を魔法で収納した。
 同時に風を吹かせて巻き上げ、口と鼻に纏わせていた魔法を解除して周囲の匂いを確認する。

「……よし、残りの匂いも消えたな」

 匂いが残っていないことを確認するとカズは満足そうに頷く。すると――

『ビィーッ‼ ビィーッ‼ ビィーッ‼』

 彼が持つスマホが大きな警告音を発した。
 普段は出さない大音量に流石のカズも肩を跳ね上がらせて驚く。

「なんだ⁉ ってスマホか……驚かせるなよ。まるで地震警報みたいな鳴り方だったけど何が――」

 鳴り止まないスマホの画面を見るカズ。その彼の表情が一変した。
 カズのピリピリとした雰囲気を察した近くの木々から鳥などの小動物が逃げ出し、しばらく固まっていた彼はおもむろに収納していた仮面を取り出して顔を隠す。

――――
―――
――


 空から降ってきたのは「黒い塊」だった。
 形状が不安定な状態で水道の蛇口から一滴だけ垂らし落としたような「ソレ」はそのまま地面に衝突すると同時に破裂し、中からドクロの仮面を付けたカズが現れる。

「か、カズ⁉」

「カズ様‼」

「……あんた」

 彼の姿を見てジークとユースティック、ヴェルネが声をかける。
 しかしカズは振り返ることはせず、ただ前方にいるグルータスや倒れている人間たちを観察してるようだった。

「……何者です?」

 突然現れたカズに戸惑い警戒するグルータス。仮面を付けているせいで彼が目的の人間であることに気付かず、グルータスたちは敵意を向け、危険だと判断したグルータスが「神の裁き」を発動する。
 ヴェルネたちへ放ったものと同じ光がカズを襲う……がしかし、カズの目の前に黒い壁が出現して光を飲み込む。

「光を飲み込む闇ですか。流石は魔族、我らが主とは相反する力……まさに悪魔の力で対抗しようと言うのですね。いいでしょう!ではその力がどこまで通用するか試してみるがいい!」

 グルータスが得意げにそう言うと彼の周囲が眩く光り、先程と同じように町の上空にも眩い光が展開された。
 ……が。

 ――パキン

 プラスチックを割ったかのような軽い音が鳴ると共に周囲の眩い光は消え、代わりに空を暗い「闇」が覆った。
 黒く暗い空、しかし目の前が見えなくなるほどではなく薄暗くなる程度だった。

「……これは」

「悪魔……悪魔か。なら悪魔らしく振舞ってやろうか」

 カズは低く冷たい声でそう言い放ち、おもむろに腕を横に一閃させる。すると……

「……うぐっ――」

 パァンッと風船を割ったような音と鳴らして人間が破裂して黒い液体が辺りに撒き散らされる。

「人間が……勝手に弾けてる?」

「それにアレは黒い、血……?」

 その異様な光景にジークたちが呆気に取られる。

「カズ……」

 そしてヴェルネは彼から明確な怒りを感じ、その原因の一つとなっているであろう腕先が無くなった左肩を強く握った。

「ああ、可哀想に……彼らにも家族や恋人がいたのですよ?」

 だがグルータスは彼らの異様な死に様を見ても何も感じていない様子だった。

「そうだな、可哀想に。こんな胡散臭いジジイに連れられてノコノコやって来なければ無様に死ななかったのにな。それと……俺はもうお前らを許す気はないから覚悟した方がいいぞ」

「ほう、許す?魔族のあなたが?私を?これは異なことを……あなたたち魔族は我々と我らが主に許しを請う立場であり、その逆はあり得ないのです」

「お前らこそ奢るなよ、いるかどうかもわからん存在に心酔して他者を見下して愉悦を感じる変態サイコパス共が」

「貴様……我らが主を愚弄するか⁉」

 カズの言葉に腹を立てたグルータスが光を放とうとするが、その兆候すら見えなかった。

「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりもずいぶん悠長にしてるが、まさかこの場にいないからって安心してるんじゃないだろうな?」

「……何?」

 カズがそう言ってグルータスを指差す。不可解とも取れるその言動にグルータスが眉をひそめると、変わるはずのない仮面が動き出した。

【――見つけた】
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