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竜タクシー参ります

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「私を足にする者など世界広しといえどお前さんくらいだぞ、カズ」

 巨大な黒竜の姿で飛ぶヤトが彼の背中に乗っていた俺に呆れた様子で愚痴ってくる。
 そう、俺たちは今ヤトに頼んで獣人領まで送ってもらうこととなり、その背中で空の旅を満喫していた。
 まぁ、満喫しているのは俺とルルアだけでレトナとジルはあまりの高さに大きな棘の部分で必死に掴まっており、シルフラは俺の背中で泡を吹いて気絶してしまっている状態だ。
 なぜシルフラが気絶しているか、それは何も知らない彼女がヤトが竜の姿に変身した瞬間を目の当たりにして驚いてしまったからである。
 ただ大変だったのはその時に彼女が失き……いや、これに関しては何も言うまい。少女のような少年がいきなり迫力満点の竜になったのだから仕方ないことなわけだし。
 なので彼女の服装が変わってることも察してくれると嬉しい。
 とまぁ、そんな感じで今はシルフラが目を覚ますのを話しながら待ってる。

「すまん。ただ竜の背中に乗るってのもやってみたかったから丁度良いと思ってな」

「ハハハ、別にお前さんの頼みならそれくらいいつでも聞いてやるさ。それにいつも一人で飛ぶしかしない私からすれば、こうやって会話をしながら空を飛び回るというのは新鮮さを感じるしな」

 楽しそうに語るヤト。だけどコイツが笑ったり声を出すと振動が凄いな。

「アハハッ、ヤトってば声うるさーい!アハハハハッ!」

 ルルアは楽しそうな声で無遠慮にそう言って無邪気に笑い、ヤトの背中で精いっぱいしがみ付いているレトナたちは悲鳴のような声を上げる。

「この姿だから少々煩かったか?」

「まぁな。その姿で笑うとちょっとした衝撃波を食らった気分になる」

「この感覚ちょっと面白いけどね♪」

「面白くなーい!」

 ジルたちには申し訳ないが、彼らの騒がしさのおかげで「旅行」って感じがしてちょっと楽しく感じてしまっている自分がいた。
 元の世界でも旅行じゃないが一応家族で色んな国を回ったりしていたけれど、全員が達観した性格をしてるからこういう学生みたいな騒がしさは全くなかった。そもそも仕事だったしな。

「う、ん……?」

 するとその騒がしさに当てられたのか、俺が背負っていたシルフラに意識が戻る。

「あれ……ここは……?」

「起きたか猫娘」

 目を覚ましたシルフラは寝惚けた様子で辺りを見渡し、現状を把握しようとしていた。

「人間……の背中?なんで背負われてる?」

「直前に自分がどうなったのか覚えてないのか?」

「直前?どうなったか……――」

 あやふやな記憶を探り、そしてシルフラはハッとし、顔を青ざめさせて思い出したようだった。

「竜!」

「呼んだか?」

「にゃっ⁉」

 ヤトが竜の姿になったのを思い出したシルフラが一言発すると、自分が呼ばれたと勘違いしたヤトがそれに応じ、彼女が猫のような声を上げて驚く。
 するとシルフラは急いでもう一度周囲を見渡し、今自分がいる場所が地面ではないことに気付いた様子だった。

「ここって……?」

「その竜の背中」

「…………りゅの?」

 もはや緊張し過ぎてしばらく固まった上に「竜」という言葉さえまともに言えてなかった。

「おっと、二度目の気絶はやめろよ?今度気絶したらヤトの口の中に入れて運ぶからな」

「それはやめてほしい……」

 シルフラの気分が落ち着いたところで背中から降ろす。

「本当に竜の背中に乗ってる……本当に竜?」

 彼女のそれは疑問を抱いているというより現実逃避をしてるようにも聞こえる。

「竜じゃなかったらなんなんだよ……」

「だって……子供が急に竜になったら誰でも驚く」

「猫のお姉さんもビックリして漏らしちゃってたもんね」

「え?」

 言わなければわからなかったことをルルアが堂々と暴露してしまい、彼女とシルフラ以外が「あ……」と声を揃える。
 シルフラは自分の着ている服が朝までのものとは違っていることに気付き、その後しばらく固まり、ついには赤面してその場でうずくまってしまった。

「ルルア……今のは流石にないわ」

「あー……ごめんなさい」

 互いに知った中とはいえ、他人の痴態を大声で晒すのはダメだろうと釘を刺す。
 しかし……ヤトが急に竜化して驚かされた上に服を変えることになるとは、コイツもついてないよな。

「……それでこの服って誰の?」

「ルルアのだよ。ついでに言うとパンツもね☆」

 本当に言う必要があったのだろうかという情報を追加してウィンクするルルア。

「あ、そうなんだ……」

「なんでわざわざ要らんこと言うんだよ……?シルフラも困ってるし変な空気になっただろうが」

「だってこうやって言っておけば、もしお兄ちゃんがその子の下着を見ちゃったとしてもルルアのことを思い出して意識せざるおえないかなって思って」

 彼女の突拍子もないアイディアにルルア以外の全員の頭に?が浮かぶのが目に見えるほど困惑してしまう。
 えっと……?俺がシルフラのパンツを見て、それがルルアのだって思い出させて、それで自分を意識させるように仕向けると?
 あー……

「何食べたらこういう思考できるようになる?」

「一応出会ってからは俺たちと同じものしか食べてないはずなんだけど……」

 シルフラがルルアを指差して言い、ジルが呆れた様子で言う。

「えー、恋する乙女ならこれくらいの考えは普通なんじゃないの?ね、レトナ♪」

「いや、そんなこと一度も考えたことないし、今それを聞いても全く理解できないんだけども」

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「……この人、あなたの恋人なんだよね?」

「そうだよ」

「いいの、彼女で……?」

 彼女のあまりの言動の酷さにシルフラがそんな失礼なことを口走ってしまう。まぁ、言われても仕方ないのだけれど。
 だけど……それでも俺は――

「それでも突き放せないのが惚れた弱みってやつだよな……」

「……そうなんだ」

 シルフラがクスリと笑うのだった。
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