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集中できない

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 俺は今、過去一番で集中できていなかった。

「アハァッ☆ 凄い凄い!凄いですわぁっ‼」

 その原因となるルディの声が背後から大音量で聞こえてくる。
 罵声や野次は何度も聞いたことがあるからそれには慣れていたけれど、子供のように喜ぶ声はあまり経験がない。しかもその内容が……

「わかりますかペナ、あの方が動く度に収縮する筋肉!技を放つ瞬間に硬くなる筋肉!さらにはただ強固なだけではなく、しなやかに、滑らかな軌道を描く筋肉!まさにワタクシの理想そのもの!そう思いませんか⁉」

 これでもかというくらいにルディが興奮していた。本当なら気にしなければいいだけの話なのだが、どうしても気にして恥ずかしくて気が散ってしまう。
 だからと言って今現在襲ってきている魔物に後れを取ることはないけれど……どこかで手元が狂ってしまいそうだ。

「不本意ながら……私でも見ていて惚れ惚れしてしまう強さです。同じ人間として、どうすればあの領域に辿り付けるのか……羨ましさを通り越して妬ましさすら覚えてしまいます」

「ふふっ、それは良いことです。その感情をバネに体を今以上に鍛えて素敵な筋肉に仕上げてくださいな♪」

 内容はアレだが、まるで恋人同士のような会話が後ろから聞こえてくる。やれやれ、リーシアはこんな疲れる奴とずっと一緒にいたのか……いや、自分がターゲットにされてないからか?
 どちらにせよ、話しを聞いてるだけでここまで疲れるなんて、フウリ以上の逸材なのかもしれない……褒めてない意味で。

「……にしても途切れないな、魔物の数。赤いゲートだからか?」

 ボス部屋の扉の先を進んでいると決して広くはない一本道で大量の魔物と出くわしていたのだが、まるでモンパレの時のような数の多さが襲ってきていた。
 しかも少し進んだところで俺たちが進んできた後ろの方からも出現し始めたのでそっちをディールに任せている。

「倒シテモ倒シテモ減ラナイ。ソレニ倒シテモ何モ残サナイ……強引ニデモ進マナイトキリガナサソウダネ」

 ディールはそう言いつつ襲ってくる魔物を次々と切り刻んで倒していった。
 俺もディールも魔物一匹を倒すのに一秒も時間をかけていないおかげで何も問題は起きていないけれど、もし倒す時間が遅ければこの魔物の波に飲み込まれて終わり……にも関わらずルディは吞気に興奮してペナと話している。
 そして流石にそろそろ飽きて来たのか、ディールは武術を使った戦い方から爪で切り裂いたり噛み付いたりといった獣みたいな戦い方をし始める。
 すると魔物を食い千切ったディールが何かに気付きハッとしていた。

「カズ!」

「なんだ?何か緊急事態か?」

「レベルアップした!」

 ……え?
 ディールの言葉に思わず魔物を倒す手を一瞬止めてしまった。
 魔物たちはその一瞬の隙に攻撃を加えようと一斉に襲ってくるが、気が逸れた状態でも相手を斬り伏せられるからいいけれど……久々に今の動揺は少し危なかった。
 ……いや待って、レベルアップ?

「強くなったってことか?」

「ううん、だけど喋れるようになった!」

 たしかに、ディールの言葉が心なしか滑らかになった。レベルアップってそういう……なんで急に?

「ここの魔物を食ったからか?」

「多分。適当に魔物の脳みそ食べたら頭がクリアになってスッキリした!それと味もわかるようになった!」

 そう言ってベッと舌を出すディール。その開けた口で襲ってきた魔物を食い千切る。
 エンカと戦っていた時のように獣の如く爪や牙でワイルドな戦い方をするディールを横目に俺は魔法も使ってまとめて倒す魔物の数を増やし先へと進める。

 ――メテオストライク

 道を埋め尽くすほどの隕石が勢いよく放たれ、瞬く間に正面で押し寄せてきていた魔物の群れは消えていった。

「ん~、スッキリしたな。一気に進むからちゃんとついて来いよー」

 大量にいた魔物の群れが肉片になった道を見てそう言うと、後ろから「はーい」とルディとディールの二人の声が重なって聞こえる。まるで遠足みたいだ。
 そんな中でルディは何かを書き記していた。

「……何書いてんだ?」

「わっ⁉ か、カズ……」

 そっと覗き込む俺に驚くルディ。そんな彼女のメモを盗み見ると、ルディたちがこのダンジョンに入ってきてからのことが事細かに書かれていた。恐らくエトに報告するものだろう。
 そこには俺たちの戦いや強さも書かれている……うん、主に俺の筋肉がどうとかしか書いてない気がするけど。しかもダンジョンの情報量より多いんだが。

「せめて書くならもう少しちゃんと書いてくれない……?」

「……?」

「いや、そんな『なんで?』みたいな感じで首を傾げられてもこっちが困るんだけど」

 筋肉に関する話を割と真面目にしてるから困るんだよぁ……

「……とりあえず次のボス部屋倒したら戻るか」

「ですね。少しでも無事に赤ゲートの探索が進められているだけでも大成果ですからね」

「というか、もう次のボスを倒す前提なのか?それとも私がおかしいのか?段々感覚がおかしくなりそうだ……」

 なんて、俺たちの会話を聞いてペナが頭を抱えていた。
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