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お散歩気分でダンジョンに

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「なんだ今の⁉ おい見たか、あの厄介な焼き鳥がグシャッって潰れたぞ!」

 エンカの最期を見たエトがそう言って笑い、子供のように目を輝かせて興奮する。

「なぁお前、俺様のとこに来ないか?」

「あ!だからズルイですエト様!この方はワタクシのモノになる予定なのです!」

「そんな気もないしそんな予定はない。いい加減諦めろ」

「嫌です(だね)!」

 なぜかそこで息ピッタリな回答をする二人。面倒だな……
 なんて考えてやれやれと呆れていると、ディールが俺の服を摘まむようにして引っ張る。

「……帰ル?」

「やることがないからそれでもいいけど……お前はいいのか?見て回りたいところとか」

「ワカラナイ。何ガアルカ知ラナイカラ……」

 表情がわからないディールの声に少しだけ悲しそうなものが混じっているように聞こえた気がした。あぁ、そうか、ディールにとって初めてのことが多過ぎて何が良くて何が悪いのかという判別もまだできていない状態だったのか。
 今までデク人形としてやってきたのは冒険者相手に戦うことだけだった。それが人格を得たことで経験が知識となり、思考が行動原理となって生物として完成したのだ。
 だがそれは産まれたての赤ん坊と変わらず、俺たちが当たり前にしていることができない、わからないといった感じなのだろう。
 一応ディールは戦闘で俺の技を盗むように、見た行動を真似することはできるだろうけれど、その意味はあまり理解していないと思う。

「そうだな……あっ、そうだ。どうせならできたてホヤホヤのダンジョンにでも潜ってみるか?」

 モンスターパレードが発生したということは、それを終えた今はダンジョンが出現してるはず。俺やディールにとってそこも娯楽施設になるだろうしな。

「ダンジョン……?ダンジョン!」

 ディールは考えるように首を傾げ、そして嬉しそうに声を上げた。

「ソレハ知ッテル、戦ッタ皆ガ楽シソウニ話シテタ不思議ナ場所。ソコニハ行ッテミタイ!」

 口角を上げて嬉しそうな笑みを浮かべるディール。その笑みは他の者から見ればあまり気持ちの良いものではないらしく、ルディたちは顔を青ざめさせていた。うん、ディールが悪いわけじゃないんだけど……いや、正直に言えば顔が悪いとしか言いようがないんだが。口には出さないけど。
 ともかく行先は決まった。

「よし、それじゃあ早速――」

「行くか!」

 一緒に行く気満々のエトが俺の言葉の続きを意気揚々と口にする。え、まさか一緒に行く気なの?

「何言ってるんですか、エト様。あなたはモンパレが無事に終わり、ダンジョンができたを報告書を作らなければならないじゃないですか」

「えー!……後回しじゃダメ?」

 子供みたいな駄々をこねるようなことを言うエトだが、ルディが腕を交差させてバツにして「ダメです」と返されて口を尖らせてその場から立ち去ろうとする。

「仕方ないなー……それじゃあ、代わりにルディ嬢。君とペナちゃんがカズたちに付いて行ってくれないか?」

「ワタクシたちが?」

 疑問の声を上げるルディにエトが笑みを浮かべて振り返る。

「そう、コイツらを連れて来たお前らが、だ。カズたちの監視の意味も含めてダンジョンの状態を確認しに行ってくれ」

「堂々と監視と言わないでください、ワタクシがこの後彼らと行動する時に気まずくなるじゃないですか!やりますけども!」

 ツッコミを入れるルディにツッコミを入れたくなってしまう。

「気まずくなるってわかっててもやるんだな……」

「当たり前でしょう?想いを寄せる殿方の勇士を直接見ることができるのなら不都合があろうと共に歩みます!エリアル家の長女を舐めてもらっては困りますわ!」

 別に舐めてるわけじゃないけど、筋肉好きがここまでくると天晴れと感心したくなってはくる。それを褒めてるかと言われれば……首を縦に振るのは難しいが。

「先に言っとくがお前らは勝手に付いて来るって認識だから、ルディのお守りは全部ペナに任せるからな?」

「当然だ!誰がぽっと出の貴様なんぞにお嬢様の上から下までの世話を任せるかっ‼」

 誰もコイツの介護をするなんて言っとらんがな……こっちから願い下げだよ。

――――
―――
――


 一応目的地であるダンジョンに俺たちは辿り付いた。
 まず最初はモンパレが始まった場所を探さなくてはならず、スマホを使えば簡単に見つけ出せたので苦労はなかったのだが、その「どこにあるかもわからないものを簡単に探し出せた」という点にルディたちに疑問を持たれてしまっていた。
 流石に出会ったばかりのコイツらにスマホのことをおいそれと話すわけにはいかないので何とか誤魔化してる……というか普通に機密情報だと言って諦めてもらった。
 ただ……それがミステリアスだとか言って俺に対するルディの感情に拍車がかかってしまったのは誤算ではあるけれどな……

「……で、来てみたはいいんだけど……ゲートの色ってどういう分け方されてたっけ?」

「主に青が安全、黄色が要注意、赤が危険の三つだけど……赤、ですね」

「最悪入った瞬間に死……か。おい」

 険しい顔をするペナが俺に声をかける。うん、何が言いたいのか予想ができたぞ。

「お前が先に行け」

「ほら言うと思った。別にいいけどよ」

 言われずとも引き返す気もなかったし、赤がどれだけ危険な場所なのかも気になっていたところだ。俺もある程度魔法を使えるようになったから理不尽にすぐ死ぬことはないと思うしな。

「ちなみに赤ゲートを通って生還した奴は?」

「数は少ないですがいますよ。入ってすぐに逃げ出てきた者が何人か」

「そうか、なら戻って来れる可能性は十分にあるってわけだな。だったら俺が――」

 俺が一人で先に、と思ったところでディールが俺の服を引っ張る。

「――俺とディールが先に行って様子を見てくるから」

「本当に行くのですね……でしたらここであなた方の無事を祈っています」

「……死ぬなよ」

 ルディもだが、ペナの心配してくれるような一言に驚きつつ、軽く笑って手を振り赤ゲートの中へと踏み入れた。
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