上 下
237 / 324

参考にできない速さ

しおりを挟む
☆★☆★
~???視点~

「おっ、『アイツ』が暴れてるな」

 何回も試行してようやく成功したキメラ。そこら辺で集めた属性を扱える魔物と災厄級だとか騒がれている蛇の魔物、そんで俺の細胞を混ぜて作った最高傑作だ。
 レベルで言えば災厄の魔物なんて目じゃない……竜にだって勝てる化け物にしてみせた!

「アイツなら俺を殺した人間も……だがどちらにしろ、あんな化け物を放っちまったんだ。ここら辺一帯も火の海になるだろうし、早めに避難しないとな。だが、いつかそのうち俺自身もアイツ以上の強さを手に入れてみせる。そして――」

 俺を殺した奴を見返し、ゴブリンだとかでバカにしてきたこのクソったれな世界も見返して全部を俺のモノにしてやる!
 今ではこの体の能力で昔と比べものにならない強さになった。だがまだだ……もっと圧倒的な力を手にするまでは我慢しなきゃならない。

「だが今の俺にはそれだけの『力』がある、やってみせるさ……そしてその時が来たら――」

 思い出す度に沸き上がる怒りを抑え、なぜか代わりに浮かんでくる笑みを顔に張り付けながら周囲が血塗れとなっていたその場を離れる。
 すると俺の目の前に巨人のような体をした誰かが立ちふさがった。
 赤い肌と角……鬼か。

「ん?なんだってこんなところに子供が――」

 ――バクンッ

 手をスライム状にしてから巨大な狼のような顔に作り直し、俺の存在に気付いた鬼を頭から食い千切る。
 残ったのは膝から下の足だけとなっていた。そして自分の体を観察して「力」が増していることを確認して再び歩き出す。

「さぁ、この世界を喰らい尽くそうじゃないか!」

☆★☆★

~ジル視点~

 まるで夢でも見ているかのような心地だった。
 夢見心地、なんて言えば良いイメージがするけれど、今まさに繰り広げられてる光景は悪夢に近いものだと思う。
 俺を背負ったアニキが空中を飛び回り、八本の首を持つ蛇を斬ったり殴ったりしていた。
 最初こそ魔法を使っていたけれど、面倒になったとかで使わなくなった。普通こういう厄介な敵って逆だと思うんだけど……
 でもアニキが剣を振る度に首が斬り落とされ、拳を振るえば山のような巨体が浮いて吹き飛ぶ。
 ただ問題なのが一つ……何をしてるかが全くわからないことだ。
 俺は今、アニキの背中に乗ってこの戦いを観察と体験を同時にしているわけなんだけれども、何が起きてるのかがさっぱりだ。
 瞬きしてないのに変わる景色。
 離れていたはずの蛇が次の瞬間には至近距離の目の前にいて、だと思ったら遥か上空に飛んでたり蛇の後ろに回り込んでたり……まるで記憶が飛んだみたいに一瞬で起こる出来事ばかりで頭がおかしくなりそうだった。
 「見て学ぼう」と思っていたのに、これじゃあ意味が無い。まぁ……結界の中でアニキがブラッターと戦ってた時も何も参考にならなかったんだけど。
 魔法を発動してることと凄まじい速さで移動する以外は普通に斬って殴ってるようにしか見えないし、いつの間にか相手がありえない吹き飛び方して勝負が終わってる。
 普通なら見て学ぶだけでも得るものはあるんだろうけど、アニキと俺との実力差があり過ぎて得られるものが何もない気がするんだよなぁ……
 そんな収穫が無いという自分の不甲斐無さに溜め息を漏らしてる間にもアニキは蛇の首をまた一つ斬り落とし、胴体に大きな風穴を空けた。蛇が死なないのを良いことに本当にやりたい放題をしているように見えた。
 何より、唯一見て確認できるのは……俺をアニキの表情が楽しそうに笑っていることだった。
 「死なず」「それなりに硬く」「敵である」、八首の蛇はアニキにとって最高の敵であり最高のサンドバッグという名のオモチャになっているのだろうな……
 そんな相手に少しだけ同情していると、ふとアニキがピタリと移動をやめてしまう。流石に飽きたのかな?

「……そういや俺自身、体を強化する魔法って使ったことなかったな」

「……あ」

 アニキの言葉を聞いて漏れた自分の声は俺もそのことを思い出したから……のではなく、ついにその考えに至ってしまったのかというものだった。
 だってそうだろ?他人が聞いたら今まで身体強化の魔法を使ってなくてその強さだったのかと驚くほどなのに。
 何もしてない状態であの長い武器を振って山の上の部分を斬り崩したなんて……話を聞いた時は驚きと疑い、でも最後には「やっぱりアニキは凄いや」とこじ付けるように納得して尊敬したけれど。
 そして今、そのこじ付けはやっぱり合ってたんだと、俺が手を伸ばした相手は間違ってなかったんだと再認識した。

「ジル、さっきより早く動くけど降りるか?」

「いえ……アニキの背中でこの戦いを見せてください。そのために……」

 俺はこんな時でも鍛錬として身に着けていた魔力を奪われる手袋を外してアニキに差し出す。

「本気で見させてもらいます!」

 アニキが手袋を受け取って俺の手から離れると、体の中へ空気が一気に入って来たかのような爽快感を感じた。
 体が浮いてどこかへ飛んで行ってしまいそうなくらい軽い。そんな錯覚を起こしてしまいそうになる中、俺も身体強化の魔法を使ってアニキの体にしがみ付く。

「そか。じゃあ俺の手を握れ」

 アニキがその言葉に従って差し出された手を握り返すと、ほんのりと光って何かが俺の中に流れ込んできた。

「これは……?」

「魔力の譲渡。常人がやれば渡す魔力の十分の一くらいしか回復しないとされてるけど、俺にとってそんな制限は無いに等しいからな。どうだ、久しぶりに手袋を外して魔力が回復してる気分は?」

「……よく、わからないです。でも――」

 元々俺は普通の魔力の少ない獣人であって、魔族のように大量の魔力を持った経験なんてないから「どうだ?」なんて言われてもよくわからないとしか答えられない。それでもこの高揚感は実感できる。

「今ならあのブラッターにも勝てそうって思えるくらいには悪くない気分です」

「ハハッ、それは面白い。さっきのアイツは結局倒してないし、次はお前が相手してみるか?」

「え……」

「冗談だ」

 一瞬強気に出てしまったことに後悔しそうになってしまった。今のは冗談だって言ってくれたからいいけど、気分が良くても余計なことはあまり言わないようにしよ……

「ちなみにだが、できるなら魔力で目をちょっとだけ強化すると良いかもよ?」

「目を魔力で……ですか?でもそれって危ないんじゃ……?」

「最悪失明するらしいな」

 サラッと恐ろしいことを口にするアニキ。怖ッ⁉

「なんでそんな恐ろしいこと勧めてくるんですか⁉」

「俺も今鍛錬の一つとしてやってるんだが、下手に魔力を使い過ぎなければそんな最悪な事態にはならないみたいだ。お前が今使ってる身体強化だって魔力をそこまで使ってないだろ?余裕があればその感覚を覚えて目に流し込めばいい。もちろん覚悟ができないならやらなくていいけど……」

 アニキは心配して言ってるのだろうけど、俺にとってそれが挑発されているように感じた。
 身体強化の要領で……体に魔力を通して強化する時の感覚を今確認して、そのまま体の中の魔力を頭へ持っていき目に通す……

「……えっと、これ何か変わりました?」

「目に魔力が馴染むまでは実感がないだろうな。次から手袋に加えてそれも鍛錬の項目に追加しとくか」

 もちろん、言われずともやるつもりだった。自分が少しずつでも効果があると言われれば鍛えたくなる性分なのだと最近自覚している。

「それじゃ、行くぞ」

 アニキがそう言うとまた景色がパッと変わった。……いや、今のは――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

異世界転生者のTSスローライフ

未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。 転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。 強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。 ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。 改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。 しかも、性別までも変わってしまっていた。 かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。 追放先はなんと、魔王が治めていた土地。 どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー
死因がわからないまま神様に異世界に転生させられた久我蒼谷。 転生した世界はファンタジー好きの者なら心が躍る剣や魔法、冒険者ギルドにドラゴンが存在する世界。 そんな世界を転生した主人公が存分に楽しんでいく物語です。 祝書籍化!! 今月の下旬にアルファポリス文庫さんから冒険がしたい創造スキル持ちの転生者が単行本になって発売されました! 本日家に実物が届きましたが・・・本当に嬉しくて涙が出そうになりました。 ゼルートやゲイル達をみことあけみ様が書いてくれました!! 是非彼らの活躍を読んで頂けると幸いです。

巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる
ファンタジー
60歳になり、定年退職を迎えた斉木 拓未(さいき たくみ)は、ある日、自宅の居間から異世界の城に召喚される。魔王に脅かされる世界を救うため、同時に召喚された他の3人は、『勇者』『賢者』『聖女』。そしてタクミは『神』でした。しかし、ゲームもラノベもまったく知らないタクミは、訳がわからない。定年して老後の第二の人生を、若返って異世界で紡ぐことになるとは、思いもよらず。そんなお話です。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

【書籍化決定】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。

あずももも
大衆娯楽
「あれがヘッドショット系ロリなハルちゃんだ」「なんであの子視界外のモンスター一撃で倒せるの……?」「僕っ子かわいい」「見た目は幼女、話し方はショタ……これだ」「3年半趣味配信して今ごろバズるおかしな子」「なんであの子、保護者から何回も脱走してるの?」「野良猫ハルちゃん」」「百合百合してる」「ヤンヤンしてる」「やべー幼女」「1人でダンジョン壊滅させる幼女」「唯一の弱点は幼女だからすぐ眠くなることくらい」「ノーネームちゃんとか言う人外に好かれる幼女」「ミサイル2発食らってぴんぴんしてる幼女」(視聴者の声より) ◆1年前に金髪幼女になった僕。でも会社は信じてくれなくてクビになったから生計のためにダンジョンに潜る生活。ソロに向いてる隠れながらのスナイパー職で。◇今日も元気に姿を隠して1撃1殺しながら稼いでたところに救助要請。有名配信者って後で知ったアイドルの子をFOE的に出て来たボスからなんとか助けた。で、逃げた。だって幼女ってバレたらやばいもん。でも僕は捕捉されて女の子になったこととか含めて助けてもらって……なぜかちょっと僕に執着してるその子とかヘンタイお姉さんとかポニテ委員長さんとか、追加で髪の毛すんすんさんと実質的に暮らすことに。 いやいや僕、男だよ? 心はまだ……え、それで良いの? あ、うん、かわいいは正義だよね。でも僕は男だから女の子な君たちはお風呂とか入って来ないで……? 別に着替えさせるのは好きにすれば良いから……。 ◆TSロリが声出しまで&フェイクの顔出しでダンジョン配信するお話。ヒロインたちや一部の熱狂的ファンからは身バレしつつも、大多数からは金髪幼女として可愛がられたり恐れられたりやべー幼女扱いされます。そして7章でこの世界での伝説に…… ◆配信要素&掲示板要素あり。他小説サイト様でも投稿しています。 ◆フォローやブクマ、レビューや評価が励みになります! ◆130話、7章で一旦完結。8章が箸休めのTS当初な場面、9章から7章の続きです。 ◆Xアカウントにたどり着くと、TSネタ、ハルちゃんのイラストや告知が見られます。

処理中です...