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戦いながら続行

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「えー……それでは改めて会議を再開することにします」

「というか会議する必要あるか、アイファ?」

 アイファと呼ばれた銀髪の女性が仕切り直そうとしたところにルーガルが横やりを入れる。落ち着いた様子で円卓を囲む彼らの背後ではカズと天使たちが激しい戦闘を繰り広げていた。
 最初の数時間は楽しんでカズたちの戦いを観戦していたが、同じ光景が続いたことでルーガルたちも飽きたのか落ち着き、再び話し合いを始めようとしていた。

「あるに決まってるでしょう?何のための会議だと思ってるんですか……まさか今回の一番の目的を忘れて人間の実力を確かめるだけだと思っています?」

「……あれ、違ったか?」

 本気で本来の目的を忘れて首を傾げる者たち。それに思わずアイファは頭を抱え、重い溜め息を吐く。

「彼……カズさんの処分をどうするかという話です。カズさんが今天使と戦っているのは本当に彼が一人で山を斬った張本人なのかという疑問を晴らすためだけ。あれだけの天使と数時間戦い続けるその実力、精神が常軌を逸してるのを見れただけでも十分というもの。それに本人に悪意が無かったこともわかった」

 アイファの言葉にルーガルが意外そうに「ほう」と感心を示す。

「おっ、他種族を早々認めようとしないエルフ様が珍しい物言いじゃないか?」

「確かに堅物種族にしては……さてはその男に心でも奪われたか?」

「なっ……⁉ そんなわけないじゃない!変な勘繰りはやめなさい!」

 ルーガルとラニャによってからかわれて顔を耳まで赤くするアイファ。
 そんな彼女の横にカズがスッと現れる。

「俺がなんだって?」

「あにゃっ⁉」

 驚いた拍子に奇声を上げてしまうアイファにピアが机をバンバン叩きながら爆笑してしまう。

「あ、『あにゃっ』だって……!」

「まさかアイファ殿からそんなあざと可愛らしい声が聴けるとは……それだけでもこの会議に出席した甲斐があるというもの。ああでも……」

 ラニャもクスクスと笑い、言葉を区切ると話に混ざりつつ天使を殴り飛ばし続けるカズに視線を向ける。

「もしカズさん狙いならウチらはライバル同士になるのう?」

「へ?」

 ラニャの言葉にアイファが固まり、カズが「だから俺がなんだよ?」と眉間をひそめながら疑問を口にしながら当然のように天使の鎧を貫き手で貫通させてしまう。
 そしてようやく笑い終えたピアが机に両手を着いて乗り上げる。

「あ、ズルイズルイ!カズ君を狙うなら私もー!というか、もう娘がカズ君にぞっこんなんだから、そこに付け込んで親子丼作戦とかできちゃうから私がこの中で一番有利なんじゃないかな?」

「いや、だから私は……って、話を聞けぇぇぇぇっ‼」

 盛り上がるピアとラニャ、勝手に進む話に両手をブンブン上下に振って少女のような憤慨の仕方をするアイファ。
 そして本人なのにも関わらず蚊帳の外にされていたカズは小さく溜め息を吐いてヴェルネの横に移動する。

「アイツらは何の話をしてるんだか……」

「フウリがいたアマゾネスを見れば一番わかりやすいけど、獣人の女性は強い男に目が無いのよ。『この強い雄の子を身籠りたい』ってさ。ピア様は魔族だけどサキュバス、その種族の特性から性に奔放……大雑把に言えば獣人と同じように男を求めようとしてるのよ。よかったわね、相変わらずモテモテで」

 女性たち三人の現状を端的に掻い摘んで説明するヴェルネ。

「マジか。つうか片方人妻で旦那そこにいるだろ、なんで堂々と不倫浮気宣言してんの」

「仕方ないさ。たしかにピアは元々私の妻だったが今は違う。それにサキュバスは普通、一人の男に執着することは滅多にないんだ。私はたまたま彼女に気に入られたから彼女と長い間付き添っていられたが……今や見ての通り精魂尽きてしまった骨だ。だから彼女を満足させてやれなくなってしまったからもう自由にさせてやっている。もちろんその相手が君でも何も言わないよ……レトナを悲しませさえしなければね」

 気にした様子の無いダイスだが、娘のレトナのことにだけ関しては強めに言い、カズは苦笑いするしかなかった。
 するとカズがいつの間にか自分に向かってくる天使が減っていたことに気付く。
 今まで三~四体同時だった数が一体のみでカズに襲い掛かり、彼がその一体を片手で掴むと同時に天使の鎧全体が螺旋状に歪み、ボーリングほどの球状になってしまう。
 そしてそれを最後に天使たちは現れなくなった。

「中身が無いとはいえ、結構えぐいことするわね……」

「もしその技が人に向けられたらと考えたら……無機物や魔物に対して使うから頼もしく思えるが、敵だったことを考えると恐ろしいものだ」

「なんだ、もう終わりか?たしかに強くはあったけど……まぁ、やっぱそこそこだな。うちでディールと手合わせをしてた方が楽しかったぞ」

「ディール……そいつは天使より強いのか?」

 原型を留めない天使に使われた技にヴェルネとダイスが恐怖混じりに驚き、ガッカリするカズの言葉に出てきたディールのことが気になったルーガルが話に入ってこようとする。
 そんな彼らやピアたちの話が盛り上がろうとしているとアイファが机を強めに叩く。

「今は!彼の処分の話をしてるんです!そんな恋慕など……今はどうでもよいのですっ!」

 アイファが再び机を強く叩き、カズが持ってきたポテトチップスが一枚地面に落ち、それを見てダイスが悲しそうな顔をして「あぁ……」と漏らす。

「残りの問題はカズさん、あなたが今後どのような行動を取るかということです。それはここにいる魔族、獣人の両種族にとって害、もしくは有益にになるかどうか……」

「それは俺が『お前らと仲良くするから安心してくれ』って言うだけで納得するのか?」

 カズの発言に先ほどまでとは打って変わり、その場が静かになる。
 アイファも言葉を選んでいるのか黙り込んでしまい、ピリピリした空気感が漂い全員が誰かの次の発言を待っていた。

「発言よろしいでしょうか?」

「あなたは……」

 そんな中でヴェルネが手を挙げた。
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