上 下
190 / 324

手合わせの相手

しおりを挟む
「あんたと手合わせ?」

 朝食後にやって来たユースティックと話をし、軽い手合わせをしようかと話を持ちかけた。
 ルルアやヤトのような人外な身体能力でのゴリ押しではなく、達人らしい技術を持った相手と戦いたいと思う時がある。
 一応ディールもいるけれど、アイツのは俺からそのまま切り取った見様見真似という感じで自分と戦っているに近い感じがする。
 それも鍛錬の一環としては良いが、やっぱりそれぞれ個人のスタイルを持っている相手と戦いたいと思う。

「でも俺が訓練相手になるのか?」

「互いにメリットがある話だ。お前にとっても鍛錬になるだろうし、俺にとってもそうだ。生物である以上は癖や仕草といった独特な動きをがあり、同じ武器同じ流派を使っていてもそれぞれ違った動きをする。だから違う人間と戦うことで自分は十分強くなったという『不必要な慣れによる錯覚』をなるべく減らすのが目的だよ」

 ユースティックは「それなら」と言って自分の武器を手にし、何の合図も無くいきなり襲いかかってきた。
 そう、これでいい。本当の戦いには「よーいドン」なんてないし、不意打ち騙し討ちをしたされたとしても「ズルい」なんて言えない。
 生き残った奴が勝者。たまに聞く言葉だが、まさにそれだ。
 どんなに汚くても勝てればいいし、綺麗事を口にしても死んでしまえばそれまでだし。
 ……逆に俺から襲いかかっても反射神経を鍛える鍛錬になりそうだな。

「……俺をこれ以上強くさせる気か?」

「驕るなよ。たしかにお前は達人の領域にいるが、俺から見れば達人に成り立てのひよっこも同然なんだ。もしもの時に守りたいものが守れなかった、なんてなりたくないだろ?」

 俺の言葉でムッとしたのか元々容赦無く振るっていた大斧を持つ手に力が入り、少ないながらも殺気を纏っていた。

「ああ、俺にも守りたいものがある。そのために傭兵なんてやって今まで汚れ仕事をしてきたんだ。アイツのためだったら俺は修羅にでも堕ちる覚悟があるッ!」

 ユースティックは怒りにより武器を振るう鋭さが増す。ただ頭に血が上っているにしては技の切れも増し、冷静な判断ができているようだった。
 大抵の場合は怒りに身を任せれば技の精度が落ちるが、ユースティックはむしろ力と精度の両方が上がっている。
 本人がそれを技術として取り込んだのか、天性のものとして会得していたのかは分からないけど、武術家としてかなり完成に近付いている。

「修羅になるにしてはちっとばかし優し過ぎる気もするけどな」

 そう言ってユースティックの腹部に拳を放ち吹き飛ばす。
 ユースティックは一撃を食らって一度ダウンするが、その瞳からは闘志が消えていなかった。

「お前みたいな奴はきっと相手の顔が親しい奴に似てるってだけで躊躇するだろう。もし本当の修羅になるのなら――」

 そこまで言うと俺は誰もが感じ取れるほどの強い殺気を放ち、ユースティックの表情が緊張で硬直する。

「俺みたいにもっと冷酷に、非情になることだ」

「……普段ヴェルネさんや他の子たちに優しくしてるとこばかり見てるせいか違和感しかないんだが?」

 なんてユースティックが言ったせいで変な空気になり、真面目な雰囲気がどこかへ行ってしまった気がした。

「……まぁ、別にそんな後ろめたいことを自慢げに言うほどじゃないんだけどな。ただ俺にもそういう経験があって、手を汚したことがあったってだけだ。それに……見せただろ、お前の元雇い主がどうなったかを」

「…………」

 俺が雇う直前の元雇い主のことを引き合いに出すとユースティックは黙り込んでしまう。
 ただの一度っ切りではあったが彼の元雇い主だったその男を拷問し、ユースティックはその光景を直接見てしまっている。
 皮膚の硬さの違いはあれど魔族も人間と変わらず弱点は変わらない。指、眼球、溝、股、脛……戦闘面でもそうだが、拷問をするにも変わらず弱点を持っているわけだ。
 そしてそれを目にしたユースティックだからこそ、ヴェルネや他の奴らよりも俺の残虐性をわかっているだろう。

「なら俺は……」

「今のお前に必要なのはそんなものよりも感覚的な技術だ。それとあとは……魔族は魔法が得意だと聞いたが、そこはどうなんだ?」

「基本的な初級の攻撃、それと見せたことのある武器への属性付与。遠距離系は弱いものしか使えないが、武器に魔法を付与すれば周囲のものを吹き飛ばす威力は発揮できる。属性は土と雷だ」

 なるほど、聞く限り近・中距離が得意な魔法剣士といったところか。

「ならまずは優先するのは相手の位置を把握するところからだな」

「魔法か?」

「いいや、これは生物が持ってる直感の一つだ。俺が人の喜怒哀楽や嘘、悪意を感じ取れるようになったり、人が発する微弱な気配を特定したり……とまぁ、それができるようになってほしい」

「無茶苦茶じゃないか!」

 そこで「無理」と言わない辺り、一応やる気はあるらしい。

「無茶苦茶なのは否定しないがな。だがもしその無茶苦茶でも強くなる意思があるのなら……そうだな、俺たちが獣魔会議ってのから帰ってきた次の日からジルと一緒に稽古を始めるか?」

「……そう、だな、そうしてくれると俺としても助かる。だがその前にやってほしいこと……いや、診てほしい奴がいるんだが、今から少し時間を貰っていいか?」

 ユースティックからいつも以上に真剣なそう言われ、時間もまだ余裕があったのでとりあえず頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

異世界転生者のTSスローライフ

未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。 転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。 強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。 ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。 改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。 しかも、性別までも変わってしまっていた。 かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。 追放先はなんと、魔王が治めていた土地。 どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー
死因がわからないまま神様に異世界に転生させられた久我蒼谷。 転生した世界はファンタジー好きの者なら心が躍る剣や魔法、冒険者ギルドにドラゴンが存在する世界。 そんな世界を転生した主人公が存分に楽しんでいく物語です。 祝書籍化!! 今月の下旬にアルファポリス文庫さんから冒険がしたい創造スキル持ちの転生者が単行本になって発売されました! 本日家に実物が届きましたが・・・本当に嬉しくて涙が出そうになりました。 ゼルートやゲイル達をみことあけみ様が書いてくれました!! 是非彼らの活躍を読んで頂けると幸いです。

巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる
ファンタジー
60歳になり、定年退職を迎えた斉木 拓未(さいき たくみ)は、ある日、自宅の居間から異世界の城に召喚される。魔王に脅かされる世界を救うため、同時に召喚された他の3人は、『勇者』『賢者』『聖女』。そしてタクミは『神』でした。しかし、ゲームもラノベもまったく知らないタクミは、訳がわからない。定年して老後の第二の人生を、若返って異世界で紡ぐことになるとは、思いもよらず。そんなお話です。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

【書籍化決定】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。

あずももも
大衆娯楽
「あれがヘッドショット系ロリなハルちゃんだ」「なんであの子視界外のモンスター一撃で倒せるの……?」「僕っ子かわいい」「見た目は幼女、話し方はショタ……これだ」「3年半趣味配信して今ごろバズるおかしな子」「なんであの子、保護者から何回も脱走してるの?」「野良猫ハルちゃん」」「百合百合してる」「ヤンヤンしてる」「やべー幼女」「1人でダンジョン壊滅させる幼女」「唯一の弱点は幼女だからすぐ眠くなることくらい」「ノーネームちゃんとか言う人外に好かれる幼女」「ミサイル2発食らってぴんぴんしてる幼女」(視聴者の声より) ◆1年前に金髪幼女になった僕。でも会社は信じてくれなくてクビになったから生計のためにダンジョンに潜る生活。ソロに向いてる隠れながらのスナイパー職で。◇今日も元気に姿を隠して1撃1殺しながら稼いでたところに救助要請。有名配信者って後で知ったアイドルの子をFOE的に出て来たボスからなんとか助けた。で、逃げた。だって幼女ってバレたらやばいもん。でも僕は捕捉されて女の子になったこととか含めて助けてもらって……なぜかちょっと僕に執着してるその子とかヘンタイお姉さんとかポニテ委員長さんとか、追加で髪の毛すんすんさんと実質的に暮らすことに。 いやいや僕、男だよ? 心はまだ……え、それで良いの? あ、うん、かわいいは正義だよね。でも僕は男だから女の子な君たちはお風呂とか入って来ないで……? 別に着替えさせるのは好きにすれば良いから……。 ◆TSロリが声出しまで&フェイクの顔出しでダンジョン配信するお話。ヒロインたちや一部の熱狂的ファンからは身バレしつつも、大多数からは金髪幼女として可愛がられたり恐れられたりやべー幼女扱いされます。そして7章でこの世界での伝説に…… ◆配信要素&掲示板要素あり。他小説サイト様でも投稿しています。 ◆フォローやブクマ、レビューや評価が励みになります! ◆130話、7章で一旦完結。8章が箸休めのTS当初な場面、9章から7章の続きです。 ◆Xアカウントにたどり着くと、TSネタ、ハルちゃんのイラストや告知が見られます。

処理中です...