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ギルドの力

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「俺を探してる奴ってお前かよ……」

「貴様……!」

 ギルドで俺を待っていたのは、つい先程ヴェルネを口説いていた偉そうな魔族のイアンだった。ついでにローたち護衛兵士もいる。

「お知り合いですか?」

「おう、殺してやろうかと殺意を抱くくらいには顔見知りだ」

「それはこちらのセリフだ。しかしまさかクレイジースコーピオンを単独で倒したカズという冒険者がまさか貴様だとは……ここまで忌々しいと私に思わせる奴はそうはいないぞ?」

 イアンは無理矢理作った笑みを張り付けるが、俺との間の雰囲気がギスギスとしているのは他の奴の目から見ても一目瞭然だったようで、その場から逃げるように冒険者たちが出て行く。まぁ、ローたちのような堅苦しい連中がいれば冒険者みたいに大半がやりたい放題やる奔放な性格をした奴らは逃げ出したくなるのも当然だろう。

「それは嬉しい話だ。俺も俺の女房を口説いた上に奪おうとするような奴から好かれたいとは思わないからな」

 イアンに対抗して張り合っていると、俺の頭に何か当たる。地面に転がったそれを見ると、丸めた紙。
 それを投げたのは飛び火しないように離れて席に座っていたヴェルネで頬を少し赤らめて睨んできていた。「女房」というのが恥ずかしかったらしい。まぁ、わかってて言ったんだけど。

「言うじゃないか。ダイス様の後ろ盾があるからってちょっといい気になってないか?」

「別にアイツがいなくても俺の態度は変わらんよ。お前が俺たちにちょっかい出してくる限りはな……それで俺に何の用だ?まさか断った依頼を無理矢理やらせるためにわざわざ足を運んだわけじゃないだろうな?」

 俺の煽るような言葉にイアンは睨んでくるだけで何も言い返してこない。図星か……

「何が不満だ?金なら相応の……いや、倍は払う!それに今までの態度も見ずに流すぞ!」

「要らん。俺一人で魔物を狩れるんだから金に困ってるわけじゃないってわかるだろ?それに――」

 そこで一度言葉を区切り、今も尚、上から目線のイアンを威圧する。

「お前が許そうと許すまいと俺には関係ないんだよ」

 危機を察知した彼の護衛であるローが急いで間に入って武器を構える。他の護衛の奴らは何が起きたのかとざわつく中でローだけは迷わず武器を至近距離まで向けてきていて、俺を連れてきたイルもそんな現状にあたふたしてしまっていた。
 俺はその槍の先の刃の部分を指で摘まむ。

「何を……う、動かない⁉」

「ちょっとぉ……ギルド内での揉め事は責任負わないって言ったけど、オススメはしてないわよぉ?」

 相変わらず気だるげにそう言いながら奥から登場するギルド責任者のオーナー。彼女の登場のタイミングでローの武器を離すと彼はその勢いで後ろに倒れてしまった。

「それにカズ君、ギルドに登録する時も言われたでしょ?指名の依頼ではくれぐれも問題を起こさないようにってさ」

「ならこうならないためにもギルド側で処理しておかなきゃならない話だったんじゃないか、これは?わざわざイルを来させてまで俺を連れて来るような話でもあるまいし」

「イルを?……彼女を派遣したのは誰だい?」

 どうやらオーナーも初耳だったようで、不機嫌な表情で職員たちを睨み付ける。
 するとざわつく中で一人の陰険そうな男が青い顔になりながら出て来た。

「あんたは前にイルの教育係をさせてた奴だねぇ?彼女の時もそうだったけどぉ、あんたには多くの苦情が来てるんだよねぇ……今回の件もあるし、もう庇い切れない。だから残念だけどあんたは今日限りでクビだ」

 「そんなっ!」と絶望する男をオーナーは無視し、ゆったりとこちらへ歩いて来る。

「次にあんた。前に依頼してきたイアンって人だったよねぇ?ウチらギルドは断った依頼を無理矢理引き受けさせるようなことはしないんだぁ。それでもあんたの立場を使って何とかしようって魂胆なら、こっちも黙っちゃいないよ」

「な、何を……?一介のギルドが何をしようと――」

「『裏ブラックリスト』」

「ッ!?」

 オーナーが呟いた一言にイアンの表情が一変して暗く焦った様子に変わる。

「ある程度の立場を持つならこの言葉の意味は……わかるわよねぇ?」

 意味深な怪しい笑みを浮かべてそう言うとイアンは喉を詰まらせたように何も言えなくなってしまっていた。
 そして踵を返して無言で俺の横を素通りし、ギルドから出て行ったのだった。
 「裏ブラックリスト」……ただのブラックリストじゃないのはあの男の反応を見て何となく察する。
 内容はわからないが……まぁ、ああいう権力者相手でもギルドが怯まない力を持つのなら、ここは安心していい場所なんだなと思える。

「全く、あの手の輩はどこにでもいるから困るねぇ……それとイル、一応あなたもよ。今回は初回というのと迷惑な上司から脅されたからってので多めに見るけど、次はないからね?」

 オーナーの最後の言葉にいつもののんびりした口調はなく、彼女の厳格な雰囲気にイルも気圧されて「はいっ!」と声を張り上げる。

「あとはカズ君……まぁ、こちら側の不手際で悪質な依頼者を押し付けてしまったねぇ……ごめんよ?」

「いや、こっちも毎回のように騒がしくしてすまないな。もしかしたらヴェルネの言う通り、俺には疫病神が憑いてるのかもしれないと思えてきたよ」

 自分の運の無さに頭を掻くとオーナーがクスッと笑う。

「それなら君もこれから気を付けないとねぇ。度の超えた迷惑行為をした場合は冒険者の資格の剝奪と賠償金も発生したりするからぁ」

「それは気を付けるとしよう。賠償金とか金額よりも請求されたっていう事実が心にキそうだしな」

「ふふっ、そうするといいわぁ」
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