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別の服探し

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「それでまずはあたしからと……」

 ルルアの毎日デート発言の翌日。
 その言葉通りに今日から決行することになったわけなのだけれども、だったら最初はまともにデートができなかったヴェルネからという話でまとまったのだった。

「まぁ、仕事らしい仕事も大体片付けたから付き合ってあげてもいいんだけどね」

 そう言いつつも嬉しそうに笑うヴェルネ。何だかんだ言いながら付き合ってくれる
 すると町中の道中で前を歩いていたヴェルネがピタッといきなりその場で立ち止まり、振り返って俺を指差す。

「それじゃあ、デートらしくまずはあんたの服を見に行くわよ!」

「……俺の服?」

  自分の服を見て変なところがないか確認する。

「あんた、それ一着しか持ってないでしょ」

「もういくつかは持ってるぞ?」

「それも同じ服があるだけでしょ?新しい服を見るわよって話。そんな代わり映えしない服ばっかり着てたら見てるこっちが飽きるんだからね!せっかく恋人になったんだし、身だしなみに気を使いなさい。あたしだけじゃなく、ルルアとレトナ様もいるんだから」

 なるほど、寝る時以外はいつもこの服装だったけれど、デート用の服も必要ってことか。
 ……待て、デート用の服装ってなんだ?
 いや、戦闘用の服じゃないってのはわかってるんだが、どういうのがデート用になるのかがわからない。
 しかも選んでくれる相手が……

「なーに悩んでるのよ?心配しなくてもあたしがちゃんとしたのを選んであげるから問題ないわ!」

 自信満々にそう言って珍しく無邪気な笑顔を浮かべるヴェルネ。選ぶのがヴェルネかぁ……
 正直、俺が選ぶのもセンスがいいのかどうかわからないけど、だからヴェルネに頼るのも……

――――
―――
――


 なんて心配していたのだが、服の店に着いてヴェルネが選んだ服は普通に俺もいいなと思ったセンスだった。
 祭りで着るような浴衣に似たもの。上は二重になっており、一枚脱いで半袖の黒シャツになれる。
 耳以外のアクセサリーなんかも付けて動きやすいとは言えない恰好になったが、あくまで戦闘用ではなくデート用の見た目重視の服だと考えれば悪くない。

「言っとくけど動きにくいとか言わないでよ?あと、どうせならルルアとレトナ様の時も服を見てもらいなさい。今のその服はあたしの好みに合わせただけだから、あの子たちの好みにあった服も選んでもらいなさい」

「ふーん……ヴェルネの『好み』か」

 今の服を着て彼女の好みに近付いたと思うとニヤついた顔になってしまい、ヴェルネからは顔を赤らめながらも苦虫を潰したような軽蔑の目を向けてくる。

「~~~~っ……あ、あたしたちはもうそういう関係なんだから別におかしなことじゃないでしょ⁉ 変な顔すんな!」

「仕方ないだろ?ヴェルネって普段はルルアみたいに好き好き言うわけでもないし、遠慮するみたいに距離を取ろうとするんだから」

 ヴェルネはフンッとそっぽを向いて「代金はあんたが払いなさいよ!」と言って先に店を出て行ってしまう。
 ツンデレっていうのは面倒な性格だなと、つい笑いを浮かべながら支払いを済ませて店を出る。
 するとヴェルネが待っててくれているだけだと思っていた外に出て見たのは予想外の現場だった。

「美しいお嬢さん、これからお茶でもどうでしょうか?」

「えぇ……」

 ヴェルネがいかにもな金髪のチャラい男にナンパされていた。しかも当のヴェルネ本人は思いっ切り困惑してしまっている。
 俺もヴェルネのことを美人だと思ってるしジークも美女だと称賛していたが、こうやって実際にナンパされているのを目の当たりにすると少しだけ誇らしく思える。ただ……

「いや、あたしもう相手いるから……」

「それならそれまででも……それに私の方がそんな男より満足させることができますよ?」

 ヴェルネが遠慮気味に断ろうとするが、チャラ男は食い下がって誘うのを止めようとしない。
 ……ただやっぱり、自分の彼女が嫌がってるのに言い寄られているのを見るのは気分が良いもんじゃないな。
 そのチャラ男がヴェルネの腕を掴んだところでその手を払い退け、ヴェルネの肩を持って引き寄せる。

「どう満足させるつもりだったか興味あるね。まぁ、そんなことを俺の恋人にさせる気はサラサラないがな」

「カズ……」

「人間……!?」

 仮面をしてないことで俺が人間であることに気付いたチャラ男が驚いた顔になり、その視線がヴェルネに向けられる。

「まさかあなたの相手っていうのはその人間……?」

 チャラ男の問いにヴェルネは答えず、その代わりに気丈に振る舞ったフリをしながらもその震えた手で俺の服を掴んできていた。
 俺はヴェルネを安心させたいがために彼女の震えた手を握り微笑む。

「は、はは……人間が?なぜ奴隷でもない人間がここにいるかも疑問だけれど、だったら本当に同じ魔族である僕の方が彼女を満足させることができるんじゃないかな?魔族と人間の価値観っていうのはそれほど違うからね」

 そう得意気に話すチャラ男。俺が人間だからとマウントをとってヴェルネを諦めようとする様子がない。

「価値観が違うから満足させられないとか諦めるっていうのはただの言い訳だ。種族の違いで諦めるくらいなら出直してこい」

「っ……!」

 彼の言葉を逆手にとって言い返すとチャラ男は憎々しい顔で俺を睨む。
 この町の奴だったら大抵は俺を知ってるはずだが、知らないってことは外から来た奴か……?それに町の領主を口説くなんて、やるとしたら同じ領主か貴族のような肩書きを持ってる奴くらいだろう。
 どちらにしろヴェルネはやらんがな。

「おい、貴様!私が誰か知っててそんな生意気な口を聞いているのか!?」

「知らん。というか口で負けたからって今度は立場を利用して脅してくんなよ、ガキじゃあるまいし」

「この……っ!おい、ロー!」

 頭に血が上ったチャラ男が殴りかかってくるのかと思ったら誰かの名を呼ぶ。
 現れたのはファンタジー風な西洋の甲冑を着た高い初老の男だった。
 ユースティックほどではないが俺よりも背が高く、その背には長く大きな槍を背負っていた。

「どうしました、イアン様?」

 「どうしました」ね……
 先程から感じていた気配から察するに恐らく一連の流れを見ていただろうが、敢えて事情を知らないといった風に装って見ていなかったことにするつもりか。
 だとしたらこの流れは……

「この男が私を侮辱し暴力を振るった!即刻捕らえろ!」

「……かしこまりました。では青年、大人しく拘束されてくれるかな?そちらのお嬢さんは離れてもらえると助かるのですが……」

 ローと呼ばれた男がそう言うと後からぞろぞろと他の甲冑を着た者たちが数人で俺たちを囲む。
 コイツらの目……俺が何かしたとかしてないとか関係無く、ただ命令に従って行動しようとする奴の目だ。
 別に洗脳されてるとかそんか盛大な話でもなく、ただ「仕事だから」で事を済ませようとしている。
 全く、この世界でも「人間だから」とか「魔族だから」とかで種族で一括りにして相手を貶めようとする習慣があるけど、結局やってることはみんな変わらないんだよなぁ……
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