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食事というよりもデザート
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「ハズレか……」
俺たちを襲って来た奴らの記憶をフウリに読んでもらった。しかしその中に昼間の魔族のことや、生物を細胞レベルで変化させる能力のことなどの情報が何一つなかったのだ。
あったのは依頼主の情報とその原因。単なるクロニクへの嫉妬による犯行であったことがわかったくらいだ。
クロニクはその犯人に心当たりがあるらしく、グルトとモモを俺たちに任せて自分はその調査へと出向いてしまった。
「…………」
そして記憶を隅々まで読まれてしまった襲撃者の一人はフウリにアレコレと個人的な内容を細かくバラされてしまい、涙を流しながら放心状態となってしまっていた。
残忍な拷問を目の当たりにしたことのある俺でさえ同情してしまいそうなレベルだった……
「僕の能力の一番恐ろしいと思われるところは、読み取るにあたって相手自身にもその当時の記憶を同時に思い出させて体験させることができるってところだヨ。もし漏らしたことがあるならその記憶ヲ、女性に振られたことがあるなら短時間に数十回その体験を彼の頭の中で再現させるんダ。苦い記憶を再生されるっていうのはかなりキツイものがあるからネ」
「なんでコイツ、えげつないことをさらっと笑顔で言ってんのよ。普通に怖いんだけど」
「気にするな。気にしたら心を読まれて要らんこと吹き込まれるぞ」
拷問の必要がない頼もしい仲間だと感じるのと同時にやはり恐ろしい奴だと思ってしまう。
元の世界にも似たような胡散臭いのはいくらでもいたが、本当にその場で思っていることを一言一句知られてしまうというのは死線を潜り抜けてきた俺でも背筋を凍らせてしまうほどだ。
「そう思われるのは悪い気がしないけど、心を読まれても戦闘面では君に勝ち目がないだけに複雑なのだけれどネ」
「むしろ敵じゃないだけにぶっ飛ばすこともできなくてこっちの方が複雑なんだが」
「つまり僕たちは相思相愛?」
何をアホなことを言ってるんだとフウリの額にデコピンをし、彼女は「アイタァ!」と声を上げつつも嬉しそうに笑う。
「こっちの人たちはどうするの?あんまりこうしてると力加減間違えて潰しちゃいそうなんだけど」
俺たちの会話が終わるのを待っていたのか、ルルアが襲撃者のうちの二人を捕らえたままの姿勢で聞いてきた。
「そっちの人たちの記憶も読み終わってるから好きにしていいヨ」
俺ではなくフウリがそう指示を出すと、ルルアは「わかった」とだけ淡々と返事をして二人を地面に下ろす。
「助かった」――二人がそう思ったであろう瞬間、そのうちの一人が口から泡を噴き出し尋常ではない様子でその場に倒れてしまう。
そして何が起きたか理解できていないもう一人はルルアに地面へ押さえ付けられ、その首に牙を突き立てられる。
「あ――」
一人はほんのちょっとだけ声を漏らしたが、あとは痛みなどを感じていないのか大人しく彼女に血を吸われ続け、静かに絶命してしまうのだった。
その光景をグルドとモモは青ざめた顔でただただ見つめていた。
「……そういえば人が死ぬまで血を吸ってるところを見たのは俺も初めてだったな。今更驚きはしないけど」
ルルアの残虐性には今更感があったのでそこまでのリアクションはないし、俺の中での彼女への印象も何も変わらない。
そして血を吸い終わったルルアは次の獲物を狙う表情で顔を上げ、動けなくしたもう一人にも近付いて無言で血を吸い始める。
「……あれは恐ろしいとは思わないのかイ?」
「特には。俺の頭の中を覗いたお前なら、理解はできなくても納得ぐらいはできるだろ?」
「…………」
俺の言葉に普段お喋りなフウリが口を閉じてしまう。
俺自身が自覚していること……それは元の世界で家族が敵となる人間の命を目の前で躊躇無く奪っており、俺自身もかなりの人数の命を奪ってしまっている経験があるためか仲間が人の形をした相手の命が奪っていても何も思わなくなっていた。それが自分の命を狙った相手なら尚更だ。
俺の場合、粗末に扱うわけでもないが、だからといって誰もがよく言う「命は何よりも思い」とも感じてもいないのだ。
それにもっと言ってしまうなら、ルルアのソレは「食事」だ。自然界でライオンが鹿を狩って食っているのと変わらないのだと思えば……ってな。
「……凄い感性をしてるネ」
「そうか?……そうかもな」
苦笑いで言ってくるフウリに適当に返す。人によっては頭がおかしいと思われてもしょうがない性格という自覚はあるし、実際に昔に一度言われたことがあるからそんなことを口にしてしまう。
とはいえ、別にそれで落ち込むほど繊細な性格はしてないわけだが。
「ところで固まってしまってる彼らはどうすル?」
フウリに聞かれてグルドたちの存在を思い出し、彼らの方を見る。
グルドたちは血を吸っている最中のルルアに目が釘付けとなってしまっていた。
「そ、その子は何をしてるの……?」
「血を吸ってるんだよ、吸血鬼だからな」
「吸血鬼って本当に死ぬまで血を吸っちまうのか?こぇー……」
モモは普通に怖がっているが、グルドは恐怖よりも興味の方が勝っている様子だった。コイツも結構変わり者らしい。
「ねぇ、まさか全員の血を吸う気?お腹壊すわよ」
ヴェルネも若干ズレた感覚で注意をルルアに促す。違うそうじゃないって言いたくなってくる。
「大丈夫、そろそろ血の方は満足だから!これ以上吸っちゃったらご飯が食べれなくなっちゃうし♪」
何その別腹みたいな発言。ルルアにとって血はデザートみたいなものなのか?
「あ、でもお兄ちゃんの血は別腹だからまたあとで頂戴ね!」
デザートなのは俺の血でした……
俺たちを襲って来た奴らの記憶をフウリに読んでもらった。しかしその中に昼間の魔族のことや、生物を細胞レベルで変化させる能力のことなどの情報が何一つなかったのだ。
あったのは依頼主の情報とその原因。単なるクロニクへの嫉妬による犯行であったことがわかったくらいだ。
クロニクはその犯人に心当たりがあるらしく、グルトとモモを俺たちに任せて自分はその調査へと出向いてしまった。
「…………」
そして記憶を隅々まで読まれてしまった襲撃者の一人はフウリにアレコレと個人的な内容を細かくバラされてしまい、涙を流しながら放心状態となってしまっていた。
残忍な拷問を目の当たりにしたことのある俺でさえ同情してしまいそうなレベルだった……
「僕の能力の一番恐ろしいと思われるところは、読み取るにあたって相手自身にもその当時の記憶を同時に思い出させて体験させることができるってところだヨ。もし漏らしたことがあるならその記憶ヲ、女性に振られたことがあるなら短時間に数十回その体験を彼の頭の中で再現させるんダ。苦い記憶を再生されるっていうのはかなりキツイものがあるからネ」
「なんでコイツ、えげつないことをさらっと笑顔で言ってんのよ。普通に怖いんだけど」
「気にするな。気にしたら心を読まれて要らんこと吹き込まれるぞ」
拷問の必要がない頼もしい仲間だと感じるのと同時にやはり恐ろしい奴だと思ってしまう。
元の世界にも似たような胡散臭いのはいくらでもいたが、本当にその場で思っていることを一言一句知られてしまうというのは死線を潜り抜けてきた俺でも背筋を凍らせてしまうほどだ。
「そう思われるのは悪い気がしないけど、心を読まれても戦闘面では君に勝ち目がないだけに複雑なのだけれどネ」
「むしろ敵じゃないだけにぶっ飛ばすこともできなくてこっちの方が複雑なんだが」
「つまり僕たちは相思相愛?」
何をアホなことを言ってるんだとフウリの額にデコピンをし、彼女は「アイタァ!」と声を上げつつも嬉しそうに笑う。
「こっちの人たちはどうするの?あんまりこうしてると力加減間違えて潰しちゃいそうなんだけど」
俺たちの会話が終わるのを待っていたのか、ルルアが襲撃者のうちの二人を捕らえたままの姿勢で聞いてきた。
「そっちの人たちの記憶も読み終わってるから好きにしていいヨ」
俺ではなくフウリがそう指示を出すと、ルルアは「わかった」とだけ淡々と返事をして二人を地面に下ろす。
「助かった」――二人がそう思ったであろう瞬間、そのうちの一人が口から泡を噴き出し尋常ではない様子でその場に倒れてしまう。
そして何が起きたか理解できていないもう一人はルルアに地面へ押さえ付けられ、その首に牙を突き立てられる。
「あ――」
一人はほんのちょっとだけ声を漏らしたが、あとは痛みなどを感じていないのか大人しく彼女に血を吸われ続け、静かに絶命してしまうのだった。
その光景をグルドとモモは青ざめた顔でただただ見つめていた。
「……そういえば人が死ぬまで血を吸ってるところを見たのは俺も初めてだったな。今更驚きはしないけど」
ルルアの残虐性には今更感があったのでそこまでのリアクションはないし、俺の中での彼女への印象も何も変わらない。
そして血を吸い終わったルルアは次の獲物を狙う表情で顔を上げ、動けなくしたもう一人にも近付いて無言で血を吸い始める。
「……あれは恐ろしいとは思わないのかイ?」
「特には。俺の頭の中を覗いたお前なら、理解はできなくても納得ぐらいはできるだろ?」
「…………」
俺の言葉に普段お喋りなフウリが口を閉じてしまう。
俺自身が自覚していること……それは元の世界で家族が敵となる人間の命を目の前で躊躇無く奪っており、俺自身もかなりの人数の命を奪ってしまっている経験があるためか仲間が人の形をした相手の命が奪っていても何も思わなくなっていた。それが自分の命を狙った相手なら尚更だ。
俺の場合、粗末に扱うわけでもないが、だからといって誰もがよく言う「命は何よりも思い」とも感じてもいないのだ。
それにもっと言ってしまうなら、ルルアのソレは「食事」だ。自然界でライオンが鹿を狩って食っているのと変わらないのだと思えば……ってな。
「……凄い感性をしてるネ」
「そうか?……そうかもな」
苦笑いで言ってくるフウリに適当に返す。人によっては頭がおかしいと思われてもしょうがない性格という自覚はあるし、実際に昔に一度言われたことがあるからそんなことを口にしてしまう。
とはいえ、別にそれで落ち込むほど繊細な性格はしてないわけだが。
「ところで固まってしまってる彼らはどうすル?」
フウリに聞かれてグルドたちの存在を思い出し、彼らの方を見る。
グルドたちは血を吸っている最中のルルアに目が釘付けとなってしまっていた。
「そ、その子は何をしてるの……?」
「血を吸ってるんだよ、吸血鬼だからな」
「吸血鬼って本当に死ぬまで血を吸っちまうのか?こぇー……」
モモは普通に怖がっているが、グルドは恐怖よりも興味の方が勝っている様子だった。コイツも結構変わり者らしい。
「ねぇ、まさか全員の血を吸う気?お腹壊すわよ」
ヴェルネも若干ズレた感覚で注意をルルアに促す。違うそうじゃないって言いたくなってくる。
「大丈夫、そろそろ血の方は満足だから!これ以上吸っちゃったらご飯が食べれなくなっちゃうし♪」
何その別腹みたいな発言。ルルアにとって血はデザートみたいなものなのか?
「あ、でもお兄ちゃんの血は別腹だからまたあとで頂戴ね!」
デザートなのは俺の血でした……
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