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暇だよ!
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「――で、暇なんだ~」
「そうなんですね~」
ルルアはジルと手合わせを終わらせた後、ヴェルネの屋敷の中を歩き回ったがフウリやジークの姿などが見えず、どうしようかと悩んだ結果がギルドへと足を運び、受付嬢のイルと雑談をしているのだった。
イルはルルアのことを邪険にはせず、書類仕事をしつつ話を聞いていた。
「それにしても色々と……何か成長しました?見た目も変わったみたいですけど」
「理由はわかんないけど成長期なんじゃない?吸血鬼ってある時期になると急激に成長するらしいよ。しかも寿命が尽きる寸前までにならなきゃ若いまま」
「え、何それ羨ましい!?」
イルはつい立ち上がって声を張り上げてしまい、周囲の冒険者から注目を集めてしまう。
ハッと我に返ったイルは赤面しながら椅子に座り直して咳払いをする。
「ふふっ……面白いね、あなた♪」
彼女の痴態を目の当たりにしたルルアがクスクスと笑い、その表情が艶めかしく感じてドキリとするイル。
「か、からかわないでよ……それよりもこれからどうするの?カズさんはまだ帰って来ないんだよね?」
「うん。もしかしたら朝帰りになるかもね」
ルルアが達観した言い方をしてそこで注文した飲み物をストローで飲み、その意味を理解したイルがブフォッと噴き出す。
「ちょっ……ルルアちゃん⁉ どういう意味かわかってて言ってる……?」
「わかってるよー。ルルアって血を吸った人の知識も同時に自分のものにできるから。子供なのは見た目だけなんだからね?」
「そ、そうなんだ……」
成長したとはいえ、イルから見てまだ幼い少女が「そういう方面」の知識を持つというのは複雑な心境だった。
「ちなみに――」
ルルアは机に腕を置いてそんなイルと向き合い、ニッと意地悪な笑みを浮かべた。
「――カズお兄ちゃんはルルアとも恋人だから、恋愛経験でもあなたの先輩だね?」
「なっ……そんなことないよ⁉ 私だって恋人の一人や二人……!」
「でもあなた……」
机に乗り上げて顔を赤くしたイルが反論しようとするが、ルルアも立ち上がって彼女の首筋の匂いを嗅ぐ。
イルは素早く後ろに下がる。だがルルアがしようとしたことはすでに終わっており……
「処女でしょ?」
ルルアの口から放たれた爆弾のような発言に、さほど大きな声でもなかったにも関わらず周囲の冒険者が一瞬ザワリとし、ギルド全体が静寂に包まれてしまう。
「――――ッ⁉」
「それにさっきの反応からキスだったりもしたことなさそうだし……手も繋いだことあるの?って感じかな」
「ちょちょちょっ……!」
次々と図星を突かれ、慌ててルルアの口を無理矢理塞ぐイル。しかしギルド内は何とも気まずい空気になって手遅れな雰囲気になってしまっていた。
「あんまりウチの従業員をからかっちゃダメよぉ?やり過ぎるようならカズ君に報告して怒ってもらっちゃうからねぇ」
そこにギルドの責任者のオーナーが現れ、若干涙目のイルの肩に手を置く。
「それはやだな~♪」
反省するどころか悪戯に笑うだけのルルアにオーナーが溜め息混じりに笑みを浮かべて煙管を口に咥える。
「やれやれ、あの幼く可愛いかった少女は一体どこへ行ってしまったのかしらぁ……?」
オーナーは口から煙を吐き、ルルアを見て「ふむ」と何かを考え始める。
「そんなに暇なら依頼の一つでもやるぅ?今なら雑用から魔物退治までなんでもござれよ~」
「なんでお店の人口調風なの?でもお兄ちゃんがいないから意味がないしな~……」
やる気が出ないルルアが机の上に寝そべる。そんな彼女の顔近くにオーナーが一枚の紙を置く。
「意味ならあるんじゃない?何もしないよりお金を稼いでくれる子の方が彼も喜ぶと思うわよぉ」
「んー……?」
あからさまに置かれたその紙をルルアが寝たままの体勢で確認すると、その内容は「行方不明になった猫を探してくれ」「近所への荷物運びを頼む」「肩を揉んでほしい」といったものだった。
「何このお使いレベルの依頼……ふざけてるの?」
「いやまぁ、本当に。冒険者がやるような依頼ではないのは確かなんですけど、ギルドってある意味何でも屋みたいなところがありますんで引き受けないわけにもいかなくて……」
「しかもこの報酬。果物一つ買えるのがやっとなのばかりだし、しかもこの肩を揉んでくれっていうのに至っては『野菜たくさん』って……誰が受けるのよ、コレ?」
「相当な物好きか、相当な暇人、もしくはその両方よぉ」
「つまりルルアが受けたら相当な物好きな暇人にされるってことね?ねぇ、ちょっと二人共首出してよ。今日まだお兄ちゃんから血を貰ってないし、お腹減ってきゃったから」
カズ以外に見せたことのないような爽やかな笑顔で脅すルルアにイルが「ひぃ」と小さい悲鳴を零す。
「受けるかどうかは任せるわぁ。ただ暇を持て余して何かしたいっていうから、支障のない範囲で言ってみただけだしぃ?……そういえばルルアちゃん」
「ん?」
「お金は持って来てるの?」
オーナーがルルアの飲んでる途中の飲み物に視線を向けて聞く。
その問いにルルアは固まってしまい、彼女の体中から変な汗が徐々に噴き出す。
彼女は一応お小遣いくらいは持っているが、いつもカズが支払っているため持ち歩いていなかった。その結果、彼女の手持ち金額は0……一文無しなのである。
そんなルルアと目が合ったオーナーは含みのある笑みを浮かべたまま彼女の後ろに回り込んで肩にソッと手を置いた。
「わざとじゃないみたいだし、それで無銭飲食だなんだって言うつもりはないわぁ。でも……お金の稼ぎ方、返し方はわかってるわよねぇ?あなたに備わっているのが知識『だけ』でないことぉ……期待してるから♪」
「ちゃんと常識があるなら働いて返してね」と脅し半分のようなことだけ言ってその場を去って行ったオーナー。
取り残されたイルは固まってしまっているルルアを心配して苦笑いしながらも彼女の様子を窺う。
「えっと……なんならカズさんが帰って来るのを待っててもいいですよ?あの人なら怒らず笑って済ましてくれるでしょうし――」
「それはダメ!」
イルの提案にルルアが声を荒げて焦った様子で立ち上がる。
「お兄ちゃんに迷惑をかけちゃうこと自体がダメ……その優しさに甘えてたらルルアは本当にダメな子になってお兄ちゃんを失望させちゃうから!」
ルルアがキッと覚悟を決めた表情でイルと顔を合わせる。
「さっきの依頼、全部やるわ!」
「えっ、は、はい、了解しました!」
彼女の気迫に負けたイルが思わず敬礼をしていしまい、先程オーナーが持って来た依頼を全て受諾してしまったのだった。
「そうなんですね~」
ルルアはジルと手合わせを終わらせた後、ヴェルネの屋敷の中を歩き回ったがフウリやジークの姿などが見えず、どうしようかと悩んだ結果がギルドへと足を運び、受付嬢のイルと雑談をしているのだった。
イルはルルアのことを邪険にはせず、書類仕事をしつつ話を聞いていた。
「それにしても色々と……何か成長しました?見た目も変わったみたいですけど」
「理由はわかんないけど成長期なんじゃない?吸血鬼ってある時期になると急激に成長するらしいよ。しかも寿命が尽きる寸前までにならなきゃ若いまま」
「え、何それ羨ましい!?」
イルはつい立ち上がって声を張り上げてしまい、周囲の冒険者から注目を集めてしまう。
ハッと我に返ったイルは赤面しながら椅子に座り直して咳払いをする。
「ふふっ……面白いね、あなた♪」
彼女の痴態を目の当たりにしたルルアがクスクスと笑い、その表情が艶めかしく感じてドキリとするイル。
「か、からかわないでよ……それよりもこれからどうするの?カズさんはまだ帰って来ないんだよね?」
「うん。もしかしたら朝帰りになるかもね」
ルルアが達観した言い方をしてそこで注文した飲み物をストローで飲み、その意味を理解したイルがブフォッと噴き出す。
「ちょっ……ルルアちゃん⁉ どういう意味かわかってて言ってる……?」
「わかってるよー。ルルアって血を吸った人の知識も同時に自分のものにできるから。子供なのは見た目だけなんだからね?」
「そ、そうなんだ……」
成長したとはいえ、イルから見てまだ幼い少女が「そういう方面」の知識を持つというのは複雑な心境だった。
「ちなみに――」
ルルアは机に腕を置いてそんなイルと向き合い、ニッと意地悪な笑みを浮かべた。
「――カズお兄ちゃんはルルアとも恋人だから、恋愛経験でもあなたの先輩だね?」
「なっ……そんなことないよ⁉ 私だって恋人の一人や二人……!」
「でもあなた……」
机に乗り上げて顔を赤くしたイルが反論しようとするが、ルルアも立ち上がって彼女の首筋の匂いを嗅ぐ。
イルは素早く後ろに下がる。だがルルアがしようとしたことはすでに終わっており……
「処女でしょ?」
ルルアの口から放たれた爆弾のような発言に、さほど大きな声でもなかったにも関わらず周囲の冒険者が一瞬ザワリとし、ギルド全体が静寂に包まれてしまう。
「――――ッ⁉」
「それにさっきの反応からキスだったりもしたことなさそうだし……手も繋いだことあるの?って感じかな」
「ちょちょちょっ……!」
次々と図星を突かれ、慌ててルルアの口を無理矢理塞ぐイル。しかしギルド内は何とも気まずい空気になって手遅れな雰囲気になってしまっていた。
「あんまりウチの従業員をからかっちゃダメよぉ?やり過ぎるようならカズ君に報告して怒ってもらっちゃうからねぇ」
そこにギルドの責任者のオーナーが現れ、若干涙目のイルの肩に手を置く。
「それはやだな~♪」
反省するどころか悪戯に笑うだけのルルアにオーナーが溜め息混じりに笑みを浮かべて煙管を口に咥える。
「やれやれ、あの幼く可愛いかった少女は一体どこへ行ってしまったのかしらぁ……?」
オーナーは口から煙を吐き、ルルアを見て「ふむ」と何かを考え始める。
「そんなに暇なら依頼の一つでもやるぅ?今なら雑用から魔物退治までなんでもござれよ~」
「なんでお店の人口調風なの?でもお兄ちゃんがいないから意味がないしな~……」
やる気が出ないルルアが机の上に寝そべる。そんな彼女の顔近くにオーナーが一枚の紙を置く。
「意味ならあるんじゃない?何もしないよりお金を稼いでくれる子の方が彼も喜ぶと思うわよぉ」
「んー……?」
あからさまに置かれたその紙をルルアが寝たままの体勢で確認すると、その内容は「行方不明になった猫を探してくれ」「近所への荷物運びを頼む」「肩を揉んでほしい」といったものだった。
「何このお使いレベルの依頼……ふざけてるの?」
「いやまぁ、本当に。冒険者がやるような依頼ではないのは確かなんですけど、ギルドってある意味何でも屋みたいなところがありますんで引き受けないわけにもいかなくて……」
「しかもこの報酬。果物一つ買えるのがやっとなのばかりだし、しかもこの肩を揉んでくれっていうのに至っては『野菜たくさん』って……誰が受けるのよ、コレ?」
「相当な物好きか、相当な暇人、もしくはその両方よぉ」
「つまりルルアが受けたら相当な物好きな暇人にされるってことね?ねぇ、ちょっと二人共首出してよ。今日まだお兄ちゃんから血を貰ってないし、お腹減ってきゃったから」
カズ以外に見せたことのないような爽やかな笑顔で脅すルルアにイルが「ひぃ」と小さい悲鳴を零す。
「受けるかどうかは任せるわぁ。ただ暇を持て余して何かしたいっていうから、支障のない範囲で言ってみただけだしぃ?……そういえばルルアちゃん」
「ん?」
「お金は持って来てるの?」
オーナーがルルアの飲んでる途中の飲み物に視線を向けて聞く。
その問いにルルアは固まってしまい、彼女の体中から変な汗が徐々に噴き出す。
彼女は一応お小遣いくらいは持っているが、いつもカズが支払っているため持ち歩いていなかった。その結果、彼女の手持ち金額は0……一文無しなのである。
そんなルルアと目が合ったオーナーは含みのある笑みを浮かべたまま彼女の後ろに回り込んで肩にソッと手を置いた。
「わざとじゃないみたいだし、それで無銭飲食だなんだって言うつもりはないわぁ。でも……お金の稼ぎ方、返し方はわかってるわよねぇ?あなたに備わっているのが知識『だけ』でないことぉ……期待してるから♪」
「ちゃんと常識があるなら働いて返してね」と脅し半分のようなことだけ言ってその場を去って行ったオーナー。
取り残されたイルは固まってしまっているルルアを心配して苦笑いしながらも彼女の様子を窺う。
「えっと……なんならカズさんが帰って来るのを待っててもいいですよ?あの人なら怒らず笑って済ましてくれるでしょうし――」
「それはダメ!」
イルの提案にルルアが声を荒げて焦った様子で立ち上がる。
「お兄ちゃんに迷惑をかけちゃうこと自体がダメ……その優しさに甘えてたらルルアは本当にダメな子になってお兄ちゃんを失望させちゃうから!」
ルルアがキッと覚悟を決めた表情でイルと顔を合わせる。
「さっきの依頼、全部やるわ!」
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