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誰が何のために

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「でもどこから調べるのよ?その道具じゃそこまでのことはできないんでしょ?」

 スマホを片手に持つ俺にヴェルネがそう言うが、目星はすでに付いている。

「まぁな、でも手がかりくらいはあるだろ?モモがダンジョンのことを宣伝したからあの魔族がお前に恨みを持ったくらいだし、まずはこの辺りにあるダンジョンを把握しておきたいんだけど――」

 と、そこまで言うと俺の言葉を遮るようにスマホが「ポーンッ!」と音を鳴らす。

「「「……何?」」」

 俺を含めた全員が同じ言葉を発して音の鳴ったスマホに注目する。

「さっきから気になってたんだが、それはなんだ?」

「調べ物や捜し物に色々便利な魔道具とでも思ってくれ」

 クロニクの疑問にそう返しつつスマホの画面を見てみると、操作もしていないのにここら辺のマップが映し出され、さらにはか青く丸い点が一つだけこの町の近くにあり、そこには「ダンジョン」と書かれていた。

「これは地図か!しかもここまで精工な作りをしているのを見たことはない……!」

「へぇ、地図……普通に地図を買おうとすると物凄く高いらしいし、それが凄い作りになってるなら魔王様に献上するんじゃないの?」

「そうなのか?」

 俺が聞くとヴェルネが頷く。スマホだけでなく地図自体が珍しいものらしい。

「もっともダイス様はそういうのは気にしてないだろうけどね。それにあんたからそれを奪おうとして暴れられたらたまったもんじゃないし」

「貸すぐらいならいいんだけどな……よし、まずはそのダンジョンに向かうか。ヴェルネはどうする?」

 地図にあったダンジョンの位置を頭に入れたのでスマホの画面を閉じ、ヴェルネの方を向くと首を捻る。

「なんでダンジョン?」

「魔族の男が向かって死にかけたって言ってただろ?そのまますぐにこの町へ来たってんなら、そこに何か手掛かりが残ってるかもしれない。まぁ、もしかしたらその男の出身の町の近くのダンジョンの方かもしれないけど……」

 そもそも可能性の話をするなら、今回起きた出来事が故意的なものじゃなく偶発的に起きたものであるかもしれないということ。
 もしダンジョン内の魔物や何かしらの仕掛けが原因でモモを狙ったものじゃなければ、放っておいても再びモモが襲われる可能性は低いはず。逆に故意的にモモを狙った犯行なら、余程慎重な性格でもない限り結末を見るためにこの町からそう遠くへは行っていないだろう。
 だが……

「だけどよぉ、その犯人がいたとしてももうこの近くにはいないんじゃねぇか?」

 グルドの発言にクロニクが眉間にシワを寄せる。

「どうしてそう思う?モモを狙おうとするならまだ近くで好機を狙ってるかもしれないだろ」

「お前らが見たっていう化け物の近くでか?その化け物はカズが相手にしなけりゃ死人が出てたかもしれないくらい強かったんだろ?自分が手を下さずにそんな化け物に任せるだけ任せて最後まで出てこようとしないような小心者が、その化け物を倒す奴を見てまだやる気が出ると思うか?」

 俺が考えていたことをグルドが言い、俺以外の全員が「あ~」と納得するような声を漏らす。

「それにだ。あの場で俺たちに対して悪意ある視線を向けてきたのは俺が取り押さえた奴だけだった。だけどアイツは違ったみたいだし、もしかしたらあの魔物を暴れさせることだけが目的かもしれない……とまぁ、色々憶測推測はできるけど、実際に確かめてみないとだけどな」

「それもそうだな。とりあえずあの魔族が魔物となった原因の調査を頼んでもいいか?」

 そんな感じでクロニクからの依頼を頷いて承諾したのだった。
 全く……彼女とのデートがとんだ災難に巻き込まれてしまったな……

☆★☆★
~他視点~

「おっ、アイツ死んだのか」

 どこかの森の中、一人の少年が呟く。
 彼の目の前には恐怖で体を震わせているゴブリンがいた。少年はそのゴブリンの口を無理矢理開かせ、自分の血を飲ませた。
 するとゴブリンの体がガクガクとさらに大きく震え、口から泡を吹き始めるとしばらくして膨張をし始め、風船のように破裂してしまった。

「あーあ、コイツも失敗かぁ……この前の奴だってせっかく成功したってのに死んじまったみたいだし、まだ上手くいかないな」

 そう言いつつも残念そうにするどころか笑みを浮かべる。その少年の周囲には先程のゴブリンが破裂したと思われるものと同じ血の形跡がいたるところにあった。
 彼はかつて「勇者」と呼ばれていた者、ジンだった。しかしそのジンは何者かによって体を奪われ、中身は違う誰かに入れ替わった状態となっている。

「まぁでも、どうせアレも実験台の一つだったからいいんだけど。ただあの魔族がどうなったかは見ておきたかったかな?……って、俺の仕業だってバレる前に元のあの森に帰らないとだしな。またあの人間に殺されちゃあ敵わないからな」

 少年はそう言って立ち上がり、より凶悪な笑みを浮かべる。

「今度は俺が殺す番だ。今よりもっと強くなってお前も、お前の大切なものも、全部奪って殺してやるから待ってろよ……フッ、クハッ!」

 少年は段々と大きく高笑いをする。
 それも次第に落ち着いていき、殺意に満ち溢れた表情でその場を後にする。

「俺は無名の王……名も無く、全ての生物の頂点に立つために『この世界へ来た』んだ。その邪魔をするのなら誰が相手でも排除してやる……!それがどれだけ強くても、それより強くなってやるからな!」

 速足でその場を去ろうとする無名の王。しかし何を思ったのかピタリと足を止める。

「……うん、いつまでも名前がないっていうのは恰好が付かないよな。だからって前に使ってたのをそのまま名乗るのも……」

 ついさっきまでの怒りを抱いている様子はなく、本気で悩んでいるようだった無名の王。そしてしばらくして薄く目を開ける。

「たしかこの世界では支配者のことを『ガイスト』だったな。これからの俺にちょうどいいからそう名乗ろう!」

 そう名乗ることに決めた無名の王はニッと笑い、再び何もない森の中を歩き出す。だがそんなガイストの目の前にゴリラの姿をした巨体が行く手を遮る。

「何このゴリラ……の魔物?ずいぶんデカイけどな……ま、俺には関係ないけど」

 ゴリラの魔物が人一人を簡単に潰してしまえそうなその巨大な拳に雷を纏わせてガイストへ向けて放った。
 しかしガイストは自分が驚異に晒されているとは微塵も思っていないらしく、片手から魔物に向けて赤い何かを振り撒く。
 撒き散らされたものはビシャッと音を立てて魔物の拳に張り付き、ガイストに当たる直前でピタリと止まる。
 そして――

 ――ブシャッ!

 魔物の体全体から血が噴き出してその場で倒れてしまう。

「こんなにも簡単に倒せる。けどもっとだ……本当に誰も手が届かなくなるような強さを――」

 果てしない強さを渇望しながらガイストは森の奥へと消えていった。
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