上 下
155 / 324

最近の奴は二段階変化ができるらしい

しおりを挟む
☆★☆★
~カズ視点~

「俺たちのモモちゃんに何しようとしやがるこの野郎!」

「そうよ!モモちゃんはあたしたちのアイドルなのよ?あんたの汚い手で触っりでもしたら許さないんだから!」

「俺たちがモモちゃんを守るゥゥゥゥッ!!」

「「「うおぉぉぉぉぉッ!!」」」

 建物の影から飛び出てきた者たち。
 彼らの一人一人の顔を覚えているわけではないが、見覚えのあるメンツであることはなんとなく覚えている……ついさっき参加していたコロシアムの参加者だ。
 ソイツらが鬼のような形相で正体不明の魔物相手に特攻をして行く。
 最初の姿は竜に近く、今では禍々しい外見になってしまっている魔物相手でも躊躇する気配も見せず果敢に挑む奴ら。もはや気迫だけで言えば並みの達人を凌いでいる
 一途に好きなものを追い求めるこういう奴らをオタクって言うんだったか……凄いな、オタクって。
 剣や斧や槍、魔法での攻撃も激しく、俺と戦っていた時より凄まじい気迫である。なんで俺と戦っている時に発揮してくれなかったんだろうと思ったりするが……
 だがしかし奴らの攻撃はお世辞にも魔物に効いてるとは言えない。竜モドキは鬱陶しそうにするだけで、体に傷一つのない状態だ。
 さっきヴェルネがコイツのことを「特異個体」とか言っていたけれど、災厄の魔物とは違うってことか?……ってまぁ、体が大きく変化してる時点で普通とは違うか。
 体の硬さも並みの攻撃は通らないみたいだし、下手な魔物よりは強いようだ。もし魔物の強さが災害や災厄級だとしたら、いくら意気込みが凄かろうがアイツらには勝ち目がない。
 ……アイツらだけだったらの話だけれども。

「ストライクゥ~……ショッ〇ォッ」

 どこかの引っ張りハンティングみたいなことを呟きながら他の奴に混じって多種の魔法を放った。
 俺の魔法は特異個体の魔物に傷を付けることができていたが、ダメージはそこまで通っていない。いっそのこと俺が前に出てやりたいけれど……正直に言うと他の奴が邪魔過ぎて戦い辛い。
 魔物の体格だとぶん殴った時に倒れたアイツが周りの奴らを巻き込みそうで怖い……一応本気を出せば周囲に被害を出さずに倒すことも可能だけれども、だからと言ってそのためだけに本気を出すっていうのもな……というような感じでやる気が出ない。
 そもそも魔物の方も俺の魔法で攻撃どころかまともに身動きも取れない状態にしてあるし、これ以上俺が手を出さずとも終わりそうな気がする。結局のところ俺しか何かしてないわけだけども。
 するとそんなことを考えていたせいか、再び魔物に変化が起きる。

「グオォォォォォッ――」

 苦し紛れに咆哮をしたかと思うと、魔物の体が突然弾け飛んでしまった。

「ぷぁっ!な、なんだ⁉」

 弾け飛んだ魔物を中心に黒い霧が霧吹きの水のように周囲へと広がり、ほとんどの奴らが顔に胡椒を振りかけられたかのように先程まで彼らを駆り立てていた戦意を霧散させてしまった。
 そして霧の中から現れたのは人型の何かだった。

「フシュウゥゥゥゥ……」

 元々あった竜のような体を凝縮して小さくした姿にそれぞれ六つある腕と翼、魔族にも近い容姿へと変化したがその性質は全くの別物であり、その場に居た者全員がソレの纏う異様な雰囲気を肌で感じ取っていた。
 二回目の変化……まるでラスボスの魔王みたいだな。
 なんて考えているとその魔物の姿が消え、俺もほぼ同時に動いた。

 ――パパパンッ!

「えっ、何なの……何が起きてるの!?」

 空中で破裂音を鳴らし、次第に家の壁や地面が陥没していく。

「おい、ヤバそうだぞ!早くここから逃げ――」

 逃げようとした獣人の男の行く手が大きく陥没し、「ヒッ」と小さく悲鳴を上げて腰を抜かしてしまう。
 その後も軽いものから重い音までを鳴らし、最後に地面への着地して陥没させる。その中心に俺と人型に近い姿となった魔物が互いの手を掴み合って硬直状態となっていた。
 コイツが変化すると身体能力も急激に上がったらしく、俺とコイツが動き回って打ち合っていたのだ。さっきの竜の姿でも十分な強さだったが、今のコイツは恐らくここにいる奴らを一瞬で殺せるほどの力を持っている。

「速く、力も強く、少なくとも知性も備わってる。ははっ、災厄とか言われてる魔物よりも厄介って意味で強いな、お前」

 俺はそう言いつつ楽しそうに笑う。
 コイツ……この世界で出会った中で一番ヤバイ奴だ。「強い」という意味もだが、それだけじゃなく全てに対する憎しみが肌を通してと伝わってくる。
 普通、魔物から伝わってくる感情は野生動物のように純粋な防衛本能や生存本能だけだ。
 しかしこの魔物から伝わってくるのは「仕返しをしてやる」という人間味ある感情だ。もしかしたらまだコイツが魔族だった時の意識が残っているのかもしれない。
 強さっていうのは力や技術以外に「執着」や「執念」といったものがある。それが今コイツから感じられるものだ。

「オ……マエ……ノ……セイデ」

 ――お前のせいで。

 それが奴から微かに聞き取れる言葉だった。そして魔族だった時にコイツが狙っていた相手と言えば……
 魔物の注意が近くに来ていたモモへと向けられる。それが奴の隙となった。

「俺相手に他を気にするほど余裕か?」

 掴んでいる腕を内側に回して相手を浮かせた。腕が二本しかない人間相手だったら身動きが取れなくなるが、コイツは他にもある四本の腕で攻撃してくる。
 一本目は首を曲げて避け、二本目は左足で受け止め、三本目は二本目を受け止めた左足をズラしてぶつけた。そして最後の四本目は頭突きで受け止めてやり、向こうの手の甲が割れて血が噴き出す。

「俺って結構石頭だろ?」

 ニッと笑ってそう言い、掴んでいた相手の残りの腕二本を高速回転させて引き千切る。
 だが奴は痛覚を感じていないのか、怯まずに残りの一本で俺の腹を殴ってきた。

 ――ズドンッ!

 隕石でも落ちたかのような衝撃が辺りを襲い、俺の立つ地面がさらに陥没する。今までで一番力強い攻撃……腹に風穴が空いても不思議じゃない威力だ。
 それでも俺の笑みを作る余裕は消えなかった。

「悪いな、単純な力なら無効化できる技術は持ってるんだよ」

 全身に纏う西洋の鎧のように地面や壁に密着してる部分から衝撃を逃がしてダメージを軽減する技術。俺の場合は熟練度により軽減ではなくほぼ無効だ。
 流石に渾身の力が全く通用しなかった事実に驚いた魔物はさっきよりも大きな隙を見せる。
 決め所はここだ。
 大きく呼吸をして息を整える息吹をし、確実に仕留めるための技を放つ。
 貫手にした手を素早く打ち込み魔物の体に風穴を空け、握った拳を槌に見立てて頭から殴り潰した。
 そして高めに跳躍し、最後にかかと落としを決めてやった。
 魔物だった奴の姿はすでに原型を留めておらず、俺の足の下で肉塊となって声もまともに発声できていない状態となっていた。
 グロテスクな見た目となった魔物を見た周囲の奴らは戦慄を覚えた顔をしてるし、クロニクやモモも呆然とした顔をしている。
 誰も動こうとしない中でヴェルネが近付いてきた。

「何してたか全くわからなかったけど滅茶苦茶だったってのはよくわかったわ。お疲れ様」

 ぶっきらぼうにそう言って俺の胸を軽く叩いてくる。彼女なりの労い方が独特で少し笑ってしまう。

「おう。ヴェルネもありがとうな」

「あたしは何も……」

「被害が出ないように避難誘導してくれただろ?」

 実はその様子を見ていたことを伝えるとヴェルネは顔を赤くしてうつ向き、俺の胸を何度も殴ってくるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

異世界転生者のTSスローライフ

未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。 転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。 強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。 ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。 改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。 しかも、性別までも変わってしまっていた。 かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。 追放先はなんと、魔王が治めていた土地。 どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー
死因がわからないまま神様に異世界に転生させられた久我蒼谷。 転生した世界はファンタジー好きの者なら心が躍る剣や魔法、冒険者ギルドにドラゴンが存在する世界。 そんな世界を転生した主人公が存分に楽しんでいく物語です。 祝書籍化!! 今月の下旬にアルファポリス文庫さんから冒険がしたい創造スキル持ちの転生者が単行本になって発売されました! 本日家に実物が届きましたが・・・本当に嬉しくて涙が出そうになりました。 ゼルートやゲイル達をみことあけみ様が書いてくれました!! 是非彼らの活躍を読んで頂けると幸いです。

巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる
ファンタジー
60歳になり、定年退職を迎えた斉木 拓未(さいき たくみ)は、ある日、自宅の居間から異世界の城に召喚される。魔王に脅かされる世界を救うため、同時に召喚された他の3人は、『勇者』『賢者』『聖女』。そしてタクミは『神』でした。しかし、ゲームもラノベもまったく知らないタクミは、訳がわからない。定年して老後の第二の人生を、若返って異世界で紡ぐことになるとは、思いもよらず。そんなお話です。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

【書籍化決定】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。

あずももも
大衆娯楽
「あれがヘッドショット系ロリなハルちゃんだ」「なんであの子視界外のモンスター一撃で倒せるの……?」「僕っ子かわいい」「見た目は幼女、話し方はショタ……これだ」「3年半趣味配信して今ごろバズるおかしな子」「なんであの子、保護者から何回も脱走してるの?」「野良猫ハルちゃん」」「百合百合してる」「ヤンヤンしてる」「やべー幼女」「1人でダンジョン壊滅させる幼女」「唯一の弱点は幼女だからすぐ眠くなることくらい」「ノーネームちゃんとか言う人外に好かれる幼女」「ミサイル2発食らってぴんぴんしてる幼女」(視聴者の声より) ◆1年前に金髪幼女になった僕。でも会社は信じてくれなくてクビになったから生計のためにダンジョンに潜る生活。ソロに向いてる隠れながらのスナイパー職で。◇今日も元気に姿を隠して1撃1殺しながら稼いでたところに救助要請。有名配信者って後で知ったアイドルの子をFOE的に出て来たボスからなんとか助けた。で、逃げた。だって幼女ってバレたらやばいもん。でも僕は捕捉されて女の子になったこととか含めて助けてもらって……なぜかちょっと僕に執着してるその子とかヘンタイお姉さんとかポニテ委員長さんとか、追加で髪の毛すんすんさんと実質的に暮らすことに。 いやいや僕、男だよ? 心はまだ……え、それで良いの? あ、うん、かわいいは正義だよね。でも僕は男だから女の子な君たちはお風呂とか入って来ないで……? 別に着替えさせるのは好きにすれば良いから……。 ◆TSロリが声出しまで&フェイクの顔出しでダンジョン配信するお話。ヒロインたちや一部の熱狂的ファンからは身バレしつつも、大多数からは金髪幼女として可愛がられたり恐れられたりやべー幼女扱いされます。そして7章でこの世界での伝説に…… ◆配信要素&掲示板要素あり。他小説サイト様でも投稿しています。 ◆フォローやブクマ、レビューや評価が励みになります! ◆130話、7章で一旦完結。8章が箸休めのTS当初な場面、9章から7章の続きです。 ◆Xアカウントにたどり着くと、TSネタ、ハルちゃんのイラストや告知が見られます。

処理中です...