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優勝賞品って……?
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☆★☆★
~カズ視点~
バトルトーナメントがなんとも微妙な空気で終了し、呆気無く優勝した俺は別室へと案内されていた。
一応「優勝者の授与」という形での案内だったので、連れであるヴェルネは別室で待機してもらっている。
「いやぁ、見ていて気持ち良い戦いだったよ!あれだけ力強い戦いを見たのは初めてだ!」
「そりゃどーも」
豪快に笑って俺を称賛してくるのはここの責任者、クロニク。
獅子を連想させるよう剛毛な黒髪と野性的な黄色い瞳。言わずもがな獣人なのだろうけれど、どこかで見たことがあるような気がするのは気のせいだろうか……?
それはそれとして、「ここの」というのはバトルトーナメントの主催者という意味だけではなく、センタールという都市を作った大元とののと。
普段は各所に責任者を配備しているソイツらが対応するみたいなのだが、今回は一番の責任者が出てくるほどの内容だったらしい。
「お茶と水だぜ!」
そこに割って入ってきた男。全体的に痩せ細った印象が強いが弱々しいというわけでもなく、マスクやゴーグルで素顔を隠している。
そしてその声。トーナメント中にずっと聞いていた実況声と喋り方が同じだったことから、彼がグルドで間違いないだろう。
「グルド、給仕は他の者に任せればいいだろう?」
「いやいや旦那、コイツは大会初の優勝者なんだぜ?この闘技場の責任者として俺が労ってやらねぇとなと思ってな!」
自信満々にそう言って俺たちが座っている間の机にお茶と水を乱暴に置いた。
クロニクは「そうか」とだけ言って何とも言えない笑顔になる。この顔、恐らく「正直コイツには任せたくない」という感情がわかりやすいほどに表情に出ていた。
するとそんな俺たちの様子を近くで見ていた白竜がフンッと鼻を鳴らす。どうやらコイツは室内で飼われているようだ。
「……竜って結構温厚なのか?」
「いいや、コイツは特別だ。ラウは子供の頃から俺と一緒に生きてきた相棒なんだ。というか他の竜なんて見たことがないから知らないんだけどな」
クロニクがそう言って席を立ち上がり、ラウと呼んだ白竜に近付いてその背中を撫でる。ラウは気持ち良さそうに声を上げるとクロニクも嬉しそうに笑みを零していた。
「しかし野生じゃないとはいえ、竜を相手に怯まないどころか勝ってしまうなんてな!予想外過ぎて困ってしまったな……」
「困るって何がだ?」
クロニクの言葉を聞き返すと苦笑いが返ってくる。
「実は……参加者たちを優勝させる気はなかったんだ」
「え?……いやまぁ、竜を決勝戦に消しかけてきた時点でそうかもしれないとは思ってたけどさ。ってことは優勝賞品は用意してないってことなのか?」
「いや、してあるというか……もしかして優勝賞品を知らずに参加してたのか?」
クロニクは「そんなバカな」と言いたげに聞いてきた。
「ああ……ただここで色んな奴と戦えて優勝したら何か貰えるってだけ聞いてたからな。賞金とかじゃないのか?」
「あー……それも考えたんだが、優勝賞品の内容が内容なだけにそれをさせないってのはな……」
何か訳アリな様子で「うーむ」と唸って悩むクロニク。そこにグルドが近付いて耳打ちする。
「一応は形式上として紹介してはどうでしょう?向こうさんが気に入らないなら別の形にしてみては……」
「あぁ……まぁ、そうするか」
仕方ないと言いたげに渋々頷くクロニク。
「大体何なんだ、そこまで渋る優勝賞品って?」
「それはこれから行くところについて来てもらってから説明する。来てくれるか?」
クロニクがそう言い、俺たちは部屋を出て移動した。
――――
―――
――
―
少し離れた巨大な建物。
他と違って煌びやかな外装をしており、中からはさっきまでいたコロシアムとは違った歓声が聞こえてくる。
その前まで行ってもクロニクは何も言わずに中へと進んでいく。
「……えっ、クロニク様⁉」
中に入ると受付の女性が驚いた表情で急いで立ち上がろうとしたが、クロニクが手で制止させた。
「VIP席は空いてるか?」
「はい!えっと……三名様のご案内でよろしいですか?」
受付嬢が俺を見てそう聞き、クロニクが「うむ!」と力強く頷く。
そうして部屋に案内されると、豪勢な内装とガラス越しに外がチカチカと何かが光るのが見えた。しかも椅子などの位置が完全にガラスの外を見る配置になっている。
つまり「外を見るための部屋」となっており、気になった俺はすぐにガラスの前に立ってその光景を見下ろした。
そこには――
「みんなー、ちゃんと楽しんでる~?」
かなり広い空間が広がった中で中央以外が薄暗く、中央のステージだけを眩い明かりが照らして一人の少女がそこで歌い、踊っていた。
成人女性の一般的な身長より多少低く、ピンク色の長い髪に魔族特有の黒い目と紫色の瞳、整った小顔、そして少々派手な可愛らしいドレスを着ている。アレは……
この景色や感じを以前に見たことがあった。アイドルとかが歌ったり踊ったりする……たしか武道館って言ったか?その場所に似ている。
俺は誰かのファンってわけでもなく警護の仕事として何回か言ったことがあったから、そういう雰囲気などを知ってたんだが……まさかそれを懐かしむ時が来るとは思わなかった。
しかしそれほどまでに彼女はアイドルらしかった。
顔中に汗を垂らしながらも笑顔を絶やさずにステージ上を走る勢いで踊るその姿は、彼女を照らす光以上に輝いているように感じたのだった。
「今日はみんなありがとね~♪」
~カズ視点~
バトルトーナメントがなんとも微妙な空気で終了し、呆気無く優勝した俺は別室へと案内されていた。
一応「優勝者の授与」という形での案内だったので、連れであるヴェルネは別室で待機してもらっている。
「いやぁ、見ていて気持ち良い戦いだったよ!あれだけ力強い戦いを見たのは初めてだ!」
「そりゃどーも」
豪快に笑って俺を称賛してくるのはここの責任者、クロニク。
獅子を連想させるよう剛毛な黒髪と野性的な黄色い瞳。言わずもがな獣人なのだろうけれど、どこかで見たことがあるような気がするのは気のせいだろうか……?
それはそれとして、「ここの」というのはバトルトーナメントの主催者という意味だけではなく、センタールという都市を作った大元とののと。
普段は各所に責任者を配備しているソイツらが対応するみたいなのだが、今回は一番の責任者が出てくるほどの内容だったらしい。
「お茶と水だぜ!」
そこに割って入ってきた男。全体的に痩せ細った印象が強いが弱々しいというわけでもなく、マスクやゴーグルで素顔を隠している。
そしてその声。トーナメント中にずっと聞いていた実況声と喋り方が同じだったことから、彼がグルドで間違いないだろう。
「グルド、給仕は他の者に任せればいいだろう?」
「いやいや旦那、コイツは大会初の優勝者なんだぜ?この闘技場の責任者として俺が労ってやらねぇとなと思ってな!」
自信満々にそう言って俺たちが座っている間の机にお茶と水を乱暴に置いた。
クロニクは「そうか」とだけ言って何とも言えない笑顔になる。この顔、恐らく「正直コイツには任せたくない」という感情がわかりやすいほどに表情に出ていた。
するとそんな俺たちの様子を近くで見ていた白竜がフンッと鼻を鳴らす。どうやらコイツは室内で飼われているようだ。
「……竜って結構温厚なのか?」
「いいや、コイツは特別だ。ラウは子供の頃から俺と一緒に生きてきた相棒なんだ。というか他の竜なんて見たことがないから知らないんだけどな」
クロニクがそう言って席を立ち上がり、ラウと呼んだ白竜に近付いてその背中を撫でる。ラウは気持ち良さそうに声を上げるとクロニクも嬉しそうに笑みを零していた。
「しかし野生じゃないとはいえ、竜を相手に怯まないどころか勝ってしまうなんてな!予想外過ぎて困ってしまったな……」
「困るって何がだ?」
クロニクの言葉を聞き返すと苦笑いが返ってくる。
「実は……参加者たちを優勝させる気はなかったんだ」
「え?……いやまぁ、竜を決勝戦に消しかけてきた時点でそうかもしれないとは思ってたけどさ。ってことは優勝賞品は用意してないってことなのか?」
「いや、してあるというか……もしかして優勝賞品を知らずに参加してたのか?」
クロニクは「そんなバカな」と言いたげに聞いてきた。
「ああ……ただここで色んな奴と戦えて優勝したら何か貰えるってだけ聞いてたからな。賞金とかじゃないのか?」
「あー……それも考えたんだが、優勝賞品の内容が内容なだけにそれをさせないってのはな……」
何か訳アリな様子で「うーむ」と唸って悩むクロニク。そこにグルドが近付いて耳打ちする。
「一応は形式上として紹介してはどうでしょう?向こうさんが気に入らないなら別の形にしてみては……」
「あぁ……まぁ、そうするか」
仕方ないと言いたげに渋々頷くクロニク。
「大体何なんだ、そこまで渋る優勝賞品って?」
「それはこれから行くところについて来てもらってから説明する。来てくれるか?」
クロニクがそう言い、俺たちは部屋を出て移動した。
――――
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少し離れた巨大な建物。
他と違って煌びやかな外装をしており、中からはさっきまでいたコロシアムとは違った歓声が聞こえてくる。
その前まで行ってもクロニクは何も言わずに中へと進んでいく。
「……えっ、クロニク様⁉」
中に入ると受付の女性が驚いた表情で急いで立ち上がろうとしたが、クロニクが手で制止させた。
「VIP席は空いてるか?」
「はい!えっと……三名様のご案内でよろしいですか?」
受付嬢が俺を見てそう聞き、クロニクが「うむ!」と力強く頷く。
そうして部屋に案内されると、豪勢な内装とガラス越しに外がチカチカと何かが光るのが見えた。しかも椅子などの位置が完全にガラスの外を見る配置になっている。
つまり「外を見るための部屋」となっており、気になった俺はすぐにガラスの前に立ってその光景を見下ろした。
そこには――
「みんなー、ちゃんと楽しんでる~?」
かなり広い空間が広がった中で中央以外が薄暗く、中央のステージだけを眩い明かりが照らして一人の少女がそこで歌い、踊っていた。
成人女性の一般的な身長より多少低く、ピンク色の長い髪に魔族特有の黒い目と紫色の瞳、整った小顔、そして少々派手な可愛らしいドレスを着ている。アレは……
この景色や感じを以前に見たことがあった。アイドルとかが歌ったり踊ったりする……たしか武道館って言ったか?その場所に似ている。
俺は誰かのファンってわけでもなく警護の仕事として何回か言ったことがあったから、そういう雰囲気などを知ってたんだが……まさかそれを懐かしむ時が来るとは思わなかった。
しかしそれほどまでに彼女はアイドルらしかった。
顔中に汗を垂らしながらも笑顔を絶やさずにステージ上を走る勢いで踊るその姿は、彼女を照らす光以上に輝いているように感じたのだった。
「今日はみんなありがとね~♪」
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