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弱くなっ……た?

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 観客席ではヴェルネが耳まで赤くした顔を手で覆っていた。

「あぁもう、なんであんなに目立つことしようとすんのよ……あのバカカズ!」

 悪態を突くようなことを言って静かに憤慨するヴェルネ。
 そう、今ステージ上でマスクを被り相手の神経を逆撫でするその話し方をしていた者はカズだった。

【前代未聞の一対多数!挑戦者一人に対して他の参加者全員という未だかつて無い提案がまさかのまさか、まかり通ってしまったァッ!一体何を考えているのかって?『面白そうだからオッケー!』だそうだ!……いや、何考えてるんだ本当に!!】

 そう言いつつグルドは楽しそうに実況する。
 そして歓声と野次が多く飛び交う中、ステージ上ではカズと相対する者たちは殺伐とした雰囲気で彼を睨んでいた。
 彼らからは「ふざけてる」「バカにされてるな」「調子に乗るな」と怒りの念が見て取れる。対してカズは挑発的な笑みを浮かべていた。

【だが始まってしまったものはしょうがない!実際この男がどこまでやれるのか楽しみでもあるしな!おっと、どうやら全員『バフ』をかけ終わったようだ!ちなみに知らない人のために説明すると『バフ』っていうのは力の強さを増したり体を強化する魔法だ!しかも重ね掛けができる上にここにいるサポート系が使える魔法使いは結構多いから、彼らの攻撃、防御、素早さは普段の数倍アップしてるぞ!つーわけで……】

 グルドがそこで言葉を区切り息を吸うと、観客も示し合わせたように静かになる。

【改めてバトルトーナメント特別試合……開始ィィィッ!!】

 グルドの合図と同時に何かの魔法がカズの方へと飛んでいく。
 カズはそれが見えていたが、避けるでもなくそのまま体で受けた。

「……体が少し重くなったか?」

【仮面の男が『デバフ』を受けてしまった!デバフはバフの逆、身体能力を下げる魔法が主だ!しかもマスク男が避けないのを良いことに次々と遠慮無しにデバフ魔法を放っていく!中には普通に攻撃魔法も撃ち込んでいる奴もいるがそれだけは器用に避ける避ける!多過ぎる魔法の中からどう見分けてるのかわからなくて凄いが逆に気持ち悪いぞ!】

「気持ち悪いは余計だ」

 カズはデバフを受けつつ笑ってツッコミを入れる。その間にもカズが受けるデバフが増えていき、最初と比べれば圧倒的に力が落ちているはずだった。
 そしてかなり力の差が開いたと判断した参加者たちが一斉にカズへと襲い掛かる。

「死ねやオラァッ!」

【早速力自慢の獣人が襲いかかったァァァッ!パワー、スピード共に驚異的な大柄の男が容赦無く攻撃する!仮面の男はこれをどう対処――】

 試合ということも忘れて殺意丸出しの攻撃を一番に行った男。その男の顔へカズの裏拳が放たれ、吹き飛ばされてしまう。
 その光景に観客は静まり返り、グルドも実況を忘れて言葉が止まってしまう。

「……なるほど、たしかに力は落ちてるみたいだ」

 カズは殴り飛ばした者などに目を向けず、自分の手を握ったり開いたりして力の入り具合を確かめる。
 対して参加者たちはデバフが大量にかけられたカズの動きが鈍っていない様子に戸惑い、吹き飛ばされた獣人男の後続たちの動きが鈍ってしまう。

【……おいおいおい、どういうことだオイッ⁉ デバフは確実に食らった!今の大男もバフを受けた強化状態!にも関わらず呆気無く殴り飛ばされてしまったぞ⁉ というかあの巨体が吹っ飛ぶところなんてそうそう見たことないんだが?しかもその男は一発KO!場外へと弾き出されてしまった!ちなみにルールは気絶したり致命傷になるダメージを受けたらステージの外へと転送されるが物理的な場外判定はない!思う存分暴れてほしいが……さぁ、出鼻を挫かれてしまった参加者たちの戦意は喪失してしまったか?】

 グルドも挑発に似た心配の言葉を放ち、ハッと我に返った参加者たちを奮起させる。これはすでにハンデありの戦いであり、自分たちはこの強者への挑戦者なのだと思い出し自覚する。
 そんな彼らの様子を見てカズは仮面の奥で満足そうに笑みを浮かべ、挑発的な手招きをして彼らをさらにやる気にさせたのだった。
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