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そういうことは早めに言いなさい

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「それじゃあ結論からいくと、人差し指から少しずつ魔力を放出するイメージで流せば少なめの魔力で魔法を使うことができる。魔力を送る量によってその強さや効果時間が変わってくる、と」

「しかもあたしたちは無意識に無詠唱でその全ての魔法を使ってたわけで……」

「魔力が少ないって言われてる俺ですら普通に使えてて……」

 俺、ヴェルネ、ジルがそれぞれ魔法を使った結果や感想を口にする。その雰囲気がなんとも重く感じるのはなんでだ?

「こんな簡単なことで今までの常識が覆されたなんて……バカバカし過ぎて呆れを通り越して笑えてくるわ」

 そう言いつつ「やってられない」と言いたげに頬杖をして気の抜けた笑いを浮かべるヴェルネ。

「でも……獣人の俺でも色んな魔法が使えるのは嬉しいですよ」

「そうだねぇ……僕らって一部の種族を除くと基本人間より魔力量が少ないから、使える魔法が限られてるわけなんだけど、その視野が広がるとなるとどれだけ使い道のない魔法だったとしても嬉しくもなるよね」

 獣人組であるジルとフウリが嬉しそうにしながら指からライターくらいの火を出しているのを見て、調べた甲斐があるというものだ。
 そんな光景を見ながら俺も指からちょっとだけ火を出そうとしてやってみたらガスバーナーみたいな勢いで出てしまって思わず焦って消す。

「魔法ってたしか余分に魔力を込めれば、その分威力が上がるんだっけか?でもそんなことするくらいなら魔法を二回撃った方がいいってのは聞いたことがあるけど」

「……まぁ、魔力にも魔法適性にも恵まれたあんたには関係ない話よね」

 ユースティックがそれっぽいことを言うとヴェルネが苦い顔をして言う。

「……使える魔法が増えることはいいことだろ?要は使い方を極めれば色んなことに応用できるんだ。そのために覚えられることは全部覚えることにしてるんだよ」

「へぇ~」

 フォローとも言えないことを言ってみたが、ト〇ビアの泉みたいな返事しか返してくれなかった。


「それにです!魔法が苦手でスタートアップすらまともに使えない俺でも」

「それはそれとしてミミィたちはどうだ?」

 これ以上ヴェルネからの視線を受けて悲しい気持ちにならないためにも話の話題を少し強引に変える。
 魔法が使えるようになって喜んでいたのは獣人のジルたちだけじゃない、ミミィやユースティックにも恩恵があるはずだし。

「無詠唱で魔法を使えるというのが初めてだったので感動してます……!」

「なるほど、任意の魔力を使った一部強化か……使いこなせればかなり強力な技術になるんじゃないか?」

 詠唱をしなくても発動ができている魔法に感動するミミィと、指先から小さな電気を出して子供のように楽しんでいるようにしか見えないユースティック。二人共、ジルたちと同様に喜んでいるようで、そんな姿を見て思わず笑みが零れてしまう。

「ああ、少し話を変えるが適性の無い魔法を使おうとした場合どうなる?」

「……何、魔法の適性が無い奴への皮肉?」

「違うから。そんなに卑屈になるなって」

 俺にとって些細な疑問を口にしただけだったのだが、それがヴェルネの口がへの字に曲がらせて機嫌を損ねてしまったらしい。

「適性が全くない魔法を使おうとするとこうなるんだよ」

 すると俺の疑問にルルアが実践して答えてくれようとする。
 ルルアの指先から一瞬だけ電気が発生したかと思うとボシュッと小さい爆発を起こして煙を上げてしまった。

「だ、大丈夫か……?」

「ちょっと痛いかな?」

「普通なら痛いで済まないんだけど……多分魔力を使わない魔法を使ったからでしょうけど、下手な威力のある魔法を使っていれば指が焦げるか吹き飛んでるところよ」

「サラッとヤバかった!」

 無理に適性の無い魔法を使おうとすると発動しない上に反動でダメージを受けるらしい。そういうのは先に口で言ってほしかったな……

「ありがたいのは強化系……その適性関係無く誰でも使える魔法はそんなデメリットがないってとこだな。それが普及されてないのは魔力効率が悪かったからだが、これを公表すれば冗談抜きで世界がひっくり返るぞ」

 最初は流石に大袈裟なんじゃ……と思ったが、これ一つで生活基準が一気に変わるのだとしたらそれだけの価値があるのだろう。

「ま、それは別の誰かに任せるとしよう。なんならヴェルネが発案者ってことにして公表していいぞ?」

「冗談。誰かの手柄を自分のものとして胸張って自慢しろっての?嫌よ、そんなの」

「…………」

 実は羨ましがってたユースティックだが、ヴェルネの言葉を聞いて苦い顔をして逸らしてしまう。まさかの流れ弾がヒットしたようだ。
 ともかく、向こうで言う「科学の発展」がこっちの場合「魔法の発展」を意味しているのなら、より簡単で便利な魔法が見つかってしまえば一気に生活基準が変化するだろう。このスマホの元となった携帯電話が世に出て、今ではそれが当たり前になったように。
 結局この情報はヴェルネに一任することにし、その後も雑談に似た魔法に対する会話が続いた。
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