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女にとってのハーレム

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「お兄ちゃん!恋人がもう一人増えたよ!」

 ヴェルネに魔法を教えてもらおうと探していたところ、なぜかヴェルネ以外にルルアとレトナが同じ部屋に集まっていてルルアがそんな突拍子のないことを言い出した。
 今この吸血鬼っ娘、絶対そのテンションで言うことじゃないことを言わなかったか?もうぬいぐるみが増えたみたいな軽いノリなんだが。
 それと扉から覗いてる変なアマゾネスもいるし……

「僕が先に告白したのにな~……」

「どういうことなの……」

 状況が理解できなくて、さっきのユースティックみたいなことを言ってしまった。
 ちなみにユースティックは空気を読んでジルを連れ出してどこかへ行った。意外と気の利く男。
 レトナの顔を見ると泣きそうな、もしくはすでに泣いた後のような顔を赤面させて伏せていた。恋人が……ね。
 俺がどうこう聞くよりもルルアたちが説明してくれるのを待つことにしていると、ルルアがレトナの手を少し強引に引いて前に持って来た。

「愛人三号のレトナちゃんでーす♪」

「い、イエーイ……」

 ルルアのふざけた振りにレトナがダブルピースをして応える。
 何やってんだ、コイツら……
 俺がリアクションをしないせいでその場の空気が静かになって凍り付いたようになってしまい、レトナがさらに泣きそうな表情になってしまった。
 どうしようかとヴェルネの方へ視線を向けると「なんとかしなさい、私は知らない」と言っているかのように爽やかな笑顔を浮かべてるだけだった。

「えっと……そのふざけた言い方は置いといて、全員納得した上で本気でそう言ってるのか?」

「そう、だからあとはお兄ちゃんがよければ、なんだけど……」

 まるで子供が親の機嫌を窺ってオモチャを買ってもらおうとしているかのような聞き方をしてくるルルア。
 でもなんで俺に聞くんだ?

「朝も言ったけど本人が納得してるならいいだろ。だって結局は俺じゃなくてルルアがレトナと一緒にいたいんだろ?」

「ん?あー……朝とは事情がちょっと違うの」

「……というと?」

「最初ルルアはたしかにレトナに惹き付けられてたけど、お兄ちゃんに遊んでもらったらスッキリしてそこまでの感情は無くなっちゃったの」

 なんだその賢者タイムみたいなのは……

「でもルルアが自分勝手に期待させたりしちゃってたのも事実なわけで……」

「それでつまり?」

「レトナはカズお兄ちゃんのことが好きみたいだし、このまま恋人にしちゃえばどうかな……って!それに――」

 ルルアがそこまで言うと嬉しそうに笑った顔をレトナの頬にくっ付ける。

「他はともかくレトナとルルアは相性がいいから、この子ならお兄ちゃんと恋人になっても仲良くできそうなんだ、ルルア♪」

「うぅ……」

 また昨晩のことを思い出したのか、赤面に拍車をかけるレトナ。
 「そうか……」とそれ以上の言葉が見付からずに困ってしまう。
 ルルアの突拍子も無い提案はたまにあるが、今回は流石に中々困る。

「三人目……三人かぁ……」

 俺は呟きながら頭を抱える。

「難しい?」

「難しいでしょうね。あたしだって『さっきみたいなことがあったら』って思っちゃうもの」

 おねだりするようなルルアの問いにヴェルネがフォローに入ってくれる。そしてその「さっきみたいなこと」の実行犯であるルルアは「うっ」と声を漏らした。

「別にそれが完全に悪いってわけじゃないわ。『相手に愛されたい』ってのは誰もが思うこと。でも同時に『自分だけをもっと愛してほしい』ってのもみんなが思うことだもの。だから普通は一人と複数人が付き合うなんてことはしないのよ。ルルアだって原因やきっかけはともかく、それで怒ってたでしょう?」

「それは……むぅ」

 正論を言われて反論できずに口を閉じてしまう。
 実際、彼女の行動は「発情」で助長されたものであって、その元となった感情と気持ちがある。それは恋愛経験がない俺でもその気持ちはわからないでもない。
 だからこそ悩むわけなんだけど……

「ハーレムって男の夢だとは聞くけど、どちらかというと女がどれだけ許容できるかって話になってくるんだよな……」

「よくわかってるじゃない。もちろんあたしはそれでもいいんだけどね」

 ヴェルネが得意げにそう言い、俺に寄り添ってくる。
 珍しくというべきか、艶めかしく腕に絡み付いてくる彼女にまた驚いてしまう。だけどチラッとこちらを一瞥する彼女の真意も理解できるからそのまま放置してやりたいようにさせてみることにした。

「好きな人が自分を見てくれないかもしれない、他の人を好きになっちゃうかもしれない……ルルア、あなたはそんな相手と恋をする気がある?」

「それって……」

「自分は求められた時だけしか応えない、それ以外は我慢してるしかない……今のカズとあたしたちは簡単に言えばそういう状況よ。もちろんコイツはあたしたち全員を平等に愛そうとしてくれるだろうけど、逆に言えば独占はできないわ。それでもあなたはカズの恋人を増やしていいって考えてるの?」

 彼女には少し難しいんじゃないかっていう話をするヴェルネだが、ルルアはその意味を理解して重く受け止めたようで黙り込むのだった。
 そしてその渦中に巻き込まれているレトナはすでに悲しい気持ちなどそこにはなく、俺たちやルルアの顔を交互に見て落ち着かない様子をしていた。

「な、なぁ……やっぱ俺はいいからさ?お前らの中に水を差すのもだし……」

 レトナは「自分が引けばその場は収まる」という考えをしてそう言ったのだろうが、ヴェルネは彼女の言葉を否定するために首を横に振った。

「違いますレトナ様、あなたのことがなくてもいつかは話しておかなければならない話なんです。こうやって話し合ってお互い納得しなければ今日のような……いえ、今日よりも酷いことになるかもしれないんですから。ルルアもそれはもう理解してるでしょ?」

 ヴェルネの言葉で何も言えなくなったレトナはルルアのように黙り込んでしまう。こうやって見ると二人共子供のようで、大人の俺たちにいじめられているような絵面にしか見えない。
 でも本当に恋をするというのはそういうことで、たとえ本当の子供だったとしてもそれを知って今後の身の振り方を考えてほしいってのは正しいのかもしれない。
 人を好きになるっていうのは楽しいことばかりじゃないと、ヴェルネは言いたいのだろう。
 さて、この誰もが口を閉ざして重くなった空気を誰がどう切り出すのか……

「ちなみに僕たちアマゾネスは一人の男をみんなで共有するって習慣があるから、ヴェルネちゃんが言ったことは全部受け入れられるヨ!」

 するとここぞとばかりにフウリがヴェルネとは反対の腕に絡み、話に割って入ってアピールしてきやがった。違う、お前じゃない。
 予想外の彼女の登場に俺以外も全員驚いていた。話がややこしくなるからやめてほしいんだけど……ほら、ルルアがまた不機嫌になってんじゃん。

「ルルアちゃんはみんなとどうなりたいのサ?カズ君が自分をどうしてほしいっていうのも大事かもしれないけド、ルルアちゃんがヴェルネちゃんやレトナちゃんとどうなりたいか……カズ君を自分のものにするために、彼女たちを殺すかイ?」

 フウリの挑発するような言葉。その言葉にルルアが怒りを露わにして重い殺気を放つ。

「……ふざけたこと言ってると本気で殺すよ?」

 このままでは本当に暴れ出してしまいそうな雰囲気のルルア。
 いやホント、何してんのコイツ?なんで無駄に怒らせてんだよ……
 そんなことを思っているとフウリが人差し指を口に当てる。任せてくれってか?
 すると怒っていたはずのルルアから溜め息が大きく吐き出され、さっきまで放っていた殺気は落ち着いたようだった。

「……わかってるよ、ルルアだってカズお兄ちゃんが好きだけどみんなと喧嘩してまで独り占めしたいわけじゃないもん。お兄ちゃんを困らせたくないから我が儘も言わないようにするって決めたし……ヴェルネお姉様の言った通りにルルアが少し我慢すればいい話でしょ?」

 聞き分け良くそう言うルルアはレトナから離れて俺の胴体に抱き着いてくる。これで上半身がコンプリートされて身動きが取れなくなってしまった。

「でも我慢するのは少しだけ。お兄ちゃんがみんなのお兄ちゃんでいようとするのには文句は言わない……けど、ルルアの方からお兄ちゃんに構ってもらえるように積極的に抱き着いたりするのはいいよね?」

 ルルアがそう言って笑い、レトナの方を振り向いて手招きする。
 レトナは「俺も?」と戸惑うが、覚悟を決めた彼女も俺の背中に回り込んで来て抱き着いてきた。

「えっと……これからよろしく?」

 レトナはそう呟いて恥ずかしそうに赤面した顔で上目遣いをし、体を浮かせて頬にキスをしてきたのだった。

「ふふっ、これからもっと大変になるわね?」

 ヴェルネはまるで他人事のように、しかし楽しそうに笑うのだった。
 だが彼女たちの中で納得してないアマゾネスが一人。

「……あれ、僕ハ?」
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