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生まれ変わり成り代わり
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「クソがっ!」
勇者の一人、ジンが近くの木を殴り付けて怒りをぶつけた。
「ドイツもコイツもバカにしやがって……」
目的だった「仮面の魔族」と戦うこともできず、思うように事が運ばなかった行き場のない怒りが彼の中で渦巻く。
「聞いてねぇぞ、あんな面倒な魔族がいるなんて……!」
彼は強く願った。怨嗟のような怒り憎しみが込められた想いで「全てを圧倒する力」を望む。
次こそはジークも、ユースティックも、途中で割り込んできたフーリさえ問題にならないような力を蓄え、そしてその全員を――
……しかし彼の願いが叶えられることはなかった。
――グチュ
「あ?」
粘着的な音が頭上近くから聞こえ、ジンが上を見上げるとそこには空が隠れてしまっていると錯覚してしまいそうなほどの膜のような何かが覆うようにそこにいた。
「なんだコイツ⁉ まも――」
ジンが驚く間もなく、ソレは生物のように伸縮しながら狙っていたかのようにて彼の顔へ落ちてきた。
「んー⁉」
ソレは見上げていた彼の顔面に張り付き、剝がそうとしても妙な粘着力で外せず、掴もうと思ってもツルツルと滑って上手く掴むことができなかった。
最初は激しく抵抗していたジンだが、呼吸ができない状態で長く続かずその場で膝を突く。
声も弱弱しく聞こえなくなり、とうとう手から力が抜けて下へ降ろされる。
それは諦めではなく絶命に近い状態となってしまっていた。
するとソレはグジュグジュと気味の悪い音を立てて、彼の口や鼻から体内へと侵入していった。
「…………」
ジンはしばらく固まり、そしてゆっくりと動き出した。
「……フッ――」
何を思ったのかジンは笑みを浮かべ、正気とは思えない表情で高笑いをする。
「ハハハハハハッ!!」
狂ったかのように突然笑いだすジン。
しかし彼の様子は狂ったというより、何かを達成したような様子だった。
「ようやく『動き易い体』を手に入れた!スライムというのは動きにくくて仕方なかったし、この森の魔物も気配に敏感で近寄ることもできなかったしな。バカな人間がいて助かったぜ……しかも――」
ジンらしき何者かは考えるように目をつむって頭を人差し指で軽くトントンと叩くとニヤリと笑みを浮かべる。
「人間の『勇者』か……これは僥倖!復讐するには持ってこいの体じゃないか」
ジンの顔でヒヒヒと怪しく笑った後に表情から感情が一時的に消え、次第に怒りを浮かべる。
「ゴブリンだった時の俺を容赦なく殺しやがったあの人間!」
声に力が込められ、歯軋りする。
「ゴブリンや色んな魔物を従えて王様気分を満喫してたってのに、いきなり現れて俺を殺しやがって……だがなぜか別の生物に生まれ変わった。しかも、だ――」
怒りを浮かべていた彼が段々気分が良くなっていったのか、ニヤリと笑みを浮かべる。
「コイツの記憶の中にある『仮面の魔族』とかふざけた呼ばれ方をしてる奴……俺を殺してくれた人間の顔があるじゃねえか!この森の近くにある魔族の町に住んでるみたいだし、それに……」
ジンの体を乗っ取った彼は自分の手を確認するように手を握ったり開いたりする。するとその手が液体のような流動体へ変化した。
それは彼がすでに人間の体ではないことを指していた。
「人間の体を乗っ取っても能力自体は使える。ゴブリンだった時のも、スライムだった時の体も!」
「ゴブリンキング」……カズが直接手を下したゴブリンは一匹しかおらず、それがゴブリンキングであり、ジンの体を奪った者の正体だった。
「どうして俺がこんなことになったのかはわからないが、おかげで復讐の機会が得られたわけだ!」
そう言って高笑いをするゴブリンキング。そんな彼の背後に何かが忍び寄る。
狼の姿に大きな翼が生えた魔物だった。しかし彼は動揺するわけでもなく、余裕な表情で振り返る。
「ちょうどいい、この体の性能……お前で試させてもらうぜ!」
彼はそう言うと躊躇なく魔物に向かって突っ込んで行くのだった。
――――
―――
――
―
人間が住むとある町の教会。
その内部では魔法陣のようなものが地面に描かれ、その周囲には札の貼られたお香が焚かれて置かれていた。
するとその魔法陣の上が眩く光り始め、そこから数人の人間が現れる。
シャルアと気絶したアール、そしてそんな彼を俵のように肩に担いだカンナだった。
「戻ったぞ~」
「たっだいま~!」
気怠そうなカンナと元気なシャルア。その視線の先には彼女らが知っている司祭の男が書類に目を向けていた。
「連れ戻したのですね……おや、ジンはどうしました?」
目を通していた書類が一区切り着いてシャルアたちに目を向けるとジンの不在に気付く男。
「ラスター、残念だがアイツは置いてきた。人間領に隣接している魔族の町の手前にいたのだが、何を思ったのか森の中に逃げて消えてしまったんだ」
「そうですか……まぁ、彼も子供とはいえ仮にも勇者。一人でも帰って来れるでしょう。それよりも話があります」
ラスターと呼ばれた神父が腰かけていた椅子から立ち上がり、シャルアたちの方へ歩き出す。
「……先日魔族領と獣人領が隣接している辺りにある山の一つが何者かによって斬られ、消失しました」
「「……ん?」」
ラスターの言葉にシャルアとカンナがしばらく固まり、聞き返した。
「山の一つの山頂が人為的に崩された痕跡が報告されています」
「えっと……ただの崩落が原因とかじゃなくて?」
「『崩れた』や『壊された』のではなく『斬られた』とはっきり言ったのだ、何か根拠があるのだろう?」
「えぇ、さっきも言った通り山全体に不自然な斬られた痕が見られました。しかもまるでたった一撃で斬ったかのように、全てが均等に斜めに斬られていたと……」
「ふーん……でもそれだけで斬ったって話になるの?」
「もちろんそれだけじゃありません。もう一つ、その山の近くにある吸血鬼が住む集落に何者かが襲撃、多くの吸血鬼が殺害されてしまったらしいです。それが山の破壊された時期と重なってるようで……」
吸血鬼の話を聞いて二人が驚く。
するとちょうど気絶していたアールが目を覚ます。
「……なんだ、どういう状況?」
教会の中で自分が女性に背負われ、目の前には神妙な雰囲気をした仲間たちを目の当たりにして困惑するアール。
彼を背負っていたカンナは「自分で立て」と言わんばかりにアールを地面へ乱暴に落とした。
「いてて……なんで俺、カンナさんに担がれてたの……?」
ジークに気絶させられてから状況がわかっていないアールが当然の疑問を口にするが誰も答えようとせず、カンナが気にせず話を進めようとする。
「つまり要点をまとめると……その吸血鬼のとこで暴れた奴がやったって話か?」
「大体は。そしてここからは報告ではないただの推測になってしまうのですが……二つ予想がありまく。一つは災厄級、それ以上の魔物が暴れた結果」
「災厄級以上?そんな魔物っているの?」
ラスターの二つ目の推測を聞く前にシャルアがそんな疑問を口にする。するとラスターが難しい顔をする。
「それもただの憶測になるのですが……もしかすれば『悪魔』の存在があるのかもしれません」
「悪魔?……って、絵本とかに出てくるアレ?」
首を傾げるシャルア。
「……いえ、アレはあくまで子供向けに創作された内容です。本当の悪魔の実体は聖書に書かれています」
ラスターがそういうと懐から十字架が埋め込まれた本を取り出す。
その本を開き、ラスターがあるページで目を止めるとそこに書かれていることを読み上げる。
「『悪魔は人がどうにかできる存在ではない。獣人も魔族も、獣王も魔王も、彼の者には遠く及ばない。悪魔がその気になれば世界などどうにも変えることができる存在だ。それだけの力を持ちつつも世界の終わりや改変が起こってないのは悪魔にその気がないからである。そしてこの世界にその悪魔と呼ぶ者は一人しかおらず、いつも娯楽に飢えている。だから彼の者はよほどのことがない限り我々を絶滅させようとは考えないだろう……こちらが機嫌を損ねない限りは』」
ラスターがそこまで読み上げるとシャルアは顔をしかめていた。
「なんか……ご機嫌取りをしなきゃいけないみたいに聞こえて嫌な感じ~」
ぷ~と頬を膨らませてあからさまに不機嫌となっていた。
「悪魔か……その存在の有無はともかく、それに類似した者があの山を破壊したと?」
カンナが口に手を当てて考え込むようにそう言ってラスターを見ると彼も頷く。
「それ以外にもう一つ、私はこちらの方が信憑性があると考えています――」
ラスターは言葉を一旦そこで区切り、溜め息を吐いて言葉を続ける。
「――『魔道兵器』の試運転」
「……なるほど、たしかにそちらの方が現実的だな」
カンナは納得して頷くが、意味がわかってないシャルアとアールは首を傾げた。
「魔道兵器……?」
「それって戦争で使われるアレですよね?」
シャルアはそれが何かわかっていなかったが、アールが簡単な説明をしてカンナが頷く。
「そうだ。そして魔道兵器とは基本的に人間しか使わないのが普通だったんだ。魔族や獣人は道具に頼らない戦い方をしようとしているようだ。ダンジョンから武具は使っているようだが、山を崩せるほどのダンジョン武具が出たという話は聞いたことがないし、そんなものがあったとしてもそうそう取り扱えるものじゃないだろうしな」
「……まぁ、だからその武具を見付けた者が試運転として使用したとも考えられますが……何にせよ、山が人為的に壊されたのは確かです。今後あなたたちには魔族の掃討に引き続き、その調査を頼みたい」
「誰がその山を壊したかってのを?」
カンナとラスターが説明を終え、シャルアの疑問にラスターが「そうです」と肯定して書類のある机に腰をかけ直す。
するとシャルアが眉間にシワを寄せて首を傾げる。
「……どうした、シャルア?」
「んー……まぁ、気のせいだと思うんだけど……今さっきまで私たちがいた魔族の町にいた『仮面の魔族』がいたじゃない?」
彼女は敢えてカズが人間であることは伝えない言い方をして確認する。
カンナはカズがその仮面の魔族だとはわからず首を傾げ、アールが頷いて同意する。
「あの人、アールが気絶してる間の話なんだけど、カンナが来る前に彼と一緒に子供が森に入って行ったんだ。で……その時チラッと見たあの子の様子って吸血鬼っぽかったのよね」
「仮面の魔族……たしかあなたが負けてしまった魔族の強者でしたか」
「ほう?ではその仮面の魔族とやらが吸血鬼の集落で暴れた犯人の可能性があると?」
カンナが興味あり気に聞くがシャルアは「どうなんだろうねー」と曖昧な返事で返す。
「たしかに凄い強い人ではあったし、私と戦った時も本気じゃなかったかもしれないけど……まぁ、自信がないから『かもしれない』って話に留めておいて!」
「……ふむ、そうですね。『気に留めて』おきましょう」
アハハと笑ってそう言うシャルアに意味深に言葉を強調して微笑むラスター。
そこでシャルアが思い出したように「あっ!」と声を上げる。
「そうそう、私からも報告することがあったんだった!」
「なんです?」
シャルアのテンションにそこまで重要そうに感じずにいた他三人だったが、彼女が発した言葉を彼らにとって予想外なものとなった。
「私が前に言った仮面の魔族……人間だったみたい」
「「「……は?」」」
そんなシャルアの報告に彼女以外の全員が固まってしまったのだった。
勇者の一人、ジンが近くの木を殴り付けて怒りをぶつけた。
「ドイツもコイツもバカにしやがって……」
目的だった「仮面の魔族」と戦うこともできず、思うように事が運ばなかった行き場のない怒りが彼の中で渦巻く。
「聞いてねぇぞ、あんな面倒な魔族がいるなんて……!」
彼は強く願った。怨嗟のような怒り憎しみが込められた想いで「全てを圧倒する力」を望む。
次こそはジークも、ユースティックも、途中で割り込んできたフーリさえ問題にならないような力を蓄え、そしてその全員を――
……しかし彼の願いが叶えられることはなかった。
――グチュ
「あ?」
粘着的な音が頭上近くから聞こえ、ジンが上を見上げるとそこには空が隠れてしまっていると錯覚してしまいそうなほどの膜のような何かが覆うようにそこにいた。
「なんだコイツ⁉ まも――」
ジンが驚く間もなく、ソレは生物のように伸縮しながら狙っていたかのようにて彼の顔へ落ちてきた。
「んー⁉」
ソレは見上げていた彼の顔面に張り付き、剝がそうとしても妙な粘着力で外せず、掴もうと思ってもツルツルと滑って上手く掴むことができなかった。
最初は激しく抵抗していたジンだが、呼吸ができない状態で長く続かずその場で膝を突く。
声も弱弱しく聞こえなくなり、とうとう手から力が抜けて下へ降ろされる。
それは諦めではなく絶命に近い状態となってしまっていた。
するとソレはグジュグジュと気味の悪い音を立てて、彼の口や鼻から体内へと侵入していった。
「…………」
ジンはしばらく固まり、そしてゆっくりと動き出した。
「……フッ――」
何を思ったのかジンは笑みを浮かべ、正気とは思えない表情で高笑いをする。
「ハハハハハハッ!!」
狂ったかのように突然笑いだすジン。
しかし彼の様子は狂ったというより、何かを達成したような様子だった。
「ようやく『動き易い体』を手に入れた!スライムというのは動きにくくて仕方なかったし、この森の魔物も気配に敏感で近寄ることもできなかったしな。バカな人間がいて助かったぜ……しかも――」
ジンらしき何者かは考えるように目をつむって頭を人差し指で軽くトントンと叩くとニヤリと笑みを浮かべる。
「人間の『勇者』か……これは僥倖!復讐するには持ってこいの体じゃないか」
ジンの顔でヒヒヒと怪しく笑った後に表情から感情が一時的に消え、次第に怒りを浮かべる。
「ゴブリンだった時の俺を容赦なく殺しやがったあの人間!」
声に力が込められ、歯軋りする。
「ゴブリンや色んな魔物を従えて王様気分を満喫してたってのに、いきなり現れて俺を殺しやがって……だがなぜか別の生物に生まれ変わった。しかも、だ――」
怒りを浮かべていた彼が段々気分が良くなっていったのか、ニヤリと笑みを浮かべる。
「コイツの記憶の中にある『仮面の魔族』とかふざけた呼ばれ方をしてる奴……俺を殺してくれた人間の顔があるじゃねえか!この森の近くにある魔族の町に住んでるみたいだし、それに……」
ジンの体を乗っ取った彼は自分の手を確認するように手を握ったり開いたりする。するとその手が液体のような流動体へ変化した。
それは彼がすでに人間の体ではないことを指していた。
「人間の体を乗っ取っても能力自体は使える。ゴブリンだった時のも、スライムだった時の体も!」
「ゴブリンキング」……カズが直接手を下したゴブリンは一匹しかおらず、それがゴブリンキングであり、ジンの体を奪った者の正体だった。
「どうして俺がこんなことになったのかはわからないが、おかげで復讐の機会が得られたわけだ!」
そう言って高笑いをするゴブリンキング。そんな彼の背後に何かが忍び寄る。
狼の姿に大きな翼が生えた魔物だった。しかし彼は動揺するわけでもなく、余裕な表情で振り返る。
「ちょうどいい、この体の性能……お前で試させてもらうぜ!」
彼はそう言うと躊躇なく魔物に向かって突っ込んで行くのだった。
――――
―――
――
―
人間が住むとある町の教会。
その内部では魔法陣のようなものが地面に描かれ、その周囲には札の貼られたお香が焚かれて置かれていた。
するとその魔法陣の上が眩く光り始め、そこから数人の人間が現れる。
シャルアと気絶したアール、そしてそんな彼を俵のように肩に担いだカンナだった。
「戻ったぞ~」
「たっだいま~!」
気怠そうなカンナと元気なシャルア。その視線の先には彼女らが知っている司祭の男が書類に目を向けていた。
「連れ戻したのですね……おや、ジンはどうしました?」
目を通していた書類が一区切り着いてシャルアたちに目を向けるとジンの不在に気付く男。
「ラスター、残念だがアイツは置いてきた。人間領に隣接している魔族の町の手前にいたのだが、何を思ったのか森の中に逃げて消えてしまったんだ」
「そうですか……まぁ、彼も子供とはいえ仮にも勇者。一人でも帰って来れるでしょう。それよりも話があります」
ラスターと呼ばれた神父が腰かけていた椅子から立ち上がり、シャルアたちの方へ歩き出す。
「……先日魔族領と獣人領が隣接している辺りにある山の一つが何者かによって斬られ、消失しました」
「「……ん?」」
ラスターの言葉にシャルアとカンナがしばらく固まり、聞き返した。
「山の一つの山頂が人為的に崩された痕跡が報告されています」
「えっと……ただの崩落が原因とかじゃなくて?」
「『崩れた』や『壊された』のではなく『斬られた』とはっきり言ったのだ、何か根拠があるのだろう?」
「えぇ、さっきも言った通り山全体に不自然な斬られた痕が見られました。しかもまるでたった一撃で斬ったかのように、全てが均等に斜めに斬られていたと……」
「ふーん……でもそれだけで斬ったって話になるの?」
「もちろんそれだけじゃありません。もう一つ、その山の近くにある吸血鬼が住む集落に何者かが襲撃、多くの吸血鬼が殺害されてしまったらしいです。それが山の破壊された時期と重なってるようで……」
吸血鬼の話を聞いて二人が驚く。
するとちょうど気絶していたアールが目を覚ます。
「……なんだ、どういう状況?」
教会の中で自分が女性に背負われ、目の前には神妙な雰囲気をした仲間たちを目の当たりにして困惑するアール。
彼を背負っていたカンナは「自分で立て」と言わんばかりにアールを地面へ乱暴に落とした。
「いてて……なんで俺、カンナさんに担がれてたの……?」
ジークに気絶させられてから状況がわかっていないアールが当然の疑問を口にするが誰も答えようとせず、カンナが気にせず話を進めようとする。
「つまり要点をまとめると……その吸血鬼のとこで暴れた奴がやったって話か?」
「大体は。そしてここからは報告ではないただの推測になってしまうのですが……二つ予想がありまく。一つは災厄級、それ以上の魔物が暴れた結果」
「災厄級以上?そんな魔物っているの?」
ラスターの二つ目の推測を聞く前にシャルアがそんな疑問を口にする。するとラスターが難しい顔をする。
「それもただの憶測になるのですが……もしかすれば『悪魔』の存在があるのかもしれません」
「悪魔?……って、絵本とかに出てくるアレ?」
首を傾げるシャルア。
「……いえ、アレはあくまで子供向けに創作された内容です。本当の悪魔の実体は聖書に書かれています」
ラスターがそういうと懐から十字架が埋め込まれた本を取り出す。
その本を開き、ラスターがあるページで目を止めるとそこに書かれていることを読み上げる。
「『悪魔は人がどうにかできる存在ではない。獣人も魔族も、獣王も魔王も、彼の者には遠く及ばない。悪魔がその気になれば世界などどうにも変えることができる存在だ。それだけの力を持ちつつも世界の終わりや改変が起こってないのは悪魔にその気がないからである。そしてこの世界にその悪魔と呼ぶ者は一人しかおらず、いつも娯楽に飢えている。だから彼の者はよほどのことがない限り我々を絶滅させようとは考えないだろう……こちらが機嫌を損ねない限りは』」
ラスターがそこまで読み上げるとシャルアは顔をしかめていた。
「なんか……ご機嫌取りをしなきゃいけないみたいに聞こえて嫌な感じ~」
ぷ~と頬を膨らませてあからさまに不機嫌となっていた。
「悪魔か……その存在の有無はともかく、それに類似した者があの山を破壊したと?」
カンナが口に手を当てて考え込むようにそう言ってラスターを見ると彼も頷く。
「それ以外にもう一つ、私はこちらの方が信憑性があると考えています――」
ラスターは言葉を一旦そこで区切り、溜め息を吐いて言葉を続ける。
「――『魔道兵器』の試運転」
「……なるほど、たしかにそちらの方が現実的だな」
カンナは納得して頷くが、意味がわかってないシャルアとアールは首を傾げた。
「魔道兵器……?」
「それって戦争で使われるアレですよね?」
シャルアはそれが何かわかっていなかったが、アールが簡単な説明をしてカンナが頷く。
「そうだ。そして魔道兵器とは基本的に人間しか使わないのが普通だったんだ。魔族や獣人は道具に頼らない戦い方をしようとしているようだ。ダンジョンから武具は使っているようだが、山を崩せるほどのダンジョン武具が出たという話は聞いたことがないし、そんなものがあったとしてもそうそう取り扱えるものじゃないだろうしな」
「……まぁ、だからその武具を見付けた者が試運転として使用したとも考えられますが……何にせよ、山が人為的に壊されたのは確かです。今後あなたたちには魔族の掃討に引き続き、その調査を頼みたい」
「誰がその山を壊したかってのを?」
カンナとラスターが説明を終え、シャルアの疑問にラスターが「そうです」と肯定して書類のある机に腰をかけ直す。
するとシャルアが眉間にシワを寄せて首を傾げる。
「……どうした、シャルア?」
「んー……まぁ、気のせいだと思うんだけど……今さっきまで私たちがいた魔族の町にいた『仮面の魔族』がいたじゃない?」
彼女は敢えてカズが人間であることは伝えない言い方をして確認する。
カンナはカズがその仮面の魔族だとはわからず首を傾げ、アールが頷いて同意する。
「あの人、アールが気絶してる間の話なんだけど、カンナが来る前に彼と一緒に子供が森に入って行ったんだ。で……その時チラッと見たあの子の様子って吸血鬼っぽかったのよね」
「仮面の魔族……たしかあなたが負けてしまった魔族の強者でしたか」
「ほう?ではその仮面の魔族とやらが吸血鬼の集落で暴れた犯人の可能性があると?」
カンナが興味あり気に聞くがシャルアは「どうなんだろうねー」と曖昧な返事で返す。
「たしかに凄い強い人ではあったし、私と戦った時も本気じゃなかったかもしれないけど……まぁ、自信がないから『かもしれない』って話に留めておいて!」
「……ふむ、そうですね。『気に留めて』おきましょう」
アハハと笑ってそう言うシャルアに意味深に言葉を強調して微笑むラスター。
そこでシャルアが思い出したように「あっ!」と声を上げる。
「そうそう、私からも報告することがあったんだった!」
「なんです?」
シャルアのテンションにそこまで重要そうに感じずにいた他三人だったが、彼女が発した言葉を彼らにとって予想外なものとなった。
「私が前に言った仮面の魔族……人間だったみたい」
「「「……は?」」」
そんなシャルアの報告に彼女以外の全員が固まってしまったのだった。
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